ナオヤクロスや 宜しく頼んだわ 作:ウオ魚
『ウマ娘』
それは別世界に存在する名馬の名と魂を受け継ぐ少女達
彼女達には耳があり 尾があり 超人的な脚がある
時に数奇で時に輝かしい運命を辿る 神秘的な存在
この世界に生きる彼女達の運命は
まだ誰にも分からない
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激熱ッ!
Eclipse first, the rest nowhere
\パァンッ!!!/
「残念ッ!!!最高レア確定演出からのワイや!!!」
「ひゃっ!き、急にどうしたの?ナオヤさん☆」
ワイはトレセン学園に所属するごく普通の女の子!
強いて変わってる事を挙げるなら天皇賞の春秋連覇とついでに宝塚記念に勝ってるてことカナー?
名前はナオヤクロスや、宜しく頼んだわ(タイトル回収)
「堪忍なファル子、これだけは言うとかなアカン気ぃしたんや」
「そっかー!なら仕方ないねっ☆」
スマートファルコンはそう言うと、しゃい☆しゃい☆と謎の擬音を鳴らしながらニンジンハンバーグを口に運ぶ。
そしてそのままニンジンハンバーグを口に含むと、花が開いたかのような笑みを浮かべる。
幸せっ☆オーラを全開にしたその姿はウマドルの名に相応しく、ナオヤをしても人を引き寄せる天性のナニを持っていると認めざる得ない。
ナオヤクロスは魅せられていた。
ニンジンはそないな咀嚼音はしいへんという細やかな疑問。
そして美味しそうに食事をする、
あれ、そういや何でワイは大した接点のないファル子とご飯を食ってるんやっけ?
確かあれは今から36万、いや1万4000年前だったな。
何故ワイが普段面識のないファル子と食事しているのか。
それには山よりも高く、海よりも深い理由があるのである。
少し長くなるぞ。
【悲報】トッモ、用事があるためワイとの食事回避【ぼっち飯確定】
なはは案外簡単に要約出来ましたな。
…
…
…
ざけんなや
ぼっち飯辛いわ
ドブカスッ……がァ!!
『ナオヤ、今日はトレーナーが食べ放題に連れて行ってくれるんだ』
『お、ええやん。いっぱい食べてき!』
『昼に旦那と行きつけの銭湯にいくからよ、飯にはいけねぇや』
『おー行け行け』
『ふふっ、これからトレーナーさんと遠足に行くんです~♪』
『え』
脳裏に友人達との会話が過る。
あかん、思い出したら涙出てきたわ。
なんでみんなトレーナーと予定があんねん。
んでもって何でみんな直前に伝えてくんねん。
ホウレンソウと知らんのか?いや一緒にご飯食べようと約束したわけやないんやけども。
ワイらの中の暗黙の了解で休日の昼は食堂で一緒にご飯を食べようってだけなんやけども。
それでも違うやん、一人くらい予定のない暇人がいてもええやん。
トレセンは婚活会場なんやね(諦め)
え、ワイには予定ないのかって?
オマエ今ワイのことを休日をスマホ弄りで消化してそうって言ったか?
………すぞ。
そんなことはさておき。
トッモに振られたワイは、必然的にひとりで食堂へ向かうこととなった。
自炊の技術には自信がある。
食堂にいかないという選択肢もあるにはあるが……今日は何となく料理をしたい気分じゃない。
たまには食堂で豪勢にステーキ定食でも食べようかな、と考える。
それは悪手であったと悟ったのは、ステーキ定食を頼み、いつものテーブル席ではなく人が少ないカウンター席に腰掛けた時であった。
見慣れたはずの食堂、見覚えのある食事。
何もかもがいつもと同じ食事。
唯一異なるのは食事を楽しむ相手の欠如のみ。
しかしその差異は大きく、ナオヤクロスの食事の手は極めて鈍重なものであった。
なんか……疎外感エグない?
この疎外感を言語化するなら、そうやね。
違うクラスの教室にお邪魔している時並に居心地が悪いと言ったところやね。
周囲の子達は和気藹々と食事を楽しんどる。
大いに結構、まさに青い春や。
それと比べてワイはどうや?
一人で黙々と頼んだステーキについてきたトウモロコシとブロッコリーをパクパクしとる。
なんや理不尽な感じ……夢か?
というかこのトウモロコシちょっと塩辛過ぎへん?思わん?そう………
ほんの一瞬、あまりの疎外感に耐えかね周囲の子に同席を頼みたい気持ちが溢れ出すがそこをグッと堪える。
ワイみたいな心根が童貞な奴が自分から一緒に食事を取ろうなんて提案できると思うなよ。
そんな積極性があるやつがメンタル童貞な訳ないやん。
そうしてワイがひとり寂しく食堂にて食事をしていたところ、背後から近づいてきた
ワイはそのウマ娘の勢いに飲まされ、目が覚めたら……
一緒に食事をしていた!!!
サンキューファル子、アンタの勇気ある声掛けは良くか悪くかワイの胃の運命を大きく変えた。
以上がワイとファル子の馴れ初めや。
分かんない?センスね~笑
まんまる……まんまるかぁ。
そういえば、あの、えっとー何だっけあの和菓子。
あー?あーそうだそうだ。
ベイクドもちょちょ食べたくなってきたわ(戦争開始)
「そんで、何の用やファル子。ワイのステーキちゃんが冷えてまうから短めに頼むわ。肉は熱いうちに食え。知っとるやろ?」
「ううん、全然知らないっ☆あとそれ馬鹿っぽいからやめた方が良いよ☆」
「酷いなぁ、言葉は刃物やで?」
「実はねっ☆“恋愛マスター”と名高いナオヤさんに相談があるの!」
「全然人の話聞かんやん。ままええわ、つまるところ恋愛相談っちゅーことやな?」
「そうなの!ナオヤさん、どかなー☆」
「………ククッ、お目が高い。ええよこのナオヤクロスに何でも話してみ?」
そう言うと、自信に溢れた表情をみせ笑うナオヤクロス。
その姿を見たスマートファルコンは確信した。
この人は信頼出来る、この人ならばきっと自分の悩みを解決してくれると。
将来詐欺師に騙されないか心配である。
だがしかし、そんな全幅の信頼を与えられたウマ娘、ナオヤクロスの心境は。
(さて、恋愛経験0のワイが解決できる内容やと助かるねんけどな)
白い新妻、恋愛マスター、親紹介RTA記録保持者、etc………
それらは全て、ナオヤの預かり知らぬ異名でありいつの間にか名付けられていたものである。
しかし火のないところに煙は立たない。
その噂の出処は、やはりナオヤ自身にあった。
事件が起きたのは休日の食堂。
その日のイナリワンは異常であった。
「旦那*2がよぉ」とトレーナーのことをうわごとのように呟いていた。
それだけならば、まあいい。
イナリがトレーナーにお熱なのは知っているし、ここまでとは言わずとも似たような状態は見たことがある。
真に問題なのは、イナリワンの態度であった。
頬はだらしなく緩んでおり、眼は虚ろ。
明らかに正気ではない。
極めつけに『でへへっ!』と奇妙な笑い声を垂れ流しながしていた。
違和感。
嫌な予感がした。
今すぐ離れろ、この場にいては危険と。本能がガンガン警鐘を鳴らす。
ここがデッドラインだな、とナオヤクロスは自覚した。
だがそんな本能とは裏腹に、ナオヤクロスの好奇心は既に後退のネジを外していた。
自信の精神力と思考の瞬発力があれば対処できぬ問題などない。
そう判断したのだ。
『イナリ、何でそんな調子なん?なんかええ事でもあった?』
ナオヤクロスの失態。
それは自身の能力への過信。
『でへへっ……実はな?』
好奇心は猫をも殺す。
自身が死んだ猫になるわけがないという、傲慢にも近い考え。
それこそが命取りであった。
『トレーナーの実家に行ったんでぇ……でへへっ』
それは聞き捨てならぬ言葉であった。
『……は?』
一瞬の思考停止。
言葉を何度も反芻する。
ジッカ?じっか。実家?
まさか、そんな、あり得ない。
トレーナーは何を考えている、イナリは学生だぞ?
常識的な理性がそう叫ぶ。
しかしそれよりも大きくナオヤクロスの本能が雄叫びをあげる。
モテとる奴は全員悪党である、と。
そして……ナオヤクロスは限界を迎えた。
『トレセン学園は婚活会場や!!』
それは魂の慟哭であった。
友の突然の裏切り、非モテの故の妬み、そしてイナリのトレーナーに対する憤怒。
感情の濁流に押しつぶされたナオヤクロス。
今のナオヤクロスに、他者を顧みる事など不可能であり。
キャパシティを超過したナオヤが大声を出してしまうことは必然であったと言える。
しかし、そんな事情を他者が汲み取ってくれる訳もなく。
「え?ナオヤ先輩、急にどうしたの………?」
「いまトレセン学園をこ、婚活会場って………?」
ざわざわと、ナオヤを中心として困惑が広がる。
ここは食堂。
多くのトレセン生が集まり会話をしているため、多少の声ではすぐにかき消されてしまう。
だがナオヤの慟哭が多少の声に当てはまらぬことは、現在の状況からも容易に想像がついた。
(あ、ワイの学園生活終わったわ)
沸騰しきったナオヤクロスの脳が急速に冷め出す。
瞬間
ナオヤクロスの脳内に溢れ出す
確定した未来
『え、急に何言ってんの?』
『というかナオヤさんって大声出せたんだ。初めて声聞いたかも笑』
『普段もそれくらい声出しなよw』
(終わりや)
最悪な未来を想像するナオヤクロス。
思わず腰が抜け、椅子に崩れるように座り込む。
後悔、羞恥、反省。
様々な感情がナオヤを襲う。
「ナオヤ?ど、どうしたんでぇい?」
友人の突然の凶行に動揺するイナリ。
そして未だに困惑に包まれるトレセン生徒達。
ふと、ある生徒が真実にたどり着いたと言わんばかりの表情となり思わず口に出す。
「も、もしかしてナオヤ先輩って………」
確かに、ナオヤの発言は普通の学校であれば冷やかしやいじめに繋がっていたかもしれない。
しかしここはトレセン学園、この学園の民度が並である訳がなく。
「恋愛強者………!?」
(いやそうはならんやろ)
ナオヤはその日から、恋愛つよつよウーマン(激うまギャグ)として名を馳せることとなった。
最早、本来の異名である“白い稲妻”と呼んでくれるトレセン生徒は存在しない。
人の噂も七十五日。
ナオヤはそれを信じ、自身の恥ずかしすぎる異名がなくなることを望んで耐え忍んだ。
というか自分がそんな異名を語れるような存在ではないことくらい、冷静になれば皆分かると信じていた。
しかし………現実はそう甘くはない。
トレセン学園生にとっての名誉、それは重賞にて勝利すること。
重賞に勝利し、努力が実ったと涙を流す者もいれば。
未勝利戦に一度も勝利出来ず、涙を枯らしターフを去るウマ娘もいる。
重賞は選ばれた者しか掴み取れない希望。
その重賞の中でも最もグレードの高いレース、それがG1。
G1を1勝する事の難しさを知らぬトレセン生はいない。
ましてやそれが、3勝ともなれば天上人と等しい。
宝塚記念、天皇賞の春秋。
それらを制覇した生徒。
それこそが他ならぬナオヤクロスであった。
学園の最上位に君臨する程の戦績を持つ、彼女から放たれた『トレセン学園は婚活会場や』という発言。
それを偽りであると断言出来る者はいなかった。
そして………始まってしまった。
恋愛脳全開、色ボケ共の躍動が………!!
『いやー、その、ちょっとですね?男の人と円満になるためのアドバイスが欲しいなー、なーんて……うぇっ!?ト、トレーナーさんの事だなんて誰も言ってないから!?』
『ナオヤさん、少々お願いしたいことがあるのですが………』
『お兄様とお付き合いがしたいんです!お願いします、ライスに恋愛を教えてください!』
『フンニャカハッピー!ハンニャカハッピー!センキューシラオキ!』
アカン、トレセン学園は終わりや。
ナオヤクロスはそう思った。
藁にすがるような思いで恋愛マスター(笑)の元に来る生徒が後を経たなかったのだ。
いい加減にしろ、(精神が)童貞のワイに何聞いてんねん。
そう叫びたかった。
しかし、オナヤはそれを今日に至るまで実行に移せなかった。
それは自身が恋愛マスターなんてものなどではないことを暴露したくないという、虚栄心からではない。
未だに自身を“恋愛マスター”と偽る理由。
それは……
(人の恋バナとか、めっっっっっちゃ気になるやん?)
心底心根が童貞であった。
確かに、初めの数回は成り行きだったのかもしれない。
何が悲しくて人の惚気を聞かなあかんねんというのが本音だった。
しかし、話を聞き続けてある日。
唐突に思ったのである。
『あれ……?人の恋バナって結構面白いな』と。
ナオヤにとって恋バナとはファンタジー物の小説の様だった。
学生を中心として展開され、主人公視点から見た周囲の人々の評価や学生が持つ世界観。
それら全てがナオヤにとって新鮮な刺激となった。
何より非現実的(ナオヤにとって)なので聞いていて飽きがこない。
気がつくとナオヤの趣味には『人の恋バナを聞くこと』があった。
幸い、相談する側も相談し終わると大抵が吹っ切れた顔をする。
皆を騙しているという罪悪感を除けば、まさにwin-winの関係であった。
そうして今日、ナオヤはまた一人幼気な少女を騙す。
相手がそんなことを考えているとも知らず、真剣な面持ちで此方を見つめるファルコが重い口を開く。
「その……トレーナーさんとお買い物に行った時の話なんだけどね?」
「????????」
(あれ?随分話のレベルが高いな?)
(こんなのワイのデータにないぞ!?)
“童貞”ナオヤクロスに数日ぶりの緊張が走る。