ブルアカ短篇のごった煮   作:shyva

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ユウカに生活の全てを管理されたい。

先生が男か女かは置いておいて、ユウカはダメ男に貢いじゃう女の子ですよね。
私がいないとダメなんだから、という感じに。



ユウカと最強の抱き枕

 

「プリンを買ってきたんだ、ユウカのために」

 

 先生が急にちょっと良いプリンを差し出してきた。明らかに機嫌を取ろうとしている。こんなときは大抵碌な事が無い。

 

「藪から棒に突然どうしたんです先生。あ、ひょっとして、もうお小遣いが足りなくなってしまったんですか?」

 

 無駄遣いはしないようにとあれほど言いつけておいたのに。

 

 先生には浪費癖がある。大方ストレス発散手段のひとつなのだろうが、いかんせん悪い癖だった。今日だってこうして私が財布の紐を握っていなければ、先生はいくら使っていたかわからない。

 

「全く、この人はどうしてこんなにダメ人間なのかしら。……仕方ないですね。いくら欲しいんです?」

 

「あー、そうじゃないんだ。お小遣いはちゃんと計画的に使ってるよ」

 

 ポーチから財布を取り出そうとして止められる。

 

 

 そうじゃなくって、と前置きをして、

 

「ユウカに頼みがあるんだ!」

 

 先生はそう言いながら手を合わせながら深々と頭を下げた。

 

 追加のお小遣いが欲しいのでなければ、一体何の頼みなのだろう。疑問が顔に出ていたのか、先生は説明を始める。

 

「買いたい物があるんだ。五千円(5kクレジット)を超えるヤツ」

 

 そういえば五千円(5kクレジット)を超える買い物は相談する様に言っていたっけ。

 

 別に先生が買い物することを阻止したい訳ではない。ただ、本当にそれだけの値段を払う価値のあるものかどうか、もっと安く済ませられるのではないかと思ってしまうから、相談して欲しいのだ。

 

 無駄を省けば、もっと色々な物を買えますよ、と。

 

「ああ、そんなことも言ってましたね。何を買いたいんですか」

 

「コレです……」

 

 おずおずとタブレット画面を差し出される。商品ページが表示されていた。

 

「抱き枕カバー?」

 

 そこには、衣服を着崩した少女のイラストが描かれた抱き枕カバーの画像があった。結構肌色が多いというか、これはふしだらでは?

 

「抱き枕本体も買おうと思ってます」

 

 カバーはあくまでついでだよ、とでも言いたげに補足された。

 

「先生、これは本当に必要な物ですか?」

 

「私、抱き枕が無いと寝られないんだよね」

 

 先日にアリスが光の剣(スーパーノヴァ)を誤射ってオフィスの仮眠室もとい先生の寝室を吹き飛ばしてしまった。おかげで愛用の抱き枕も消失してしまったらしい。既に仮眠室は修復されているが、抱き枕無しでは上手く眠れなかったのだそうだ。

 

「事情は判りましたけれど、このカバーじゃなきゃダメなんですか?」

 

 こんな不健全なカバーを先生が使うなんて、許されない。特に何かに違反する訳ではないけれど。気分的に有罪。

 

「当たり前じゃん! 寧ろカバーが本体まであるよ!」

 

 ついでなのはカバーではなく本体だったらしい。ちょっぴりえっちな女の子が描かれたカバー。その価格なんとびっくり五桁だ。恐ろしい。

 

「値段、見ました?」

 

「見た。だからユウカに相談してるんだ」

 

 絶対に欲しい、という意思を感じさせる即答。どうやら先生はあんなカバーに五桁の価値を見出しているらしかった。私にはよくわからないけれど、先生の趣味には付き合ってあげたい。

 

 しかし、抱き枕が手に入った暁にはこの女を抱き締めて寝るつもりなのだろう。

 

 なんとなし、それは嫌だなと思った。

 

 こんな痴女みたいな格好で頬を赤らめた見ず知らずの女を先生が抱く?

 

 

 そんなのは嫌だ。

 

 

 だから、ついうっかり、感情が溢れてしまう。

 

 

「そ、そんなに女の子を抱き締めたいなら! ──」

 

 

 考え無しかつ発作的に声を荒らげてしまった。しまった、と思ったがもう遅い。ええいままよ!

 

 

「そんなに女の子を抱き締めたいなら!

 

 

 私を抱き枕にしたら良いじゃないですか!!」

 

 

 …………。

 

 先生はまるで宇宙にでも行ってしまったかの如く、口をあんぐりと開けて絶句していた。

 

 かく言う私も思った。何を言っているんだコイツは、と。だけど、もう退けない。

 

「……え?」

 

「べ、別に私が先生と一緒に寝たいと言うわけではありませんよ! ほ、ほら! こんなに高い抱き枕を買うくらいなら私を抱き枕にすればお金がかかりませんからかなり経済的ですし送料無料で今すぐに使えますしそれにそんな抱き枕と違って……、私は暖かいですよ?」

 

 つい、うっかり早口になってしまう。これは私の悪い癖よ、ユウカ!

 

 私は、きっとおかしくなっていたのだ。ただの絵に嫉妬して、妙なことを口走って、これでは先生に引かれてしまったのではないか。少なくとも私は私に引いた。

 

 

 後悔後に立たず。

 

 不安とか羞恥とか、とにかく色々な感情が混じって不定形なマーブル模様を作っていた。物事は計算通りにはいかない。

 

 しかし、おかしくなっていたのは私だけではなかった。大量の仕事に加えて抱き枕不在の睡眠環境に因る不眠。疲労のせいか、先生もまたおかしくなっていたのだ。だから、普段では絶対しないであろう返しをしてしまう。

 

 

「……じゃあ、お願いしようかな」

 

 

 

   ***

 

 

 私はバカなのだろうか。そうでなければきっとアホなのだろう。どこの世界に生徒を抱き枕にする先生がいるのだ。

 

 教師としての教示も、大人としての責任もすっかり投げ捨てて、感情だけで返答してしまった。

 

 

 結果、今に至る。

 

 あの後ユウカは着替えを取ってくると言って出ていった。そしてそのまま帰って来ない……なんてこともなく、律儀にお泊りセット一式を持って再びやって来た。その後ふたりでディナーを済ませ(コンビニ飯だが)風呂を沸かした。勿論ここはシャーレのオフィスではなく私の家である。長らく帰っていなかったが、まさか生徒を伴って帰宅することになるとは思わなかった。

 

 正直なところ、晩御飯の味も分からないくらいに緊張していて、もはや謎の高揚感すらあった。きっと彼女も同じことだろう。口数が少なかったし、あまり目も合わなかった。

 

「お風呂沸いたよ。お先にどうぞ」

 

 勧めて見ると訝しげな目を向けられる。

 

「先生、私が浸かったお湯で変なことする気じゃないですよね」

 

 ユウカは何やら酷い誤解をしているらしい。ちゃんと説明して分かってもらわなくては。

 

「ユウカで出汁取った湯船でどうこうする趣味はないよ」

 

「…………」

 

「分かってくれたかな?」

 

「先生。出汁とか言ってる時点で大分アウトです」

 

 ダメかあ。

 

「……じゃあ一緒に入る?」

 

「もっとアウトですよ!?」

 

 楽しい会話だった。小気味よいやり取り。

 

 

 因みにイオリで出汁取った湯なら是非とも多目的に活用したいところだ。あの子代謝良さそうだし、きっと良い出汁が取れる。

 

 

 

   ***

 

 

「お風呂上がりました。あ、お湯は捨てておきましたからね」

 

 ほかほかのユウカが出てきた。ドライヤーを使ったらしく髪は乾いている。何の悪巧みもしていなかったけれど、お湯は捨てられてしまったらしい。

 

「そりゃ残念」

 

「…………」

 

 結局私が先にお風呂を使うことになったのだった。私が浸かったお湯で変なことする気でしょ、と言ってみたら、バカなことを言ってないで早く入れと急かされてしまったが。

 

「歯ってもう磨いた?」

 

「ええ、前に使った歯ブラシがまだ置いてあったので」

 

 さて、お風呂にも入ったし歯も磨いたし、寝る前にすることは全部済ませた。後は寝るだけ。

 

 

 うん、寝るだけ。

 

 だけ、という言葉で片付けて良いものかは些か以上に怪しいけれども。

 

「ほんとにやるんですか」

 

「今更ヘタレないでください。私だって恥ずかしいんですから」

 

「今ならまだ無かったことにできると思うんだ」

 

「先生の呼び方がチキンになっても良いなら、ここで止めにしますか?」

 

 それは勘弁していただきたい。多方面にあらぬ誤解を招きそうだし、そも私の名誉に関わる。

 

「わかった。今後裁判になったときの為にちゃんと証言しておいて欲しい」

 

「……先生、私を抱き枕にしてください」

 

「うん。よろしく」

 

 同意も得たし、では寝るとしようか。

 

 独り暮らしの淋しいシングルベッド。ふたりで使うにはさぞ狭かろう。なるたけ壁際に寝転がる。それからベッドの空いたところをポンポンとやって、おいで、と呼ぶ。

 

「し、失礼します……」

 

 恐る恐る蒲団へ入ってくる。蒲団を通して心臓の鼓動が伝わって来る気がした。

 

「緊張してる?」

 

「当然、です」

 

 暗くて良く見えないけれど、きっと彼女は耳の先まで赤くなっているに違いなかった。そして私も。

 

「私もかなり緊張してる。緊張しすぎて横隔膜がドキドキしてるよ」

 

「それはしゃっくりでは……?」

 

 さて、緊張も多少は解れたことであるし、いざ行かん。

 

「じゃあ、抱きしめるよ。大人しく抱き枕になってね」

 

「はい……」

 

 やおら背中へ手を回して引き寄せる。私よりずっと強くても、やはり女の子なのだなと思う。華奢で柔らかい。

 

 それに、なんだか良い匂いがする。同じシャンプーを使った筈なのに、桃のような甘い香りがした。

 

「あの、ユウカさん? 何故抱き返していらっしゃるのかな?」

 

「ただ抱き締められているのは手持ち無沙汰じゃないですか。抱き枕になってあげているんですから、ちょっとくらい我慢してください」

 

 訊いてみると彼女は私の胸元に顔を(うず)めながら答える。

 

「我慢というか寧ろウェルカムというか。抱き合うのってすごくいいね」

 

 自然、抱き合う力が強くなる。触れ合っている部分に熱が籠もって暖かくなる様だった。

 

 こうして抱き合っていると、なんだかユウカのことがとても愛おしく思えてくる。半ば無意識に彼女の頭を撫で始めていた。

 

 菫色の髪は細くて柔らかで指の間をするりと通り抜ける。撫で心地の良い髪だ。

 

「頭を撫でるの、妙に上手くありませんか。もしかして他の生徒にもこんなことをしてるんじゃないでしょうね」

 

「…………」

 

 こんなこと、とはどんなことなのだろうか。生徒の頭を撫でることは良くあるし、実のところ不本意ながら生徒と添い寝をしたこともまあある。どっちみち素直に答えても良い結果にならない事はわかるが。

 

「え、まさかですよね……?」

 

「……まあ生徒の頭を撫でるくらいはよくあることじゃん?」

 

 実は添い寝どころか一緒に温泉へ入った生徒もいたりするけれど、ここは誤魔化すが吉だろう。

 

「はあ、先生、撫でるのやめてくだい」

 

「え?」

 

「私が代わりに撫でてあげます。これなら、他の子にされることも少ないんじゃないですか」

 

 選手交代、そう言ってユウカは私の頭を胸元へ抱き寄せる。まるで彼女の方が大人であるかの様に優しい手付きで撫でられる。確かに、生徒を撫でることはあっても、生徒に撫でられることは多くない。

 

「よしよし、こうしているとカワイイですね。まるで子どもみたい」

 

 ゆったりと撫でられていると、だんだん眠たくなってきた。元々何かを抱いていると睡魔がやってくる質なのだ。

 

「ふふ、先生はほんとにダメ人間ですね。生徒にこんなに甘えちゃうなんて。私がいなかったらどうしてたんですか?」

 

 ぽんぽんと柔らかな手付きが心地良い。

 

「お金の管理もできないし、すぐに他の女の子を誑かしちゃうし、ダメダメですね」

 

「そうかもね。でも大丈夫だよ。だって、ユウカが面倒見てくれるんでしょ」

 

 

「そう、ですけれど……先生はずるいです」

 

「えぇ……」

 

 

 人肌の温もりに身を包まれて眠りに落ちる。こんなにも贅沢な抱き枕だ。きっと良く眠れるに違いなかった。

 

「おやすみ、ユウカ」

 

「はい。おやすみなさい、先生」

 

 

 

 これから、翌朝起こしに来てくれたフウカが「珍しく、昨日はちゃんと家に帰れたんですね」なんて言いながら蒲団を引っ剥がして一騒動あったりするのだが。……まあ、綺麗な思い出だけ覚えていれば良いと思うよ。




シャーレオフィスってコタマに盗聴されているのですよね。
つまり、ユウカの私を抱き枕に発言もコタマに聞かれてしまったわけですね。フウカにも目撃されたし。
誰が先生の抱き枕になるかという争いがこれから起こるのかもしれません。
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