コタマのガチャボイスが差し替えになりましたね。ミレニアムガクエン、好きだったのですが。
「休みなのに手伝って貰っちゃってごめんね」
悲しいかな、ことシャーレにおいて日曜日というものはあれど、安息日というものは無いに等しいのだった。オフィスの電気メーターは今日も元気に回っております。仕事は全然回ってないけどね!
おかげで遊びに来たトキに手伝って貰う羽目になっている。
「いえいえ構いません。これも完璧メイドの務めですので。存分に褒めてください」
「よしよし、えらいぞえらいぞ」
ぐしぐしと頭を撫でてあげると目を細めて気持ち良さそうにしている。細くて柔らかい金髪がトキの額を流れた。
「あぁ、そういえば。先生にサインして貰わなくてはならない書類があるのでした」
そう言って一枚の紙を差し出してくる。A3の書類らしい。あまり見た事のない書式だなあ、なんて思っていると、ここにサインを、と紙面の真ん中辺りを指差される。
言われるがまま、苗字と名前を記入。
これって一体なんの書類なんだろう。気になって書いた自分の名前の隣を見ると、『飛鳥馬トキ』とある。連名の書類? 妻となる者──
「って、これ、婚姻届じゃん!」
「はい。その通りです」
さもありなん、という顔で答えるトキ。
婚姻届。それは二人が結婚して新しい身分関係を築くお届けである。つまるところ、記名してしまったら後は役所に出すだけで結婚できる紙。
「か、返して!」
「返す? これは私が持ってきた、私の婚姻届です。先生のものでは無いので、先生に返すことはできません」
トキは小首を傾げてみせる。かわいいけどそれどころじゃない。
「せめて名前っ、私の名前を消させて!」
このまま提出されてしまったら大変だ。先生が生徒と結婚なんて、あっちゃいかんでしょう。ダメダメ。
「先生は、私のことが嫌いなのですか?」
「ぐ……、嫌いじゃないよ」
そんな風に上目遣いで、捨てられた仔犬みたいな目で見つめるなんて……。上目遣いの破壊力たるや。
「嫌いじゃない。つまり、大好きですよね?」
「理論が飛躍した!?」
「先生の顔にそう書いてあります」
「書いてないよっ!」
「そう言うと思って先程書いておきました」
「そんな手回しがありえるか!」
鏡で確認。何も書かれてはいなかった。
「では、大好きではないのですか……?」
「だ、大好きです……」
急にしおらしくされると弱っちゃなあ。綺麗な碧い目で上目遣いに見つめられては素直に答えることしか出来ないのだった。
「ふふ、私も先生のことが大好きですから、何も問題はありませんね」
「問題だらけだよ!?」
「愛し合っている二人が結婚することになんの問題があるのですか?」
問題しかない。なぜ私が間違っているみたいになっているのでしょう。世の中分からないことだらけですね。
「生徒と先生が結婚なんてダメだよ!」
「キヴォトスでは生徒と先生の恋愛は犯罪ではありませんよ」
先生ともあろう人が知らないのですか、と顔に書いてあった。比喩だけど。
「知ってるよ! キリノが教えてくれたよ! そういう問題じゃなくって倫理的な問題だよ!!」
「
「コタマのことを悪く言うのは止すんだ! あの子
ぴこん、とモモトーク。曰く、私の所属はミレニアムサイエンススクールです。……本当に聞いていたらしい。
「てか、そういう倫理じゃないよ! 社会的な問題というか、大人の体裁の問題だよ!!」
「大人は面倒ですね」
ヤレヤレって感じを醸している。他人事の様に仰っているけれど、アナタもいずれは大人になるのですよ?
「それにトキさん、アナタまだ十六歳じゃん。結婚出来るのは十八歳からだよ」
「どこの法律ですか?」
「……ひょっとしてキヴォトスでは違う感じ?」
「さあ?」
知らんのかい。
「婚姻届を出してみれば分かることです」
「わ、私の戸籍とか両親とかまだ書いてないでしょ」
苦し紛れの抵抗を試みる。
「そう言うと思って書いておきました」
「そんな手回しが……ありえてる!?」
両親の名前も、戸籍もバッチリ記入済みの婚姻届を見せながらピース。得意げに大勝利。
「でも、証人! 証人の欄が空いてるよ!」
「ふむ、失念していました。ネル先輩に頼めば良いでしょうか」
ダメじゃないかなあ……。
「そもそも婚姻届の証人って二十歳以上の人じゃないとなれないよ」
「そうなのですか。では、……どうしましょう?」
「知らないよ!?」
結局、なんとか婚姻届を回収して、この話はなかったこととなった。コタマさん? 証人の欄までばっちり埋めた紙を持ってこられても、同じ手には乗らないよ?
了。
先生の性別を明言せずに書くのが大変でした。トキの図太さ強かさを表現出来たかしら。