ブルアカ短篇のごった煮   作:shyva

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先生がホシノにクリスマスは誰と過ごしたのかと問い詰められる作品です。
先生と生徒という特殊な関係性について触れてみました。


ホシノとクリスマス翌日

「おはよー、先生」

「おはよう、ホシノ。今日も寒いね」

「ほんとやんなっちゃうよねえ。先生、暖めてぇ」

「あはは、そういうと思ってコタツを温めておいたよ」

「うへ、そうじゃなくってさ。もっとこう人肌的な?」

「私は仕事で忙しいから、終わったら構ってあげるね」

「じゃあおじさんはコーヒーでも淹れてくるよ、ブラックで良いよね」

「うん、お願いしようかな」

 ホシノはふわふわとした足取りで、調理室へ向かった。

 

「ほいどーぞ、コーヒーだよ」

「ありがとうホシノ」

「熱かったらおじさんがふーふーしてあげるよぅ」

「私は熱々が好きなんだ。大人だからね」

「うへ、かっこいいねえ。おじさんは熱々じゃ飲めないや。先生にふーふーしてほしいなあ」

「ふーふー、」

 先生の呼気を受けて、真っ黒な水面が揺れていた。

 

「ところで先生。昨日はクリスマスだったけど、誰と過ごしたの?」

「え? あー、うん。独りだったよ」

「どうして? 先生の事だから色んな生徒からお誘いがあったんじゃない?」

「誰か特定の生徒とだけクリスマスを過ごすとなると角が立つからね。夕方からはシャーレへの生徒の出入りも禁止したんだ」

「そっかあ、じゃ昨日先生は独り寂しくお仕事していたわけだ」

「そういうことになるね」

「ふーん。その割には書類が減っていないようだけど、独りで寂しくって手が付かなかったの?」

「あはは……そうだね。当番制度の有難みを思い知ったよ」

「そっかあ、じゃあおじさん手伝っちゃおうかな」

「コタツは良いの?」

「早く仕事を終わらせて一緒にぬくぬくした方が気持ち良さそうだからねえ。お昼ご飯は一緒にどこかへ食べに行こうよ」

「あー、冷蔵庫に昨日フウカが作ってくれたローストビーフやらが残ってるや、お昼はそれでも良い?」

「良いよー、ゲヘナの給食部ちゃんが作ったお料理は美味しいらしいもんね」

 

「はい、コーヒーのおかわり」

「ありがとうホシノ」

「先生、昨日はケーキ食べた?」

「食べたよ、ホシノは?」

「おじさんも食べたよ、アビドスの皆でパーティしたからね。柴大将も一緒だったんだあ」

「楽しそうだね」

「楽しかったよお。ラーメンとケーキを交互に食べちゃった」

「太りそうな組み合わせだ……」

「ひどいよぅ、乙女に対してなんて言い草!」

「ごめんごめん」

「でも、先生もケーキを三つくらい食べたんでしょ?」

「どうしてそう思ったんだい?」

 

調理室(キッチン)のゴミ箱にケーキの箱が捨ててあったんだ。底面が正方形で大きめの箱。ケーキひとつならもっと小さな箱に入れられる筈だよね。そして正方形ということはケーキは三つ以上。それから、十字に組まれた仕切りのボール紙とケーキのフィルムも何枚か見つけたよ」

 

「よく見てるね、確かに私は昨晩三つのケーキを食べたよ」

「でもそれだとおかしいんだ。先生、昨日は食器を洗わなかったでしょ。調理室の流しにはお箸の他に小皿が四枚と小さなフォークが三つ放置されてたよ。独りでケーキを食べるのに、態々ひとつずつフォークを取り替えるかな」

「朝昼晩の三回に分けて食べたんだよ。食べる度に食器を流しに放り出していたらから、お皿もフォークも三つずつあるんだ」

「ふーん。そういえば、冷蔵庫に入っていたフウカちゃんのお料理、どれも美味しそうだったよ。大皿に色取りのお料理が乗っていて綺麗だったなあ。お野菜たっぷりのスープが鍋ごと入っててびっくりしちゃったよ」

「あのスープも野菜の旨みが濃縮されて美味しかったけど、突然話題が変わるね?」

「変わってないよ。先生がスープを飲んだならある筈の物が調理室にはなかったんだ」

「ある筈の物……?」

「そう、スープを飲むのにお鍋から直飲みする人は滅多にいないよね。先生はスープを飲むときに使った筈の器とスプーンがないんだ。つまり先生がスープを飲んだ後の食器は洗われているということだね」

「昼食のあとにフウカが器を洗ってくれたんだ。スープを温め直すのが面倒だったから晩御飯では飲まなかったけど」

「そのフウカちゃんは几帳面な娘なんだろうね。生ゴミのひとつも残っていなかったよ。ゴミ出しまでするような娘が、流しに放置されたケーキ皿とフォークを洗わない筈がないとは思わない?」

「フウカがここで料理をしたとは言っていないよ」

「あのお鍋にはシャーレのエンブレムが彫ってあったよ。柄のところにね」

「まじか」

「嘘だよ」

「嘘かよ」

 先生は鎌をかけられてしまったらしい。もはやホシノの追及から逃れる術はないらしかった。

 

「あのフォークはシャーレへの生徒の出入りが禁止された夕方以降に使われたフォークだということになるね。

 で、昨日の夜は誰と過ごしたの、先生」

 

 語らねばなるまいか。先生は逡巡していた。なぜなら、先生が昨晩を共にした相手とは、タブレット(シッテムの箱)の中のAI少女、アロナとプラナだからだ。私しか認知できない女の子です、などと言ったところで信じて貰えるとは思えなかった。まして、膝に乗せて撫でまくっていたなんて。

 

「で、昨日の夜は誰と過ごしたの、先生。私の知ってる人?」

「……いや、君の知らない子だよ」

「それって生徒? どこの学園の娘なのかな」

「どの学園にも所属していない子たちだね」

「その子たちと先生の関係は?」

「それは……」

 先生は言い淀む。この状況を打破できる回答はないか。

 ひとつ、思いついた。

 

「私の娘なんだ」

 

 決死の思いで振り絞った回答だった。実際、先生はアロナとプラナのことを娘のように可愛がっているので、あながち嘘でもない。そして、ホシノへ詳しく説明できなかった事情も想像させられる。先生は最適解を見つけた気でいた。

 

「……は?」

 

 ホシノの喉から、驚くほど低い声が漏れるまでは。

 

「えっ、先生って結婚してたの!?」

 

 先生が誰かのものにならない限りは、ワンチャンある、というのが大半の生徒にとっての共通認識だった。それがすでに娘もいるだと?

 ホシノは確かに動揺した。そして、略奪愛というのもありかもしれないとも思った。

 

「してないよ」

「複雑な事情……?」

 

 未婚の子の事情など、訊いて良いのだろうか。

 

「まあ、込み入った事情があるんだ」

「そっか……。先生、私は先生に子供がいても良いと思う」

「うん。……うん?」

「ちゃんとその子たちも愛せるように努力するよ」

「なぜ努力。というか"も"?」

「先生、私はもう後悔したくないんだ。だからもう迷わない。私とも子どもを作ろう」

 

「……は?!」

 

 今度は先生が驚愕する番だった。

 

「えと……、何言ってるのホシノ……?」

「言葉通りだよ。あのとき、私がすぐに先輩に謝っていれば、あんなことにはならなかったかもしれない。何もせず見ているだけなんて御免だよ」

 言い終えるとホシノは先生の首に手を回し、ぐいと引き寄せた。あの黒服をしてキヴォトス最高の神秘と言わしめたホシノの力に先生は抗えない。ホシノは先生に口付けた。小ぶりな唇が先生のそれと重なり、短い舌が先生の唇を割って口内へ侵入する。押し返そうとしてくる舌を絡め取り、吸い付いた。

 

「……ダメだよ、ホシノ」

 優しく、諭すように言った。

 

「どうして? 私は先生のことが好きだよ。どうしようもなくなっちゃって、自分でも抑えが効かないくらい」

「今の君は冷静じゃない。落ち着いてよく考えてみて」

「たとい冷静じゃないとしても、この気持ちは本物だよ」

「ホシノは勘違いをしてるんだ。苦しいところを助けられて、感謝とか尊敬とか、そういう気持ちを恋情だと思い込んでる」

 

「ちがう。違うよ先生。なんで否定するの。私は本当にあなたが好き。だってこんなにも躰の奥が熱い」

 

「それでも、君の気持ちは受け取れない。私は先生で、君は生徒だから」

「わからないよ。先生の言ってることは何もわからない。生徒と先生が恋愛することの何がいけないの? ここにそれを禁ずる法律はないんだよ」

「法律と倫理は別物だよ。大人は子どもと恋愛しちゃいけないんだ」

「倫理ってなに? 子どもの気持ちや判断は間違いなの? 偽物なの? 私たちの想いを蔑ろにするのが倫理なの?

 子どももひとりの人間だよ! 生徒だからなんて言葉で片付けないで……、ちゃんと私を見て」

「ホシノ……」

 先生には、返す言葉がない。

 

「先生は決断から逃げてるんだ。たくさんの生徒から好かれている自覚があるのに、距離を取ろうとする。振ることを畏れてる。子どもは恋愛対象じゃない? 嫌なら嫌って、そう言ってよ!」

「そうだね。怖いんだ。誰も傷つけたくない。そんなことは無理だと分かりきっていてもね。それに、嫌なんかじゃあないよ。寧ろ嬉しく思ってる。特にホシノの本心が聞けてね」

 

「……そっか。

 でさ先生。私は先生のことが好きです。付き合ってください」

 

「え、えっと……」

「先生は未婚で子どもを作るっていう禁忌を犯してるんだから、生徒と先生が付き合う禁断の関係だって何も問題じゃないさ。それに、先生の子どもなら、きっと愛せると思うから」

 

「あ……ごめんなさい嘘をつきました」

「うへ?」

「昨晩一緒に過ごした相手が私の娘だという話、あれは嘘でした」

「はい?」

 先生は真実を話した。タブレットの中にAIがいて、一緒にケーキを食べたこと、ふたりの事を本当の娘のように可愛がっていることを。その説明は困難を極めたが、理解されるまで尽くした。

 その場しのぎは良くない、生徒の気持ちへより真摯に向き合わなくてはならないと思い直したから。

 かなりもめた。

 

「こ、今度こそ返事が聞きたいな。

 先生が好きです。付き合ってください」

 ホシノは言った。

 

「やっぱり私は、私が先生である限り、生徒と関係を持つことはできないや。

 でも――」

 先生はホシノに近づき、額にキスをした。軽く触れる程度の音も出ないキス。

 

「でも、私もホシノのことが好きだよ。今はこれが精一杯だけどね。

 君が卒業して、生徒でなくなったときに、今と変わらない気持ちだったら、また告白して欲しいな」

 ホシノの二色の瞳が揺れていた。小さな右手で、自分の額に触れる。

 

「わかった。だけどね先生。

 おじさんもう少しだけ頑張って欲しいなあ」

「というと?」

「こーやって抱きしめるとかさ!」

 ホシノは先生の胸元へ飛び込んだ。頬擦りするように抱き寄せる。

 先生はちょっぴり驚いてから、宝物を扱うみたいにそっと彼女の頭を撫でた。

 細くて柔らかいピンクの髪から、いい匂いがした。

 

「ホシノ、こたつ入ろっか。みかん剥いてあげる」

「隣に入っていいかな」

「そのくらいなら先生と生徒っぽいかな」

「ぽいかなあ……?」

「こたつは狭いから、くっついちゃっても仕方ないよね」

「うへぇ。そーだね。ぬくぬくしよ」




あとがき

年内ならまだクリスマス
と言おうとしたら年明けてました。

無鉄砲はいつものことですが、
なかなかにバランスの悪い作品になってしまいましたね。
新年早々これで良いのかと思われるかもしれません。
そんなあなたには私の尊敬する人の言葉を贈ります

昨日の自分に勝てなかったとき
数字が下がっているから
明日はもっと超えやすい

今年の作品はどれもこの文章を超えられるように頑張ります。
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