ブルアカ短篇のごった煮   作:shyva

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 先生はきっとフウカにお世話してもらってばかりなので、きちんと感謝するべきです。


フウカにご飯のお礼をする話

 

 最近、全く家に帰っていない。

 

 というのもシャーレのオフィスには生活に必要なものが総て揃っているからだ。

 

 仮眠室にはそれなりにふかふかのベッドがあるし、シャワー室にはいつの間にか良い匂いのするシャンプーが幾つか置かれているし、給湯室もといキッチンまである。冷蔵庫と冷凍庫もそこそこ大きいので、かき氷用の氷なんかも作ることができる。

 

 なにより、ここは最高の朝ごはんが食べられるのだ。ますます家に帰る理由がなくなる。

 

 

 今日も今日とてシャーレの仮眠室で朝を迎える。目を覚ますと、なにやら美味しそうな匂いと共にとんとんと小気味良いリズムが聞こえてくる。

 

 眠たい眼をぐしぐしやりながらダイニングへ向かった。

 

 

「おはようございます、先生」

 

 

 絶賛朝ごはんを作ってくれているのはゲヘナ学園給食部の要にしてすらりと伸びた二本の角に架かる黒髪が愛らしい、愛清フウカだ。私が起きてきたことに気がつくとにこりと笑いかけてくれる。挨拶を返しながら席に着き、彼女と一緒に朝ごはんを食べた。

 

 いつからだったか、近頃は毎日このような調子でフウカに朝ごはんを作って貰っていた。これを食べるのと食べないのではその日一日の働きに大きな差がつくのだ。

 

 フウカには感謝してもし足りない。

 

 何か恩返しをしたいところである。

 

 そういえば、子供の頃の母の日に料理を振舞ったことがあったっけ。結局キッチンを散らかしたり焦がしてしまったり、色々と迷惑をかけてしまったけれど母は本当に嬉しそうだった。

 

 毎日料理して貰っているのに、一日だけ私が料理をしても大したお礼にはならないかもしれないが、あのときに母は料理自体より気持ちが大切なのだと教えてくれた。

 

 思い立ったが吉日。早速計画を開始しよう。

 

 

 題して感謝のサプライズ朝食大作戦!

 

 

 オフィスのセキュリティを確認すると、毎朝彼女が何時にここへ来ているのかわかるのだ。これより先に支度を始めればサプライズができる。

 

 明日はなにを作るのが良いだろうか。私の料理の実力は生きていける最低限レベル。フウカのように綺麗に卵焼きを巻くことは出来ないし、あの心に染みる味噌汁も作れまい。作るなら身の丈にあった朝食にするべきだ。

 

 そんなこんなで仕事をながらずっと朝食メニューを考えていたら当番の生徒に心配されてしまった。

 

 

 

     ***

 

 

 今日も先生の所へ朝食を作りに行く。寝起きでぼうとしている先生を見られるのは私だけの特権だ。

 

 ……偶に色々な生徒が起こしに来たり、同衾していたりするけれど。

 

 シャーレの当番生徒に渡されたカードキーで解錠してキッチンへ向かう。

 

 そこで異変に気づいた。普段なら明かりのついていない筈であるキッチンから明かりが漏れている。日光ではない、照明の明かりだった。

 

 先生はこんな朝早くに起きられる人ではない。

そうであれば先生が昨日に消し忘れたのだろうか。徹夜……ではないと思いたい。それとも、知らない誰かがいるのだろうか……。

 

 恐る恐る扉を開けるとそこには、エプロンを着けてフライパンを睨みつける先生がいた。私が入室したことにも気づかないほど集中しているらしい。

 

 

「どうしたんですか、先生?」

 

 

 色々な疑問をまとめてぶつけてみる。

 

 

「うわあ! お、おはようフウカ」

 

 

 先生は、後ろから話しかけるものだから驚いてしまったよ、と言いながらフライ返しで卵ふたつ分のベーコンエッグを半分に切ってそれぞれ皿に盛り付けていた。

 

 

「もうすぐトーストも焼けると思うよ。フウカは座って待っててね」

 

 

 困惑しながらも言われた通りにテーブルへつく。座って待っているのは落ち着かなかったが、手伝おうとしたら遠慮されてしまった。

 

 しばらくしてテーブルに朝ごはんが、並び始める。トーストにベーコンエッグ、サラダとコーンのカップスープというメニューだ。

 

 

「先生、これは?」

 

「いつもフウカには作って貰ってばかりだからね。今日はお礼の気持ちを込めて、私が作ってみたんだ。……ちょっとトーストを焦がしちゃったけどね。

 

 ──フウカ、いつも美味しいご飯を作ってくれてありがとう」

 

 

 私へ感謝を伝える先生の左手人差し指には絆創膏がひとつ貼られていた。

 

 目の奥が熱くなる。

 

 先生は私へ感謝を伝えるために一生懸命この料理を作ってくれたのだろう。

 

 先生の皿に乗った目玉焼きは、黄身の部分が潰れてしまっていた。きっと卵を上手く割れなくて一個目を失敗してしまったのだ。代わりに私のお皿には真ん丸い太陽が乗っかっている。

 

 サラダに添えられたきゅうりは厚さがまちまちで断面が波打っている。慣れない包丁の扱いに苦労して指を切ってしまったに違いない。

 

 トーストも端がちょっぴり焦げてしまっていた。

 

 傍から見ればみすぼらしい朝食かもしれない。

 

 それでも。

 

 普段料理をせず朝も苦手な先生が、私のために作ってくれた料理は、私にとっては他に変え難い最高の料理に違いなかった。

 

 堪えきれずに、涙が溢れてくる。

 

 

「ありがとうございます、先生。これからも美味しい料理を作れるように頑張りますね」

 

「うん、これからもよろしくね。フウカ」

 

 

 あれっおかしいな。この目玉焼き、なんで卵臭いんだろ。目玉焼きを作る時には塩を振らないと……、なんて会話をしながら食べた朝食の味は一生忘れられない思い出になった。




 発想がキッズの先生ですみません。
 シャーレの当番生にオフィスの鍵が渡されるというのは妄想設定ですのでご注意を。
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