アズサちゃんと無知っくす、いい響きですよね。
「先生、質問があるんだ」
シャーレの先生という仕事はその実、先生らしからぬ仕事も多い。だからこそ、生徒が質問してくれるのはとても嬉しいのだ。
ああ、先生やっててよかった。
そんなことを考えていると、何も言わない私に白洲アズサが首を傾げる。透き通った白髪がさらりと肩を流れた。
「ごめん、考え事してたよ。なんだっけ?」
「えと、質問したいんだけど」
補習授業部のみんながこちらを見ている。
「子どもってどうやって作るんだ?」
…………。
静寂。
アズサが放った一言は教室中の音を奪い去った。
補習授業部の全員が押し黙り、教室には興味津々なアズサの翼がぱたぱたとはためく音のみ響いている。
「調べてみるとコウノトリやらキャベツ畑やら色々と出てくるけど、どれも納得いかないんだ」
なんと答えるべきか、私は頭を最高速で回転させる。
教室のみんなが私の回答を伺っている。
脳裏には返答の選択肢が現れた。
・私と実践してみよう
・ハナコが詳しいよ
……駄目だ。
どの選択肢を選んでも、社会的にしぬ。よしんば生き残ったとしても先生としては終わりだ。
「えーっと、ごめんね。私じゃあ助けになってあげられないかな。
それに、神聖なことだから、無闇に人に聞いたらダメだよ」
私の答えにアズサはちょっぴり不満気だ。申し訳ない気持ちになるけれど、許してほしい。
「アズサちゃん。子どもの作り方が気になるんですか?」
イキイキと歩み出てきたのは髪と頭の中がピンク色の痴女もとい少女、浦和ハナコだ。
「ああ、保健の教科書には肝心のことが書いてなくて」
「あらあらまあまあ♡」
マズイ!
早くハナコを止めなくては、世界が終わってしまう!
「えっちなのはダメーっ!」
ナイスタイミングだよコハル!
間一髪、ぎりぎりのところで会話に割り込んだ下江コハルは頭と腰の翼をパタパタやりながらぴょんぴょん跳ねて一生懸命にハナコの暴挙を妨害している。
「む、えっちなことなのか? 先生は神聖なことだと言っていたが……」
前言撤回、バッドタイミングだよコハル……。
もう頼れるのは常識人(比較的)のヒフミしかいない!
「助けてヒフミ!」
「わ、私に振るんですか!? えっと、アズサちゃん。子どもを作るにはですね……、」
そこまで言いかけて、言い淀む。顔を赤らめて口をぱくぱくさせながらショートしてしまった。
ヒフミでもどうにもならないかあ。
どうやら、結局私が頑張るしかないらしい。
ええいままよ!
その後、何とか説明を終えるうちにアズサは頭から湯気をあげながら、耳の先まで赤くなってしまった。ちょっぴり涙目だ。なんだか悪いことをした気分になる。
しかし、一番大変だったのは彼女へ説明することではなく、何としても実践しようと試みるハナコを止めることと、顔を真赤にしたり真青にしたりと床屋のサインポールみたいになってるコハルを落ち着かせることだった。
自力で正気を取り戻したヒフミはやはり常識人なのだろうと思う。
これぞ透き通る世界観。
説明パートまで書くとアウト感があったのでカットで。お赦しください。