GS聖 極楽大作戦!   作:柚子餅

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 特に何の出来事もなくお弁当が空になる。缶に入ったお茶を飲み干し、水筒も持ってきたほうが良かったと消えていった120円を想う。

 お腹もほどよく一杯になり、陽気も手伝って若干の眠気を覚える麗らかな昼下がり。

 思わずあくびが漏れた。その様子を見て、神父が微笑んでいる。何やら気恥ずかしくなって、大きく開けかけた口を無理やり閉じてあくびを噛み殺した。

 

「試合はどうだったんだい? 私から見ると神通棍も見事に扱えていたみたいだったようだけど」

 

 空の弁当箱を膝に置き、神父が尋ねてくる。目線を上にやり、少しばかり思案。

 

「あー、そうすねぇ……。確かに霊波刀に比べれば形状のイメージをしないだけ安定して扱えそうです。ただ、やっぱり慣れてないんで使う分には霊波刀の方が気が楽っすね」

 

 実質、動いて神通棍を当てただけだったんで感想もクソもないんだが。強いて言えば、シスター服はスカートなんで昨日よりも動き難くなったことだろうか。

 これだからスカートは好きになれん。歩幅もほんの少しだけど制限されるし。……『強いて』だぞ? 神父にはそんなこと言いません。言えません。

 

「まあ、そうかもしれないね。私は霊波刀は使えないから何とも言えないが、何も持たずに霊を払えるだろうからどこでも対処できるしね。今からでも、私も霊波刀の訓練をしてみようかな」

 

 言って、神父が笑う。対して私はベンチの背もたれに体を預けて、右手を顔の前まで上げてみる。霊力を込めて、形状を頭の中に浮かべると、淡い光が剣の形に伸びていく。

 

「形状のイメージ、か……」

 

 神父が私の伸ばした霊波刀を眺めながら、ぽつりと呟いた。

 

「聖クン。形状のイメージを、刀以外にできるのかい?」

「こうですか?」

 

 間髪入れず、うにょーんと霊気が形を崩していく。三本の爪が拳の先から出ている手甲へと形が変わった。『栄光の手』をちょっといじったもの。

 

「……ほう」

 

 あくびの時に出てきた涙を、左手の甲でこしこし擦ってぬぐう。眠い。

 

「神父が出かけてる時に、色々練習してたんスよー。後はこんなんとか」

 

 またうねうねと霊気の形が変わっていく。霊波刀より細く、長く伸びる。槍の形。これは剣を伸ばすだけなんで難しくない。

 更に伸ばして、がっちり固めずに鞭の形。美神さんが使っていた神通棍よりは流石に細い。霊気が収束しきったのを確認して、今度は手の周りに丸く纏めて、締め。

 

「ドラ○もん~」

 

 秘密道具を取り出すときのような感じで一言。ふふ、と笑って神父を見る。

 

「いやはや……聖クンは才能の塊みたいな娘だね」

 

 左手で丸くまとまった霊気を触ると、霧散していってしまった。実物がどんなもんかわからんから、イメージが固まらんのだ。

 

「ここまで短期間で霊気の扱いを覚えるくらいだから、もしかしたら霊能関係の名家のお嬢様だったりするのかもしれないね」

「うわ、やめてくださいよ。ガラじゃないっす」

 

 神父を騙している事に軽い罪悪感を感じつつ、苦笑いで言葉を返す。

 霊能関係を中心に色んなところを当たってくれているのは、時折電話しているのを見て気づいている。捜してくれている神父には申し分けないけど、私の身元なんて出てくる訳がない。

 

「とりあえず、午後も頑張るんだよ。聖クンならもしかしたら優勝できるかもしれないからね」

「えーと、怪我しない程度に頑張ります」

 

 ぶっちゃけ、令子やエミさん、冥子ちゃん相手では負けると思うが。令子、エミさんあたりには霊気量で勝ってても、策略というかその辺では勝てそうにないし。冥子ちゃん相手だと、暴走に巻き込まれたらそれで一発な気もする。

 別に優勝にこだわりはないから、適度に頑張ろうと思う。

 

「はは。欲がないというか、聖クンらしいというのか。なんにせよ、聖クンに神のご加護があらんことを」

「――ありがとうございます」

 

 空の弁当箱は預かっといてくれるらしい。正直バックとか持ってきてないから助かった。

 

 

 所変わって試験会場。こっからの試合は一組ずつ行われるわけで、その一試合目は令子だったりする。とりあえず、試合会場がよく見える位置まで移動することにした。

 近くまで寄ったところで会場周囲に霊的バリアが張られる。その中央には令子とスーツの男性が。立ち位置的にはやはり、そのスーツの男性が対戦相手だろう。

 ……スーツか。なんつーのか、変な奴だな。あー、でも令子も人のこと言えんか。ボディコンだし。

 

「み、見えないわ~。えっとぉ、こういうときはインダラちゃん~、出てきて~」

 

 後ろから間延びした声。振り向いた瞬間、照明からの光が遮られてその姿がしっかり見えた。

 

「が、頑張って~~! 令子ちゃん~~!」

「……式神は出しちゃ駄目っすよ、冥子ちゃん」

 

 ぶわっ、と蜘蛛の子を散らすように離れていく他の受験者。人口密度クレーター、再び。そして昨日のように取り残される私。

 

「え、え~、聖ちゃんの声が聞こえるのに、どこにもいないわ~」

 

 きょろきょろと辺りを見渡す冥子ちゃん。……わざとやっているんじゃなかろうか。だが、冥子ちゃんは本気で不安がっている様子。

 

「あのー、冥子ちゃん? 目の前にいるんですが」

「ふぇ? 聖ちゃんなの~? うそよ~」

「…………えーと、ほら」

 

 被っているケープを取り外す。収められていた髪の毛が、ふぁさ、と顔に掛かる。顔を振って髪型を整えた。

 

「……」

 

 冥子ちゃんはというと、私の顔を見ながら目を白黒させている。……まだわかってないのだろうか?

 

「あ~! 聖ちゃん、どこに行ってたの~? お昼も一緒に食べようかと思って令子ちゃんと捜したのに、どこにもいないのだもの~」

「え、あ。すんません」

 

 そして再起動を果たした冥子ちゃんの頭からは、先程のやりとりは飛んでるらしい。思わず普通に受け答えをしてしまった。

 ケープを再び被る。これ、外すとけっこうかさばる。まだ被ってた方が手が空くから邪魔にならん。

 

「令子ちゃんもね~、聖ちゃんがいなくてがっくりしてたのよ~」

「そうだったんすか」

 

 ……それはたぶん、冥子ちゃんの面倒を一人で見なくちゃいけないから消沈してたのかと。その光景がありありと浮かんでくる。

 

「弁当を置いてきちゃいまして、届けてもらってそのまま公園で食べてたんス」

「お弁当~! 聖ちゃんのお母様が作ったのかしら~?」

「いえ、自分で作ったモンですけど」

「聖ちゃん、お料理できるのね~。うらやましいわ~。今度私にも食べさせて~」

 

 最早、令子の試合はそっちのけ。二人で、というより冥子ちゃんが「ピクニックしたいわ~。聖ちゃんがお弁当係でね~、お花畑で~」なんて一方的に話している。

 私としても神父以外の感想を聞いてみたいので悪い話じゃなく、「試験が終わったら行きましょうか」なんて答えているわけだが。

 

 

 突然、上がる歓声。思わず辺りを見渡し、思い至って試合場に目を向けると丁度令子が出てくるところだった。むう、完全に見逃してた。

 

「なんていうか、やっぱり拍子抜けね」

 

 令子は一直線に、インダラに跨ったままの冥子ちゃんに向かって歩いてくる。なんだかんだいって冥子ちゃんと一緒にいる令子。面倒見が良いのか悪いのか。

 

「あ~、令子ちゃん、勝ったの~?」

「勝ったの? ってあんたねー、見てなかったわけ?」

「ごめんね~、聖ちゃんとお話してて見逃しちゃったの~」

 

 全然反省してなさそうな顔で答える冥子ちゃん。

 

「は? 聖がどこにいるっていうのよ? ……ところで、コレ誰?」

 

 あんたもですか……。何故こうも無視されるのだろう? あと、初対面の人間に向かってコレとは如何に?

 

「な、何言ってるんですか! 私ですよ、私!」

「……もしかして、聖?」

「令子には他の誰に見えてんスか?」

 

 とりあえず、ケープを外さないでも分かってくれたらしい。疑問系なのが気になるが。

 

「ぶっ! あ、アンタ! 本当に聖なの? アハ、アハハハハハハハハ!」

 

 そうして吹き出す令子。

 ……何故だ。何故笑われる。何だか無性に泣きたくなってきた。

 

「どうしたの~、令子ちゃん~。聖ちゃん可愛いじゃない~」

「……うぅ」

 

 もういい! 隅っこの方で地面に『の』の字書いてやる!

 そしてその私の背中をばんばんと叩く令子。 むせた。私も令子も。

 

「ひ、ひー! 何、あんたってば、キリスト系の霊能者だったの? エクソシスト?」

 

「そういうわけじゃないっス。神父が作ってくれたモンなんで、着てるだけですよ……」

 

 ちくしょう! 令子が素直に着ときゃあ私がこんな格好することもなかったっつーのに。

 ………………。

 

「……あーあー、そうだ冥子ちゃん、さっきの話ですけど明後日とかどーです?」

「いいわよ~、令子ちゃんも大丈夫?」

「げほっげほっ! あ゛ー、笑いすぎた。……え、何? 明後日は別に予定もないけど」

 

 ニヤリ。心の中で一人ほくそ笑む。

 

「んじゃ、明後日にピクニックですね。いやあ、楽しみだなぁ」

「そうね~。お友達とお出かけなんて初めてだから~」

「ちょ、ちょっと待ちなさい! 何の話をしてるのよ、聖!」

 

 馬鹿笑いを引っ込め、私の胸倉を掴んで問い質し始める令子。だがもう遅い。時は戻らない。事態はもう動いているのだ!

 

「いやぁ、何ってお友達になった記念第一回ピクニックに決まってるじゃないっすか。あー、楽しみ楽しみ」

 

 胸倉を掴まれながらも、視線を横に逸らして人を喰った笑み。

 

「だ、誰がピクニックになんて行くって言ったのよ!? そんなことすんなら、家でのんびりしてたほうが……」

 

 ちょいちょい、と左手の人差し指で横を指してやる。勝った……!

 

「何? って、げ……」

「令子ちゃん~、ピクニック嫌なの~? 私~、みんなで遊べると思ったのに~」

 

 そこには予想通り、涙を浮かべた冥子ちゃんがいた。もちろん、霊気は収束中である。

 

「……人のこと、馬鹿笑いした罰だとでも思ってください」

 

 ぼそり、と令子にだけ聞こえる声で呟いてやる。令子は美神さんより若く、私と同年代だからか1.33倍(当社比)で強気に出れる私。

 ふふん、と笑っていると、顔をぐいっと寄せられる。

 

「……私を嵌めるとは良い度胸ね、聖。よ~く、覚えておきなさい」

 

 ぼそり、と返事が返ってくる。ようやく胸倉から手が離された。そのまま、「仕方ないわね、付き合ってあげるわよ」と冥子ちゃんにフォローを入れ始める令子。

 

 ……やばい。私はもしかして、とてつもないことをしてしまったのでは……。

 今更ながらに、自分のしたことに気が付いた。どうやら、1.33倍(当社比)では全然太刀打ちできないようだった。

 

 

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