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令子の脅しに体を震わせて慄いたりしていたが、考えてみればいつものことだと思い直し試験を突破する。
対戦相手も一、二回戦よりかなり手強くなっているものの、まだまだ見習いの域は抜け出せてはいないだろう。本来の受験生の霊能力がこのレベルだとしたらなんだか申し訳なく思えてくる。
独立こそ許してもらえてなかったとはいえ資格を手に入れて二年も修行していたから、私も一般的なプロのレベルぐらいには到達して……るよなぁ? 自分の実力ばかりはあんま自信はないが。己ほど信じられないもんもないかんな。
神父はなにやら優勝に期待を寄せてくれているみたいだけど、私としてはあんま頑張る気はなかったりする。というのも、既にGS資格習得は辞退でもしないかぎりは確定なのでそんなに気を負う必要もないっていうのがでかい。
つーか、優勝すれば除霊事務所からスカウトやらの打診があるかもしれんが、私はスカウトされたい訳でもない。受かってしまえば、後は神父の下で研修を続けて許可を貰うだけで済むのだから。
「なにボーっとしてるのよ、聖。さっさと行くわよ?」
トーナメントも、ついに上から四人が決定された。
その四人というのは――説明が必要だろうか? 私、令子、冥子ちゃん、エミさんである。
憂鬱だ。誰と当たっても酷い目に合う。絶対。いっそのこと逃げ
「聖、言っとくけど逃げんじゃないわよ?」
――ることなんて考えてないぞっ! いつまでもそんな情けないアシスタントどまりじゃないからな! ……この冷や汗は実戦前の緊張とかそんなんだ。たぶんなっ。
「さーて、早速さっきのお返しといきますか! 聖、覚悟しなさい。幾つかあるうちの家訓の一つに『売られた喧嘩は倍返し』ってのがあるのよ」
「うわぁぁーー! 出して出してここから出してー! なんか恨みでもあんのかラプラスの魔ーー!! あったら謝るから許してー!」
目の前に令子。顔は笑ってるが、なんか底知れない圧迫感を感じる。
そして対するはマジ泣きな私。加えていうなら試験場の縁ぎりぎりで、腰を引きながら後ずさり中だ。
「受験番号427番、早く中央線まで来て下さい」
「えーやんかー! たまには強気に出たってえーやんかー! それともなにか? 年がおんなじだろーが、性別がおんなじだろーが一生勝てへんのかー! 丁稚はいつまでも丁稚か! 一度出来た上下関係は覆らんとでも――――!!」
「427番! 棄権と見做すが、よろしいですか? その場合、資格は取り消しになりますが……」
「ささ、はじめましょ審判さん! 棄権? 何言ってンすか! 優勝目指して頑張るぞー」
えいえいおー、と右手を振り上げる。あはははははは、と爽やかな笑い声が口から漏れた。棄権は、免許資格取り消しになるんだった。あぶねぇ……。
「この娘は……」
しかし、令子からひしひしと感じた気迫は削がれたようだ。ひじょーにびみょーな表情で私を見てるが、結果オーライだ。
「そ、それでは211番美神令子と427番高島聖の試験を開始します。はじめっ!」
こけていた審判のおっさんが仕切り直すように声を張り上げる。ずっこけるなんて、結構ノリがいいおっさんだなぁ。
「って、おわぁ!」
生暖かい視線を審判のおっさんに向けていたら、いつの間にか令子が目の前で神通棍を振りかぶっていた。
間一髪。日頃の被折檻経験が生きたのか、何とか横のスペースに跳んで回避成功。一拍前まで俺がいた場所に令子の神通根が突き立った。
「ちっ」
「あ、あれ? ほらー、令子。ここはお友達なんだしお手柔らかに、ね。舌打ちとか、その目とか怖いからやめましょー? 仲良し仲良しー」
「問答、無用よっ!」
突き立った神通棍を引き抜く反動で、こちらの胴を薙いでくる。幸い、腰が引けていた私は一歩下がるだけで避けられたが……。
「ぎゃー! なんでじゃー!」
霊的防御を付加してくれたというシスター服、その胴回りを帯びていた霊気が一切合財吹っ飛んだ。一言で言うなら、『ただの布になった』。ちなみに当たってはいない。ちょびっと掠っただけだ。
「し、しし神父ー!」
「やはり日数が足らなかったか! すまない聖クン!」
開始早々――というか開始前からだが、泣きが入ってる私の叫びに返ってきた言葉は非情だった。ってか、やはりってどういう意味だー! わかってたなら前もって言っといてくれ!
そうこう話している間にも令子の攻撃は続いている。何とかかわせているものの、やはり今までと同じ様にはいかない。
動きに伸びがあり、柔らかい。隙が全体的に少なく、身のこなしは人間が他の霊的存在に霊格という点で劣ることを理解している動き。力押しではなく、如何に消耗を減らして対応できるかというのを実践している。その上保有霊力が頭一つ抜きん出て大きく、比例して威力も霊的防御も総じて高い。
どんな戦況でも対応できるオールマイティな戦法であり、能力だ。おまけに、霊力を底上げすればその分がまるごと力になって無駄もないときた。
「避けてばっかて、舐めてんのかー! いい加減当たっておきなさい!」
って、冷静に分析してる場合じゃねーぞ! 業を煮やしたか、令子は攻撃のピッチを上げてきている。その速度は、回避している私の視界がおかしなことになるほどだ。
目の前に強く輝く神通棍。――流石にこれは避け切れない。反射的に霊気を腕に纏わりつかせて、顔の前で交差する。
令子の攻撃――真面目に受けたのはアシュタロスと戦うための特訓中が最後。そん時は何とか受け切れた。
しかし本気の令子の攻撃ってのは色々と超越したもので、有無を言わせないモンだ。文珠でこっちに跳んでくる直前の温泉、あのヒャクメレベルの神族なら一撃で屠れそうなアレが本気だろう。まぁそのヒャクメレベルって言っても、完全に私主観だからどうなのかは知らんが。
……まぁ、どっちにしてもそんなん喰らったら。
「死ぬー! 死んでまうー! こんなことなら節制なんてしないで、松野屋で牛丼腹いっぱい食っとくんだったー!」
ひー、と泣きながら来るだろう苦痛に備える。意識が飛ばないように気を確り持っておかないと。と、覚悟をしたところで衝撃。
その勢いで体が後方へと流れていく。ブーツの足裏がざりざりと摩擦させながら滑っていく。受け止めた手が熱を帯びる。
「あつっ! って、あれ?」
だが、思ったよりも……というか、普通に大したことがなかった。
「はぁ!?」
神通棍を受けた手をぷらぷらと振る。流石に手で直接受けたからダメージはでかいが、ぼろぼろになったわけでなし。握力も残ってる。腰に差していた神通棍を確りと握り、握力を確かめてから抜き放つ。……とても痛いけど、動作自体には何の支障もない。
「なによそれ! 何で神通棍を素手で受けて無事なのよ! あんた本当に人間なの? 実は妖怪でしょ? それとも大穴で神族とか?」
「なんつーか、ずいぶんと酷いこと言いますね……」
んー、と考えてみる。確かにこりゃまずい、と全力で霊力放出をしたってのはあるが……。比較対象がなぁ。~マイトって換算できたら一番わかりやすいんだが。
とりあえず、さっきの令子の神通棍の一撃を、知り合いとか戦った奴らと比べてみる。
アシュタロスには、勿論勝てない。老師――斉天大聖老師も無理、ルシオラ、べスパ、パピリオにも無理。小竜姫様にジーク、ワルキューレ、メドゥーサにもまだまだ。
ヒャクメは戦闘向きじゃないから外して。
当たり前だけど、美神さんにも勝てないだろ。冥子ちゃん、神父、エミさん、雪之丞、ピート、シロ、タマモ、タイガー……。あれ、ここまできても負けてる気がする。六道女学院トップの弓さんとはどうだ?、妙神山の禍刀羅守(カトラス)ってとんがった奴とどっこいってとこか?
ちなみに私が一発を耐えられるのはどこかっていう話だと、攻撃の種類にもよるけどべスパ、じゃアレだからパピリオ、いや、ワルキューレ? ……め、冥子ちゃんの暴走なら何とかなる。たぶん。
そう考えると、修行の時、禍刀羅守(カトラス)と戦って一撃貰ったけど大したことなかったし、あれからまた強くなってると思うし……。もしかして、私って相当強いんじゃないか? 神族には敵わないとしても、GSも有名どころが今のとこ存在してないし。
これは、そろそろ『GS横島』……じゃなくって『GS聖 極楽大作戦!』とか来週あたりから題打っちゃってもいいんじゃないか!? 逆境と苦難、激動の二年間を越え、20歳にしてようやく私の時代なのか!?
「えへ、えへへへ。『この、GS高島聖が、極楽に送っ……」
「阿呆かー!」
頭に落ちる神通棍。勢いで地面に前のめりに倒されて地面と熱烈なキッスをすることになった。
「ったーーーー!! な、何するンすかーー!!」
「あんた、試験中だってこと忘れてないわよね?」
「……? …………はっ! そーだったー!」
「んで、こう」
倒された状態で、神通棍を突きつけられる。もう、見るからに勝敗は決しましたって状況だ。
「私の勝ちよね?」
「アホー! 私のアホー! ちょっと調子に乗るとすぐこれやー! いい年こいてまだ直らんかー!」
「いいから、さっさと負けを認めなさい! この状態じゃ、回避も出来ないでしょう!」
「――いやいや、まだこれからっすよ」
頭にちょっとしたダメージは残ってるが、動きには支障はないし。まぁ、大分情けないけど、何とかならんこともない。
「ゴ……じゃなくって、ネズミのよーに逃げる!」
地面を這い蹲って高速で退避。瞬きの間には、突きつけられている神通棍には一切触れずには離脱完了! ケープを床に残してしまったが、そこまでは気が回らん。
「ちなみに、噂のGじゃなかったのは台所を預かる身としては死活問題だからだ。
本当はネズミでもアウトだけど、ハムスターあたりをイメージすればOK!」
「このっ! 色んな意味で見苦しいわっ! 何がアウトって、女としてその動きがアウトでしょーが!」
「って、また知らず知らずのうちに声に出てる! ……は、置いておいて。ギブアップか、戦闘不能になったら負けですからね! 令子の一撃じゃ戦闘不能にはなりませんよ!」
このルールで、私が圧倒的に有利な点はそこだ。いつもの折檻で無駄に耐久力が高い私は、一撃やそこらもらったところで高が知れてる。流石に3、4発とクリーンヒットを貰ったら先に意識が飛ぶかもしれないけどな。
んでその耐久力の割りに、悪霊が強い元の世界でGSを見習いとはいえやってきた私の一撃は類を見ない威力、の筈。
「よっ、ほっ」
「くっ、このっ、馬鹿力!」
それを表すように、不慣れな神通棍同士の打ち合いでも、威力で差を埋めてなんとか互角に戦り合えている。
今初めて実感してるけど、地力の差っていうのはこんなに表れるモンなのか……。つっても、令子が妙神山に行くまでの、短い間の天下だろうけどな。
んじゃ、今のうちは勝たせてもらっておきますか。
「私の勝ちですね?」
「……霊波、刀?」
「ええ。ま、秘密兵器ってことにしといてください」
神通棍で鍔迫り合いをして意識が向かっているところに、左手を空けた私は霊波刀を伸ばし令子の首筋に当てる。さきの状況と逆転し、しかし霊力差から一撃で令子の意識を刈り取ることも不可能じゃない。令子はギブアップをせざるをえない、のだけど何か嫌な予感がする。
「私は美神令子! ただで転ぶと思ったら大間違いよ!」
やっぱり令子は、美神さんなんだよなぁ。相打ち覚悟で、神通棍の霊波を撃ち込んできた。
何とか今までの令子のパターンを先読みしたお陰で半身になることができた。瞬間的に伸びた神通棍根がシスター服の裾を裂いて宙を突き進む。
「っあっぶなー」
令子の後ろ首に手を当て、神父の講義で覚えた霊波干渉で意識を落とさせる。初めて使ったけど、ちゃんと効くんだなー。ちょっとドキドキ。
――たぶんだけど、令子は私を倒して神通棍を突きつけた状態、つまり敗北したと私に思い込ませてギブアップさせるつもりだったのだろう。自分の攻撃が決定打にはならないと理解していた令子は長期戦にはしたくなかった筈だ。私のほうが霊力が高いから結果的に不利になっていくって普通考えるしな。
まぁ普通は大抵ギブアップしてしまうのだろうけど、未来の令子本人から戦闘方法を見て学んだ私にはこういう搦め手に関していえばお見通しだ。逆にあの手この手でこられて、神通棍を当てられてたら霊力差があっても危なかった気もする。
というか、令子もまだ若いな。あの降伏のさせ方じゃ相手が冷静だと、実は追い詰められてますって察せてしまう。場数が足らないんだな。……同い年の私が令子に対してこう思うなんて、不思議だけど。
「勝者、427番高島聖!」