GS聖 極楽大作戦!   作:柚子餅

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「くっ! いったいなんなワケっ!? こいつら、ちょこまかと!」

「がんばって~。アンチラちゃん~、サンチラちゃん~」

 

 間延びした声を受けて、小動物のような二匹の式神が呪術衣装を纏った女性に飛び掛る。彼女は両手に握るブーメランを使って、鋭い鎌のような斬撃と数多くの電撃を弾きいなしているものの手数で圧されて反撃に移ることが出来ずにいる。付かず離れず攻撃を仕掛けてくる式神を払い除けることしか出来ず、一方的に翻弄されていた。

 

 ――目の前で行われているのは、私と令子とは違うブロックの準決勝戦である。準決勝だけあって試合の内容は高度で、二人の実力も現役スイーパーと見比べて遜色はない。

 戦い方、得物、科白からわかるようにその二人の対戦者はエミさんと冥子ちゃん。そして、開始直後から優勢を保っているのは冥子ちゃんである。必死に式神を振り払うエミさんとは対照に、冥子ちゃんはのんびりとインダラの背の上で二匹の式神に応援を送っていた。

 

「……」

 

 私は、それをあごに手を当てて眺めている。総合的に判断すると、二人の実力はそう変わらない、と思う。そんなら、なんでこうも冥子ちゃん有利な展開になっているのか。

 ――――冥子ちゃんの霊能力は、メンタル面さえ改善出来れば強力無比な力だ。本人には膨大な霊力があり、様々な能力を持つ十二もの式神はどんな状況にも対応できる。今回のように、式神の選択を誤らなければ、大抵の相手ならば充分な対応をとれるのだ。

 それを踏まえても、このような一方的な戦局になってしまうのはエミさんの実力からいっても考えにくい。ここまで戦況が傾いたのは、エミさんにとってGS試験のルールが不利に働くからだ。

 

 元々、呪術というのは遠距離よりダメージを与えるのを得意としている。それこそ相手の姿が見えなくても情報と道具さえ揃っていれば攻撃対象に出来るほどだ。呪いや契約した悪魔を使い相手を追い詰めさせて、自分は危害を受けないところで行動する『後方にて援護』、更に言えば『戦う前に勝つ』タイプである。

 呪術自体が近接戦を不得手にしているため、前衛を立てなければ実力を発揮しきれないだろう。つまりは、持ち込めるものが制限されるこの実戦格闘形式の試験で呪術師が有利な点はほとんどない。もちろんそれはエミさんにも例外ではない。

 

 だが、呪術系GSの中でもエミさんは充分戦える能力者だ。手に持つ大きなブーメランを扱う技術は目を見張るものがあり、一般GSレベルなら素手であっても近接戦のみで相手を降せる。相手の動きを止めさえすれば、霊体撃滅波の一撃で相手を戦闘不能に持ち込むことだってできるだろう。

 ……けれど、流石に今回勝ち残った人物が相手じゃ分が悪い。令子の神通棍での霊的格闘や冥子ちゃんの式神は、そんなエミさんの近接戦のレベルを超越してしまっている。

 心理把握に長ける令子相手では虚をつくことも難しいだろうし、そもそも霊的格闘技術で大きく水を開けられている。冥子ちゃんに至ってはただでさえ強力な式神の、物量による力押しだ。普通に考えて隙を作り出せというほうが酷だろうとは思う。

 別にエミさんが弱いわけじゃない。ただ、この試験方法と相性の問題だ。

 

 まぁでも、実際の除霊の依頼だって、「対象が近接戦闘をするので、依頼は受けられません」なんていったら信用もクソもない。いつだって自分が有利な状況で戦えるわけじゃないから今回の審査を不公平だと言った所で何も変わらないんだけどな。

 

「つ、ああああああっ!」

 

 なんて比較的真面目な思考に耽っているうちに、ついに均衡が破られた。回避に失敗し、サンチラの電撃をもろに浴びるエミさん。

 常人より高い霊力により意識は残せたものの、膝をつき、倒れこんだ。手に握っていたブーメランも落としてしまう。何とか立ち上がろうとするが、麻痺した腕に力が入らず直ぐに崩れてしまう。

 

 二匹の式神は追撃をかける訳でもなく、冥子ちゃんに擦り寄るように戻っていった。『褒めて褒めて』と言っているみたいで撫でてあげたくなるような愛嬌がある。

 審判がエミさんの様子を見、幾らかの時間を置いた後立ち上がれないのを確認し、声を張り上げた。

 

「勝者、361番六道冥子!」

 

 朗らかな笑みを浮かべて会場から降りてくる冥子ちゃんを迎えてあげる。

 

「すっごい怖かったわ~。聖ちゃん、見ててくれた~~?」

「ちゃんと見てましたよ。おめでとうございます。冥子ちゃん、強かったですね」

 

 えへへ~、と歳不相応に頬をだらしなく緩めて、インダラから降りて私に向かって飛び込んできた。後ろに一、二歩と後ずさって受け止める。

 

「あ、危ないっすよ、冥子ちゃん!」

「あ~、でも次は~聖ちゃんとなのよね~。親友の聖ちゃんと戦うのは~、私~とても嫌だわ~」

 

 相変わらずマイペースに話を進める冥子ちゃんに、私は知らない間に親友認定を受けていた。胸に抱きとめていた冥子ちゃんをちゃんと立たせてあげる。

 柔らかくてえ~匂い……じゃなくて! これから私と冥子ちゃんは敵同士なのだ。馴れ合っていたら冥子ちゃんも戦い難いだろうし、ここは奮起させるべきだろう。

 

「冥子ちゃん、友達だからこそ、次は一生懸命戦いましょう?」

「そうなの~? お友達だと、一生懸命戦わなきゃだめ~?」

「そうです。お友達と戦う時、死力を尽くさなければ失礼に当たります。わざと手加減して負けたりすると、逆に仲が悪くなったりしちゃうんスよ」

 

 ……これは大抵、少年漫画とかの話だろうけどな。

 しかし冥子ちゃんにはそれで充分だったのか、瞳の中に似合わないものを宿していた。燃え盛る熱血の炎。奇妙だ。

 

「わかったわ~! そうよね~、戦った後、二人は笑い合って仲間になるのよね~」

 

 ……思ったよりも話が通じてしまっていた。イメージではてっきり少女漫画ばかり読んでいるものと思っていたが、色々な方面の漫画をカバーしていたようだった。

 

「六道冥子!! 次は負けないから、首を洗って待ってなさい!」

 

 そこで丁度良く冥子ちゃんの後ろから声を掛けてきたエミさん。体の痺れも抜けたのか、大股でこちらを睨み付けながら歩いてきた。

 私は見た。振り向く冥子ちゃんの瞳がきらきらと輝いていたのを。

 

「……うふふふふ~」

「ッ! な、なに笑っているワケ!?」

「貴女、お名前は~?」

「名前って、試合前に審判が宣言していたでしょ。エミ。小笠原エミよ!」

 

 思った反応が返ってこなくて毒気が抜かれたのか、それとも突然笑い出した冥子ちゃんに引いたのか。恐らく後者だと思うが、素直に名乗りを上げるエミさん。

 

「それじゃエミちゃん~、これから私たちと友達ね~」

「はぁ!?」

 

 あまりに突飛な発言に、エミさんが目を見開いた。私もあまりの段飛ばしな展開に、何も言葉に出来ない。

 

「ちょっと待ちなさい! 何で私が……」

「試合が終わって、笑い合ったらもう私たち友達よね~。ね~、聖ちゃん~」

 

 幸せの渦中、といった様子で純真無垢な笑みを浮かべる冥子ちゃん。

 

 ダメだ。冥子ちゃんは私と令子の時に味をしめたのか、なんとしても友達を作るつもりらしい。押し売りもかくやといった様子でエミさんに迫る冥子ちゃん。この後の展開も何だか見えてきた。デジャヴを覚えることになりそうだ。

 

「冗談じゃないわよ! 笑ってたのはアンタだけだったワケ! 大体、何で私がアンタなんかと……!」

「……ダメなの~? きっと楽しいわよ~。そうよ~ピクニックも一緒に行きましょ~」

「お断りよ! 馴れ合いなんて勘弁なワケ!」

「……う~~」

「な、何よ。そんな目で見たって……」

 

 ベソを掻き始めた冥子ちゃん。暴走じゃないほうの厄介な泣き方だ。その様子にたじろぐエミさん。一つ目のデジャヴ。

 

「私~、お友達が少ないから~。エミちゃんに三人目のお友達になってもらいたくて~、ぐすっ」

「ちょ、ちょっと待ってなさい。……そこの! えー、確か聖っていったわよね。この子いったいどうなってるワケ?」

 

 はい、二つ目のデジャヴ。エミさんは冥子ちゃんを待たし、私の肩を掴んで話し声が聞こえないように背を向けた。子供子供した冥子ちゃんに怯み、隣にいた私に助け舟を求めだした。

 

「あ、冥子ちゃんて、この試験が始まるまで友達が全くいなかったらしくて友達を作りたいみたいなんスよ。友達と一緒に遊ぶのが夢らしくて……」

「…………」

 

 仕方が無いので、冥子ちゃんの援護をしてあげる。その不憫な交友関係にエミさんもいくらかの同情の念を覚えたのか、複雑な表情を浮かべる。

 

「えーと、まぁ。少なくとも、悪い子じゃないスよ」

 

 最後にフォロー。それが決め手になったのか、エミさんはため息ひとつ、何も言わずにきょとんとした冥子ちゃんの所に戻っていく。

 

「……わかったわよ。しょうがないから、友達とやらになったげるわ」

 

「きゃ~、ほんとに~。冥子、嬉しい~!」

 

 泣いたカラスがなんとやら。もう満面の笑みを浮かべている。そして感激のあまりそのままエミさんに抱きつく冥子ちゃん。抱きつかれた方はというと、どう扱っていいものか困ったように私を見る。

 

 やはり、こういう結果になったか。といっても、こうなるようにいくらか誘導したってのもあるが。冥子ちゃんが可哀相だし。

 それにしても昨日だかと同じ展開だった。やっぱりエミさんと令子って根本は似てるよな。

 

 あ、そういえば令子は大丈夫だろうか。霊波干渉して意識を落としただけなので、もう目覚めていてもおかしくない筈だけど。話が一段落したら救護室に……。

 

「聖ーー」

 

 噂をすれば影。そこで遠くから聞こえてくるのは令子の声。意識を飛ばしただけだったのもあって、ピンシャンした様子で歩いてくる。

 

「って、げっ! アンタが何でここにいるのよ、小笠原エミっ!!」

「それはこっちのセリフなワケ! 聖っ! もしかしてアンタともう一人のこの子友達ってこの業突く張り!?」

 

 そして始まる口撃の応酬。令子が私に対し、なんて声を掛けようとしていたかはわからなくなってしまった。

 そういや、いつの間にかエミさんから呼び捨てされてるけど、どういうワケ? ……あ、口癖がうつった。

 

「はぁ!? 私が業突く張りなら、アンタはド陰険女でしょーが!」

「このっ! ……冥子、悪いけど今回の話なかったことにしてもらうわ。こんなのと一緒に居たら性格悪くなるワケ!」

「あーあー、私だってアンタなんかと一緒にいたら根暗になるわ! さっさと消えてくれない?」

「調子くれてんじゃないわよ、この守銭奴!」

 

 冥子ちゃんの鼻をすする音と、渦巻き始める霊気。そして口論に夢中になっていて、直ぐ近くの異変に気づかない二人。

 段々思えてきた。何だかんだいって、冥子ちゃんが最強なんじゃないだろうか。

 

「ふたりがケンカしちゃ~わたし~……わたし~。ふ、ふええーーん!!」

 

 起こるして起こった大爆発。暴れまわる式神。逃げ惑う参加者。泣き喚く冥子ちゃん。阿鼻叫喚といった様子だ。

 

 ふぅ、危なかった……。

 

 既に退避していた私は、式神から仲良く逃げ惑うエミさんと令子を物陰からこっそりと眺めながら、どうしたものかと途方に暮れていた。

 

 

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