GS聖 極楽大作戦!   作:柚子餅

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 暴走した冥子ちゃんが落ち着くまでに、10分の時間を要すことになってしまった。

 その間に重点的に被害を受けていた令子とエミさんは息も切れ切れのぼろぼろになっていて、壁際で並んで座り込んでいる。しかしその状態でも「お前の所為だ」と言い合える二人は本当にタフだった。

 

「ええと~、これから私と~、聖ちゃんの試合なのよね~?」

「そうっスけど……冥子ちゃん、霊力は大丈夫なんですか? 結構使っちゃってたように見えたんですけど」

「え~? 大丈夫よ~。それより~、終わったら皆でお茶飲みましょう~? きっと楽しいわ~」

「……そ、そうですね」

 

 手を組んで、その様子を空想する冥子ちゃんは本当に楽しそうで、無理をしている様子は全く見られない。何だかんだで彼女もタフであった。

 

 

「えー、それでは、受験番号427番高島聖と受験番号361番六道冥子による二次試験決勝戦を行います。……はじめっ!」

 

 あれから若干の小休止を挟んで、中央の試験場では審判による決勝戦の開始を告げられた。

 ざわめいていた観客席がその声を境に静まり返った。前日はまばらに空いていた席は本日より入場を許された一般客と、前日は来なかった同業者たちで埋まっている。

 ここまで来るとこれまでに敗退した受験者も今期最強の受験生を見ようと、決勝が行われる会場を観戦する為にものすごい人数となる。

 

「お願いねー、アンチラちゃん~サンチラちゃん~」

 

 その声に冥子ちゃんの影から現れるのは、エミさんとの準決勝で活躍していた小型で動きの素早い二匹の式神だ。冥子ちゃん自身は馬によく似たインダラに乗って、もう観戦モードに入っていた。

 

「……んー、どうしたもんかな」

 

 キンッ、と右手に持った神通棍が乾いた音を立てながら霊波を伸ばす。それだけをした後立ち尽くし、左手を顎に当てて思案に暮れる。

 気合を入れればまぁ、力押しで勝てないこともない、と思う。というのも、式神自体をシバキ倒せば術者である冥子ちゃんに勝手にフィードバックしてくれるからだ。ただでさえ素早さに特化したこの二匹なら、攻撃さえ当ててしまえば耐久力から云って一撃で落とせる。

 そしていくら素早いといっても、あのハエ男ほどではない。えっと、ベルゼブブだっけか。つまりは、捉えることも頑張れば何とかなる、と思う。しかし二匹を相手は流石に神通棍だけではちょっと難しいわけだ。文珠を二つでも使えば余裕だけれど、観客が多すぎて隠して使えるとも思えない。

 

 私が考えている間に痺れを切らしたのかアンチラがこちらに飛び込んでくる。考えるでもなく反射的に右手の神通棍でアンチラの鋭い耳を受け止め、弾き返す。

 勢いで後退していくアンチラを置いて、サンチラが死角となった背後から電撃を放つ。右にステップして背後にいるサンチラへと向き直る。

 と、背後に気配。大きく後退していた筈のアンチラがいつの間にか接近していた。神通棍を――いや、目の前のサンチラが次弾の電撃を溜めている。アンチラを神通根で弾いた瞬間にも、電撃が背後から襲い掛かってくるだろう。

 

 む、思った以上にこれは厄介だな。耐久力に劣る二匹だけれど、互いが撹乱になる為に一匹ずつを相手に出来ない。かなり優秀な戦法だ。こいつら相手に、エミさんよくあんなに持ちこたえられたなー。仕方ない。というよりは使わざるを得ない。

 

「ていっ」

 

 左手に霊気を集めて霊波刀を発現させ、アンチラを弾き返す。同時に、右手の神通棍で電撃を打ち払った。

 おおー、と観客席からどよめきが上がった。何に対するどよめきなのかはわからんが、どっちにしろそれを考える余裕はない。

 

 そのまま走り出し、試験場の端へと辿り着く。ここなら少なくとも背後から襲われる心配がない。電撃を神通棍で払い、その影に隠れるように追って飛び込んでくるアンチラを霊波刀で受け止める。

 ただし、今度は弾き返すことをしない。左手で力を加減して受け止めたまま鍔迫り合いをしているアンチラを、右手の神通棍でベシ、とハエ叩きのような感じで叩き落す。

 

「きゃ~、アンチラちゃんが~」

 

 べちゃ、とアンチラが地面に落とされた。同時に、奥に見える冥子ちゃんの身体がぐらりと揺れる。フィードバックは確かにいったようだが、どうやら右と左に霊気を分散したため威力が足らなかったようだ。足元で潰れていたアンチラがぴょんぴょんと逃げていく。

 ならば、とサンチラに向かって駆け出す。一発の威力が下がっているなら、連続でダメージを冥子ちゃんに返していけばいいだけのこと。

 迫ってくる敵(わたし)にサンチラも電撃を放つが、他に撹乱がなければ充分対処できる。何より攻撃が直線的だ。

 神通棍より幾らか短い左手の霊波刀で受け流し、右手に握った神通棍をサンチラへと振り下ろす。だが、動きを止めていたわけでもないのでぎりぎりのところで避けられてしまう。

 

「おお、何か知らんが両手に持ってみると、一気に使い勝手が良くなったな」

 

 右手には神通棍。左手は短めの霊波刀。力が分散するので威力は下がるけど、ものすんごくカウンターが取りやすい。左で受け、右で返す。魔族とか格違いの相手には力負けして受けきれないだろうけど、妖怪や霊相手なら充分に通用しそうだ。

 

「なるほど、ね。シスター服を着ておいて、実際に使う霊能は神通棍。そして霊的格闘に持っていったところで隠し玉に左の霊波刀。けれど実は、その先があったわけね……。奇をてらった戦法はカモフラージュで、最終的なスタイルは今あの子が使ってる、あの真っ当な二天一流なんだわ。聖の霊的格闘は剣術を応用……いえ、その逆ね。霊的格闘『も』こなせる拡大発展させた剣術。けれど結局、大本ではそれしか使っていないんだわ。そう、会った時からもうあの子に先入観を刷り込まれていた。まんまとしてやられていたってこと」

 

 何だか令子が勝手に推察して、勝手に納得している。何を言っているのか、言われている私が全く理解できていない。

 周りにいる受験生もその妙に説得力のある解説に感嘆の声と驚愕の目を私に向けてくる。……もの凄い勘違いをされている気がする。

 

「お、お母様のウソつき~! アンチラちゃんとサンチラちゃんだけで戦えば負けないって言ってたのに~!」

 

 そんでもって冥子ちゃんは冥子ちゃんで逃げてきたアンチラとサンチラを抱きしめて、泣きながら何か暴露している。

 良く考えられた良い戦法だと思ってたけど、やっぱり冥子ちゃんが考えたわけじゃなかったのか。

 

 冥子ちゃんは教えられたというアンチラ、サンチラだけという指示を捨て、更に霊を吸い込む能力を持つバサラ、怪力を誇るビカラ、毛玉のような容貌のハイラを出す。傷ついたアンチラは撫でられた後、影に戻っていったようだ。それでも今冥子ちゃんの周囲には五体もの式神がいる。

 

 私を、冥子ちゃんを泣かし傷つける敵と認識したのか、ビカラとその上にのったハイラが襲い掛かってくる。とはいっても、十二神将の式神個々の相手にする分にはそんなに苦労はしない。何度も冥子ちゃんの暴走には巻き込まれていたのだ。特性も弱点も知っている。

 力こそあるが素早さに欠けるビカラが突進してくるのを跳んで避け、そもそも戦闘に向いていないハイラを神通棍ではたき落とす。ハイラはそのまま鞠のように跳ねて冥子ちゃんの方へ転がっていく。

 そのままビカラを足蹴にして飛び越え、背後から一撃、二撃、三撃と当てる。ビカラは巨体である分頑丈ではあるが、その分小回りが利かないので背後に回ってしてしまえばこちらのもの。

 ビカラを集中して攻撃していると、後ろからいくつも電撃が飛んできた。サンチラだ。ビカラのピンチを見兼ねたのだろう。私がサンチラの回避をしている間にビカラが退いていく。既にぼろぼろだ。あと一息で決定的なダメージを与えられたのだろうけど、サンチラがそれを許さない。

 だが、先ほど防げたものを今防げないわけがない。電撃を避け、左手の霊波刀でいなし、攻撃の間を縫うようにサンチラへと接近していく。

 そして次第にサンチラも電撃が通用しない上、準決勝からの連戦でついに電撃が出せなくなり、冥子ちゃんの元へと逃げ帰っていく。

 

「ええと、あとは、と」

 

 残っているのは冥子ちゃんが乗っているインダラ、壁のように立ち塞がっているバサラだけだ。

 ビカラもハイラもサンチラも影の中に戻っていった。アンチラももう戻ったから、これであと出てきてないのは……?

 

「って、どわっ!」

 

 冥子ちゃんの横に瞬間移動能力を持つメキラを発見。いつからいたのか。嫌な予感に振り向くと、いつの間にか石化能力を持つアジラが左後ろにいた。メキラによって瞬間移動したのだろう。

 咄嗟にケープを盾にすると、ギリギリのタイミングで間に合ったようだ。どんどん石になっていくケープを手放す。

 

「うあー、あっぶねー」

 

 左手で胸を押さえる。やばい、動悸がすごい早くなってる。

 神父に感謝したい。一回限りとはいえ霊的防御を乗っけていてもらわなかったら、ケープを盾にしてもそれごと石にされていた。喰らってたら、それで負けが確定していた。

 

「でもま、一回視界に入っちゃえば怖くない」

 

 火を吹いて抵抗するアジラだが私は難なく接近し、霊波刀でハエ叩き。アジラも影に戻っていく。

 周囲の危険を排除し、向き直ると冥子ちゃんはもう大分憔悴していた。いつもの冥子ちゃんなら、ハイラかビカラあたりをやられたところでダウンしていた筈だ。

 それでもこうして立っているのは、冥子ちゃんにとってもこのGS試験が重要なものだと感じているからだろう。

 けれど、ここまで霊力を浪費しダメージを与えられれば立っているのもやっと。式神も負担を減らそうと壁役になってるバサラを残して影へと戻っていく。

 それを見届けて、ゆっくりと冥子ちゃんに近づいていく。

 

「さぁ、ギブアップしてください。流石の冥子ちゃんも、もう限界でしょう?」

「……い~」

 

 毅然と声をかけると、途端にぷるぷると震えだした冥子ちゃん。周囲の霊波がなんかおどろおどろし始めている。おまけに、何かをぶつぶつと呟いていた。

 

「え? な、なんスか?」

「聖ちゃん、怖い~。私のお友達なのに~、親友なのに~!」

 

 一転して、今度は大声を上げ始めた。って……もしかして、これって?

 

「え、ちょ、ま、待ってください。だって、戦って笑い合って仲間って。エミさんも、冥子ちゃんに……」

「う~~! 聖ちゃん、大好きだけど嫌い~!!」

 

 膨れ上がる霊気、溢れる霊圧。そして影から爆発するように溢れる十二神将。

 そして恐ろしいまでの速度で萎えていく私の戦意。――紛れもない、式神の暴走だった。

 

「結局コレかーーーーーー!!」

 

 冥子ちゃんと同じく、私も泣いていた。あの説得は何だったんだ。エミさんにはやって、何で私には……。そんなことを考えていたからか、いつもならぎりぎりで避けきれるものを顎に掠めてしまう。

 影から一直線に飛ぶ、銃弾と見紛う程の高速の何か。何とか確認できたシルエットは鳥……ということは該当する式神はシンダラ!?

 記憶が正しければ、亜音速で飛行できる式神だった筈。速度は落ちていたとはいえ、それを視認できる私は何なのか。シンダラの能力を思い出した途端に、膝が意思に反してカクン、と崩れ落ちる。

 は? ちょ、やばい、脚が動かない。――って、ちょっと待て。顎揺さぶられるぐらいなら瞬間回復でいけるってのに、回復しきれていない。ギャグキャラの固有特性の脅威の再生力が、弱化してる!

 つか、シンダラだけじゃなくて、美神さんにもらった一撃も響いてきているような……。もしかして耐久力自体も下がってる?

 

「えーと、あのさ。今回どう考えても、私が勝つ試合運びだったよな? あんな余裕ぶって戦っちゃって、これ、勝てなきゃウソって展開だったよな?」

 

 全く動こうとしない自分の脚を、他人事のように眺めて呟く。

 慣れないことをした罰なのだろうか。私が真面目に戦うことは、やっぱり許されないのだろうか。アシュタロスの時だって、大真面目だったけど酷い言われ様だったし。

 ギャグキャラ特性が下がっているのに、シリアスも許されないとしたら私はどこにいけばいいんだろう。人生っていうものを今度じっくりと考えたい。

 

 目の前に、ぼろぼろになったビカラがまた影の中から飛び出てきた。そればかりか、倒した式神も全体出てきている。

 脚はやはり動かない。そして目の前には地響きを起こしながら迫り来る十二の式神。耐久力が下がっている女の身体で、受身も取れない今、暴走を直撃したら終わる。

 だけれど、弱化したギャグキャラ特性では、恐らく後『三コマ』程なくては再生できない。時間的に見て、次の『一コマ』だって稼げるかどうかだって厳しい。

 …………覚悟を決めて、すう、と大きく空気を吸い込んだ。

 

「神は死んだッッ!!」

 

 ……どうだ。一コマ分稼いでやったぞ。きっと大ゴマだ。

 視界がぼやける。勝手に目から涙が溢れ出てくる。胸が熱くなった。違う。泣いてない。泣いたらひまわりさんに笑われちゃう。そう、きっとこれは、不条理に対する怒りの血涙。……ヒャクメや貧乏神に会ったら、いびり倒してやる。

 

 叫び、最後に神へのやつ当たりを心に誓って、式神の暴走の直撃を受けた。もみくちゃにされていく記憶を最後に、私はあっさりと気を失った。

 

 

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