GS聖 極楽大作戦!   作:柚子餅

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 視界が開ける。目の前に浮かんでいた文珠が、ようやく役目を終えて消えていく。

 どうやら転移が終わったらしい。俺としてはもっとおどろおどろしてたとこを想像していたんだが、室内だった。

 

 ぐるりと見渡す。……箪笥、押入れ。キッチンと名ばかりの流し台。明らかに見知ったものばかり。

 っつーか俺の家だ。そこかしこが普段よりも綺麗なのが気になるが……。

 

「くしゅん! うう~……」

 

 さ、寒い……。それもその筈、パンツ一丁ならぬタオル一枚なんだが。このままだと風邪引くぞ。

 肩を抱くようにすると、いつもより細くなっている腕も、薄くなった肩幅も冷え切ってしまっているのがわかる。

 

「……んん?」

 

 体に巻いてるタオルを少し開けてみる。――――胸だ。うむ、でかい。しかし、鳥肌が立ってて見ていても寒々しい。

 じゃない! ちょっとまて、なんで文珠の効果がまだ続いているんだ!? 普段ならとっくに切れていて、男の姿に戻っている筈なのに!

 

「なんだよ、うるせえなぁ……」

「!?」

 

 声に反応して布団を見ると、もぞもぞと動いている。何で俺の布団で寝てやがる! とたたき起こしてやろうと、一応手を出す前に寝ている男の顔を覗き込む。

 その男は、寝こけている所為か顔に締まりがない。この三枚目ヅラじゃあ女にモテんわな。

 

 ――――いやいや、これ俺じゃん。若干若々しい感じはするものの、どう見ても横島忠夫だ。布団の横にバンダナが置いてある。寝る前に置いておく場所なので間違いない。

 どういうことだ? なんでここに俺がいるのに、目の前に俺がいる?

 

「くしゅ! ずず……」

 

 と、とりあえず、服だ。箪笥から服を一式取り出す。Gパンに、Tシャツ、それにGジャン。何か手触りが新しい。デニム生地が硬い。

 サイズを新調して以来、新しい服は買ってないんだけどな。金も相変わらずないし。

 ひっかかりは覚えるけど、とりあえず置いておくことにした。服を着てないからか、特に懐が寒い。

 

 パンツは……洗面所か。部屋の内装や、家具のところどころに違和感を感じるけど、とりあえずは服が先。

 引き出しを開けて、中身を確かめる。なんとなく買ったはいいけど、履き心地が気に喰わなかったボクサ-パンツがある。今頃は押入れの奥で高圧縮されている筈なんだが……?

 何の気なしにそれを取って、そのまま洗面所で履く。

 …………ふむ、悪くない。あんときの俺、なんで愛用しなかったのか理解に苦しむ。

 

 ついでにそこで、服一式を着る。……着心地はあまり良くない。肩幅が狭くなっている所為でぶかぶかだし、袖からはぎりぎり手が出るか出ないか。

 もう一度脱いで、サイズを確かめて見るといつも着ている物よりワンサイズ小さい。……ワンサイズ小さいのに、大きい?

 洗面所の鏡の前に立ってみるが、何かが足りない。

 

「ああ、バンダナか」

 

 直ぐ横に洗濯した予備があったので、とりあえずポケットに突っ込んで、再び寝室兼居間に向かう。やっぱり俺が眠っていた。

 

 ……むう。どうしたものか。とりあえず、気になることが今の時点で数点。

 ①、ここ、元の世界?

 ②、だとしたら、なんで俺がもう一人いんの?

 ③、もう一人の俺、なんか若くない?

 ④、家の内装もちょっとばかり違うんだが。

 ⑤、つか、俺なんで女のままなんだ?

 

 そして、これらの疑問を解くには…………

 ……………………………………………………

 ……………………………………………………

 …………わからん。

 

 とりあえず美神さんに、今の状態を訊いてみるか? でも、今しがたあんだけ怒らしといて会いにいくっていうのは、殺されにいくだけのような気がする。

 エミさんは……むう。保留。この体だと遊ばれそうだ。魅力的ではあるが、ちょっと……。

 小竜姫様は、ちょっと遠いか。文珠を使えばそうでもないけど、大量に消費したばかりなのにこんな事に使うのもな……。

 他には……唐巣神父か? 近いし、歩いて行けない距離じゃない。真剣に聞いてくれそうだし。唐巣神父が一番無難か?

 そこまで考えた所で俺に影が差す。

 

「誰だか知らんけど、出会う前から愛してましたーーーーーっ!!!!」

「だぁぁぁっ!!!?」

 

 ぬがぁっ! なんだ、押し倒された!?

 

「チチっ、シリっ、ふとももーーー!」

 

 こともあろうに俺を押し倒した野郎は、俺の胸に顔をうずめ、手を尻に当ててくる。ぞぞっ、と全身に鳥肌が立つ。

 

「えぇーいっ、離れんか、キサマーーー!!」

「いいっ!?」

 

 反射的に下から顎を掌底で打ち抜く。変態野郎は白目を向いてどさり、と横に崩れ落ちた。

 

「変態野郎が! 男の体を(まさぐ)りやがって……って、俺じゃん」

 

 倒れていたのは紛れも無く俺だった。でも俺、男色の気はねえぞ。

 

「ああ、そういや今は女なんだった」

 

 自分に襲われるなんて、世界広しと言えど俺だけだろう。それはそうと、ここにいると身の危険に晒されることがわかったのでさっさと移動することにした。あ、ついでに金も持っていくか。

 623円手に入れた!

 

 新品同然の靴に疑問を覚えながら、それを履き。明らかにでかくて、サイズを確かめるとやっぱりサイズは変わらず。

 ああ、そういや女になってるから体が小さくなってるのか。通りで服が大きい訳だ。服のサイズは何故か小さいが。……なんだかよくわからなくなってきたな。

 

 玄関のドアを半分開けたところで、アパートの廊下を見覚えのある男が通りすぎていった。そして慣れた様子で俺の部屋の一つ隣に入っていった。

 

 ――今の浪人、だよな? あれ? あいつの部屋が空きになって、小鳩ちゃんが越してきたんだよな? なんでこいつがここにいて、小鳩ちゃんの部屋に入っていったんだ?

 けれども隣の部屋の表札を見ても、そこには小鳩ちゃんの名字である『花戸』の文字はない。

 

 もしかして、ここ過去なのか? でも、時間移動した訳でもないのに……。

 

 首を捻りながら歩き出す。頭の中で色々なものがひっかかっている。

 俺が若いこと。服が新しく、サイズが小さい事。浪人が隣に住んでいること。現状から考えれば間違いなく過去に来てしまったと判断するべきだろう。

 でも、俺が二人というのがわからん。つまり俺自身に、浪人がいたころに『朝、綺麗なお姉さんが何故か俺の家にいた』という記憶が全くない。俺は、そんな素晴らしいフラグを立てた覚えがないのだ。もしかしたらとりあえず飛び掛って、記憶が飛ばされているだけかも知れんが。

 

 はた、と立ち止まる。あれじゃないか。もしかして、並行世界ってやつか?

 うろ覚えだけど聞いたことがある。同じような世界が連続して進行しているって話。よく理解はできてないが、時間が少し遅れて進行している世界もあるのかもしれん。つまり、ここは過去ではなく、『過去のような並行世界』って可能性がある……?

 

 再び歩き始める。気温がまるで冬のように寒く、無意識に肩を抱く。今の季節もいつなのか疑問を感じたが、考える事が多すぎて思考に組み込まれてこない。

 

 ん~……『過去のような並行世界』ねぇ。はっきりいってこれっぽっちも自信はないが。さっき思ったとおり、俺の時の未来の俺は、過去の俺の記憶を消して未来に戻ったって可能性も……。

 あと、それとはまた別に、何故女のままなのか。さっきも思ったけど、いつもなら文珠の効果は切れて元に戻っている筈なんだけどなぁ。

 

 と、気がついたら唐巣神父の教会前についていた。歩きだと結構な距離があるんだけど、あれやこれやと考え事している間に着いてしまったようだ。

 だけど、入って唐巣神父に相談するのはちょっと考えてしまう。もし過去である場合、あんまり知人に面識もたれてると未来に戻る時にややこしいことになりそうだ。

 関わったいろんな人の記憶を消していかなければならなくなる。もしかしたら、皆知っていて黙っていてくれているだけ……ってそれはないか。

 

「あー、どうするかー」

 

 眉間に手を当てて、その場に座り込む。

 えーっと、過去の世界だとするなら、未来の俺がいると面倒なことになる。だけど、並行世界なら未来?の俺がいても不思議はないんだよな。

 並行世界とはいえ、『横島忠夫』って説明するとどうなるんだ? 俺が、なんか色々まずいことになるんじゃないか? あと並行世界の俺も。

 なんだ。どちらにせよ今の俺を『横島忠夫』で説明しちゃまずいんじゃないか。

 

「ノォーーーーーウ! 俺の、俺のあいでんててぃーがぁぁぁ!!」

 

 俺が頭を抱えて叫んでいると、ぎぃ、と教会の扉が開く。その隙間から覗くのはハイヒール。

 

「……うるさいあなたはいったいどちら様?」

「っ!?」

 

 隊長っ!? なんだって神父の教会にっ!?

 

「それで、あなたは誰なの? 神父に御用かしら?」

 

 のあぁー! まだ何も考えてないっ!!! おまけにこんな変化球がくるとは予想もしてなかったぞ神さんのバカヤローーー!!!

 

「ま、いいわ。とりあえず入りなさい」

「はいぃぃっ!!」

 

 し、しまったつい癖で!

 ぐい、と手を掴まれて教会内に促される。何故か隊長は俺の手を握った後、険しい顔で俺をじっと見つめてきた。

 

「な、なんすか?」

「ひじり、ちゃん……?」

 

 そして何か気づいた様子の隊長はぽつりと呟く。

 

「ひ、ひじり?」

 

 とりあえずそのような言葉と、隊長との間に共通点が見つけられずに聞き返す俺。

 

「――――いいえ、なんでもなかったわ」

 

 と隊長はひそめていた眉を元に戻すと、逃げる機会を完全に逃した俺に、先を促させる。

 教会に入ると唐巣神父は十字架を背にしてこちらを見ていた。隊長は後ろで扉を閉めている。……退路は塞がれた。

 

「お客様みたいよ。ほら」

「……え、あの…………」

 

 隊長にそういわれて唐巣神父の前に押し出される。近くで見ると、唐巣神父の頭がまだ若い。

 ま、まだ何も考えてないッつーの!

 

「私がこの教会の神父の唐巣和宏だけど、なにかお困り事かな?」

 

 強いて言うならこの状況だちくしょー!

 

「……ぁ…………うー、なんて言ったらいいのか」

「落ち着いて。ゆっくりで大丈夫だよ」

 

 神父の落ち着いた声に、一息ついて。

 

「そのー、どうやら記憶喪失みたいなんです。てへ」

「…………」

 

 ……やっぱり、「てへ」はいらんかったか?

 

 

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