GS聖 極楽大作戦!   作:柚子餅

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 場所は変わって、唐巣神父の居住区のほうに。今は応接間みたいな部屋に三人で座っている。

 どうやら落ち着けるようにと配慮してくれているらしい。目の前に置かれたお茶をずずっと啜る。

 

「記憶喪失……それは困ったね」

「唐巣先生の教会っていつから駆け込み寺になったんですか?」

「……困った人を救うのも、神に仕える者の仕事だよ」

 

 視界の端には苦笑いする唐巣神父が。その横では隊長が呆れたように神父を見ている。

 隊長と神父が話しててくれるのでこっちは落ち着くことが出来た。

 つい勢いで記憶喪失って言ってしまったけど、案外いい案なのかもしれん。横島忠夫と説明できないんだから、いっそのこと完全に他人として振舞ったほうがが何かと便利だろう。

 元の世界に還る方法は追々探せばいいし、ここが過去だとしても還る時にみんなの記憶を消去しなくても済む。せいぜい帰った後に「こんな女の人が来たことがあったね」っていう話になるくらいだろうしな。

 

「ところで貴女、何も思い出せないの?」

 

 と、いきなり隊長に話を振られて、手に持った湯のみをテーブルに置く。

 

「えーっと……」

「ほら、名前とかを思い出してくれるだけでも君の身元を捜す手がかりになるんだが」

 

 唐巣神父にそう言われて頭をフル回転。

 

「ん、と……高島、そう高島です」

 

 言ってから思えば、記憶にないと言った方がよかったのかもしれなかったが、つい咄嗟に答えてしまっていた。

 横島じゃまずい。名字に思考を巡らせているうちに、前世の名字が高島だったのを思い出してつい口に出していた。

 

「たかしま……、どういう字を書くにしてもありきたりな名字ね……」

「名前のほうはどうだい? 思い出せそうにないかい?」

 

 名前なんてそんなん急に言われてもポンって出てこない。知り合いの女性の名前ばっかりが浮かんで消える。

 

「すいません、駄目みたいです」

「そうか……私としても君の力になってあげたいのはやまやまだが、名前すらわからないと警察で捜してもらうくらいしかできない」

「そうね……。それが一番いいかもしれないわね」

 

 と、それはマズイ。身元なんか出てくるわけないんだから、警察でしばらく拘束されちまう。

 

「あの、思い出すまでこちらでおいてもらうとかできませんか? 警察とかどうも……」

「ああ、いや。住み込み用に空いている部屋はあるからそれは構わないが…………」

「お願いします!」

 

 頼む! 了承してくれ神父ー! いい年こいて警察のご厄介になんぞなりたかない! 臭い飯はいやー! あったかいご飯ーー!

 

「……わかった。しかし、警察の方に君の顔写真を送らせてもらうよ。そちらに探してもらおう。それに記憶喪失ということだし、病院で一度診てもらう必要があるか。身元の証明が出来ない場合は役所だろうか……?」

「それじゃあ……」

「ああ、当座の身の振り方が決まるまでは暫くうちにいるといい。しかし、家事や、教会の掃除を手伝ってもらう事になると思うけどいいかな?」

「ええ! それぐらいなら全然構いません! こちらこそよろしくお願いします!!」

 

 おお、何とかなったよ! いや~、助かった。

 

「ところで神父、気づいてる?」

 

 なんて隊長の言葉。何の事だか分からないが、とりあえず視線が神父のほうに向かう。

 

「何がだね?」

 

 相変わらず何について言っているのかわからないけど、神父もわかっていないらしい。視線が隊長に戻る。

 

「彼女どうやら霊能力(ちから)持ちみたいよ。それこそ潜在能力で言ったら六道女学院にも入学できるくらいの、ね」

 

 いいっ!? な、なんでそんなことが……? まずいことになりそうだから霊波は抑えているってのに!

 あっ! さっき俺の腕を掴んで見つめてきたのはそういう意味だったのか!?

 と思ったけど……それじゃないな。多分。顔をじっと見ていたし。霊波を視るだけなら、顔を見る必要ないしな。

 

「美智恵クン、それは本当かね!?」

 

 そういいながら俺や、その周りの空間を厳しい目で見る神父。俺は注目が集まり、何となく引け腰になってしまう。

 

「本当だ……、まだ目覚めていないようだが、微かに漏れる霊波に重みがある……。鍛えて霊力の総量を上げれば、相当な能力者になるかもしれないね……」

 

 ってか、自分なりに抑えて一般人レベルぐらいまで隠しているのに、霊波に重みってわかるもんなのか?

 霊波のコントロールはどうも苦手なんだが、つまりは漏れてんのが濃いってことなんか?

 

「え~と、なんだかよくわからないんですけど、貴女はここの教会の方なんですか?」

 

 話を逸らすために美智恵さんに話を振ってみる。

 

「いいえ、違うわ。あら、そういえば名前も名乗ってなかったわね。私は美神美智恵っていうの。GSをやっているわ」

「えと、よろしくお願いします」

「はい。よろしく」

 

 と、ころころと笑ってみせる。やっぱ隊長も若いな~。

 

「それじゃ、なんでGSの美智恵さんはこちらに?」

 

 かねてからの疑問を尋ねてみる。

 

「ああ、彼女はね、私の教え子なんだよ」

「ってことは……」

「うん。私もGSなのさ」

「そうなんですか~!」

 

 と、驚く(フリをする)。俺の求めていた答えじゃないけど、うまく話を逸らせたようだ。

 そこで美智恵さんが何かに気づいたように顔を押さえる。

 

「あ、高島さんいいかしら?」

「はぁ、なんですか?」

 

 今度は何だ!? また何か俺に気づいたのか!?

 

「一応言っておくけど、私は世間的には死んでることになってるから、そのように振舞ってもらえないかしら? 具体的にいうと、私のことは他人に、特に娘に話さないでくれるとありがたいのだけど」

「はぁ……それは構いませんけど。よくわかりませんが」

 

 ああ、そういえばこの時期って隊長、亡くなってることになってるんだっけ? って、隊長いいのか? こんな風に第三者にばらして。

 

「美智恵クン……」

「言わないで下さい……まさか、記憶喪失で、しかもここに住む女の子が来るなんて思うわけないじゃないですか……」

 

 なんて言う唐巣神父の呆れた言葉と、隊長の言葉。んん? 唐巣神父って隊長が生きていること知らなかったような。もしかして演技だったのか……? いやいや、でもなぁ。

 

「私そろそろ行くわね。娘が帰ってきたら厄介なことになりそうだしね」

「また外国かい?」

「そうね……せめてあのコを一目でも見たいけど……私の境遇からするとそうもいかないしね」

 

 なんて考えているうちに話が進んでいく。

 

「それじゃ、高島さんも元気でね」

「はい。美智恵さんもお元気で」

 

 そういって隊長――言い分けるのも面倒だから美智恵さんでいいか――美智恵さんは出て行った。

 出て行く美智恵さんを見送って、神父と顔を見合わせる。

 

「ああ、美智恵クンには令子ちゃんという娘さんがいてね。事情があって会うことはできないんだ」

「そう、なんですか」

「……そうだ。君もGS免許を取ってみないかい?」

「へ?」

 

 いきなり何を?

 

「君には素質がある。職業としてやっていくかは別として、資格だけでも取っておいたらどうかな、と思ってね。決して免許の取得は簡単ではないが」

「いえ、でも、名前もわからないし、身元も……」

「GS試験まであと三ヶ月ある。それまでに思い出せないようなら、私のつてで暫定的に戸籍を申請してもいい。酷な言い方だが、記憶がない状態で、しかも仕事がないとなると高島クンも今後、生活もできないだろう? 私としてはいつまでいてくれてもいいが、記憶が戻った時に先立つものがあると身の振り方も違うと思う」

 

 ん~、確かに仕事がないといつ戻れるかにしてもきついよな。戻れる方法を探さなきゃいけないし、探すにしても超常現象方面だから資格はあったほうがいいと思うし。

 

「ええ、確かに。でも、いいんですか?」

「構わないよ。本来ならGSなんて命に関わる仕事をこう易々と勧めるのもどうかと思うが、君には才能がある。美智恵クンの娘の令子ちゃんも受けるみたいだから、駄目元で受けたらどうかな?」

 

 ……美神さんが、受ける? 確か美神さんの免許取得が19……いや、数えで20だった筈。

 そん時の俺は、えーと四歳差だから、……今15ってことか? ちょっと待て、ってーことは……あのアパートにいた俺は四年前の俺ってこと? んじゃこの世界って四年前!?

 

「どうしたのかね?」

「いえ、なんでもないです。……その話、お願いしてもいいですか?」

「そうか……任せたまえ。三ヶ月、基礎からだから厳しくなるが、私も出来る限り君を鍛えよう」

「はいっ!お願いします!」

 

 そっか、四年前か……。

 ん~、とりあえず免許取る為頑張ってみるか。元の世界に戻る為の第一歩、ってね。

 

 どこか他人事のように考えながら、温くなったお茶を啜る。

 

「ところで……高島クン、君の名前なんだが……」

「ええと、すいません。まだ思い出せません」

 

 そう答えると神父は手を大きく振って俺に優しく語り掛ける。

 

「ああ、いや。そうじゃないんだ。名字だけでは不便だろうから、とりあえず仮名で決めておいたほうがいいかと思うのだけど。何かこれがいい、とかあるかい?」

「いえ……よければ神父が決めてくれませんか?」

 

 女の人の名前なんて言われても出てこない。迷惑ついでに神父に決めてもらおう。うん。

 

「私がかい? ううむ……」

 

 神父は暫く考えてから、俺を見つめてこう言った。

 

「そうだね、では『ひじり』というのはどうだろうか? 聖なるという字を書いて『聖』。この教会という神聖な場所で出会えたのも神の思し召しだろう」

 

 聖、か。俺が横島(邪)だから、真逆の意味か……。なんか複雑だなぁ。中身が俺じゃ完全に名前負けしてるだろ。

 

「どうかな?」

「……いえ、素晴らしいお名前、ありがとうございます。それじゃ、これから聖と名乗らせてもらいますね」

「ああ、気に入ってくれて良かったよ。私には女性が気に入ってくれるようなセンスなんて持ち合わせていないから、正直ドキドキしたよ」

「はは」

 

 とりあえず愛想笑いで返してしまったけど、果たして、『聖』という名前は女の人の名前としてはどうなのだろう。俺にはさっぱりその良し悪しが分からんのだが。

 ……ん~? ひじりって言葉、どっかで聞いたような……?

 

「それじゃあ私は少しばかり用があるから、聖クンはくつろいでくれて構わないよ。君も混乱しているだろうしね」

 

 神父の言葉に思考を中断させて、見送る。それだけ言うと、神父は立ち上がって応接間を出て行った。

 

 さて、『高島 聖』か。

 別に聖として生活していくのは構わないんだけど、ほんと、文殊の効果はいつ切れるんだ?

 成り行きに任せてここに住むことになったけど、いきなり男の姿に戻ったら目も当てられない。

 戻る前に、文珠を何個か併用して、女の体に一時的にしかできないだろうけど固定しておかないと。

 ……いったい、一日過ごすのにどれだけ文珠が必要になるのか……。

 

 

 とりあえず自分の体を霊視してみる。といっても、俺じゃせいぜい霊波を見るくらいしかできないから、文珠を使って『視』る。

 

 …………。…………? あれ? なんか、そこいらにいる人と変わらないんだが?

 普通、こうやって何かに成っている時って、実体と霊体に誤差が生まれたり、ブレが生じたりするんだけど実体と霊体が見事、綺麗に重なっている。

 

「…………」

 

 トイレに向かう。内側から鍵を閉める。

 ――よし。落ち着け俺。

 文珠をもいっこ出す。文字は『元』。状態を本来の状態、『元』に戻せる。以前、『戻』るにして、若返った事があるからな。

 それはともかく、『元』の文珠を飲み込んだ。

 

「…………」

 

 ……………………。一向に変化が表れない。

 

「あれ? ちょっとまて」

 

 さらにもう一個。今度の文字は『男』。

 白い煙と共に姿が変わっていく。視界が慣れ親しんだ高さに。着ている服がつんつるてんに。

 

「あー、あーあーあー」

 

 よし! 声も元通り。手で顔を触った所、元の俺の顔だ。間違いない。

 さっき発動させた『視』の文珠を手に持ち、俺の体を見下ろす。

 

「は?」

 

 実体を霊体が一回り大きく包んでいる。霊波にブレがある。

 もしかして……。

 そのまま十五分ほどトイレの便座に座って時間を潰す。その間も何か言い表せない悪い予感と、考えが巡っていた。

 

 「ぼふん」と白い煙を吐き出して姿が元に戻る。もちろん、『元に』というのは、『文珠を使う前の姿』に、という意味だ。つまり、女の体に。

 

「な、な、何故じゃあぁぁぁぁーーーー!!」

 

 

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