GS聖 極楽大作戦!   作:柚子餅

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 注目を浴びたまま測定場を後にする。

 歩くと道が勝手に開いていく。周りの受験生が勝手によけてくれているのだ。こういう注目され方って、好きじゃないんだけどなー。

 人ごみを掻き分ける必要もなく試験前に三人で座っていた席に向かうと、令子と冥子ちゃんは既に席についていた。軽く手を上げると冥子ちゃんがにっこり笑顔を、令子が眉を寄せてこちらを見ている。冥子ちゃんはともかく、令子はなんでそんな顔をしていらっしゃるのでしょーか?

 

「聖ちゃん、すごいのね~! こんなに霊波が強い人、お母様ぐらいしか私知らない~」

 

 いやいや、暴走状態のあなたはこんな物じゃないんです。天が轟き、地を砕く。風が荒れれば、人は飛ぶ。ってとこだろうか。なんて、実際木の葉のように吹き飛んだ経験者は語ってみる。

 

「んで、なんで令子はそんな渋い顔してるんスか?」

「何で、って訊きたいのはこっちよ。……冥子も聖も、あんたらどんだけ霊力あるわけ? 私だってそこらのとは比較にならないって云われるぐらいにはあるっていうのに」

 

 なんて、肩を若干落としながら答える令子。珍しいことに、どうやら自信が揺らいでいるようだ。

 ――そりゃあ、冥子ちゃんと比べたら自信も揺らぐだろう。今まで比較対象が一般の霊能力者しかいなかったんじゃそれも仕方ない。しかもその中で間違いなく令子はトップだったんだろうし。

 相手が悪いってーか、式神自体霊力を消費しまくるってーのに、十二神将はそん中でも高位。おまけにそれが十二体。六道家でもなけりゃそんなの使おうなんて思えない。はっきり言って自殺行為だ。

 

 令子と私に指導していた唐巣神父でも、常時の冥子ちゃんにさえ敵わないだろう。本気で霊波放出したのを見たことないから何とも言えないけど、神の力を借りて除霊するタイプは信仰心が重要らしいからな。ま、それでもやっぱり霊力が高い方がパワーが出るんだけど。

 

「いや、ほら。霊力量があるから有能とは限らないわけだし、そんなに気にしちゃ駄目っすよ」

「――ま、それもそうね。少ないからって除霊する上で劣っているわけじゃないし」

 

 立ち上がって腰に手を当てる令子。そのまま次の試験場に向かって歩いていく。

 余りの切り替えの早さに呆然とする私。そして冥子ちゃんが話しかけてくる。

 

「え~、そうなの~? たくさんあるに越したことはないわよ~、ってお母様が言ってたんだけど~」

「……そうなんです。お願いだからそういうことにしといてくださいね冥子ちゃん」

 

 令子が聞いてなくてよかった。……って、何で私がこんな苦労をしているんだろ。

 邪気なく微笑む冥子ちゃんを苦笑いしながら眺めつつ、誰かに問いかけていた。

 

 

 霊波測定は無事にパスしたので、次はトーナメント形式の実戦。まだ開始まであと少し、だというのに観客席には既にそこそこの人が溢れている。

 二次試験第一試合は受験者の知り合い、そしてGS事務所に所属している人物の観戦が許されている。一般の人の入場が許されるのは、二日目の第二試合からである。

 

 第一試合からGS関係者の観戦が許される理由としては、受験者をスカウトする上でその実力を見極めるためである。一次試験に合格したという時点で、一般のGSと能力的にはそれほどの大差がない証明を得たようなもの。後は実戦をこなし、経験を積むだけである。また、落ちたとしても経験、修行が足りないだけで素質自体は十分に備わっている者もいる。

 GS協会からも師事に当たるGSには新人教習手当てとして補助金が支払われるし、その上有能な助手を雇うことが出来るのだ。助手であるからGSに頼む協力除霊のような依頼料を払う必要もないし、給与もアルバイト料+歩合程度だから懐もそれほど痛まない。

 受験者には既に師事されている者もいるだろうが、より強いGSに師事するために移籍する奴もいるから声をかけることは無駄じゃない。その上、独立後は自然と『子の事務所』になるわけだから、原価に近い依頼料で協力を頼むことも出来る。

 

 その分、しっかりとした指導を行っていないと助手が独立した後、連帯責任を負わなければならないというデメリットも存在する。それでも連帯責任を負うほどの失敗を起こすのは知識のない素人ぐらいで、最低限の知識さえあれば失敗しても失うのは除霊者の命だけだ。もちろん死んでしまった場合は師事していたGSの評価に関わるし、将来のためを考えるとしっかり教育したほうが返ってくるものが大きい。

 

 受験者、合格者側からしても、本来自分から探さなければならない師が向こうからやってきてくれる上、修行する環境までついてくる。その上で無資格にして一般の仕事と比べ物にならない高額の給料も貰えるのだから、願ったり叶ったり。中には碌でもないGSもいるにはいるが、それが見極められない時点で霊能不足だろう。

 そういう訳で、青田刈りをすべく観客席から真剣に見つめるGSたちがいる訳だ。

 

 …………なんていう事実を知ったのは、私が前の世界のGS試験を受かって二年ほど経った頃である。

 私の場合はS級GSである美神令子除霊事務所に所属していたわけだから声を掛けてくるやつもいなかったけどな。

 

 

「さて、そろそろ一回戦目の発表っすよね」

「ええ……それじゃまた後でね」

「一緒にゴーストスイーパーになりましょ~」

 

 手にあるクジを見て、それぞれのコートへと歩いていく。

 

 クジに書いてある、一番コートに入る。対戦相手はもう向側に立っている。袈裟を羽織った坊主だ。レフリーの確認によると、名前は宗禅というらしい。

 

「このフィールド内では霊能力を使っていない攻撃は無効。単純な物理攻撃はノーダメージだということだ。……勝敗は戦闘不能、もしくはギブアップで決定される。無理だと思ったら迷わずギブアップすること、いいね」

 

 レフリーがルールの確認をし始めた。

 それにしても……宗禅ねぇ。聞いたことねーな。坊主だし、名前からしても仏教系か。ま、元の世界でも宗禅って名前のやつ聞いたことなかったから問題ないだろ。

 

「それでは、試合開始!」

 

 カーン、というゴングの音がする。そういや今回、厄珍堂提供じゃないのか、厄珍がいないからすごい静かである。

 

「参る!」

 

 宗禅なる坊主が錫杖を構えて一直線に駆けて来る。駆け引きも何もない、愚直に飛び込んでくる。

 あの袈裟は、走り難くないのだろうか……そんなどうでもいいことを考えてしまうほど、相手の動きは遅かった。予想していたとはいえ、拍子抜けである。

 

 ここ三ヶ月、まともに戦っていないとはいえ流石にこれにやられるようなことはない。

 そりゃそうだ。前の世界では悪霊は力を増していて、今よりも全然しぶとかったし強かった。その上、美神さんのとこでやっていた依頼は、S級の美神さんでさえ下手すると死んでしまうほどのものばかりだったんだから。その中でGS見習いである私も美神さんのサポートをし、場合によっては前衛を務めてきたのだ。

 ……あー、でも本気で死ぬかと思ったのも一回や二回じゃないからなー。よく生きてるよ、私。

 頭に浮かぶのは悪霊だけではなく、悪魔や神獣、時には神様。美神さん、怖いもの無しなんだもんな。神様に喧嘩売るし、悪魔を騙すし、悪霊を脅すし。天上天下唯我独尊を人として表すと美神さんが出てくるのではなかろーか。

 えーと、つまりなにが言いたいかというと、流石にこの時代の受験生には遅れは取らないということだ。もちろん、美神さんと冥子ちゃん、エミさんは抜かしてね。

 

 そんなことを考えながらも、霊力で覆ってある錫杖をひょいひょいと避ける。考え事をしていたから正確にはわからないけど、まだ十分も経ってない。でも、既に坊主は汗をだくだくと掻いており、明らかにペース配分を間違えている。

 

「お、おのれっ、おなごなんぞに負けるわけにはっ!」

 

 ……その一言に、むかっときた。自滅を待っていようかと思っていたけど、やめた。『高島聖』になってから特に、そういう男女差別とか嫌いなんだよ。いや、私も女の人には手を上げるとかは勘弁だけど、こいつが言ってるのはそういうのとは違う。

 っていうか、こいつ女の人がどんなに大変かを知らないから、んなこと言えるんだよな。毎月ショッキングだし、痛いし、調子悪くなるし。何かといえばじろじろと顔とか胸とか見られるし。その上視線が粘っこい。確かに見られることに優越感とか覚える人もいるだろうが、みんながみんなそういう訳じゃねぇ。その上で女性差別とか、男ども、てめえらの血は何色だぁー!

 

 ああ、それにしてもなんて浅はかだったんだ昔の俺。男に戻ったらもうジロジロと見ない。影からこっそり、わからないように見るようにしよう。……そっちの方が嫌か。嫌だな。

 

 それはともかく――思い出したら怒りが湧いてきた。私怨も混ざってる気がするが、心の奥底に淀みの様にフラストレーションが溜まっていたのは事実。こいつの一言がそれを表面化させたのもまた事実――――遠慮なしにぶっ飛ばしてやろう。

 

 すっかり大振りになった錫杖を横にステップしてかわす。右手にはハンズオブグローリーの霊波刀形態。

 

「女を舐めんなボケーーーー!! 食らえクソボーズ!!」

 

 擦れ違いざまに、背中にそれを叩き落した。地面に叩きつけられてバウンド、そのまま結界にぶつかってまた跳ねた。

 ごしゃ、っとゴミ屑のように落ちる坊主。あっけない幕切れに、観客も目を見張っている。

 

 はぁ、ちょっとすっきり。……でも、こんなまともに戦ったの、久しぶりだよなぁ。

 いっつも格上相手だったからトラップに嵌めたり、奇襲したりと碌な戦い方してなかったから。だって、ハンズオブグローリー効かないんだよ。当てても竹刀みたいな音と若干の痛みぐらい。

 大抵文珠で逃げたり、文珠で盾作ったり、文珠で霊波刀作ったり。……やっぱり出力、低いのかな。ハンズオブグローリー…………。

 

 レフリーが坊主に近寄って顔を覗き込んでいる。間から見えたのは、白目の坊主。体はずたぼろ。

 

「勝者、高島!」

 

 その声とともに周りの結界が解除された。軽く息を吐く。

 よおし、とりあえず一勝。そんでもって試験初日は無事終了、っと。

 

 

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