どうも、前世が馬だった者です。
五歳の時、唐突に閃いたかのように頭に流れた記憶によって、自分が元競走馬だと思い出した。
……あと、ついでにこの世界には馬ではなく、『ウマ娘』なる種族がいることが分かった。
別世界から受け継いだ名前と魂を持ち、『ウマ娘』としてレースを走る世界。前世で聞いたことがある。
「やぁ! 君ウマ娘だよね? じゃあ俺とレースしろよ」
「えぇー? 勝負にならないって? やる前から負けを認めんじゃねえよ………………え、違うの??」
「レース場がない? じゃ作れば良いじゃん」
「吠えろ! 俺のウマソウル!」
俺は歓喜のあまり近くのウマ娘たちに目が合う度レースを仕掛けた。
結果的に空き地を大改造してフリーレース場を作ることになったが、その所為で俺は近所で有名な変人となってしまった。
さっきも言ったが、俺は元競走馬だった。
アイツらと走った時の興奮と感動。体は変わってしまったが、まだその時の感覚がある。
前を走るアイツらを追い越すべく加速する俺の脚。
やがてゴールだけしか入らなくなった俺の瞳。
走って、走って。そして俺は勝負を終えた。
それをもう一度味わいたい……。
その為なら俺はなんだってするつもりだ。
…………………………え、勝負の結果?
……まあ、正直ボロ負けが圧倒的に多かった。
どれくらいかと言うと、俺が勝ったら関係者がボロ泣きして祭りを開くくらいには負けまくった。
お、俺って馬肉になるの?
なんて当時は廃棄処分になるんじゃないかとビクビクしてた。ドナドナされる度に脚が震えて厩務員さんにしがみ付いてたっけ。
まあ普通に考えてボロ泣きしてくれるくらい愛してくれてるし、完全に俺の勘違いだったんだけどね?
馬だったから陣営とコミュニケーションが取りづらかったんよ。唯一まともに取れたのが俺のジョッキーだけだった。
なんなら俺に言葉教えてたし。
幸か不幸か、陣営は夢に脳を焼かれた側の人間だったのもあって、レースはよく出走していた。
俺一頭に集中して注ぎ込んだ所為で、歴代でも上位の獲得賞金の割にはバッチリ赤字になってた。出来れば一攫千金の夢も魅せてやりたかったなぁ……。
レース最多出走ではないが、俺が一番長く現役を続けたんじゃないだろうか? 馬の平均寿命まで走ってたし。
細かい日数は覚えてないが、少なくとも
引退後も馬体の色とか緩い気性もあってドラマとか取材とか、なんなら馬として色んな職業を貰った。馬と言っても競走馬だけじゃない、乗馬クラブとか馬車。
忙しくしてたいってジョッキーに相談したお陰だな!
話を戻すが、ウマ娘がいる世界なら、必ず俺の知ってるアイツらだってこの世にいる。
トレセン学園に入れば世代の違いはあれど会えるハズだ。
俺は小学校の卒業が迫っていた時期、保護者に頼み込んだ。「将来はトレセン学園に入りたい!」とね。
流石に中等部から入ると費用がかかるし、高等部になってから入学しても焦る必要はないと思っていたので、高校から行きたいという旨を伝えた。
「えぇっと……と、トレーナーに就職したいって事かな?」
だが、俺はヒト息子……もとい人間だった。
「なぁんでウマ娘じゃないんだよォォ!!!」
俺は泣いた。それはもう泣きまくった。
というか何で気付かなかったんだ俺ぇ……!
ウマ娘に勝負仕掛けまくってる時とか凄い目で見られてたのに!
模試とか受けまくったのに全部『測定不可』で返ってきてたのに!
返却された封筒に『トレーナー希望の方へ』とか書かれたパンフレット入ってたのに!
俺ってば「アスリートがトレーナーになるのも良いかも!」なんて思って受けたら《歴代最年少
担任に「将来はトレーナーか! 期待してるぞ!」とか言われたのに!
ウマ娘じゃないとトレセン学園入れないやんけ!
ウマ娘じゃないとレース走れないやんけ──!
俺の馬鹿っ! あぁもう──!
こうなったらトレーナーになってやる!
──────
「────で、トレーナーになったワケ」
「素晴らしいっ……! やはり貴方は常識に縛られる男ではなかったのだな! 流石は私の殿!!」
生まれ変わり云々、幼少期の奇行もぼかして、俺は愛バである担当ウマ娘にトレーナーになった経緯を語り終えた。
俺の愛バはそんな話に感動してくれたのか、ぴょんぴょん飛び跳ねてはしゃいでいる。
契約が始まって早三年。十分に夢を掴んだ三年だった。しかし、急に俺の過去が気になったと言う愛バが、休日だってのに自宅に押し掛けてきた。もちろん追い出した。
学園のトレーナー室で二人、お茶をしながら語ったのだが……。
「よし、もう日も暮れてるし、そろそろ────」
「何を言う! もっと話に桜を咲かせようではないか!!」
「えっ?まだ聞きたいのか?」
「勿論だとも、殿! 貴方は私の半身も同然! 一生聞き入っていたい程だ!」
午前中からずっと話してばかりで、もうネタが無い。九時間くらい話してる。お腹すいた。早く帰りたい……。
「早く帰りたい」
「ヘアッ!? 何故!?」
怒声みたいな悲鳴を上げて目を白黒させてる。
しかし、すぐに冷静になると帰ろうとする俺の前に立ちはだかる。
「な、ならば殿の部屋で語ろうではないか!」
「問題だらけだ、ダメに決まってるだろバカ」
「うぬぬぬ……! 少し前まで朝帰りなど常連だろう貴方! 私も朝帰りで良いではないかー!?」
「いや遅くなると深夜徘徊で補導されるんだよ。だから学園に泊まってただけで……お前はその前に帰れって、同室の娘も心配するだろ?」
当時の俺はまだ未成年だったため、時折……稀に……大体は学園のトレーナー室で寝泊まりしていた。言葉にすると俺ってかなり図々しい事してたな……今度理事長に差し入れしよう。
と、少し考えていると愛バが俺の両手を掴み上下に振り回す。
「殿が監督者として付き添えば良いではないか! 良いではないかー!?」
「ダーッ! 夜に電話かけてやるから、それで良いだろ!?」
「……………………………………………………………………………………………………………………………………わ"か"った"」
美浦寮の寮長であるヒシアマゾンに連絡を入れ、寮の玄関口で引き取ってもらう手筈を取る。
「悪いな、いつも面倒見てもらって」
「アンタも大変だねぇ……困ったらいつでも言いに来なよ?」
「と"の"…ぉ"……」
「あーあー、もう泣くんじゃないよ。……ほら、拭きな?」
「う"ぅ"、と"の"ぉ"…………ブ────ッ!!」
「誰が鼻噛めって言ったんだい!?」
その後、とのぉ…とのぉ…。とドナドナされていった愛バを見送って、俺は呆然と呟く。
何年も前からの疑問だった。
「……なんで
俺の愛バ────ベルシナルティガ。
彼女が授かった名前は、俺の競走馬としての名前だった。
彼女との出会いは三年前。俺がサブトレーナーを卒業し、トレーナー業を本格化させた頃まで遡る。