最強になって10日で力を失った   作:✛パグだフル✛

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家族

☆☆☆

 

リッカと出会ったのは今から五年程前、レニスと暮らすようになってから一年くらいが経過した時のことだった。

 

初めの頃はレニスと二人安宿で暮らしていたが、この頃にはスラム街とはいえ自分たちの家を建てて暮らし始めていた。

そして、いつも通り生活費を稼ぐためにモンスターの討伐に出ていた。

モンスターの等級はそれほど高くない、言ってしまえば群体型モンスターの取り巻き討伐だ。

ただ、取り巻きと言え、戦闘の心得の無い人間では十分脅威となりえる。

特に、群体型のモンスターはその性質上逃げ切ることが非常に難しい。

先回りされたり、取り囲まれて食い殺されるということが多いんだ。

 

その日、俺も偶々そう言った現場に居合わせた。

馬を酷使し、急いで走る三台の荷馬車。

荷馬車の速度は人の走る速度とは比ぶべくもない程に速い。

しかし、彼らを追いかけているのは人間ではなく、二足で走る鳥類型のモンスター。

その速度は人間は愚か野生の馬ですら逃げるのが難しいと言われている。

 

実際に荷馬車の随所にはモンスターの爪や尻尾による攻撃が加えられたような破損が見られた。

 

そして、先頭の荷馬車を引いていた馬が噛み殺されたことで荷馬車は倒れた馬にぶつかりながら、横転した。

一台の荷馬車が横転したことで他の荷馬車も初めに横転した荷馬車にぶつかり連鎖的に横転していく。

 

モンスターたちは荷馬車を引いていた馬を殺し、人も殺し、食えるものを全て持って帰ろうと行商人たちに近づく。

 

そのタイミングになってようやく俺はモンスターと行商人の間に割って入ることが出来た。

 

最初に見つけた時から駆け出してはいたのだが、幾分荷馬車と距離があったため、到着するのに時間がかかってしまった。

 

俺は息を整え、鳥類型のモンスターに攻撃を仕掛ける。この際に行商人の方が狙われないように注意を払うのを忘れない。

 

鳥類型のモンスターの爪を盾で防ぎ、持っていた剣で攻撃をする。尻尾の場合はバックステップで距離をとってから、大きく踏み込み上段から斬り降ろす。

 

そして、遠距離で様子を伺っている相手には投げナイフを飛ばし牽制する。

 

時間はかかったものの俺は堅実に戦いを進め、大した手傷を追わずにモンスターを撃退した。

 

まだ生きていたモンスターが逃げて行ったのを確認した俺は剣についた血をふき取り、武器をしまう。

そして、振り返り行商人たちの安否を確認する。

 

多少の擦り傷などは視られるが、あからさまに腕がおかしな方向を向いているということはなさそうだ。

頭から血を流していたりもしない。

 

「大丈夫ですか?」

 

俺が話しかけると、行商人の一人は我に返ったようにはっと表情を引き締める。

そして立ち上がると頭を下げて来た。

 

「誠にありがとうございます。お陰で命拾いしました」

 

代表して頭を下げた商人に続き他の商人も立ち上がり頭を下げてくる。

 

「いえ、間に合ってよかったです。ただ、荷車のほうは………」

 

三台の荷車とそれを引いていた馬を助けることは出来なかった。

これでは商品を街に運ぶことは難しいだろう。

 

俺がそう思っていると商人たちは温和な笑みを浮かべ首を振るう。

 

「いえ、幸い伝書鳩は無事だったので、ここから一番近い支店のあるアザミへと連絡を入れておきます」

 

商人はそう言って荷車の中に入っていき、鳥に一枚の紙きれを括ると空へと飛ばす。

一先ずは大丈夫だろう。とはいえ、このまま放っておくことは出来ない。

せめて、町まで商人を送り届けなくては。

ここには鳥類型のモンスターの死骸が転がっている。血の匂いにつられて他のモンスターがやってくるだろう。

 

その旨を商人たちに伝えると互いに顔を合わせた後に首を左右に振る。

 

「ご厚意は嬉しいのですが、私たちは大丈夫ですので、ほら狩人様にもクエストがあるのでしょう?」

「いえ、流石に人命には代えられませんよ」

 

困っている人間を見殺しにしてまでクエストを優先させるほど金に困っているという訳でもない。

勿論、そこまで余裕がある訳ではないが、一回クエストをリタイアしたからと言って食べる物に困ったりはしない

 

それに

 

「先ほども言いましたが、あまり悠長なことは言っていられませんよ?」

 

俺は周囲を警戒しながらそう告げる。

そのタイミングでガタっと中で音がする。

 

中の商品が倒れてしまったのか?

そう思っていると、ガタッガタッと音が続く。

まるで中に生き物がいるようだった。

 

「あの…この音は」

「え、ええ、実は家畜の運搬をしていたもので」

「そうだったんですね」

 

しかし、そうなると家畜が中で下敷きになっている可能性があるな。

そう思った俺は商人たちに提案する「家畜が下敷きになっているかもしれないですし、外に出した方が良いかもですね」と。

それに対し、商人たちは顔を見合わせる。

何かおかしなことを言ってしまっただろうか?

 

「お言葉はありがたいのですが、それもアザミ支店の者と協力して行うので大丈夫ですよ」

「いえ、それは流石に…その間に家畜が死んだらことでしょう?それに何度も言っていますが、血の匂いはモンスターを引き寄せます。既に長くない場合は諦めてここから移動しないと」

 

俺は無礼な行為であるというのは承知の上で中に入っていく。

三人の商人たちは礼儀正しいが少々悠長な所がある。死んでいるのに生きていると虚偽の申告をされたらたまったものではない。

 

当時の俺はそう思って荷車に踏み入った。

だが、もしかしたらこの時には嫌な予感がしていたのかもしれない。

 

中には一人の少女が倒れていた。

体から血を流し、足枷をされた少女が。

俺は振り返る商人たちに視線を向ける。

 

「これは……何ですか?」

「……そうですねぇ。いくらで黙っていてもらえますか?」

 

商人は人好きのしそうな笑みを絶やさずに俺にそんな質問をしてくる。

そうじゃ、ないだろ?そうじゃないだろ?

 

「家畜、じゃないですよね?」

「アトレータでは5年前に奴隷制は廃止されました。ただ、たった五年前のことなんですよ?仮にそれで生計を立てていた人がいて急に別の仕事をしろと言われてはいそうですか?とはならないですよね?」

「人が人を食い物にしているのを良しとするっていうんですか?」

「社会っていうのはそう言うものなんですよ。狩人の貴方には分からないでしょうけどね。それに貴方に不利益は被らせないですよ。そうだ1000万、いや5000万パニス出しましょう」

 

理解できない。

傷だらけの少女へと視線を向ける。少女は無気力に下を向いている。

何故、十にも満たない少女がこんな目に遭わないといけないんだ。

何で、上を向いて希望を語るべき幼い子供がその瞳を淀ませているんだ。

 

「ああ、後、別に今すぐ売りに出そうってわけでは無いんですよ?今日は回復魔法を技術向上のための実技演習でして、まぁ、護衛がモンスターに殺されたせいでそれも叶わなくなりましたが……。

ですので、そんなにこの娘のことを憐れんでいただけるのであれば娘を高値で買うというのはいかがでしょうか?

まぁ、現在有力な対抗馬にとある貴族の方がおりますが…。

私の方から上に口添えしておきましょう。」

 

買う。彼らにとって子供とは何なんだろうか。何故、人を買うなんて言葉がそう簡単に、然も当たり前のように口から出てくるんだ。

まるで、怪物と会話をしているようだ。

 

 

 

いつの間にか血を拭き取った筈の剣には大量の赤い液体が付着していた。

俺はモンスターの死骸を放置し、少女に近づく。

しかし、少女は俺が近づくと後退りしてしまう。

 

怖いものを見せてしまっただろうか?

 

俺は剣に付着した液体を拭い、納刀するとその場にしゃがみ込み、少女へと話しかける。

 

「行く場所が無いのなら家に来なさい。食事と寝床くらいは用意できる。」

 

この日、俺とレニスとフォージに新たな家族が出来た。

 

荷車は放置した。元々モンスターによって破壊されていたため、敢えて残していればモンスターが壊したと誤認してくれるだろう。

 

死体も全て放置した。

血の匂いが強い方が多くのモンスターが寄ってきて、死体を食い漁ってくれるだろう。

 

 

何も問題はない。

実際にそれから3年間は平穏に過ぎていった家族もアルス、ユーリと増えて行った。

 

しかし、ここに来てリッカを取り戻そうとする者から襲撃を受けた。

 

「あ、ああ、そうか、ここまで来たら名乗っておくか。俺は魔王ポデスタ。まぁ、元魔王だがな。そうだ、俺も言いたかったことがもう一つあったんだ。

ここでリッカを助けても顔が割れた以上また襲われるリスクはある。

 

 

 

そこで、だ。

お前、俺の部下にならないか?そうすれば安寧を享受できるだけの力をやろう」

 

これからもこういった襲撃があるのなら俺は家族を守れるようにならないと。

しかし、そのため家族を戦いに巻き込むことは出来ない。

 

「レニス達は巻き込まないぞ?」

「ああ、それでいい。俺も本格的に動き出すのは十年後を予定している。それまでは俺の魂魄を探す。」

 

風で構成された鳥に乗りながらポデスタはそう告げる。

それに従い俺も前を向く。

先ずはリッカを助け出す。

 

全てはそれからだ。

 

「これからよろしくな。魔王様」

「ああ、よろしく。お前のような自分の信念の為に手段を選ばない人間こそ俺の部下には相応しい」

 

前を向いていたから、ポデスタの表情を見ることは出来なかったが、何となくその声音から笑っているように感じた。

 

ポデスタが何を目的にしているのかは知らないし、興味もない。

どうやら、ポデスタのいう様に俺は目的のために手段を選ばない人間だったようだ。

それでも、だからこそ、リッカを助け出さなければ。

 

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