最強になって10日で力を失った 作:✛パグだフル✛
☆☆☆
深い森の中、一部だけ不自然に木の生えていない場所があった。
元々巨大モンスターの巣でもあったのだろうか?俺たちはそこに降り立つ。
何故ならこの場所にリッカの反応があるからだ。ただ、どうやら俺たちが追い付いたというよりも俺達が追跡していることに気づいた誘拐犯が態々足を止めたみたいだ。
つまりは向こうもこちらが接触すること承知で臨戦態勢とって待ち受けていた、ということだ。
油断ならない。
まあ、油断していようがしていまいが敵の実力は【
笑えない事実だ。
ただ俺は魔王になる前、四天王になる更に前、斥候兼ゲリラ部隊として働かされていた過去を持つ。
格上との戦い、多勢に無勢での戦いは十八番中の十八番、格上であるということが負ける理由にはならない。
とは言え、普通に戦えば勝てない程に実力が離れているが故の格上だ。例え俺がどれだけ修羅場を潜ろうとその実力が覆ることはない。だからこそ俺はファミルに奇策としてあるものを渡している。
勿論これで百パーセント勝てるようになった訳じゃない。もし、この案が上手くいかなかったらその時は更なる賭けになるが、もう一つの奥の手を切るしかない。
あまり使いたくない手だが、何もせずに負けるよりはいいだろう。
俺は視界に捉えた誘拐犯を睨みつけながら覚悟を決める。
どうやら、リッカは茂みの中に放置されているようだ。戦闘の邪魔になるからだろう。
敵意を向ける俺たちを見た誘拐犯はため息を吐き、こちらに呆れた目を向ける。
「一体いつまでついてくるきだい?こちらは無くした資産を取り返しにきただけなんだけどなぁ」
「そうか、だが俺も家族を取り返しに来ただけだ。」
誘拐犯の言い分に対し、ファミルも自分の言い分をぶつける。
このまま行けば平行線、戦いは避けられない。
因みに誘拐犯の容姿は無精ひげに整えられていない茶色の髪の毛。
あまり強そうには見えない。だが、こういった奴の方が厄介だ。自分の限界を知っているため無理をせず、準備も怠らない。
勝てるように準備を整えてから挑んでくる。
「ふ~む、それじゃあ、仕方ない。悪く思わないでくれよ?私も君たちを殺したいなんて微塵も思っちゃいないんだからね?」
誘拐犯はそう言って腰に差していた剣を抜き、背負っていた盾を構えた。
それに対し、ファミルも剣と盾を構える。
ファミルと同じタイプの剣士か。
この世界には大剣や太刀、双剣、刀など剣士といっても様々なタイプがいるが、一番安定して実力を発揮できるのは剣と盾を構えるスタイルだろう。
欠点としては一撃の攻撃力が低いことが挙げられるため、上昇志向のある狩人からはあまり好まれるタイプではないが、堅実で崩しがたいことから安定を求める騎士や兵士には人気が高い。
本来ならいつどんなアクシデントに見舞われるか分からない狩人ほど盾を持った方が良いと思うんだが、太刀や大剣などの方が人気は高い、
俺がそんなことを考えたのも束の間、誘拐犯とファミルは同時に踏み込む。
速度は誘拐犯の方が速いが、ファミルも十分対応できている。
ファミルは誘拐犯が振るう剣を盾で弾くと、そのまま自分の剣を誘拐犯に振るう。
しかし、誘拐犯もまた盾でファミルの剣を弾く。二人は示し合わせたように、お互いに距離を取る。
それに対し、俺はすかさず魔法を行使する。
「【
七天魔法火属魔法【
そして、命を与えられた【土多蛇】は誘拐犯を拘束しようと自らの体躯を誘拐犯に絡ませた。
戦いはこちらの優位に進んでいる。
誘拐犯もただされるがままになっているわけでは無く、剣や盾で迫りくる蛇を退けようとしているが30匹はいる蛇を二本の腕で振り払うことは出来なかった。
また、ファミルもその隙に斬撃を飛ばし、男に追撃をかける。蛇に気を取られている今なら倒せるのでは?そんな予感と共に放たれた斬撃は誘拐犯の魔法で呆気なく打ち消される。
「【
七天魔法木属魔法【
体を欠損させながら宙を舞う蛇には既に命が宿っておらず粉々の土塊に戻ってしまう。
宙で蛇が土塊に戻ったことと誘拐犯の魔法によって立ち昇る土煙は互いの視界を悪くする。
しかし、互いに相手の場所が分かっているのか、視線はしっかりと倒すべき敵を向いている。
膠着する空気。しかし、彼らの間ではどう攻めるか、どう攻めて来るか、そんな駆け引きが行われている。そんな中先に動き出したのは俺だった。
男目掛けて空から飛来する火の塊。
否、火の鳥が男に向かって急降下する。
これは【風鳥】と【火玉】の合わせ技、差し詰め【風火鳥】とでも言うべき技だ。
風に煽られ火力を上げた火によって敵を焼き尽くすという至ってシンプルな技だが、とどめの一撃と言うのはシンプルであればあるほど良いと思っている。
そちらの方が攻撃を凌がれたか、それとも仕留めきれたかがはっきりとわかるからだ。
今回も直ぐに結果が分かった。
残念ながら結果自体は【
ただ、俺達もただぼうっと突っ立っていたわけじゃない。
俺は攻撃を凌いだ男へと【
武器は残念ながら、【
それに、
「【
【土剣】の刀身を蛇へと変える。男は突然間合いと軌道が大きく変わったことで対応が遅れる。
これこそが【土剣】の最大の利点。
【
初見で対応できるのなんてそれこそ勇者かそれに匹敵する英雄級くらいのものだろう。
誘拐犯も蛇に体を拘束され、そのまま力いっぱい投げられる。
誘拐犯は空中で【
完璧なタイミングでの攻撃、並みの敵であればこれで倒せると思うのだが、残念ながら誘拐犯は【
ファミルの攻撃を凌いだ誘拐犯は一度距離を取ろうとバックステップで後ろに下がるが、ファミルは更なる追撃とばかりに、今度は盾を突き出す。
しかし、攻撃を弾かれたばかりのファミルのシールドバッシュはお世辞にも威力があるようには見えず、実際同じく万全とは言い難い態勢、しかも剣の鍔で受けた誘拐犯に大した痛痒も与えられてはいなかった。
ただ、それで良い。男は既に剣と盾どちらも直ぐには十全に扱えない状態になった。
それはファミルも同じだが、ファミルの袖に潜み隠れていたそいつは違う。
俺が渡したもの、ファミルの袖から【土蛇】が姿を現し、誘拐犯へと迫る。
誘拐犯は即座に術式を組み魔法を発動しようとする。そう、誘拐犯には剣と盾の他に、魔法もある。そんなのは分かっている。
「魔力を止めろ、じゃなきゃ死ぬぞ?」
言霊術を使用し、相手の動きを止める。
なまじ、練度の高い戦士だったがために聞こえなくても良い声が聞こえてしまう。そして、説得力を上げるという言霊術の能力により、一瞬だが魔法の発動を遅らせる。
俺はその間に【
誘拐犯もこの多段攻撃全てに対応をするこは出来ず、ファミルの袖から出て来た【土蛇】に噛まれる。
因みにあの土蛇の牙には人体にとって毒素となるチタン、リン、マンガン、水銀、カドミウム、ヒ素が含まれており、牙から噛みついた敵の血液へ流れるようにしている。
何故、適当なのかと言うと、【
…後はまぁ、俺は毒の専門家では無いからそこまで毒には詳しくない。
しかし、そんな苦労も虚しく、男は直ぐに服の内側に手を伸ばすと瓶を取り出し、その中に入っていた液体を飲み干す。
恐らくは毒消しだろう。
持っているとは思っていた。
俺は男が毒消しを飲んでいる間に魔法を発動する。
「【
【
否、部品の姿をした使い魔たち。
そして、その後にエネルギーとなる【
毒はあくまでも隙を作るための囮、本命はこの巨人だ。
体の排出口から煙を吹き出しながら、巨人は鷹揚に立ち上がる。
【
実力も英雄候補に届かないが向こうからしても無視できない程度はあるだろう。
巨人は腕から突き出たボイラーから煙を吹き出しながら腕を引き絞り、バリスタのように溜めていた力を解放する。
誘拐犯は咄嗟に【
更に巨人の背中のマフラーからも煙が噴き出ると同時巨人は走り出し誘拐犯との距離を詰める。
その速度は鈍重そうな見た目とは裏腹に非常に俊敏だ。
巨人がこの速度を維持できている要因は三つ。
一つは巨人の体となっている足や腕の使い魔たちが頑張って体を動かしていること。
二つ目は巨人の中にある蒸気機関の使い魔たちが頑張っていること。
そして三つめは巨人の足の裏にある無数の小さな穴、そこから地面と足が面する際に大量の水蒸気を瞬間的に噴きだすことで通常の走行とは比較にならない速さを生み出している。
そして、速さと重さが備わっているのなら最早それ自体が武器となる。
「そのまま轢き殺せ!土塊の巨人!」
この状況を切り抜けるには相手は【
しかし、当然高度な魔法程使用は困難を伴い、発動には時間と集中力が必要になる。
奇襲なら兎も角、一秒でも判断を間違えれば致命傷を受けかねない状況で発動するのは困難だろう。
恐らく俺の考えは正しかったのだろう。
少なくともあのまま何も無ければ俺は誘拐犯を倒せていた。
しかし、土塊の巨人が迫る中男は丸薬のようなものを取り出し、口に含む。それと同時に奴の纏う魔力の質と量、そして流れが変わる。
濁流のような荒々しい魔力が男から噴き出す。それでいてその魔力はまるで凪いだ海のように静かで緩やかに清らかに流れているのか疑わしく感じる程程均一に流れていた。
矛盾する筈のそれらの事象が目の前で確かに行われていることに脳が混乱しそうになるが、魂は直ぐに結論を出す。
奴が口にしたのは間違いなく希少素材を使った魔法薬だ。
効果は魔力の増強と魔力操作技術の向上。
それでいてあんな魔力を体の内から放出しているとなると長くは戦えないだろう。
短期決戦で勝負を決めようとしている。
「【
男が巨人に剣を向けそう呟くと剣を中心に巨大な竜巻が発生し巨人を吹き飛ばす。
巨人とは言っても大きさはせいぜい5メートル程度竜巻が来れば吹き飛ばされてしまう。
しかも、ボディにガタが来ており、宿っていた使い魔ももう消滅してしまっていた。
「君たちあんまり私の邪魔をしないで欲しいんだけど…。なんなら見逃してくれれば私も君たちの前に二度と姿を見せないと約束するよ?」
誘拐犯は眉尻を下げてこちらに交渉を持ちかける。
巨人が倒され、向こうはドーピングで能力を底上げしている。
倒そうと思えば倒せる状況で交渉を仕掛けてきている。確かに向こうに抗戦の石は無いのかもしれない。
だが、
「さっきも言ったが、リッカは家族だ。必ず返してもらう」
ファミルはそう言うと剣と盾を構える。
そう、ファミルはリッカを取り戻すまで諦めないだろう。
ならばファミルには悪いが虎の子を切らせてもらおう。
俺は空を旋回する巨人の腕に命令を下す。
この腕は先程巨人が【
この腕に左右から襲わせる。
それだけじゃない、背後からはファミルを乗せていた【土車】を嗾ける。
後は
「ファミル俺を信じて前から突っ込め。」
ファミルはその言葉にコクリと頷くと走り出す。
腕と【土車】そしてファミルはこのまま行けばほぼ同時に誘拐犯の下へ着く。
しかし、誘拐犯が焦ることは無い。
そして、誘拐犯の半径五メートルまで接敵した段階で誘拐犯の魔力の流れに変化が現れる。
【竜巻】を発動するつもりだろう。
俺はその段階になってようやく【
対象は俺、ではなくファミルだ。
それもファミルの前でなく足元、ブロックが抜き出されるようにそこだけ突き出てファミルを前に飛ばす。
また、並行して【言霊術】も発動する。
「ファミル!全力でいけ!」
人は自分の力で体を壊さないように無意識にリミッターをかけている俺はそれを意図的に外させたのだ。
ファミルの動きが良くなり、突きでる地面を踏みしめて加速する。
「ッ⁉」
誘拐犯はここで初めて動揺を見せた。
そして、少し遅れて【
【竜巻】は誘拐犯を中心に発動されており、両腕と【土車】を吹き飛ばす。
しかし、ファミルだけは【
蒸気機関とかエンジンとかってなんかロマンありますよね。