最強になって10日で力を失った   作:✛パグだフル✛

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1から始める魔王軍‼

ランプ一つなく、月の光だけがその場を照らす薄暗い居城、冷気すら感じる無機質さを持ったその場所、その最奥の謁見の間に一人の男が座していた。

男は玉座のひじ掛けに腕を置き、目を瞑ったまま足を組む。

その場には数十に及ぶ臣……などいない。

玉座に腰かける男と、その傍らに付き従う様に侍っている老齢の執事。

 

どれだけの間そうしていたのか、時計すらないその場所で正確な時間など分かりようがないが、月の光は向きを変え、男を照らし出していた。

男はその光を受けてか、はたまた別の理由によるものか…切れ長の瞳をゆっくりと開けていく。

 

この場には執事と男だけ、ならばその瞳は執事に向けられるのが道理。

 

しかし、開眼した瞳は執事を捉えることはせず、謁見の間、その扉だけを静かに睨みつけていた。

時が止まったかのような静寂に包まれた謁見の間。肌を刺す冷たい空気も合わさり、絵画の中に入ってしまったかのような得も言われぬ神秘性を宿していた。

 

その、不可侵に思える空気を破ったのは隣に侍る執事。

 

「魔王様…」

 

執事は玉座に座る男に声をかける。

その言葉の裏に何があるのか、どういった意図で発した言葉なのか、それは執事のみぞ知るのだろう。

しかし、魔王と呼ばれた男は自分なりにその言葉の真意を汲み取り、言葉を紡ぐ。

 

「分かっているさ。私は魔王だ。ならばその責務は果たそう。()()()()()()()()()()()()()()()()。」

 

魔王は安心させるように笑いかける。

それを、見た執事は安心したように息を吐きだすと魔王に一礼する。

一秒、二秒、一分、中々頭を上げない執事に魔王は呆れたような表情を浮かべ、顔を上げさせる。

 

ようやく顔を上げた執事は、まだ何かを言いたそうな、有り体に言えば名残惜しそうな顔して、それでもと頭を振り、再度頭を下げた。

 

「……今まで私を隣に置いてくださり、ありがとうございました」

「……()()()()()()()

 

執事は頭を下げていたため男の表情を見ることが出来なかったが、不思議とその言葉は真実のように感じた。

 

執事は頭を上げると「では」と言い、その場を後にした。

 

取り残された男は執事のいた場所に目を向けることはせずに扉だけを睨みつける。

まるで誰かを待っているかのようだった。

 

否、待っていたのだ。

体感では執事が去り、幾ばくかしたころ、謁見の間の扉が開かれる。

しかし、その開け方には居城の主を訪ねる客人が持つ敬意は一片たりともなく、むしろ、ドアが壊れるのではないかという程に余剰に力が込められていた。

 

男はその扉から現れる存在に目を向ける。

扉から現れた存在。

彼らはあろうことか居城の主である魔王へと剣を突き立てた。

否、魔王という名について少なからず知っている人間にとっては不可解なことでは無いだろう。

人類の敵にして分かり合うことが出来ない侵略者。

多くの人間はそう考えているし、そこに間違いはない。

魔王と人間が分かり合うことなど未来永劫叶わない、魔族は人間国家を襲い続けるだろう。

 

そして、そんな脅威に立ち上がる勇敢な者、打ち砕く力を持った者、そう言った人間に神は自らの力の一部を託す。

神の光(アインソフ)】、魔族への特攻能力、魔法への干渉能力、神の光(アインソフ)を与えられたものの肉体の強化、魔法公使能力の底上げを可能とする特級の異能。

 

しかし、その力を得ても魔王討伐は容易ではない。

魔王は魔王となってから勇者が現れるまでの間に討ち果たされた先代の魔王の魔法能力の一部を譲渡されるという。

現魔王もまた()()()()に力の継承を済ませている。

まさに鬼に金棒。

 

勇者と魔王の戦いは常に熾烈を極めてきた。

今回も厳しい戦いが予想された。

然れど人類が破れたことはなく、苛烈な侵略者は常に勇敢な若人に討ち果たされてきた。

 

魔王もそのことは重々承知。

この戦いは勝つことが厳しい戦いであると冷静な頭が結論を出している。

それでも、魔王は臆することなく立ち上がると不届きな侵入者に声をかける。

まるで、自分こそが強者であり、相手が挑戦者であるという様に。

 

「ようこそ、我が魔王城へ‼それにしても随分大所帯で来たものだ。」

 

魔王は侵入者を睨みながら、冷たい視線と呆れを交えた声音で小さく零す。

数にして9人。

どの時代も勇者が一人で行動することは珍しく、仲間を連れているものだが、この数は些か多いように感じた。

歴史を遡っても通常4,5人で動いており、勇者歴において最多の人数だろう。

 

だが、それがどうした?

魔王は心中でそう呟く。

 

魔眼使い、回復魔法士、歌姫、天才スナイパー、錬金術師、英才教育を受けた二刀流の剣士、大剣使いに、先々代の勇者の子孫、白狼の因子を混ぜられた少女。

 

成程、良くもまぁこれ程の実力ある英傑を集められたものだ、魔王もその一点には感心していた。

 

魔王もまた勇者候補になるだろうとマークしていた英傑たちだ。

しかし、あくまでも勇者は一人。

それ以外を倒すことは別段難しくもない。

強いて言えば魔眼使いであればこちらを殺すことが出来るだろうか?

だが、それだけだ。

恐らく自分と勇者との戦いで何人かは巻き添えを喰らうだろう。

 

故に警告する。

 

「どれだけ凡夫を集めた所で意味は無い。命が惜しいのであればここで引き返すことを推奨しよう。勿論勇者は別だ。」

 

そこには慈悲の心があった。

意味のない死を選ぶ必要は無いと。

 

しかし、帰って来たのは予想外の言葉だった。

 

「ならば無理だな。……何故なら俺たち9人は全員勇者だからだ‼」

 

魔王はその言葉を聞き、再度数を数えた。

魔眼使い、回復魔法士、歌姫、天才スナイパー、錬金術師、英才教育を受けた二刀流の剣士、大剣使いに、先々代の勇者の子孫、白狼の因子を混ぜられた少女。

 

九人いる。

そうして、暫しの間黙り込む。

流石にそう来るとは思っていなかったと

 

「……これは流石に予想外だな」

 

思わず口から素直な感想が漏れる

ただ、彼は魔王だ。

勇者の数が例年よりも少し多いからと臆したりはしない。

不敵な笑みを浮かべ、勇者に手を翳す。

 

「さぁ、始めようか」

 

勇者たちもまた大多数が表情を引き締める。

中には肉食獣のような笑みを浮かべ

 

「9対1で大丈夫か?魔王サマ?」

 

と煽る者もいたが、魔王はそれに対して無機質な声で返す。

 

「安心しろ1対9じゃない。」

 

そう言うと魔王城の一部が崩落し、白い火の玉、赤雷の蛇、合金の巨人、冷気を纏った熊が現れる。

そうして、彼らを侍らせながら告げる。

 

「5対9だ」

「どっちにしろ、おめぇの方が少ねぇじゃねぇか‼」

 

先程煽った男が突っ込みを入れるが魔王は我関せず、英才教育を受けた二刀流の勇者が他の勇者たちに「皆気をしめろ。行くぞ!」と声をかけ、戦いの火蓋は切って落とされたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

それから、何時間にも及ぶ戦いの末、勇者たちは勝利を収めた。

勇者たちは五体満足であるとは言え、満身創痍。

しかし、魔王の周りには使い魔はおらず、本人も動けない程の重傷を負っていた。

 

完全に勝負は決した。

 

「…はっ!手こずらせやがって、とは言え、使い魔にも逃げられるとはお前も気の毒だなぁ。ええ?」

 

戦う前、魔王を煽った男、大剣使いはそう言いながら再度魔王を挑発する。いや、戦えないものに向けているため、これはもう挑発でも何でもなく只々魔王を小馬鹿にしているだけなのだろう。

 

それに対し、魔王は返事を返すことはせずに只々義務的に勇者たちに言葉をかける。

 

()()()()()()()()()()。だが、魔王はまた現れる。その時はどうする?」

 

魔王の問いの答えなど当に決まっている。歴史が証明している。もはや、考える必要性すらない。

 

「そしたら、その時は50年後の勇者が魔王を打ち倒すだけだ‼」

 

二刀流の勇者はそう言うと魔王の首を斬り落とした。

 

☆☆☆

 

戦いは終わった。終わったのだ。

 

俺はカプセルを開けて伸びをする。長い戦いだった。

というか、使い魔込みとはいえ随分と持ちこたえたものだ。

自分のことながら感心する。

 

俺は自分の体の調子を確かめる。

その場で足踏みをしたり、手を伸ばしグーパーと開けて開いてを繰り返してみたり。

幼い体ではあるが悪くない。

 

そう思っていると背後から俺に話しかける者がいた。

 

「どうやら、上手くいったようだね。誰にもこのことはばれてないのかい?」

 

俺は振り返り、話しかけてきた魔族、白い髪に、色素を感じさせない白い瞳の男に笑顔を向け、悠々と頷く。

 

「ああ、バソルと勇者たちは【言霊術(リンガ)】で思考を誘導しているし、何よりも【分割魂(ディヴィデ)】を使って魂の外殻は散り散りに飛ばして使い魔に宿らせている。

俺は魂の中核だけこの体に宿らせている状態だ。

まぁ、元々【仮魂(アニマ)】をこの体に宿らせているから、それを外殻の代わりとして纏っているがな。

後……」

 

そこまで、言って随分と自分が饒舌になっていることに気が付く。

しまった、魔王という絶対の責務から逃れられた解放感で、口の滑りが良くなっている。

全く、気を付けなければ。

 

「上手くいっているのなら良いよ。」

 

男は俺が如何にして魔王という座を生きたまま返上したかなど興味が無いようにそっけなく返す。

それもそうか、こいつは魔族の中では異端な七天魔法外典の一つ、天翔魔法を研究している変わり者の魔族だ。

 

因みに七天魔法外典とは、この世界に元々存在したとされる通常の七天魔法とは違い、人間等が後から作り出した新たな魔法体系、別名七天魔法新第5律法という名称も付けられている魔法のことだ。

 

魔族に嫌厭される魔法を自分から進んで学んでいるの等、こいつと俺くらいなものだろう。

実際、魔王の際に他にいないか探してみたが、やはりいなかった。

 

しかも、この変わり者は魔族の国ではなく、人間国家の一つアトレータ武帝国に居を構えている。

一応、60年程前は魔族側でアトレータを支援していたこともあったが、それも一時的な話。

今のアトレータに居続けるのは何かと危険なような気もするが、本人は住まいを移す気は無いらしい。

俺にとってはそれが功を奏したが……。

 

 

「これからのことは決めているのかい?」

 

そんな変わり者の男が俺に質問を投げかけてくる。

とは言っても、特に興味がある訳ではないようで、あくまで雑談のネタとして聞いてきただけという素っ気なさがそこにはあった。

 

俺としても、変に重い空気で話されても変に警戒してしまうし、このくらいの方がありがたいと言えばありがたいが。

 

「ああ、取り敢えず、仲間を集めようと思っている。人間の、な」

 

だから、最初に目覚めた場所が人間国家だったのは俺にとっては非常に都合が良かった。

男は俺に大した興味を見せず一言「頑張って」とだけ告げるとそのまま部屋の片隅に置かれているデスクに腰かけ作業を始めてしまった。

 

元々、付き合いが長い訳ではない。

ただ、こいつがあれらの手先でないことは分かっていたので、肉体を用意してもらえるように秘密裏に取引を持ち掛けた、それだけの関係だ。

 

俺も感謝の言葉だけ伝え、外に出ていく。

外は鬱蒼とした森の中で、日の光すらまともに入らない。

元々魔族は火山地帯に住んでおり、周りの環境による精神的な負荷が生じづらい生態をしているが、もっとましな場所は無かったのかと苦言を呈したくなる。

それくらいその場所は生きていく上では劣悪な環境だった。気が滅入る。

 

まあいい、俺は直ぐに【操土(フムス)】と【仮魂(アニマ)】を使い、使い魔を生み出す。

使い魔の形状は車、子供の姿となった俺を乗せるには十分な広さを持つ荷車のような作りをした使い魔だ。

 

俺が乗りこむと使い魔はタイヤを動かし、独りでに進んでいく。

目指すはアトレータの中で辺境の一つに挙げられるコンクルス。

俺がそこに行く理由は一つ、そこには俺に匹敵するほどの才能を持った一人の少女がいるのだ。

上手いことスカウト出来れば心強い味方になってくれるだろう。

 

☆☆☆

 

大きなデスク、豪奢なソファー、幾何学的な模様の入ったウッドチェア、新雪のように柔らかい絨毯。

そんな貴族の執務室の様な部屋では一人の少女が黙々と書類仕事を行っていた。

少女の年齢は10歳前後、決してこんな立派な部屋を与えられ、重要な仕事を割り振られる役職につくようには見えないが、実際に彼女はこの部屋の主、いや、この組織の主であった。

 

そして、そんな少女の執務室の扉が何者かに叩かれる。

 

「頭ぁ、貴方にようのある客だそうでさぁ」

 

少女は今日の予定を確認し、アポイントメントが無い飛び込みの客であると察する。

余りこういうことが好きではない彼女は舌打ちを隠そうともしない。

 

だが、客というからには儲け話の可能性もある。部屋に入れるように部下に伝える。

すると、中に恰幅のいい中年の男が入って来た。

 

男は媚びへつらうように少女に頭を下げる。

 

「お時間を下さりありがとうございます。実はうちの商品にご興味を持ってもらえるのではないかと馳せ参じた次第です。」

 

中年男は体を出来るだけ小さくし、手を揉みながら少女に自分の商会の商品を売り込む。

それを眺めながら少女は思案する。

態々うちのようなアウトローな組織に売り込むのだから、まともな商品ではないだろう。

しかし、そう言った所からの商品でも有用なものは存在する。

一つは武器、もう一つは中央森林で取れる資源。それにリベルタスからの鉱石などもそれにあたるだろう。

 

しかし、男の提示したものはそのどれでも無かった。

 

「奴隷にございます。私たちの方で調教は済ませていますので主には逆らいません。

奴隷の中には手先の器用なものから戦闘用まで幅広く揃えておりますよ。」

 

少女はその言葉を受け、落胆の吐息と共に言葉を紡ぐ。

少女にとって、もうこの男には何の価値も無くなっていた。

路傍の石、という表現が正しい。少女にとっては。

 

「帰れ」

 

たった一言それだけ。

端的に必要なことを伝えた。

されど、商人は食い下がる。

一度自分の所の商品を見て欲しいと、気が変わるかもしれないと、媚びへつらう態度を変えることなく根気強く粘っていた。

 

これが、普通の裏組織であれば、もう少し聞く耳を持ったかもしれない。

彼女に人間性というものが備わっていればこれから起こる惨事は起こらなかったかもしれない。

 

ただ、そんなもしもに意味など無い。

 

「くどいぞ?」

 

その言葉と共に一筋の光が商人の貌を貫く。

そして、光が通り抜けた場所には肉は無くなり向こう側が見える綺麗なトンネルが出来た。

少女は自らの商品をアピールする商人を一撃の下に葬ったのだ。

 

流石にこの行動には部下も驚く。

「い、良いんですかい?頭」

 

会ったばかりの商人を殺すという暴挙。恨まれて報復されるのではという懸念。

それを口にする部下は正しく、冷静な判断が出来ていると言えるだろう。

ただ、それは弱者の考え方。

少女には微塵も関係が無い。

 

「何、どうせ、奴隷などという非合法な商品を扱っているような奴だ。大した力など持っていないさ。

そもそも、この私に勝てる奴が一体この世界に何人いるんだ?」

 

日陰を歩く部下とは違い、日陰に自ら足を運びながらも堂々と日向に顔を出す豪胆さ、それが許されるだけの強さが彼女にはあった。

齢四歳でこの都市を牛耳る裏社会の帝王になった少女はそう言って不敵に笑うのだった。

 

 

 




魔法紹介

【言霊術】 
七天魔法外典魂魄魔法の一つ。月属魔法【ルナ・マギア】自分の言葉に説得力を持たせる魔法。魔法の技量と対象から持たれている印象、言葉選びによっては格上にも通用する

【仮魂】 
七天魔法外典魂魄魔法の一つ。木属魔法【ユピテル・マギア】。仮の魂を生み出し、自らの魔法に宿すことが出来る。他人の魔法や物質には宿せないが、自らの肉体に宿すことなら可能。


【分割魂】 
七天魔法外典魂魄魔法の一つ。土属魔法【サトゥルヌス・マギア】自らの魂を分割することが可能になる魔法。自らで生み出した仮魂の分割なども可能。

【操土】  
七天魔法の一つ。火属魔法【マルス・マギア】土を操ることができる魔法。

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