最強になって10日で力を失った 作:✛パグだフル✛
☆☆☆
ガタガタと舗装されていない道を4輪の荷車は独りでに走り抜けていく。
この荷車、林や田畑などの景色が次々と後ろに過ぎ去っていく程に速く、時速にして優に70キロは出ていた。
これ程の速さで走行していれば当然積荷もそれ相応に揺れる。
しかも、この荷車にはゴムのタイヤやサスペンションなどの衝撃を吸収する機構がついていないため、積み荷を襲う衝撃は推して知るべしだろう。
「と、とまれぇぇぇぇぇ‼」
積荷の情けない声。
否、正確には荷車に乗る少年の情けない声が辺り一面に響く。
少年は口に手を抑えながら、胸から込み上げてくるものを吐き出す。
勿論、熱い告白などではない。
もし、そうであれば大地に宿る精霊の祝福を受けられた可能性も微粒子レベルで存在していたが、残念ながら、彼が吐き出したのは魚とパンとリンゴと酸を袋に入れてシェイクした廃棄物。
言葉を選ばずに言うのであれば吐瀉物を母なる大地にぶちまけたのである。
街中であれば白い目で見られる可能性もあるが、幸いここに人の目はない。
慈愛に満ちた大地の精霊が人知れず土へと返してくれるだろう。
少年は口を拭い、七天魔法【
「まったく、もう少し乗り手のことを気にしてくれ。」
嘆息しながら、少年は無機物である筈の荷車に話しかける。
第三者がここに居れば世にも奇妙なものを見たという表情をしたであろうが、先ほど述べた通りここには人の目はない。
少年の奇行に注目するものはいないのだ。
そして、まるで少年の言葉に答えるようにその場で跳んで見せた荷車にもまた注目は集まらない。
「分かってくれたならいいんだ」
少年は荷車の行動を肯定と取り、車体を優しく撫でる。
そして、「進んでくれ」と言う少年の声に呼応し、再度のどかな雰囲気のある農村を突っ切っていくのだった。
120キロは出ているであろう猛スピードで
☆☆☆
き、気持ち、気持ち悪い。
立っているのもやっとだ。
まさか、使い魔が俺の話を反対に受け取ってくるとは。
う、うぐ…………ぼぉえぇぇぇっぇぇぇぇぇ
「【
俺は少量の魔法を生み出し、口を濯ぐ。
少し前も全く同じようなことをした気がする。
違う点と言えば、本気で振り落とされそうになっていたので、必死に荷台のあおりの部分に捕まっていたため、手が真っ赤になっているというくらいだろう。
振り落とされなくて本当に良かった。
ただ、大変な目に遭った代わりと言っては何だが予定より早く目的地に着くことが出来た。
コンクルスは辺境の都市ではあるが、モンスターや魔族、何よりも他国との戦争に備えた城塞都市のため、食料や武具、武具に使うモンスターの素材の売買が盛んに行われており非常に活気に満ちている。また、入り口には立派な城門と怪しい人間を弾くための門番が立っている。
当然、独りでに動く荷車を連れた子供など普通の方法では入れるはずがない。
俺は………………ちょっとまた吐きそう。
人目の少ない所で俺は腹の中のものをすべて吐き出す。
そして、再度、【
荷車も心配そうにこちらに寄り添う。
「大丈夫だ。お前が俺の期待に応えようとしてくれたことは分かっているから」
安心させるように荷車を撫でると荷車は嬉しそうに俺の周りを回り始める。
なんて可愛い荷車なんだ。
顔とかつけようかな?
それはさておき、城門前で列をなす行商人の一人に声をかける。
出来るだけ人当たりが良さそうでそれでいてお堅くない。
柔軟な思考をしていそうな商人に、だ。
「
俺は出来るだけ他の行商人に注目されないようにあたかも初めから家族で会ったかのような自然な動作で目当ての商人に近づき周りには聞こえない音量で声をかけた。
俺が声を出すまで商人は特に警戒することなく、俺を受け入れていた。
差し詰め、俺を他所の商人の息子か何かと勘違いしていたのだろう。
意外と良くいるのだ。
暇な待ち時間に親の目の届くところで遊ぶ子供は。
俺もまたそう言った子供の一人。興味を持ち自分に話しかけた、そう思っていた所に尋常ではない話を持ち掛けてきたのだ。
男の警戒は一気に最大値まで上がり、衛兵を呼ぶだろう。
普通ならば
俺は男が大きく息を吸う前に次の言葉をかける
「
俺の言葉に男は確かに、と思ったことだろう。
平常時なら兎も角、【
こんな馬鹿馬鹿しい言葉に真面目に思案してしまう。
ただ、恐らくだが、これだけでは足りない。
実際、男は難しい顔をしている。
そして案の定、俺の耳元に口を持っていき、予想通りの言葉を告げる。
「……確かに、出来るかもしれないが……そりゃ俺に旨味が無いだろう?」
そう、この話には旨味が無い。
だからこそ、あと一歩男の心を動かせない。
リスクを背負わせるにはリターンを与えなくてはいけない。
交渉の初歩の初歩。
当然、リターンも用意している。
「
俺はそう言って男に紫色の水晶を渡す。
紫色の水晶は内側に黄金色の輝きを宿しており、魔法的素養が無くてもこの水晶が只の水晶ではないと気づくだろう。
この水晶、正式には聖魔水晶と言い多量に魔力を含んでいる。
では具体的に何に使うのかというと、魔法具の動力源や、魔法弾への加工だ。
因みに俺が渡した水晶のサイズは成人男性の手のひら程あり、これだけあれば、辺境の地であれば屋敷を構えることも夢ではない。
当然出所不明な聖魔水晶など普通は受け取ることはしないだろう。
面倒ごとの臭いしかしない。
だが、俺の【
「……成程、分かった。俺の荷車に乗っていけ」
荷車を指さし、男は快く俺を受け入れてくれた。
俺は周りに怪しまれないように、初めは男と仲睦まじく会話をし、周りに中の良い家族だと印象付ける。
当然、【
そして、頃合いを見て、荷車に乗り込む。
これで、周りは俺の存在に疑問を持つことも無くなる。
後は門番に見つからなければいい。
そして、見つかっても【
俺は出来るだけ、見つかりづらい場所を探し隠れるのだった。
それから暫くして、俺は男に声を掛けられる。
外の物音から察してはいたが、この男は本当に門番から俺を隠しきったらしい。
やり手か?
実際、違法とされているが、奴隷を取り扱っている商人もいることから、その可能性はある。
人間同士のいざこざなど知ったことでは無い、俺にも目標がある以上面倒ごとからは出来るだけ距離を取った方が良いだろう。
そんな風に俺が警戒しているのを察したのだろう。
男は肩を竦めると、俺の方に手を置く。
「生憎、俺は奴隷商人じゃない。命拾いしたな。」
多少含みのある言い方に引っかかる部分はあるが、先ほども言ったように面倒ごとに一々首を突っ込む余裕はない。
只でさえ魂の外殻を失い大幅な弱体化しているのだ。
ここはこの男と距離を置くのが最善だろう。
俺は男と淡白な別れの挨拶をすると、歩き出す。
目指す場所はもう視えている。
この街を覆いつくすほどに強い輝きを宿す魂。
それを目指して俺は歩く。
時々道に迷うことはあったが、目標の場所は視えているので無事にたどり着くことが出来た。
商業地区の隅に建てられた大きな建物。
時々、強面の男が出入りをしている。
以前の調査では歓楽街や、露天の管理、住居を貸している商会だった。
恐らく今も変わっていないだろう。
ならば、住居を借りに来たと言えば少女に会えるだろうか?
いや、確か少女はこの商会の長だった筈、そう簡単には会えないだろう。
やはり【
俺は商会のドアを叩く。
すると、中から強面の男が出て来た。
男はドアを叩いた主を探し、視線を左右に動かしている。
今の俺は十歳の姿であり、身長もそれ相応に小さいので男の視界の外にいるのだろう。
「こっちですよ」
そのため俺は男に声をかける。
男は一瞬体を強張らせたようだが、直ぐに下を向くと眉間に皺を寄せる。
子供が訪ねてきたことに困惑しているだけだろうが、その顔は普通の十歳児が見れば泣き出してしまう程に凶悪だった。
怖さだけならオーガに匹敵するだろう。
しかし、男も自分の眉間に皺が寄っていることに気づき、眉間を解して出来るだけ友好的な笑顔を浮かべながら、話しかけてくる。
「なぁ、坊主?ここがどこか分かるか?」
男はどうやら、俺が怖いもの見たさか何かでドアを叩いていると思っているんだろう。
しかし、勿論そんなわけはない。
流石に、本当の目的をこの下っ端に話すわけにはいかないが、少女に接触するための建前としての目的もしっかりと用意している。
「
俺は男だけに見えるように聖魔水晶を取り出す。
大きさは先程この街に入るのに協力した商人に渡したのと同等のサイズ。
非常に希少性が高い水晶だが、火山地帯に存在する魔族の国では腐るほど手に入る。
それこそ、この水晶も魔王城の近くを散歩していた際に手に入れたものだ。
男はこの水晶を見た瞬間に顔色を変えて、辺りを確認する。
恐らく、俺を後ろ暗い背景を持つ商会の人間だと考えての行動だろう。
そして、この商品を買い取るか否かを天秤にかけてもいる。
そうでなければ、周りの確認などせずに直ぐにでも俺を衛兵に突き出すべきだ。
勿論、急に曰くがありそうな商品を持ち出してきたため、反射的に周りを確認したという可能性もある。
混乱していれば挙動不審になることもあるだろう。
だがら、ここで俺はダメ押しの言葉を放つ。
「
想定できるうえで、いや想定外なレベルで安売りをする。
向こうは確実にこの商品と俺を怪しむだろう。
だが、それでも、1職員に過ぎない男には俺を拒む決定権はない。
俺がこの男とのコミュニケーションでクリアしなくてはいけない課題は男にこの水晶を売り込むことでは無く、あくまでも交渉のテーブルに座れるだけのカードを持った人間であると認識させることだ。
怪しまれているかどうかなどさしたる問題じゃない。
「……少し待っていろ」
男はそう言うと、建物の中に入っていってしまう。
俺はその間に【
今回作成する使い魔は風によって形作られた鳥。
単独での飛行能力と、子供程度であれば持ち上げての短距離飛行が出来る使い魔だ。
物を運んで貰うのにも役立つ。
俺はこの使い魔に荷車の都市の侵入を手助けするように指示を出し、城壁の外に向かわせる。
そうこうしていると商会のドアが開き男が顔を出す。
「ついてこい、ボスがお呼びだ。」
俺は言われた通り男についていく。
中には受付カウンターなどは無く、辺りを照らすランプと、大きな螺旋階段が設置されている。
また、白と金を基調とした部屋は豪奢な印象を訪れた人間に与えるだろう。
だが、螺旋階段の奥は一本の長い廊下と廊下に設置された無数の扉、フロアに窓一つないことで建物の広さに反して窮屈さを感じてしまう。
螺旋階段を上った先も似たような作りになっており、他人を拒んでいるような印象を抱いてしまう。
暫くの間俺は男の後ろを歩いていたが、男が廊下の最奥の部屋で足を止める。
「ここが、ボスの部屋だ」
そう言うと男は扉をノックし、部屋の主に入室の許可を仰ぐ。
一秒、二秒、扉の向こうから、「入れ」と子供特有のソプラノボイスで入室の許可が出る。
俺は喉を鳴らす。
ここからが、勝負だ。
拳を握り、室内へと入っていく。
中は貴族の執務室もかくやという程に豪奢だった。
この部屋だけはしっかりと窓があり、この部屋の主たる少女の腰かけるウッドチェアの背面から眩いばかりの太陽光が入ってきている。
また、もう一つ目の引く要素として希少素材で作られた杖がかけられている。彼女の得物だろうか?
「それで、お前が例の聖魔水晶を持ってきた子供か?」
「はい」
俺は恭しく頭を下げる。
ただ、油断はせず、聴覚や嗅覚、魔力を感じる第六感を研ぎ澄ませる。
少女については調査をしていた。
当然、性格についても知っている。
傲岸不遜で自分の気に入らないものに関しては実力行使も厭わない苛烈な性格。
言葉を誤れば最悪殺し合いになる可能性がある。
慎重に言葉を選ばなければ。
「この聖魔水晶は定期的に採掘可能なのか?」
「
「ふむ……」
少女は顎に手を置きながら考え込む。
門前払いをされるよりはいいだろう。
問題は向こうが何を考えているか、そして向こうの望んだ回答を用意できなくても、向こうに妥協させることだ。
「ならば、この聖魔水晶の在庫は?」
「
本当はまだ、幾つか手元に持っているが、敢えてそれは口にしない。
何故なら、もしそれを口にしたら聖魔水晶だけ買い取って商談は終わってしまうだろう。
いい買い物だったと、満足してしまうだろう。
それでは、駄目だ。
今は時間を使わせておいて、収穫が無かったと思わせる必要がある。
「ならば、帰れ。私も忙しいんだ」
「聖魔水晶はありませんが、
誰しも無駄な行為は嫌いだろう。
何か意義があったと、利益があったと思いたいだろう。
彼女とてそう思う気持ちはある筈だ。
だからこそ、俺は敢えてこの流れに持って行った。
「……何だ、言ってみろ」
「戦力、もしくは労働力、なんてものはどうでしょう?」
「……奴隷なら買わんぞ?」
アトレータでは現武帝により、九年前に奴隷制は廃止されている。
それ故に奴隷というのは所有しているだけでリスクにしかならない。
少女の反応は正しい。
奴隷を欲しがるなど一部の時代の移り変わりについてこれていない悪徳貴族くらいのものだ。
「ええ、分かっています。実は私は魂魄魔法を使えまして、【
俺は魔法を行使し、火の使い魔を生み出す。
見た目は火の玉に腕を生やしたものにした。
目の前でシャドウボクシングをしており、とてもかわいい。
「ほう、魂魄魔法。数の魔王が最も得意とした魔法か。確かに有用な力だな」
数の魔王。
かつての俺の呼び名だ。
魂魄魔法を使い単騎で俺のいない時代の魔王軍に匹敵する軍勢を生み出したことからそう呼ばれるようになった。
それは兎も角、少女の反応は上々だな。
「ええ、私なら数千でも、数万でも、数十万でも好きなだけ兵でも職員でも用意できます。
俺は巫山戯ていると思われない程度に深く頭を下げる。
それに対し、彼女は一瞬硬直する。
「ぷっ…………ハハ、ハハハ、アハハハハハハハハハハハハハハハハ、アハ、アハハ、はぁ、はぁ……」
少女が急に笑い出したことに俺は目を白黒させる。
魔王軍時代や魔王を決めるための決定闘争では色々な奴を見て来たが、流石に真面目な話をしている最中にこんなに笑われたのは初めてだ。
何がそんなに彼女の壺に入ったのだろう?
「え、ええと、どうかされましたか?」
「いや、何、それはつまりお前は私を助けて、私もお前を助けろ、ということだよな?」
「そう、ですね。はい」
「つまり、対等な立場、ということだ。」
「それは、ええ。協力者という形ではありますが……」
「…はぁ、下らんな」
少女はそう言うと、俺の方、否、杖の立てかけられた壁へと向かい、杖を手で持つ。
そして、それを俺に向けてくる。
「魂魄魔法が使えるということはお前も戦いの心得があるのだろう?ならば、私と勝負といこうじゃないか?
船頭多くして何とやら、上に立つものに対等な立場の人間などいらん。
負けた方が、勝ったほうの言うことを聞く。そちらの方がシンプルで良いだろう?」
少女は不敵な笑みを浮かべ、魔力を滾らせる。
完全に戦闘態勢だ。
戦いを回避する術は無いだろう。
俺も腰を低くし、臨戦態勢を整える。
「そうだ、名前を聞いていなかったな。私はレギーナ。お前は?」
「ポデスタ」
「そうか、私を楽しませてくれたら、お前の名前を覚えていてやろう」
そうして、挨拶とばかりに少女、レギーナは魔力弾を撃ちだした。
魔法紹介
【劣水】
七天魔法の一種。月属魔法【ルナ・マギア】。【操水】に劣る量の水を操ることが出来る。ただし、出せる水の量は本人の技量に依存するため、場合によっては【劣水】で【操水】を相殺することも可能。
【操火】
七天魔法の一種。火属魔法【マルス・マギア】。火を操ることが出来る。
【操風】
七天魔法の一種。火属魔法【マルス・マギア】。風を操ることが出来る。
名称解説
【魔王決定闘争】
その名の通り魔王を決める戦い。武道大会というには手段を問わず、魔法大会というには華がない。そのため、この名前が使われるようになった。因みに魔王トーナメントという俗称で呼ばれることの方が多い。