最強になって10日で力を失った   作:✛パグだフル✛

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敵前逃亡は魔族の必須技能です。

☆☆☆

 

レギーナの撃ちだした魔力弾を前に転がることで回避する。目の前には商談用のテーブルが置かれていたため、その上を転がる形になった。

地味に背中が痛いうえに、魔力弾が俺の真後ろで着弾したようで、背後から「バキッ」というテーブルに穴が開く音が聞こえてきた。

 

次狙われたら確実に死ぬ。それを実感せざる負えない攻撃。

ただ、それは最初から予想出来ていたこと。

 

俺はレギーナが攻撃を仕掛けてきたと同時に火の玉の使い魔にレギーナの牽制を頼んでいた。

火の玉は体の小ささと空中を浮遊できる特性を生かし器用に攻撃を躱しながらも、自分と同じくらいの大きさの火球を生成し、レギーナに向けて放っている。

 

火の玉の攻撃は致命打には至っていないが、レギーナのヘイトをしっかりと稼いでくれている。

魔力弾と火球の応酬。

とはいえ、互角の戦いではない。数、火力ともに魔力弾の方が圧倒的に優れており、時間稼ぎに徹しても直ぐに限界がくるだろう。

その上、時々こちらへの牽制を兼ねてなのか魔力弾が飛んでくる。

俺はそれを、右、左にと転がることで避ける。俺が目指しているのはこの部屋に取り付けられている窓の外、レギーナが杖を取りに入り口に近づいてくれていたため、俺と窓を遮るものは何もない。レギーナも後ろに遠ざかっている。

入り口から窓までは五メートル程度、然程遠いわけでも無い。

 

 

それなのに、この短い時間の攻防が永遠にも感じてしまう。

俺は必死に走る。

魔力弾がこちらに飛んでくる頻度が増えている気がする。

それでも、必死に窓を目指す。それ以外に生き残る術はないから。

 

ここまで必死に逃げるのは50年前に勇者と戦場で戦った時以来だろう。

 

…………一応、24年前にも龍の長相手に敵前逃亡しているが、あの時は向こうが逃がしてくれると言っていたため、ここまで必死に逃げていなかったから、ノーカウントでも良いだろう。うん。

 

俺が内心で下らない言い訳をしていると、急に背中に悪寒が走る。

脳で判断するよりも早く、左に回転回避。

すると、俺が先ほどまでいる場所から窓目掛けて魔力弾が飛んでいった。

 

「ほぉ、今のを避けるか、今までの魔力弾よりも魔力と殺意を込めたんだがなぁ。

ま、お前が窓からの脱出を図っているというのは分かった。これで詰みだな。」

 

レギーナはそう言うと何度か魔力弾を窓に向かって放つ。

窓に近づけば魔力弾で撃ち抜くという警告だろう。

俺はレギーナの方に顔を向け、壁に背中を付ける。

 

それを見たレギーナはようやく俺が観念したと思ったのか嗜虐的な笑みを浮かべる。

弱った得物をいたぶる習性を持つ残虐なモンスターが浮かべそうな笑みだ。

もしかしたら、モンスターが人間に擬態しているのかもしれない。

本気でそう思ってしまう程に、引くほどその表情は人間の表情からはかけ離れているように見えた。

いや、これこそが人間の本性なのかもしれない。

人こそが最も知恵を持ったモンスターってことか。人間怖い。

 

ただ、ここまでの流れは狙い通りである。

俺は背後に手を向けて魔法を発動する。

 

「【操火(イグニス)】」

 

すると、背後の壁が爆発し、子供一人くらいなら通ることが可能な穴が開く。

それだけじゃない。

背後で突風が吹く。

 

「【風鳥】、【火玉】行くぞ。」

 

時間稼ぎに徹して貰った火の玉の使い魔と外で一仕事して貰っていた風の鳥の使い魔の名を呼びながら、俺は風の鳥の使い魔の上に乗り、外へと飛び出す。

 

風の鳥の使い魔が仕事を終えて街の中に戻っていたのは使い魔と主の間にある魔力的な繋がり(パス)を通して分かっていた。

後は確実に逃げられるタイミングで魔力的な繋がり(パス)を通して指示を出せばいい。

 

「…上手くいって良かった」

 

風の鳥は俺を乗せ、猛スピードでレギーナから距離を取っていた。

 

俺は安堵の息を吐きだす。

ハッキリ言って逃げられるかは賭けだった。

特に壁を壊そうとしているのを勘づかれたら終わりだっただろう。

そこは10歳児としての可愛げがあって本当に良かった。

これが歴戦の猛者なら瞬時に俺の思惑に気づき、全力の飽和攻撃でもってハチの巣にされていたかもしれない。

 

俺が一先ずは難を逃れたと思い、着陸先を探していると、後ろからとんでもない魔力反応を感じ振り向く。

 

振り向いた先には30を超える数の魔力弾がこちら目掛けて飛んできていた。

しかも、ほぼ同時に。

俺は直ぐに風の鳥、【風鳥】に回避の指示を出す。

【風鳥】は器用に魔力弾を避けていくが、俺は一つ違和感を抱いていた。

というのも、飛んでくる魔力弾の軌道が無理のあるカーブを描いているのだ。

 

魔力弾を飛ばすという行為は魔法ではない。

 

ただ単純に魔力を圧縮して飛ばしているに過ぎない。

言ってしまえば魔法の使えない半人前が使うような攻撃手段だ。七天魔法などであればある程度遠隔でも魔法を操作できるような仕組みが施されているが、魔法ではない魔力弾にはそんなアシスト機能は存在しない。

 

何が言いたいのかというと、信じられない話だが彼女は素の魔力操作能力で魔力弾の軌道を変えているのだ。

魔法使いでない人間にはその凄さがイマイチ分からないだろう。

 

簡単に言ってしまうとここまで高度な魔力操作が出来るのであれば、それこそ、敵の目の前で魔法を発動するという完全なる初見殺しが可能となる。

格闘技に例えれば、敵とはまだ距離があるのに急に自分の目の前に敵の拳が現れるのだ。防ぎようがないだろう?

 

当然、そんな反則気味な魔力弾に狙われている俺たちもこのまま空にいては恰好の的だ。

 

「魔力弾の射線を遮れそうな場所………建物の密集地帯に下ろしてくれ‼」

 

俺は直ぐに【風鳥】に指示を出し、人通りが少なく、建物が所狭しと並んでいる路地へと逃げ込む。

ただ、これで終わりではない。

今も魔力弾は俺の背後から驚異的な密度と目にも止まらぬ速度でこちらに迫ってきている。

 

この攻撃をこのまま凌ぐことは出来ない。

それは、豪雨の際の雨粒を全て避けろと言われているようなものだ。

当然、今の俺には魔力弾の雨から身を守る傘も用意できない。

 

だからこそ

 

「【操土(フムス)】」

 

俺は振り返ると同時に【操土(フムス)】を発動し、大小様々な大きさの掌を何重にも生み出す。

生み出された掌は全ての魔力弾をしっかりと遮るもの、大多数の魔力弾を遮りながらも指の隙間から少数の魔力弾をそのまま素通りさせてしまうもの、小さいあまり大多数を素通りさせながらも一部だけは遮るもの等様々だ。

それでも全ての掌に等しく言えたことは一時的に攻撃を受け止めてられても、それはあくまでも一時的に過ぎず、多少の時間を稼いでくれるだけで魔力弾を完全に防ぎきることは出来なかったという点だろう。

 

攻撃は俺に向かって来ている。

予想通りに。

 

先ほども言った通り、俺の手持ちに攻撃を防ぐ札が無いのは分かっていた。

それでも俺との間に遮蔽物を作った理由は避けられない程、高密度且つほぼ同時に迫って来ている魔力弾の()()()()()をずらす為だ。

 

同時に迫る魔力弾を凌ぐ術は無くても、順番にこちらに向かってくる魔力弾なら避ける術はある。

俺は【操風(ヴェントゥス)】を使い、俺の体を風で浮かす。

そして、自分の身体能力では出せない速度で順番に迫ってくる魔力弾を一つ一つ確実に避けていく。

それだけじゃない。土の掌が破壊されたことで舞っている土埃を【風鳥】により、広範囲かつ俺たちを覆うように舞わせる。

 

これで敵はこちらの場所を特定できなくなり、魔力弾も俺を追尾することは無くなる。

仮に魔力感知に優れていれば砂埃が舞っていようと関係ないが、恐らくレギーナはそうではない。

もし、魔力感知に優れていれば、俺が待ち時間に魔法を発動したことに触れてこないのは不自然だ。その上、脱出の際に【風鳥】が近づいているのにも気づいている様子は無かった。

 

とはいえ、向こうはまだ諦めていないようだ。

俺はレギーナのいる場所を睨みつける。ここからでも魔力弾を無数に作っているのが分かる。

恐らく、場所を特定できないのなら数を撃ち込んで炙り出すつもりなのだろう。力技が過ぎるが確かに有効な手だ。下手な鉄砲も数撃ちゃ当たる。

探すよりも相手にプレッシャーを与えられるうえ、自分には何のデメリットも無い。

 

ただ、無駄だ。こちらの迎えが到着した。【風鳥】に任せていた仕事とはこの子を街に入れる手伝いだ。

俺を中心に綺麗なドリフトを決めながら、荷車の使い魔が現れる。

 

「【土車】、レギーナの視界外に全速力で逃げてくれ」

 

俺は荷車の使い魔【土車】に飛び乗り、声をかけると【土車】は心得たとばかりに一度跳びはね、急発進する。

 

後ろでは魔力弾の雨が降り注いでいるが、もうそこに俺たちはいない。

【土車】は200キロを超えるのではというスピードで走りながらも器用に路地の曲がり角を曲がっていく。

 

そして、攻撃音が無くなった辺りで【土車】はゆっくりと止まった。

俺は平衡感覚を維持できずに地面へ転がり落ちる。

 

そ、そして……………………ぼぉえぇぇぇぇぇぇぇぇ。

 

だ、駄目だ。

体に力が入らない。世界がくるくる回っている気がする。

少し寝たいが、眠ることも許されない程に気持ち悪い。

 

「君っ!大丈夫か⁉」

 

誰かが俺に話しかけてくる。だが、気持ち悪すぎて、俺はそれどころではない。

話しかけて来るな。

 

ただ、返事を返さないでいると何故か男が俺に近づいてきて、俺の額や体にべたべたと触れてくる。

幼児趣味の変態か?

俺がそう思ったのも束の間

 

「一端家に連れ帰ろう」

 

おい、やめろ、幼気な男児に何をする気だ?

本当にそう言う趣味なのか?

家に帰って美味しくいただく系なのか?

俺は最後の力を振り絞り、この変態を拒絶しようとする。

 

「や、やめ…………ぼぉえぇぇぇぇぇぇぇっぇぇぇえ」

 

だが、俺の言葉は男に届くことは無かった。堪えきれない吐き気を我慢できなかったのだ。

ただ、吐瀉物はしっかりと男にぶちまけてやったし、これで「うおっ汚ねぇっ」っという感じに手を離してくれるかもしれない。

いや、確実に話してくれるだろう。赤の他人な訳だし、吐瀉物をぶちまけてもそのまま家に連れて帰ろうなど、吐瀉物に興奮する変態位なものだろう。

 

☆☆☆

 

時間は少し遡る。

 

商業地区に存在する倉庫区画で密会をする二人の男がいた。

 

一人はポデスタを街の中に入れてくれた商人。もう一人は無精ひげに整えていないであろう寝癖のついた茶色い髪、狩人のような服装で盾と剣を身に着けている男。

 

男はポデスタを乗せてくれた商人に手を振りながら近づいて行く。

 

「手紙は持って来てくれたかい?」

「ええ、イルフェイムの旦那、勿論ですとも、それとこれ砂漠竜を狩猟した際に手に入れた素材だそうです」

 

商人はそう言うと手紙と共に大きな鱗を取り出す。

イルフェイムと呼ばれた男はその鱗を大切に懐にしまうと手紙を開ける。

そして、手紙を読みながらうんうんと頷きながら、何度か読み返す。

 

「うん、向こうも問題なさそうだね」

「そういや、イルフェイムの旦那は何でここに?」

「なぁに、前に逃げられた商品がどうやらここにいるらしくてね」

 

商人はその言葉で全てを察する。

目の前にいる男は所謂奴隷商人という奴だ。

商品が逃げられているというのも恐らくそういうことなのだろう。

触らぬ神に祟りなし、商人はさっさとこの場所を去ろうとイルフェイムに別れの挨拶をする。

 

「そうですかい。あのイルフェイム商会の実質的トップが奴隷商人たぁ、武帝もびっくりでしょうなぁ。それはそうと自分はこれで、この後も予定が入ってるもんでして」

「ははは、そうなのかい?それは大変だね。この後も頑張ってくれよ。それと…………これからもよろしくね。プグナとアトレータを行き来できる商人なんて君くらいなんだから」

「ははは、暇さえあれば何時でも依頼を受けさせてもらいますよ」

 

商人は社交辞令で返す。

この男は表向きイルフェイム商会の1職員ということになっているが、実際はトップとしての権限を振りかざせる。敵に回すのは悪手だ。ただ、それと同時に奴隷商人としての顔も持っているため、近づきすぎても駄目。

 

折角、極大の聖魔水晶を手に入れたことだし、ゆっくり隠居生活でもしようかと考えていたのだが、そうは門屋が卸さないようだ。

 

男はイルフェイムが見え無くなった辺りで大きなため息を吐くのだった。

 

 

因みに余談だか、この後男は空を舞う魔力弾に目を白黒させることになった。

 

 




用語紹介

【魔力的な繋がり】
使い魔との間にある繋がりのこと。とはいえ、何処にいても感じ取れるわけでは無く、主の魔力感知能力に依存する。今の主人公はコンクルス全域とその少し先まで

【武帝】
アトレータの皇帝。代々生まれた際にモンスターの因子を埋め込まれる。因みにモンスターの因子に適合できなかった場合はモンスターの因子によって死んでしまうため、武帝の一族の出生率はとても低い。

【魔力感知】
魔法使いや戦士が持つ必須技能にしてこの世界の住人が持つ第六感。その名の通り魔力を感じ取ることが出来る。優れた使い手の場合は遥か遠方の魔力の動きや魔力の発生源である魂の外殻を観測することも出来る。極めたものは魂の核も認識可能。

【魔力弾】
魔力を圧縮して飛ばすという至ってシンプルな攻撃手段。世間では魔力弾を使うくらいなら火属魔法【マルス・マギア】を使った方がコスパが良いと言われている

【魔力操作】
戦士は肉体を強化するために体内で使用しており、魔法使いは魔法を発動するため体外で魔力操作を行っている。しかし、並の魔法使いの操作可能距離は平均で2メートル程度。レギーナの魔力操作距離はもはや異能の領域。魔王時代のポデスタすら優に凌いでいる。
          
※戦士も武器に付与する際など体外での魔力操作をすることもあるが、あくまでも武器を握っている際に体の一部のように魔力を操作するため、魔法使いの魔力操作とは感覚が少し違う。




          
          
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