最強になって10日で力を失った 作:✛パグだフル✛
☆☆☆
あの後、着替えを済ませ、歯磨きと洗顔を終えた俺たちは家を出る。
家の外にはファミルの言っていた通り結界が張ってあった。
しかも相当強固な結界で、残念ながら俺の使い魔でもそう簡単に破ることは出来ない。
それと、外に出て気づいたことがもう一つあった。
それはこの場所がどの地区に建てられているかだ。
都市にも貴族の住まう貴族特区や商売を行う商業地区などがある。
当然中には治安が悪い地区も幾つか存在する。
ただ、その中でも俺たちが住んでいる場所は群を抜いて治安が悪いスラム街た。
他の場所が曲がりなりにも○○地区という区分で分けられているのに対し、この場所はそう言った名称すら与えられない。
言わば、この街のゴミ捨て場だ。
少なくとも、もっとましな場所にあると思っていたのだが、これはまた……。
とはいえ、それは脇に置いても良いだろう。
やろうと思えば、【風鳥】に乗ってスラム街くらい簡単に抜けられる。
俺からすれば大した障害にはならない。
ただ、それとは別に問題があった。
「ポデスタどうかしたか?」
ファミルが俺に話しかけてくる。
そうファミルが、だ。
薄々勘づいてはいたが、買い物にはファミルも同行するようだ。
これ自体は理に適っている。
確かにスラム街を抜けるには腕っ節の立つ人間が近くで護衛してくれた方が良い。
しかし、隙を見て姿を眩ませたかった俺個人としてはこの展開は余りいいものではない。
そもそも、レニス達の安全なら、俺の使い魔たちに護衛させれば解決する問題だ。
その点を踏まえればファミルがついて来るというのは俺にとってデメリットしかない。
とはいえ、それは俺個人の事情だ。
彼ら彼女らはそのことを知る由もない。
そして、俺としてもその事実を打ち明けることは自分の手の内をファミルに明かすことに繋がる。
この場は大人しくファミルの同行を受け入れるしかない。
俺は周囲の警戒とファミルの警戒を同時にこなしながら、レニス達の後を追っていく。
因みに、ユーリはファミルの手を握って歩いている。
………その様子は歳の離れた兄妹というよりも、親子のように映った。
それからファミルたちについて行き、何度か曲がり角を曲がったところでスラム街から商業地区の露天市場が見えた。
そこまで複雑な道ではなかったため、覚えることは苦じゃない。
この道を今後使うかは別として、覚えておいて損は無いだろう。
俺はうす暗い裏路地から出た解放感から伸びをする。
そして喧騒の絶えない露天市場に一歩足を踏み出した。
「よってらっしゃい、見てらっしゃい新鮮な果物はどうだい?
噛んだ瞬間果汁が溢れ出るよ?
え、どうせ高いだろって?いやいや、それが何と今日はうちのキャラバンがこの街で商売をする記念に三割引きにしてんだよ。」
客引きの声もそこかしこから聞こえてくる。
ふむ、何処かに希少素材を扱う商人はいないものか。
レニス達と一緒に来ていることも忘れて俺はつい、モンスター素材を扱う商人を探してしまう。
そんな俺を見かねてフォージが俺の袖を引っ張る。
「ポデスタ君、きょろきょろしてたら迷子になっちゃうよ?」
「うん、ありがとう」
フォージは俺の手を握ってくる。
その理由が、俺が逸れないためというのは些か恥ずかしいが、まぁ、こういうのも悪くない。
脱走するには不便ではあるがな。
そうやって、レニス達と纏まって、様々なものを買っていく。
とは言っても買うものは主に生活必需品だ。
食料に紙、服、食器などだ。
荷物の大半はファミルとレニスが分担して持ってくれていた。フォージ、ユーリ、俺の三人は小さな荷物を任される程度だ。
それでも、ユーリは与えられた荷物を絶対に家まで運ぶんだと意気込んでいた。
買い物は順調に進んでいった。
一番はしゃぎそうな上、逸れそうなユーリも急に走り出すなんてことはなく。
むしろ、俺とフォージを心配して何度か振り向いて声をかけてくるくらいだ。
途中までは。
それは買い物が殆ど終わった頃に起こった。
露天商周辺は他の場所と比べても一際雑多で人通りも多く、手を繋いでいないと逸れてしまうくらいには人同士が密集していた。
そんな中、俺やフォージと言った子供組みは人酔いを起こしてしまったのだ。
世界が常に揺れているような感覚を抱きながらも、フォージの先導を受け何とか真っすぐ歩く。
「大丈夫?ポデスタ君」
フォージが俺を気遣ってくれる。
くそ、フォージ自身体調を崩しているだろうに、一緒にいる俺の心配をしてくれるなんて…なんて良い子なんだ。
「き、気にしなくてもいいよ。それより、フォージも大丈夫?」
「え?うん、僕は大丈夫だよ?慣れてるからね」
フォージは俺の言ったことに一瞬首を傾げたが、直ぐに笑みを浮かべる。
きっと強がっているんだろう。
なんせ、元魔王である俺がこんなに気持ち悪いのだ。
只の、子供でしかないフォージが大丈夫な訳が無いだろう。
ほら、フォージが左右に揺れだしてる。
俺の視界では右へ左へメトロノームのようにフォージが揺れる。
肩でも貸してあげよう。
「ほら、肩かすよ?」
「いや、それ僕の台詞だよ⁉ポデスタ君!大丈夫?強風に左右から揺られてるのかなってくらいフラッフラだよ‼」
フォージったらこの強がりめ、そ、そ、そんな訳………………あ、やばい無理。
揺れてたの、俺だったかもしれねぇ。
俺は最後にそんな独白を残して、意識を断った。
水の流れる音、暖かい日差しが当たり、体がポカポカするのを感じながら俺は目を覚ます。
俺が次に目覚めたのは噴水のある広場のベンチだった。
休憩したためか綺麗さっぱり吐き気が収まっている。
俺は思いのほかすんなり動かせる体を起こし、レニス達を探す。
すると、ずっと近くに居てくれたのか、隣に座っていたフォージとレニスが声をかけてくる。
「あ、起きたんだね。体調はどう?」
「ポデスタ君、なんともない?」
「うん、もう大丈夫」
心配してくれた二人に分かるように力こぶを作り、元気なことをアピールする。
しかし、大変迷惑をかけてしまったな。
俺のせいで帰るのも遅くなってしまう上に、ファミルも仕事に行くのが遅れてしまうだろう。
そこまで考えて、俺は近くにファミルとユーリがいないことに気が付く。
買い物に行っているのだろうか。
俺は何気なく、二人の行方について質問する。
すると、二人は顔を合わせ、気まずそうな、言い出しづらそうな雰囲気を醸し出す。何か不都合なことでもあるのだろうか?
流石にそんな態度を取られると不安になってくるんだが………。
というか、一体何故、二人はこんなに不安そうな表情を浮かべているんだ?
俺は考えを巡らせる。現在の状況としてはファミルとユーリがいない。
何かあったとすれば俺が寝ている間。
流石に寝ている間のことは分からないが、二人の様子から何らかの形で俺が関わっていると考えていいだろう。
寝ている間に迷惑をかけたことと言えば、俺の介抱、もっと言えば移動の際なども誰かがおぶって移動する必要があった筈だ。
…そうか、成程。
「今、ユーリが迷子になってるんですね」
「⁉な、何で、分かったの?」
やはりか、俺はレニスの言葉で自分の推測が正しかったことを理解する。
俺が倒れた後、休める場所に移動するため、誰かが俺を背負わなくてはいけない。
しかし、俺より年下のフォージやユーリは勿論のこと、12歳の女の子であるレニスも十歳児相当の俺を背負うのは大きな負担になるだろう。
となると、消去法で俺を背負うのはファミルになる。
しかし、俺を背負うとなるとファミルは両手が塞がり、ユーリと繋いだ手を離す必要が出てくる。
その後、ユーリがレニスと手を繋いだかどうかは分からないが、
状況を理解した俺は【風鳥】にユーリの捜索を任せる。
勿論俺自身も動く必要があるだろう。
魂の細部まで視ているユーリを見つけることは俺の目を持ってすればそこまで難しくない。
それよりもユーリが人攫いなどと出くわしていた方が厄介だ。
「ごめん、俺ユーリ探してくるよ!」
それだけ伝えると俺はその場を後にする。
駆けだそうとする俺をレニスは止めようとしてくるが、俺は【
「まって!ポデスタ!」
「必ず戻るから」
それだけ伝えると【
こういう時に子供の体は助かる。風に任せて俺は宙を浮く。
そして、近くにあった屋根の上に飛び乗り、建物と建物を跳び移りながら移動する。
ユーリの魂はまだまだ辛い現実を知らない真っ白なものだ。
そう見間違えはしない。
俺は目を瞑り魔力感知を最大まで広げる。
暗闇の中、蛍のように光を灯す色とりどりの光の玉。その中で真っ白なものを一つ一つ精査していく。
違う、違う違う違う違う違う違う違う違う違う…………………見つけた。
月光のように闇夜を切り裂く輝きと、春の陽だまりのような暖かさを宿した魂。
間違いなくユーリのものだ。
ただ、近くにはファミルと、数えるのも億劫になるほどの人を殺している相当な強さを持つ人間がいる。
急ぐか。
俺は大きく空に跳び上がると、【
【
そして、俺は炎の帯を引きながらコンクルスの建物の更に上を飛行する。
空中を飛行する俺の速度は時速にして50キロ。
都市と都市の間を行き来するには少々心許ない速度だが、建物が乱立する街中を直線で移動できる今の状況であれば十分な速さだろう。
俺は直ぐにファミルたちのいる場所まで辿り着く。
二人がいた場所は路地裏。そこでファミルはユーリを背中で隠すように一人の男と向き合っていた。
男は温和そうな笑みを浮かべ、無精ひげを弄っている。
俺はファミルと男の間に割って立つ形で降り立つ。
「ファミルさん、ユーリやっと見つけた。」
俺は安堵の息を吐きながら、二人に駆け寄り手を引っ張る。取り敢えず、あの男から距離を取った方が良いだろう。
二人も抵抗せずに俺についてきてくれる。
男もついて来る様子はない。
この場は見逃してくれるのだろう。
そう思っていたのも束の間、男はファミルに語り掛ける
「随分と子供に好かれているんだね?」
「…この子たちは家族なので」
「それは、良い事だ」
男は俺たちに向かって手を振ってくる。
ユーリは男に手を振り返していた。
しかし、ファミルの方は血の気が失せているかのような青白い顔で足早に歩き出す。表面上は友好的な態度を取っていた男に対し、何故これ程怯えているのか。
男とファミルは知り合いなのか?
顔を見ただけでは二人の関係について知りようがない。
そのため、男と十分な距離を取ったところで、ファミルに問い質す。
「ファミルさん、あの男と知り合いなの?」
全く知らない人間ということは無いだろう。その思いを込めての問いだったのだが、意外にもファミルの答えは否定だった。
「いや、今日初めて会った。」
ファミルの予想外の言葉に俺は驚愕する。
少なくともファミルが人を殺しているのとあの男との間には何かしらの関係があると踏んでいたのだが……。
勿論、ファミルが嘘をついているという可能性もある。
ただ、嘘か真か、それを判別する術がない以上、問い質す価値は無いだろう。
そう結論付けた所で、ユーリが唐突に話に混じる。
「でもね!あの人ね人探ししてるんだって!それでねぇ、探している人は…………」
「こらこら、ユーリ、他の人と話したことをあまり吹聴するもんじゃないぞ」
しかし、途中まで言葉を紡いでいた口をファミルが優しく手で閉ざす。
ファミルが言っていることは世間一般的に間違ったことでは無いだろう。
少なくともこれを理由にファミルがやましいことを隠しているということにはならない。
とはいえ、怪しいのも事実だ。人探しというのであれば多くの人間に探してもらった方が早く見つかるはずだ。
それを敢えて隠す必要はない。
ファミルの発言は世間一般的に間違っていなくても今回のケースでは正解でも無いだろう。
そうは思いつつもそんな風に言われてしまえばこれ以上は突っつけない。俺は釈然としない思いを抱きながらレニス達と再開した。