翌朝、そよは羽丘女子学園の校門前で待ち構えていた。毎日リムジンで送迎されているため、待ち伏せしていて俺は少し離れたところにある電柱で様子を見ている。
ちなみに俺もそよも学校をサボっている。
<ブゥゥゥゥゥゥンンンン!!>
「来た!」
リムジンが来てそこから祥子が降りてくるのが見えた。
「(俺が出てきていいのは祥子が学校から出てからだな…‥‥‥)」
女子高に男の俺が入ってきたら騒ぎになるからな。
『祥ちゃん、愛音ちゃんから聞いた。睦ちゃんのこと知らないなんて、本当に言ったの?』
そよに付けていある盗聴器(本人に了承済み)で会話を聞く。
『……貴女には関係ありませんわ』
『睦ちゃんに会って!』
『やめて!』
二人が衝突しているのが遠くからでも見える。
『睦ちゃんち、行くよ』
『は……? 』
強引に祥子を連れ出そうとするそよ。
『やめてと言っているでしょう!』
『逃げる気!?』
『離して!』
揉み合いになり音声にノイズが混じる。他の生徒は足を止めて見ているな。
「キャッㇳファイトになってる……‥‥」
揉み合いは激しさを増しそよが祥子を押し倒す形で終わった。
『……睦ちゃん、会いたがってた!』
『……っ!』
『祥ちゃんだって知ってるんでしょ? 睦ちゃんがどうなってるか!』
『……会えるものなら、とっくに‥‥‥‥』
そよを突き飛ばし、上体を起こした祥子の表情は俯いていた。
『わたくしが会ったらまた……睦が』
『祥ちゃんのアパート、行ったよ』
『……っ!』
『祥ちゃんの身に起きたこと、今はもう解ってる……だからって全部なかったことにしないで!』
その言葉を聞き観念したのか祥子はそれ以上抵抗することなくそよに手を引かれ、羽丘の最寄り駅へ向かっていくことになった。
「よし、俺も後を追うか」
第一段階は無事に突破。あとは祥子を睦の家に連れて行くだけ‥‥……‥‥
「‥‥…‥‥」
「…‥‥‥‥」
二人とも無言で歩いている。俺が出る幕もないかこれ?
「んっ?」
祥子が急に足を止めた。どうしたんだ?もう少し近くに寄って会話を聞いてみると…‥‥
「祥ちゃん?」
「‥‥…‥‥やっぱり行けませんわ」
「えっ?」
「どうせ行っても‥‥‥‥きっと追い払われるだけですわ‥‥‥‥」
「そんな‥‥‥‥行ってみないとわからないじゃない!?」
「いいえ‥‥‥‥何も変わりませんわ…‥‥」
ここに来て睦の家に行くのを躊躇い始めた祥子。
「私のせいで睦は‥‥‥‥なら、会わない方がお互いにとっていいのですわ…‥‥」
「祥ちゃん…‥‥」
「私じゃダメなんですの…‥‥睦の望むもの、何一つあげられない!あの子を笑わせることも出来ませんわ!!」
弱弱しい言葉から強い語気に変わった祥子。
「私と出会わなけば睦は幸せになれたはずですわ…‥‥‥いっそのこと私のことなんて忘れてしまった方が‥‥‥‥」
「……‥‥‥」
俺はこれ以上我慢できずユキ仮面になって祥子とそよの元へ近づいた。
大切な幼馴染のことや思い出を全部なかったことにしようとする祥子に腹が立ち、俺はついに喝をいれることにした。
「あっ」
「?ユキ仮面!?なんでここに…‥‥」
<バチン!!>
「えっ‥‥‥‥?」
俺は祥子の頬にビンタを一発与えた。
「ちょっと!?幸人君!?」
「くだらない泣き言はやめろ!」
「っ!?」
「自分が自分がばっかりで、彼女の気持ちなんか一つも考えてないだろ!お前はッ!」
そよの言葉を無視して祥子に叱責はする。
「彼女は君に会いたがっていたぞ!君と前みたいな関係に戻りたいと言っていたぞ!」
RiNGでのモーティスと睦のやり取りで言っていたことを祥子に伝えた。
「そ、そんなこと‥‥…‥‥」
「ここまで言ってもダメか‥‥…‥‥ならもういい!そんなに会うのが嫌ならそこでいじいじ腐っていろ!!」
「!!」
俺の言葉が突き刺さり険しい表情になる祥子。
「何も知らないくせに‥‥‥‥あなたにそんな事、言われたくありませんわ!!」
そう言って俺に殴りかかってくる祥子。
しかしそれを軽々と俺はいなしていく。
「自分だけが辛い思いをしていると思っているのか!?」
「うるさい!うるさい!黙れ!黙れーーーーー!!」
だんだん口調が荒っぽくなっていき殴りかかってくる祥子。
しかし俺はそれを全て受け流したり防いだりしていく。
「仕方ないでしょ!私がやらなきゃいけなかったんですの!!」
「ふざけるなッ!それで全てを背負った気になって思い通りにならなきゃ放り出して忘れるのか!?大したお嬢様だなッ!!」
今にも泣きそうな顔をしながら殴りかかっていく祥子。
しかし祥子のヘナヘナパンチは俺に一発も当たらなかった。
「二人ともやめて!」
俺と祥子の間に入って殴り合いを止めようとするそよ。だが
「邪魔するなそよ!」
「退きなさい!」
「きゃっ!」
俺と祥子はそよを突き飛ばし殴り合いを続ける。
「私が!私がやらなきゃダメなんですの!嫌だけど、必死でッ!」
必死に拳を振り回す祥子。それをいなす俺。下手に否定しようとせずに祥子の胸の内を吐き出させるように祥子の拳を避けていく。
「何で言わないっ!?頼まないっ!?誰かに!?お前一人で何が出来る!!」
お前は確かに頭もいいしなんでもできるかもしれない。けど、一人でやることには限界があるだろ!?
そういう時こそ周りを…‥‥‥俺たちを頼れよ!!
「俺のことを忘れるのはいい!けどな!大切な幼馴染のことや楽しい思い出を全部なかったことにすんじゃねぇ!!この馬鹿野郎!!」
<バキッ!>
「きゃあっ!!」
頭に血が上り興奮してついグーで殴ってしまい吹き飛ばされ金網に激突する祥子。
「やべ!?」
祥子に駆け寄り状態を確認する。
「……‥‥…‥‥」
「す、すまん!豊川祥子!殴ってしまって……‥‥」
「……‥‥‥…わ」
「えっ?」
「…‥‥‥睦に…‥‥‥会いたいですわ…‥‥‥」
涙を流しそうポツポツと呟く祥子。
その涙は殴られて痛くて泣いたのではなく睦に会いたいという本心をさらけ出して流した涙だ。
「会いたい‥‥…‥‥また昔のように笑い合いたい……‥‥けど、どうしたらいいのかもうわかりませんわ…‥‥‥」
祥子は顔を俯いたまま涙を流しそう言い続けた。
「お願い‥‥…‥‥誰か……‥‥助けて‥‥…‥‥」
ついに助けを求める祥子。やっと言えたじゃないか、その言葉。
「……‥‥‥豊川祥子。行こう」
「えっ…‥‥‥?」
祥子に手を差し伸べる俺。
「彼女に会ってその気持ちを伝えてあげるんだ。ぶつからなきゃ伝わらない気持ちもあるから」
「で、ですが……‥‥‥」
「なら、俺も同行しよう」
「えっ‥‥‥‥?」
「仲介役をやってあげよう。一人でダメなら二人で行けば安心だろ?」
「四人だよ!」
「ん?あっ…‥‥‥」
いつの間にか愛音と燈が俺の後ろにいた。
「私たちも睦ちゃんの家行くよ!」
「わ、私も‥‥‥‥!」
「二人とも……‥‥‥わかった。俺たちで睦の家に行こう」
燈と愛音も加え睦の家に行くことにした。
「立てるか?」
「ええ……‥‥」
祥子の手を引っ張り立ち上がらせる。
「ユキ仮面…‥‥‥ありがとうございますわ」
「なに、ライバルを助けるのもライバルの務めさ」
「なんですのそれ?ほんと可笑しな人ですわ……‥‥‥」
微笑む祥子。これならもう行きたくないなんて言わないな。
「さぁ、行こう!若葉邸へ!!」
祥子と睦の関係を取り戻すためいざ、出陣だ!!
「ねぇ?」
「ん?あっ……‥‥」
声がする方を見るとそこには生ごみを頭や服につけて汚れた状態になったそよが笑顔なんだけど明らかに怒っている様子で立っていた。
そういえば祥子と争ってる時に突き飛ばしてたんだ…‥‥‥
「いい感じにまとめてくれたのはいいけど…‥‥‥これどうしてくれるの?」
「え、えっと…‥‥‥その‥‥‥‥」
「し、仕方ないだろ?わざとやったわけじゃ…‥‥‥」
「二人とも、正座して?お・は・な・し、しましょう?」
「えっ?で、でも睦の家に「正座」あっ、はい‥‥…‥‥」
「そ、そよ?おちつい「正座」はいですわ‥‥‥‥」
俺と祥子は正座しそよのお説教を受けさらに着替えとシャワーしに家に戻ったそよを待つため睦の家に行くのは午後からとなってしまった。
「帰って! なんで連れてきたの? 祥子ちゃん悪い子なんだよ!」
睦の家に来て睦の部屋に入りモーティスと会うが入ってそうそうぬいぐるみや本を投げられる。
「お願い、少しだけでいいの……祥ちゃんも‥‥‥‥」
「本当に人間の血、流れてる!?この人でなし!」
「っ!?」
そよが話を聞いてもらおうと説得するがモーティスに否定されてしまい、そんな言葉を投げかけられて、祥子やそよや愛音や燈も俺もびくっと体を反応させた。
「どうして……!? 今まで放っておいてのこのこと!帰って! 顔も見たくない……帰って!」
「モーティスちゃん‥‥‥‥」
「あなたも裏切り者よ!あなたも!あなたも!帰ってよ!!帰って!!」
声を荒々しく上げるモーティス。
なんか今のセリフに違和感があるのだが…‥‥‥
「モ、モーティス?私はあなたと喧嘩しにきたのではないのですのよ?私は睦を救うために来て‥‥‥‥」
「ふん!いいセリフだね?感動的だよ!けど、無意味だよ!!色ボケビッチのクソメスブタの祥子ちゃんじゃ睦ちゃんを救うことなんてできないよ!」
祥子に暴言を吐き散らすモーティス。
だから言い過ぎだって………‥‥
「それとそこの変態仮面!!あなた何なの!?幸人君に雰囲気が似ているけど部外者でしょ!?私たちの問題に首つっこまないでよ!!」
俺にまで牙を向くモーティス。変態仮面って……‥‥‥
「みんな早く出てって!!出てかないと警察呼ぶよ!?」
警察まで呼ばれると面倒なので結局俺たちは帰ることにした。
「今日はダメだったか……‥‥‥」
大勢で押しかけるのはマズかったか?
日を改めて今度は少人数で行くか……‥‥
「クソメスブタ……‥‥‥」
祥子はモーティスに言われた暴言に傷ついたのかさっきからブツブツと呟きながら歩いている。
モーティス、そんな言葉どこで覚えたんだ?
「……あのさ、さっきの人でなしってやつ、ドラマのセリフ?」
「ドラマ?」
「愛の埠頭、森みなみの」
「なにそれ?」
ドラマなんて全く見ないからわからないや。
「そういえばモーティスちゃんが言ってたのとそのドラマのセリフなんか同じだったかも…‥‥‥」
「じゃあ、モーティスはドラマに出てた時の母親のセリフや動きを真似たってこと?」
「多分そうね」
「……何、考えてるんだろう?」
「……‥‥人形ですわ……」
「え?」
「空っぽで、演じるだけの……わたくしが、睦を人形にしたから、睦はもう……」
Ave Mujicaにおける睦に与えられた役であり、彼女はそれを守っている。例えバンドが無くなろうとその役を演じ続けているのだと思う。
「人間になりたいって……こういうこと‥‥‥‥ですのね…‥‥」
急にへたれこむ祥子。モーティスにあれやこれや言われさすがに傷ついてしまったようだ。
「あの子の言う通り、私は人でなしですわ……」
「祥ちゃん………‥‥」
「誰のせいでもなく‥‥‥‥私が悪いんですわ‥‥‥‥睦が壊れたのもモーティスが私を嫌うのは私のせいですわ!!」
祥子は涙を流し自分がしてしまった過ちを受け入れたかのように呟きながら崩れ落ちた。
「もう‥‥‥‥嫌なんですの‥‥‥‥こんな自分が……‥‥私を‥‥‥‥殺して…‥‥‥」
「祥子‥‥‥‥」
自分を追い詰め過ぎだ。お前だけの責任じゃない。
「祥ちゃん‥‥‥‥!」
「燈!?」
燈が祥子に抱きつく。
「燈…‥‥‥?」
「前に祥ちゃんが私に絆創膏貼ってくれた……‥‥だから今度は私が祥ちゃんに絆創膏を貼ってあげる‥‥‥‥!」
「燈………‥‥う、ううっ……‥‥!」
祥子は顔を燈の胸に埋め涙で濡らした。
「ゆ、ゆっきー…‥‥‥」
「今はそっとしておいてやろう」
「そうね……‥‥‥」
祥子、今は泣くだけ泣け。これからどうするかはその後に考えていこう。
「……………………‥‥‥」
私は自室で燈が学校の下駄箱に貼ってくれたメッセージ付きの付箋たちを見つめる。
「燈‥‥…‥‥」
今更言うのも遅いですが感謝しますわ。
毎朝、この付箋を貼り私のこと気にかけてくれて……‥‥
「私はもう逃げませんわ……‥‥‥」
睦とモーティスとちゃんと向き合いますわ。
「………‥‥」
私は棚から一つの箱を取り出しフタを開けた。
そこには赤、黄、緑3色の派手な柄の男性用のパンツ(未使用)が一枚入っている。
これは以前幸人さんの家に遊びに行ったときに幸人さんが好きな特撮ヒーローの主人公が勇気の出るおまじないとして所有しているのを真似して持っていた物を私に譲ってくれたものですわ。
「幸人さん‥‥‥‥私に勇気を分けてください‥‥‥…」
パンツをぎゅっと握り祈る。
幸人さん、あなたのこともちゃんと向き合っていきますわ。自分の言葉でちゃんと謝ってみせますわ。
祥ちゃんよ、立ち上がる時だ!