ある日、森の中、アクマさんに、出会った♪   作:奇がてらてらしてる

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一話

 

 ネットとかで良くある話として、人気の無い深い森の中を散歩していたら奇妙な何かに会う、というものがある。

 それはただの不審者だったりホームレスだったりとつまらないものが多いが、常軌を逸した何かだったりすることもある。その正体は怪異だったり、エイリアンだったり、それか付近の集落で言い伝えられている神様だったり。なんにせよ、そう易々と出会っていいものでは無く、出会ったが最後、厄災が降りかかり、普通ではない方法で人が死ぬ。

 なんとも恐ろしい話だ。その話を聞くだけで、森という場所を単なる美しい自然としてではなく、常識では考えられない神秘的で邪悪な何かが潜んでいる異世界として見てしまいそうだ。

 まぁ、俺は別にそういった類のものを本気で信じているわけではないので、割と気分転換で森の中に入ったりするのだが。

 所詮はネット、それもどこの誰が書いたかもわからない掲示板の書き込みだ。荒唐無稽なホラ話の可能性が非常に高い。これを作った奴はきっと、今頃自分が書いた創作で震えあがっている人々を見て気味の悪い顔でニヤニヤしていることだろう。

 そう思うと、なかなかにむかっ腹が立ってくる。だからこそ俺は森に行くのかもしれない。

 

 ただ、それも今日までだ。

 何故なら、俺は今ここで死ぬからだ。運が良ければ画面越しでニヤニヤしている奴らの仲間入りを果たすかもしれない。最悪な目にあった。黒くてデカい生き物が目の前にいて、俺をがっつり見つめている。

 ここで問題だ、森の中で出会う、黒くて大きな生物ってなんだろう?

 

 正解はクマだ。

 

 地域にもよるが、森の中には思っている以上にクマがいる。どうせ会わないだろうとクマ対策をして来ないでいると大変だ。森の中でご飯でも作ろうと料理していると、その匂いにつられてクマさんがやってきて最悪クマさんのご飯になってしまうだろう。

 今の俺のこの状況は、その対策をしてこなかったことが原因だ。

 ただ、目の前にいる熊はどうやら新種のようで、たとえクマ対策をしてきたとしても遭遇を避けられたかどうかが分からない。

 なんせ、このクマは二足歩行をしていて、上半身に非常に鋭利な爪を持った細長い腕が4本あり、さらにはクマの図体でも飛べてしまえそうな大きな翼が一対背中から生えていて、下半身には太く強靭で長い脚が2本あり、その後ろには細く柔軟な長い尻尾が揺れているのだ。

 二足歩行するクマはネット上でよく見かけるが、こんな姿のクマは見たことがない。

 

 間違いなく新種だろう。確か、新種には発見者が名前を付けて良いというルールがあったはずだ。

 ならば、第一発見者として、このクマをアクマと名付けよう。

 素晴らしい名前だ、まさに、この悪魔的風貌を持ったクマにふさわしいと言えるだろう。

 

 『■■■■■■■■■■■■■■』

 

 「ㇶッ」

 

 どうやらこのクマは話せるようだ。非現実的すぎるあまりか細い声を漏らしてしまった。幼女には少々刺激が強すぎるのではないだろうか。

 

 ちなみに俺が幼女だ。

 ネットの影響で俺っ子になったとかそういうのではない。転生したら女児だったのだ。今日まで、ド田舎に生まれて、幼女ながらも可能な限り親の手伝いをして過ごしてきた。出来た野菜を抜いたり必要な小道具を持っていったりと、自分で言うのもなんだがなかなかのお利口さんだ。

 けれど、お利口さんも偶には親の命令に逆らってみたくなるものだ。俺は森でも探索しようと村を抜けて近場の山に足を踏み入れた。まぁ、単純に暇だった。ネットすら普及していないド田舎だし、近所の子供たちとは精神的な歳の差がありすぎて合わないしで暇つぶしの手段がこれくらいしか無かったのだ。

 

 そのせいでこの新種のクマ―――いや、とぼけるのはもうよそう―――悪魔に出会ったのだが。

 

 『■■■■■』

 

 「ㇶぇ…!あの……すいません…」

 

 全く持って何を言っているのかが分からない。そもそも喋っているかもどうか定かではない。

 しかし、聞いている限りだと、それは動物のような鳴き声ではなく明確な言語に沿った発音をしているように聞こえるため、悪魔には俺と対話をしようとする意思があるようだった。

 もちろん、俺が恐怖でおかしくなっているだけかもしれない。恐怖のあまり自分が助かる道を無意識に模索した結果希望に満ちた妄想をしているだけかもしれない。なんにせよ、今俺が生きていることから思うに、この目の前の悪魔は俺を今すぐ食おうとは考えていないらしい。そう信じたい。

 

 『……………』

 

 「……………」

 

 静寂が続く。悪魔は俺に言葉が通じないことを察したのか、あれ以降話さなくなった。この幼子をどうすべきかと、ガクガク震える俺の前で思考を巡らせている。

 俺のほうはというと、どうやってここから離れるか考えようとする意志と、ワンチャンこの悪魔と仲良くなれるのではと可能性を見出す意思が喧嘩していた。幼女に言葉が通じず対処に困る悪魔という絵面に僅かながら希望が抱けた気がした。

 

 「…………っ」

 

 『!』

 

 一か八か、意味が伝わることを祈って手でハートを作って見せてみた。このマークの意味が悪魔界隈にも浸透しているのか、それによって俺の運命が決まる。

 さて、悪魔はこれにどう出るのか。

 

 『………』

 

 「!」

 

 悪魔の予想外の対応に、俺は目を見開いた。

 なんと、悪魔がハートのマークを手で作り返してくれたのだ。しかも、悪魔は手が4本あるからか2個もハートが出来ている。愛が2倍だ。といっても、その意味を理解しているというよりも模倣のようだが。それでも、なんだか心が通じ合った気がした。

 相手も同じ気持ちを感じたのか、手の形は変わらないまま歯をむき出しにして笑っている。試しにハートを押し当ててみると相手もお返しとばかりに2つのハートを押し当ててきた。

 

 「へへっ………」

 

 『■■■■■■■』

 

 それがなんだか妙に楽しくて、俺も悪魔も、しばらくの間お互いにハートを押し当て合いながら囁くように笑いあった。

 

 

 

 

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