ある日、森の中、アクマさんに、出会った♪   作:奇がてらてらしてる

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 アリガテ…アリガテ…。


二話

 

 あの日から数日後、俺は何事もなく生存していた。

 悪魔さんに変な印を刻まれたとか、乗り移られたとか、そういった類のことはなにもされていない。彼(または彼女)とハートを押し付け合った後、俺はあまり遅くなると親が心配するので軽い別れの言葉を悪魔さんに言い、帰宅した。その日はそれだけで終わった。

 

 次の日にもう一度悪魔さんに出会った場所に戻ってみると、まるで俺を待っているかのように悪魔さんがその場に座っていた。まさか座って待ってくれているとは思わなかったので、俺は彼に声をかけずその姿を呆然と見ていた。

 しばらく見ていると、彼はふと周りを見だし、俺を見つけた。彼は俺を見るとすぐに立ち上がり、その禍々しい手でハートを二個作った。俺はそれを見てはっとし、ハートを作り返した。彼は歯をむき出して笑った。

 俺は彼の方へと歩み寄った。それに合わせ、彼は腕を広げた。どうやら、ハグをしたいらしい。俺は彼の様子を見て一旦立ち止まり、少し考えた。彼と出会って、昨日合わせて数時間もない。もともと日本人だった俺はハグに対する貞操観念を持ち合わせていたために、会って間もない相手にハグをするというのは抵抗があった。それに、全くの未知数な悪魔さんに考えもなしに身をゆだねるのは、なんとなく死の予感がした。

 俺は腕を交差させ、バッテンを作った。首も振った。悪魔さんはその意味を理解したのか、広げていた腕をゆっくりと下した。なんだか可哀想に思えたので、代わりにサムズアップを向けた。すかさず、彼は4本の腕全てを使ってサムズアップを返してきた。やはり、ハートと同様にただの模倣のようだが、これらをするたびに彼との心の障壁が無くなってきているような気がする。

 

 また次の日も、またまた次の日も、悪魔さんは同じ場所で同じように俺を待ち、会うたびにハートやサムズアップで言葉を交わした。

 

 そして今日も俺は悪魔さんのもとへ訪ねるつもりだ。彼に対する恐怖心はない。いや、正直言うと少しだがある。実は今まで猫被っていて、次会ったときに化けの皮が剥がれて食われるかもしれない。実際、彼のことはよく分からない。俺は勝手に彼を悪魔だと決めつけているが、本当はなんらかの突然変異で生まれたただの動物なのかもしれない。俺の周りに、彼の正体を判断する材料がなさすぎるのだ。彼はいったい何者なのだろうか。

 そんな疑問を抱えながら、俺はいつもの場所に着いた。今日も悪魔さんはそこで俺のことを座って待っていて、俺を見つけるやいなやハートを向けてくる。俺も同じくハートを返し、彼の隣に向かい、持ってきた袋を下ろしながら座った。

 袋を不思議そうな目で(目らしきものは見当たらないけど)見つめる彼に向けて、俺は得意げな表情で言う。

 

 「今日は食べ物を持ってきたんだ」

  

 『■■■■■■■?』

 

 「ㇶぇ…ああ、うん。うちで捕れた野菜だけど。気に入ってくれるといいな」

 

 そう言って俺は悪魔さんに野菜を差し出す。この野菜はまるで白菜のような見た目をしているが、今の父親曰く、『ヴィルチィレッツェラ』という名前の野菜らしい。変な名前だ。ちなみにヴィルチィレッツェラの味は白菜より少し甘い。割とお気に入りの野菜だ。

 だから、悪魔さんにもぜひ味わってもらいたい。そう思って、今回はこのヴィルチィ―長いから以後白菜と呼ぶ―を持ってきた。好きなものは共有する、コミュニケーションの基本だ。

 悪魔さんは白菜を受け取り、少しの間見つめると齧り付いた。バリバリッと音がなり、幾つかの白菜達の破片が地面にハラハラと落ちた。咀嚼音が鳴る。

 

 『■■■■』

 

 「ヒャ…ァ、どう、かな?」

 

 恐る恐る悪魔さんに感想を聞いてみる。本当に彼の声は心臓に悪すぎる。何度も聞いているはずなのに慣れそうにない。というより、彼の声を聞くと恐怖を無理矢理掘り起こされているような気分になる。彼の正体が本当に悪魔なのであれば、これは悪魔のパッシブスキルなのだろう。何にせよ、幼気な幼女にはいささか刺激が強すぎる。

 

 『■■■■■■…』

 

 「ゥ゙……うん、その……これ、ってこと?」

 

 俺は彼に対してサムズアップを向けてみる。彼は少し間をおいて、サムズアップを返してきた。

 彼の対応に俺は安堵し胸を撫で下ろす。その合間に彼は白菜を全て口の中に入れ、数回咀嚼して飲み込んだ。気に入ってくれたのだろうか。そう思い彼の視線に注目してみると、俺が持ってきた袋の中をじっと見ていた。

 もしやと思い、聞いてみる。

 

 「もう一つ、いる?」

 

 彼は笑い、ハートを向けた。

 

 ………。

 

 夕方。

 目視で村が見えるほどの深さとはいえ、俺がいる場所は木々が生い茂る森の中。辺りは夜と見違うほど黒く染まっていた。そんな中に真っ黒な悪魔さんが居るものだから、彼は空間と同化していると言っても過言ではなかった。

 

 「そろそろ帰らないと」

 

 空っぽになった袋を見ながら、俺はそう言った。俺が持ってきた白菜は2つ。1つ半が悪魔さんの分で、半分を俺が食う予定だったのだが、よほど気に入ったのか悪魔さんが全てたいらげてしまった。

 そういえば彼は普段何も食べているのだろうか。見た目は明らかに肉食だが、彼の歯や手足に血がついているのを見たことがない。俺に会う前に洗っているのか、それともああ見えて草食なのか。彼について知っていることが少なすぎる。

 

 「■■■■■■■……」

 

 「…大丈夫。明日も来るよ」

 

 おぞましい声で、そして寂しそうに何かを話す悪魔さんに俺は言う。彼を安心させるために撫でてやりたかったが、身長差的に出来て膝辺りだったため断念した。

 俺は立ち上がり、その場を後にすべく歩を進める。ふと振り返ってみてみると、悪魔さんが手を振っていたので、俺は笑いながら手を振り返した。

 

 (………あれ?手を振る、なんて教えたっけ?)

 

 そんな疑問が出てきたが、もとより謎の塊のような存在である彼が手を振ったからと言ってどうってことは無いと思い、すぐにその疑問は頭から消え失せた。

 

 

  

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