おねえさん観察日記 作:あんとにー
突然だけど、僕の団地の隣に最近お姉さんが引っ越してきた。僕が学校に行く時たまに眠そうな顔をして、ゴミを出しに行く姿を見る。僕とお姉さんとは前に引っ越しの時に顔を合わせたっきり。話した事は無い。これからも話すことは無いって思ってた。
その日、僕の気分はあまり良く無かった。別に何処か具合が悪いとかそう言うわけじゃなく……何と言うか楽しく無かった。
別に今日だけじゃなくて、最近はずっとそうだった。学校に行っても楽しくは無いし、勉強は嫌いじゃないけど人と話すのは怖い。勉強が出来れば、先生は褒めてくるけど、皆の目が怖いし。
体育の時間は嫌いだ、良くドッジボールをやる事になって皆喜ぶけど、僕は嫌いだ。だって他の奴らは皆僕を狙うし、早く当たって終わろうとしたら顔面セーフだし。痛いだけで何にも楽しく無い。何で学校なんて行かなきゃ行けないんだろう。
昨日、お母さんにそう思った僕は勇気を出して聞いてみた。すると返ってきた言葉は、「皆が行ってるから」だった。行かなきゃ変な目で見られるし、"僕"の為にならないんだって。そう僕の目を見て、強く言うお母さんはいつもとは違ってとても怖くて、泣きながら分かったとしか言えなかった。僕はワガママなのかもしれない。
そんな事もあって僕の気分は最悪だった。それなのに今日学校が終わって家に帰る時、お姉さんと会った。って言っても何も喋らず、道が同じでめちゃくちゃ気まずかった。
そもそもいつも見かけないのに何で、今日に限って。僕はそう思い、そっとお姉さんの方を盗み見た。寝癖がある髪の毛に、シワクチャのTシャツにズボン。その手に持っているのはビニール袋。
それは僕の通学路にあるコンビニの袋だった。今日は四時間で給食無しだったから。少し早めに帰れたのもあって、お姉さんのお昼と重なったみたいだ。それが分かって僕は少し嬉しくなった。まるでミステリー小説の探偵みたいだったから。
そんな事を考えていると、いつの間にか家に着いた。すると、お姉さんがこっちを見ていた。何だろうと思って僕もお姉さんの顔を見る。
するとその場に立ち止まり、しゃがんで僕の顔をじーっと見て来る。ボサボサの髪の毛だけど、お姉さんの綺麗な目が僕と合う。その目に吸い込まれる前にお姉さんの口が開いた。
「君、何処かで見た事あるんだけどもしかして前世で会った?」
「?」
「なんてね、こんなちっちゃな子にナンパしたら捕まっちゃうね。冗談だよ」
そう言うとお姉さんは笑って、そのまま行こうとしたので僕も家に帰ろうと後ろを歩く。すると、後ろを振り返ってこっちを見て驚いた顔をする。
「なんで付いてくるの?」
「え、いや」
咄嗟に聞かれて言葉が出てこない。もしかしてお姉さんは僕の事を知らないのかもしれない。それもそうか、僕だって朝に会うだけで知らないし。
「惚れちゃった?」
ニヤッと笑ったお姉さんは何を言っているのか分からなかった。
「まだボクには早いかな〜」
僕の頭を優しく撫でながらそう言って笑った。それが何だか馬鹿にされている様で、腹が立った僕は手を解いて、自分の家へと戻る。
「あっ、隣の子だったんだ」
って言う声が聞こえた気もしたけど気にせず、冷蔵庫のご飯を温めて食べた。その後宿題をしているとピンポーンとチャイムが鳴った。
誰だろうと思ってドアを開けると、さっきのお姉さんがドアの近くにいた。申し訳無さそうな顔をしている。
「さっきはごめんね、何も気付かなくてさ」
「い、いや大丈夫ですよ。別に」
僕に頭を下げるお姉さんに慌てて頭を上げるようお願いした。そんなに気にしてないし。
「さっきの事は気にしてないので、もう帰ってください」
そう言うと、お姉さんは再び僕の顔をジッと見つめた。なんかドキドキする。
「なんか楽しく無さそうな顔してるね」
「え?」
「昔の私みたいな顔してるよ。会社がつまらないみたいなさ、学校もしかして楽しくないの?」
何で分かったのか分からないけど。無言で頷くと、お姉さんはやっぱりと言うと手招きをした。そのまま僕は隣のお姉さんの家へと入って行ってしまった。
「お母さんいないんでしょ?仕事頑張ってて凄いとは思うけど、家族との時間も大切にして欲しいよね」
お姉さんは一人でそう言っては笑い、飲み物を出してくれた。
「あ、ありがとうございます」
恐る恐る飲むと、それは温かい紅茶だった。飲むと何だかホッとする。
「何でお母さんがいないって分かったんですか?」
少し落ちつくとそれが気になった。何で分かったんだろう。
「いるのならお母さんが出る筈だし、君以外の靴が無かった。生活音もしなかったからかな」
「あっ、凄いですね。そんな所まで」
「まあ、それより君の事だよ。学校嫌なの?」
「イヤと言うか、楽しく無いんです。別に虐められてる訳じゃないですけど。皆と同じ様に楽しめないって言うか何というか」
「馴染めないんだ、成程。だから楽しくないか」
そうか……とお姉さんは言うと黙り込んでしまったので。僕は暇になってしまい、辺りを見回す。するとドアが開きっぱなしの部屋があった。そこから何かが見えて気になり見ていると。
「こらっ。乙女、じゃないか。お姉さんの部屋は君には刺激が強いよ」
「ご、ごめんなさい。もう見ません」
「いや、そこまで……あっ!そうだ」
お姉さんはニヤッと笑って僕に近づく。
「お姉さんの事気になる?」
「ちょっとだけ」
嘘だ、本当は凄い気になる。でも嬉しそうなお姉さんにちょっとムッとしてそう嘘を付いた。少しチクっとした。
「ならさ、これから学校から帰ったらお姉さんの家に来ない?ピンポンしてくれば、いつでもいると思うからさ。いつでも話し相手になるよ」
お姉さんはポンッと自分の胸を叩いた。いつもお母さんが帰ってくるまで、一人で過ごしていた僕にとって魅力的な気がした。
「お姉さん働いてないんですか?」
「ゔっ……いやお姉さんはアレだよ。あっピカキン。知ってる?ピカキンみたいなクリエイティブな仕事しているから心配いらないよ」
「あっ!へぇ凄いですね」
「そう。だから心配しないで、いつでも来で良いよ。そして困った時には大人に相談しな、私は話を聞いて警察呼ぶぐらいは出来るからさ」
「え?」
そのままお姉さんの部屋でのんびりしていると時間はあっという間に経ち、夕方になったので戻る事にした。宿題もやらなきゃ行けないしね。
「今日はもう帰ります」
「分かった、明日は……辞めとこうか。聞くのは」
明日の楽しみにしておくよと言って。また、僕の頭を撫でて笑う。今度は嫌がらずに素直に受け入れることが出来た。
「じゃあね」
「今日はありがとうございました!」
ニコッとお姉さんは笑って、手を振ってくれた。
家に帰ると、すぐに宿題用のワークを開いて問題を解いていく。三十分くらいで終わって、僕は自由ちょうを開いた。
何ページかめくって見つけた空白のページに、大きな文字で"お姉さん観察日記"と書いた。