キラの妹が居たらっていうだけのお話 作:イングリット可哀想可愛い
神。
輝くような青い髪、宝玉の様に美しい瞳、男にも見えなくも無いどことなく中性的で、しかし美しい貌。
セラ・ヤマトは兄の通うカレッジを彷徨っていた。
(全く。キラのやつ。お弁当忘れたから届けてきてーなんて、そもそも忘れないでよ。そして取りに来なさいよ。後場所ちゃんと教えなさいよ。もう)
メールを送れど電話を掛けようと一切気付いていない。あのダラシないしめんどくさがりの癖に変なところで頑固な兄は、どうやら携帯をマナーモードか何かにしているのだろう。居場所も分からない以上どうしようもない。
(キラの友達に会えれば良いのだけれど。誰かいないかしら?)
残念ながら研究室には居なかった。ため息をつきながら歩き回っていると、機械仕掛けの緑の鳥を見つけた。
(あら、運がいいわね)
幼馴染がキラに送った機械仕掛けの緑の鳥━━トリィは、セラが翳した掌に降りてきた。そこで、セラのポーチがモゾモゾと動き出した。
セラがポーチのチャックを開けると、機械仕掛けの栗鼠がポーチから現れた。栗鼠はセラの身体を登り、セラの頭頂部まで登って来た。
トリィは掌から離れ、セラの頭頂部まで飛ぶ。
セラの頭頂部で、幼馴染から送られた機械仕掛けの栗鼠━━チュチュはトリィと戯れあっていた。
「ふふっ。相変わらず仲が良いのね。……ねぇトリィ。キラのとこまで案内してくれない?」
トリィーーと、囀りながら飛び立ったトリィを追い、スルスルとセラの頭頂部から降りたチュチュは走り出した。先導するトリィを追うセラとチュチュ。
やがて、トリィはどことなくセラと似た顔立ちの少年。キラの元に降りて来た。
「あっ、セラ。どうしたの?」
呑気にそんな事を言う兄━━キラに青筋を立てる妹━━セラ。
「どうしたの?ですって?どこかの誰かさんがお弁当忘れたから持って来てーなんて言った挙句、場所も教えてくれないし電話にもメールにも気付かなかったから、2時間探し回っていたのよ━━はいこれ、そのお弁当。でも頼んだことも忘れているみたいだし要らないのね」
「ご、ごめんごめん。要る、要るよ。ありがとう」
慌てて謝り倒すキラ。それを見て、呆れつつも弁当を渡すセラ。
この兄妹はこのような感じだった。ぐうたらで、だらし無くて、だけど優秀なキラと、しっかり者で、頭も良くて、だけど少し不器用なセラ。
「あっキラ」
「こんなところに居たのかよ」
キラに気付いて話しかけてくる少年と少女━━ミリアリア・ハウとトール・ケーニヒは、キラとセラに近づいて来た。
「あら、トール、ミリアリア。久しぶり」
「うん。久しぶり、セラ」
「久しぶり。そうだ。キラ、カトウ教授が呼んでたぞ。仕事を頼みたいんだとさ」
「えぇーーまた?まだ昨日のやつも終わってないのに」
「えっ?キラ、学生なのに教授から仕事頼まれてるの?」
「うん。まぁ……」
セラがキラのパソコンを覗き見ると、そこには難しそうなプログラムが組まれている画面と、ニュース番組が写っていた。
「何よこのプログラム」
生憎とセラは典型的な文系である。セラから見たキラの組んでいるプログラムは、ただの英数字の羅列でしか無い。
「うーん。多分言っても何もわかんないと思うよ?」
「知ってる」
「なぁ、キラ。そのニュースってどこの話?」
「カオシュンだって」
「うわー3週間前でこれって、もう落ちてるんじゃ無いかしら?」
「大分本島と近いわね。大丈夫かな」
「大丈夫だって。何せオーブは中立国だぜ」
ここはずっと、平和だよ。
トールのそんな言葉を聞いて、キラはどこか遠くに目をやった。
思い出すのは、幼馴染との別れ。
きっと、また会える、と。
戦争になんてならない、と。
いつかまた、プラントで会おう、と。
そんな、子どもらしい約束を、願いを、思い出していた。
「キラ?」
気付けばトールの顔が近くにあって、だから慌ててキラは仰け反ってしまった。
「大丈夫、キラ?」
ミリアリアからの気遣いに、曖昧に笑いながら答えるキラを見て、セラは少し暗い顔をした。
「じゃ、早く行こうぜ、キラ」
「うん。そうだね。じゃあ、セラ、お弁当ありがとう」
「待ちなさい、キラ」
「うん?」
「私もついて行くわ」
ぽかんとした顔のキラ。
そんな兄を無視して、とっとと駐車場まで歩いて行くのだった。
駐車場にて、キラたちはフレイ・アルスター━━同じゼミのサイ・アーガイルの婚約者と遭遇した。
サイからの手紙を貰ったとかなんとか。
ミリアリアも含めてとても盛り上がっていた。
女三人やれば姦しい、と言う諺通りである。
まぁ、そのせいで軍人みたいなお姉さんの邪魔をしてしまったが。
それよりもセラとしては、兄の様子が非常に気になっていた。どうやら件の少女、フレイ・アルスターに惚れているようである。
まぁ、顔は良いし、わからなくは無い。
それは、それとして。
「ねぇ、キラ。略奪愛はめんどくさいことになるから、やめておきなさい」
助手席に座るセラは、隣のキラにそんな事を言った。当然、慌てて弁明するキラ。
「そ、そんなんじゃ無いって」
「いやー、でも、サイは強敵だぞー頑張れよキラ!」
「ちょっとトール!」
「まぁ、キラがサイに絶交されても良いなら存分に狙えば良いと思うけど」
「だから、そんなんじゃ無いって!!」
確かに、ここは平和だった。同じくらいの年で、既に前線に出ている兵士もいることを考えれば。
カトウゼミにて、キラはサイから教授の課題━━と言う体の仕事を受け取っていた。
「てゆうか、結局なんなの?それ」
「さぁ?多分OSだとは思う」
キラがサイから受け取ったディスクを見ながら、そんなことを聞くセラ。キラが答えるが、残念ながらセラには分からなかった。
「おーえす?って何よ?」
「operation system。わかりやすく言うと、脳みそみたいな物だよ」
「多分、モルゲンレーテからの依頼だろうな」
2人の会話に入って来たサイに、再び質問するセラ。
「モルガンレーテっていうと、オーブの軍事企業よね?何でそんなところの仕事をキラに任せてるのよ?」
「コーディネーターだから、じゃないか?」
「ふーん」
その辺りで興味が失せたのか、セラは辺りを見回していた。そこで、帽子で顔を隠している少女を見つける。
何となく少女を見ながら、何かの違和感を感じ取り考え込むセラ。
(おーえす、ていうのが脳みそみたいな物なら、動かすための体がどこかにあるはず。そしてそのおーえすは、コーディネーターの中でも特に優秀なキラじゃないと出来ないような代物。キラに頼む理由は、それぐらいしか考えられない。もしかしたらその教授がとんでもない面倒くさがりで、あんまり複雑じゃないのかもしれないけど。だったらキラ以外に任せればいいし、何より、そのおーえすに何らかの問題があった時、責任は学生に任せた教授のものになる。それでもキラに任せたってことは、キラにしか出来ないことだと考えて良い。何より、これは仕事として依頼されているもの。万が一があったらまずいことになる。なのにキラに任せた。それだけ複雑なおーえすってことは、動かすための体も複雑な物だと考えて良い。モルゲンレーテは軍事企業で、そこからの依頼ってことはおそらく兵器関連。少なくともMAとかじゃ無い、筈。現状でも問題なく使えているのなら、それを流用すれば良いだけの話。調整が必要だったとしても、わざわざコーディネーターに頼むほど複雑ってことはないでしょうね。てことは━━」
「セラ」
肩を叩かれながら呼びかけられて漸く気づく。
「あっ」
「いつものが出てたよ」
「ご、ごめんなさい」
呆れたように笑うキラ。
セラは考え出すと止まらないし周りが見えなくなる。小さい頃からの癖のようなものだ。
「久しぶりに見たわね、セラのそれ」
「そーそー、なんか探偵みたい」
「そんなんじゃ無いわよ。ただ、ちょっと気になっただけよ」
「全然ちょっとじゃなかったと思うが?」
「うるさいわよ、サイ」
笑い合う少年少女、そして━━突如訪れる、爆音と振動。
今この瞬間、偽りの平和は、崩れ始めた。
FREEDOMイングリットが一番好き。可哀想で可愛い。好き。