【お天気】スキルの追放令嬢 ~美少女メイドと始める砂漠のスローライフ?~   作:月城 友麻

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24. ヴェネツィア

 まずは都市計画を立てようと、オディールはレヴィアの背中に乗り、上空へと飛び立った。

 

 壮麗な翼が力強く羽ばたく度にぐんぐんと高度は上がり、ミラーナが嬉しそうに大きく手を振っている姿があっという間に小さくなっていく。クレヨンの家も小さくオモチャのように小さく縮んでいった。

 

 やがてロッソも小さくなっていって花畑の全貌が見えてきた。ロッソの南側を中心に半径十キロくらいに花が敷き詰められ、それより外は昨日と同じく延々と数百キロ見渡す限り砂漠が広がっている。

 

「この花畑の範囲が龍脈の効果の効くところじゃな」

 

 レヴィアはゆったりと旋回しながら言った。東京23区くらいのサイズである。

 

「なるほど、花畑の範囲で計画しないとダメだね」

 

「そうじゃ、そこに畑と建物を詰め込む。ただ、産業地域なら龍脈外れててもまぁええじゃろ」

 

 さらに旋回していくと大きな水たまりが見えてくる。

 

「あそこは湖になるね。魚を養殖してもいいかも?」

 

「聖水でできた湖じゃな、何とも贅沢じゃわい」

 

「そうか、聖水か……」

 

 オディールは首をひねり考え込む。この世界で唯一の聖水の湖、それを何かもっとビックリするような形に使いたかったのだ。

 

 レヴィアはしばらく広い花畑の上空をゆったりと飛んだ。昨日降らせた雨の跡から地形の起伏がなんとなくわかる。全体的に北から南にわずかに下っていて、ロッソあたりから湖の方向に昨日の雨の残りが小川になって流れていた。

 

「で、街をどう作るかイメージは湧いたか? 道をどう通すかも大切じゃぞ」

 

「あそこに街を作ろう」

 

 オディールはニヤッと笑うと湖を指さした。

 

「ん? 湖畔の街か? まぁ、ええじゃろ」

 

「違う違う! 湖の中だよ」

 

 オディールは嬉しそうにレヴィアの鱗をパシパシと叩く。誰が見ても驚くような湖の使い方、それはそこを街にしてしまうことだったのだ

 

「はぁっ!? そういうイレギュラーなことしたら大変じゃぞ?」

 

「だって、聖水の上に住んだらきっと身体にもいいよ?」

 

「そうかもしれんが、建造物は水に弱い。地上が基本じゃ」

 

「いやいや、水上の街だってあるんだよ」

 

 レヴィアは翼をはばたくのを一瞬止め、考え込む。この世界にそんな街などなかったのだ。

 

「……。お主、ヴェネツィアのことを言っとるか?」

 

「えっ!? なんで知ってる……」

 

 懐かしい地名にオディールはつい驚いてしまう。そして、自分の秘密、すなわち転生者であるという事実を暴露してしまったことに気付き、思わず宙を仰いだ。

 

「カッカッカ! なるほど、我がお主に負けた理由が分かった。お主は【星を渡りしもの】じゃったか!」

 

 オディールはガックリとうなだれ、鱗をさすりながら声を絞り出す。

 

「あのぅ……。このことは……」

 

「大丈夫じゃ、誰にも言わんよ。安心せい」

 

 レヴィアはバサバサッっと力強く羽ばたかせ、大きく旋回する。

 

「……。ありがとう……」

 

「お主の星は女神さまのお気に入りでな。気まぐれで現れた時によく情報をもらうんじゃ。次に現れた時にはお主の分も貰ってやろう。続きを読みたい本もあるじゃろ?」

 

「えっ? そ、それは助かる。続きが気になってるのあるんだよぉ」

 

 オディールの碧い瞳は希望の光で輝き、レヴィアの鱗を優しく叩いた。もう二度と読むことも(かな)わないだろうと諦めていたあのラノベの続きが読める。そう思うだけで興奮が身体全体を貫き、鳥肌が立つほどだった。

 

「はっはっは、そういうもんじゃろうな。で、ヴェネツィアを作るって?」

 

「そう、ゴンドラで行き来できて、橋で歩いてくることもできるような立体の街がいいんだ」

 

「かーっ! 欲張りじゃのう。ミラーナには随分頑張ってもらわんとならんぞ?」

 

「最初だけだよ、人材を募集して、建築部隊はそのうちに編成するから」

 

「お主な……、軽く考えるでないぞ? あんないい娘はなかなかおらん。大切にしてやれ」

 

 レヴィアは振り向いて巨大な真紅の瞳をギョロっと光らせる。

 

「わ、わかってるよ……」

 

「ちゃんと、『ありがとう』って感謝を伝えとるか?」

 

「えっ!? そ、それは……」

 

 オディールは視線を落とし、自分の振る舞いを思い起こす。かつてのメイドであるミラーナに対する支配的な態度を思い返し、今はそれがただの自己中心的なわがままでしかなかったことに気づいた。

 

 ミラーナの厚意に甘え続けた自分を思うと、オディールの胸が苦しくなる。いつか捨てられるのではないかという不安が心を覆い、思わず両手で顔を覆った。

 

「言葉にすることも大切じゃぞ」

 

「……。分かった。ありがとう」

 

 オディールは気づきを得た感謝の念を込め、鱗をさすった。

 

「うむうむ。で、話は戻って、道はどう通す?」

 

「それなんだけど、道じゃなくて運河にしようかと」

 

「運河かぁ……、どうかなぁ。具体的にはどこを通すんじゃ?」

 

「えーっとね、そこの丘を避けてだね……」

 

 二人はしばらく地形を確認しながら構想をまとめていった。

 

 龍脈の恵みを受けたセント・フローレスティーナ。この街が快適に生活できる魅力的な場所に成長するのか、それとも見捨てられてしまう廃墟になってしまうのかは都市計画の出来が左右する。二人は砂漠の澄み切った空をあちらへこちらへと飛びながら、激論を交わし続けた。

 

 

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