【お天気】スキルの追放令嬢 ~美少女メイドと始める砂漠のスローライフ?~   作:月城 友麻

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41. 一触即発

 顔を上げると花畑の続く丘陵のかなた南方に、赤い煙が澄み通った青空を背景に一筋上がっている。

 

「あれか! 急ぐぞ!」

 

 ピュイッ!

 

 ピーリルは狼煙めがけて快調に速度を上げていった。

 

 南側のエリアは未だに手付かずの花畑が広がっている。オディールは川沿いに花畑の中をガタガタと、一直線にやぐらを目指す。時には何かを踏んで高くバウンドしながらもピーリルは巧みにバランスをとって健気に疾走した。

 

 やぐらに近づいていくと、ラクダが見えてくる。近くには男が立っていて、赤い卵型ゴーレムが横たわっていた。【ピュレム】だ。

 

 オディールは戦慄を覚える。ゴーレムは強い。そう簡単に倒せるようなしろものではないのだ。

 

「あぁぁ……ピュレム……」

 

 砂漠を数百キロ、一人でラクダに乗ってやってきてゴーレムを倒す、男の超人的な能力にオディールは眉をひそめる。敵か味方か分からないが、可愛いゴーレムを倒されてオディールは頭に血が上った。

 

「あんの野郎! 好きにはさせないよ!」

 

 オディールはギュッとこぶしを握り締めた。

 

 

         ◇

 

 

 近づいていくと、男の様子が分かってきた。白いターバンを巻いて紫色のワンピースのような民族衣装を身にまとっている。

 

 オディールはピーリルを止めると飛び降り、叫んだ。

 

「何者だ! ここはセント・フローレスティーナ。危害を加える者は容赦しないよ!」

 

 可愛い少女の登場に男は少し意外そうな表情を見せたが、すぐにニッコリと笑いながら胸に手を当てる。

 

「自分はローレンス。アバロン商会の者だ。良ければ交易をしたいと思ってはるばる砂漠を渡ってきた」

 

 ヘーゼル色の瞳に丁寧に整えられたひげ、アラサーぐらいだろうか、かなりのイケメンに見えた。

 

「交易? ならなぜ、ゴーレムを倒した?」

 

「あ、コイツが妨害して全く進めなくなったんでね。ちょっと寝てもらっただけだよ」

 

 ローレンスは魔晶石をポケットから取り出すとオディールに放り投げた。ゴーレムのポケットから魔晶石を抜き取ったのだろう。オディールは顔を歪め、簡単に取り出せるようにしておいた自分の甘さを後悔しながら、魔晶石をキャッチした。

 

「交易は君たちにとってもメリットになるだろう。領主さんにつないでほしい」

 

「領主? ……。僕がその領主だと言ったら?」

 

 オディールはニヤッと笑った。

 

「はっはっは。お嬢ちゃん、これは遊びじゃないんだよ。この川の水は聖水だろ? こんな贅沢な豊かな街との交易はうちにとっては一大事業。領主さんとしっかりと話をしたいんだ」

 

「僕の言葉を信じられないなら帰んな」

 

 オディールは手で追い払うしぐさをした。

 

 ローレンスはピクッとほほを動かし、威勢のいいこの少女をどう扱ったものかとキュッと口を結んだ。

 

 にらみあう両者。

 

 びゅうと花畑を渡る風がローレンスの民族衣装をバタつかせる。

 

「ここまで砂漠を三日、どれだけ大変だったか……。そう簡単に帰れると思う?」

 

 ローレンスは低い声で威嚇し、懐から魔法銃のような物を出すと、銃口をオディールに向けた。

 

 すかさずピーリルが前に飛び出し、両手を開きオディールをかばう。

 

「何? 僕と勝負すんの?」

 

 オディールは両手を高く掲げ、ブツブツと祭詞をつぶやく。

 

 いきなり空にもこもこと暗雲がたちこめ、ゴロゴロと雷鳴が辺りに響きわたった。

 

「ふふっ、黒焦げにしてあげようか?」

 

 オディールは楽しそうに笑う。

 

「な、なんだ……?」

 

 ローレンスは空を見上げ、混乱した。

 

 暗雲を操り、(いかずち)を武器とする金髪碧眼の可愛らしい少女。その、見たことも聞いたこともないスキルに圧倒され、後ずさりする。

 

 これが天候を操るスキルだとしたら砂漠に大量の水があることも説明がつく。だとしたら彼女が本当に領主なのかもしれないと、ローレンスは思いなおした。

 

「あ、あなたが本当に領主だとしたら……、拉致して洗脳すれば全ての利権はわが手になる……わけだが……」

 

 ローレンスは冷汗を浮かべながら、銃の安全装置をカチャッと外した。

 

「ふぅん、やってみる? でも、僕に手を出して生きて帰れるかなぁ……?」

 

 バサッバサッ、と巨大な翼のはばたく音が近づいてくる。

 

 ローレンスは空を見上げ、おののいた。そこには黄金の光をまとった漆黒の巨体、伝説のドラゴンがこちらめがけものすごい速度で迫ってきていたのだ。

 

 お、おぉ……。

 

 ローレンスのほほに冷汗が伝う。

 

 ドラゴンはギュァァァァ! という腹に響く重低音の咆哮を放つと急降下し、ズン! と地震のように地面を揺らしながらオディールの隣に降り立つ。その巨大な真紅の瞳はローレンスを射貫くように赤く輝いた。

 

「どう? まだやるの?」

 

 ドヤ顔のオディールは腕を組み、真っ青になっているローレンスを眺めてニヤリと笑う。

 

 ローレンスは引き金を引いたが、ポン! と銃口から出てきたのは小さな花束だった。

 

「これはこれは龍を従える偉大なる領主様、大変に失礼をいたしました」

 

 ローレンスはひざまずき、花束をうやうやしくオディールに捧げる。最初から害意は無く、オディールを試したということだろう。

 

 試されることは気分のいいことではないが、自分のような少女が領主だと言っても信じられないというのは分からないでもない。

 

「うんうん、分かればいいんだ。アバロン商会、名前は聞いたことあるよ。君は二代目?」

 

「はい、父が会長、自分は新規開拓担当をしております。なにとぞこのご縁を大切にさせてください」

 

 胸に手を当てて誠実に答えるローレンスを見ながら、オディールは感心をしていた。一人で砂漠を超え、ゴーレムを倒し、利がありそうなら自分のような小娘にも頭を下げる。二代目のボンボンの多くがドラ息子になるのに、この男は実に有能でアグレッシブだった。こういう男との縁は街の発展には欠かせない。

 

 オディールはうんうんとうなずくと、右手をすっと差し出す。

 

「砂漠越えてくるの大変だったでしょ? もてなしてやるからおいで」

 

「もったいなきお言葉、光栄です。ぶしつけな訪問にもかかわらず、情け深きご配慮に深く感謝申し上げます」

 

 ローレンスはオディールの手を取ると、手の甲に軽く口づけをした。

 

「そんな格式張らなくていいよ。まだ何もない小さな街だからね、ろくなおもてなしもできないけどゆっくりしてって」

 

 オディールはローレンスの手を取り、立ち上がらせるとにっこりと笑った。

 

「ありがたきお言葉感謝します」

 

 ローレンスは胸に手を当てて嬉しそうに微笑む。

 

 その時、ザバッザバッと派手に水しぶきをたてる音が川の上流から近づいてきた。

 

「オディールさーん!」

 

 見ると、トニオが消防団の若者たちを乗せて船を飛ばしてやって来る。

 

「あぁ、心配かけちゃったな」

 

 オディールはトニオの必死な姿に申し訳なさそうに微笑むと、千切れんばかりに大きく手を振った。

 

 

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