【お天気】スキルの追放令嬢 ~美少女メイドと始める砂漠のスローライフ?~   作:月城 友麻

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50. 忍び寄る魔の手

 ディナーでは花のピザなどのセント・フローレスティーナの名物料理が次々と出てきた。どれも見たこともない独創的な料理であったが、花をふんだんに使った大胆な構成ながら繊細な味付け、上質な盛り付けにケーニッヒは感嘆した。花びらのほろ苦さはいいアクセントになってグッと料理を引き立てていたし、何よりも見た目が今まで食べたどんな料理より華やかだった。

 

「お茶をどうぞ……」

 

 まだ若いウェイトレスが慣れた手つきで紅茶を注いでくれる。

 

「あ、ありがとう。美味しかったよ」

 

「うふふ、そうですか、良かったです」

 

 少女はブラウンの瞳を嬉しそうに輝かせてほほ笑んだ。

 

「あ、そうだ。風呂場の手すりを壊しちゃったんだ……。弁償するので見てもらえないかな?」

 

 ケーニッヒは申し訳なさそうに少女を見た。

 

「あー、手すりですね。後で直しておくので大丈夫です!」

 

 ニッコリと笑う少女だったが、ケーニッヒは首をかしげた。

 

「あ、いや、派手に壊しちゃったんだよ。そう簡単には……」

 

「大丈夫ですよ。だって、この建物全部私が作ったんです」

 

 少女は嬉しそうにほほ笑む。だが、ケーニッヒは何を言っているのか分からなかった。言葉通り受け取れば、この十階建ての巨大建築物を彼女が一人で作ったということだったが、そんなことあり得ないのだ。

 

「作ったって……、この床とか壁とか?」

 

「そうですよ? 柱を十メートル間隔でドンドンって生やして……」

 

「生やしたって……土魔法……かな? 失礼だけどあなた、スキルランクは?」

 

「二十を超えたあたり……ですかね?」

 

 さらっととんでもない数字を口にして、小首をかしげる少女にケーニッヒは絶句した。Sランクパーティで組んでいた最高級魔法使いのスキルランクは十五だった。それもアラサーでである。目の前の少女はどう見てもまだ成人もしていない。それなのにランクは二十を超えているという。本当だとしたら人類最高レベルの魔法使いなのだ。なぜこんなところでウェイトレスなどやっているのか?

 

 あまりのことに混乱したケーニッヒは、湧き上がってくる疑問をうまく言葉にできない。

 

 ピュイッ、ピュイッ!

 

 ピュルルがワゴンを押してくる。

 

「あ、手伝ってくれるの? 偉いわね」

 

 少女はピュルルをなでると食べ終わった食器をワゴンに移していく。

 

 ピュイー!

 

 ゴーレムは嬉しそうに答える。

 

「も、もしかしてそのゴーレムも君が?」

 

 複雑な処理をこなす優秀なゴーレムは高いスキルランクが無いと作れない。そして、このゴーレムの態度は少女が創造者であることを表していた。

 

「そうですよ?」

 

「失礼だけど、その……、若いのにすごいね」

 

「うふふ、ありがとうございます。でも領主は私より若くてもっとすごいですよ」

 

 はぁっ?

 

 ケーニッヒは唖然とした。砂漠の真ん中に未来的な水の都を開いたのは子供だという。もし、それが本当だとしたらとんでもない事だ。これは時代が変わる。

 

 と、この時、ケーニッヒはふと昼間のことを思い出した。船を助けてくれた超巨大ロボット、この娘はあれに乗っていた娘のような気がする。だとすると、もう一人の金髪の少女、その子が領主ではないだろうか?

 

 となると、あのロボットもこの娘が作ったのかもしれない。スキルランク二十を超えるとあんなものまで作れてしまうということだろうか?

 

 もし、あんなロボットが量産されたら……。

 

 この砂漠の街を中心に世界がガラッと変わってしまう予感に、ケーニッヒはブルッと震えた。

 

「そろそろ行かないとなので……」

 

 少女はニコッと笑い、頭を下げると次のテーブルへと移動していった。

 

 

       ◇

 

 

 少女たちの作った不思議な街、セント・フローレスティーナ。ケーニッヒはこれをどう捉えたらいいのか分からず、夜風に当たろうとセントラルをぶらぶらと歩いた。

 

 下層階には飲食店やバー、雑貨屋が開いていて多くの人が行きかっている。みんな笑顔で楽しそうにしていて、ケーニッヒも自然と笑顔になってきた。

 

 笑顔の溢れる街、そんな今まで体験したことの無い新鮮な感覚にケーニッヒはこの街の未来が楽しみになる。何しろ貴族の圧政で不景気が蝕む既存の街では犯罪も多く、みんなピリピリとしていたのだ。

 

 その時、向こう側から四人の男が歩いてくる。表情にはやや緊張の色が見られ、ジャケットの中だから見えないが、脇腹の所に何かをぶら下げているようだった。そして、その足運びには、しっかりと地面を捉える訓練を受けた者独特の癖が見受けられる。

 

 普通の人なら気づかないレベルだったが、明らかに浮いているようにケーニッヒには見えた。

 

 農民がほとんどのこの街にそぐわない異様な四人組が気になって、ケーニッヒは静かにやり過ごすと後を追ってみる。

 

 男たちが入っていったバーを確認すると、ケーニッヒも間を開けて入り、彼らの近くのカウンターに座った。

 

 エールを傾けながら聞き耳を立ててみたものの、酒の味がどうの、女がどうのとつまらない話をしている。

 

 しばらく聞いていたが、笑いどころの分からない話で笑い、突っ込みもセンスがない。だんだん辛くなってきた。

 

 単なる思い過ごしだったと思ってふぅと息をつき、エールをゴクリと飲む。

 

 その時だった――――。

 

「今晩だしな。酒はこのくらいにしておこう」

 

 リーダー格の男が意味深なことをつぶやき、店員に会計を依頼した。

 

 いぶかしく思っていると、部下が決定的なことを言う。

 

「成功させておねーちゃんの店でパーッとやりましょう!」

 

「バカ! 声が大きいんだよ!」

 

 ケーニッヒは大きく息をつくと、軽くうなずき、エールをグイッと一気にあおった。

 

 

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