【お天気】スキルの追放令嬢 ~美少女メイドと始める砂漠のスローライフ?~   作:月城 友麻

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64. ズィールヘッグの血

「くぅ! オディールを探せ! 見つけて確実に息の根を止めろ!」

 

 公爵は雹とガレキに埋もれた部屋を見回しながら焦って叫ぶ。

 

 その時だった。

 

 ぐはぁ! ぐふっ!

 

 一人また一人と、黒装束の男たちが倒されていく。

 

 異常に気付いた公爵は、恐怖に追い込まれるように隅に逃れ、剣を構えた。

 

 刹那、月明かりをギラリと反射しながら眼にもとまらぬ速さで剣が迫る。公爵は歴戦の経験を何とか生かし、かろうじて剣を合わせた。

 

 ギィィィン!

 

 響き渡る鋭い金属音。

 

 ケーニッヒはその細い身体に似合わぬ剛力で、ガタイのいい公爵を剣で押し込んでいく。

 

「お前が首謀者だな?」

 

 ケーニッヒは不気味に瞳を赤く光らせながら、公爵を威圧する。

 

 くっ!

 

 ケーニッヒの驚異的な剣圧に翻弄され、公爵は恐怖で冷や汗を浮かべた。剣の達人と呼ばれ、これまでに数多くの偉業を成し遂げてきた公爵だったが、ケーニッヒの剣さばきにははるか高みの色があり、到底及ばぬ絶望を感じる。

 

 とは言え、オディールを処分できないままここで自分が倒れれば、代々続いてきた公爵家はおとりつぶしだ。

 

 ぬぉぉぉ!

 

 公爵は髪を逆立てながら渾身の気迫を込め、熱く燃える【剣気】を呼び起こす。筋肉はパワフルに膨らんで、身に纏っていた黒い装束がパン! と音を立ててはじけ飛んだ。

 

 そのまま力ずくでケーニッヒの剣を跳ね上げ、一気に懐に入ろうとした瞬間だった。踏ん張ろうとした足に力が全く入らない。

 

 えっ?

 

 公爵はそのまま無様(ぶざま)に床に転がり、同時に太ももから激痛がやってくる。見れば脚は失われ、横倒しに転がっていた。

 

「い、いつの間に……、くぅ……」

 

 ガスッ!

 

 ケーニッヒは公爵の頭を蹴り上げ、あっさりと意識を断つと叫んだ。

 

「オディール殿! オディール殿ぉぉぉ!」

 

「ぼ、僕はここだ! ミラーナ、ミラーナがぁぁ!」

 

 瓦礫と巨大雹の隙間からオディールは叫ぶ。その腕の中に抱えたミラーナの心臓は今にもとまりそうに弱弱しく、顔は真っ青でもはや風前の灯だった。

 

「今助けます、動かんように!」

 

 ケーニッヒは氷塊にカンカンカン! と剣を叩きこむと、氷塊はバラバラとなり、ゴロリと転がりながら床に散らばった。

 

 息も絶え絶えのミラーナをソファーの上まで運んだ時だった、ゴゴゴゴと建物全体が地震のように揺れ始める。

 

 な、なんだ……?

 

 顔を上げると街の入り口に立っていたフローレスナイトがバラバラに壊れ、崩れ落ちていくのが見えた。

 

「えっ!? どういうこと!?」

 

 オディールは混乱の極みに達し、叫んだ。

 

「ミラーナが死ねばミラーナの土魔法はすべて解除される。つまり、この街全ては消え去るのじゃ。見せてみろ」

 

 いつの間にか戻ってきていたレヴィアが、聖水の小瓶のふたを開けながら、ミラーナに刺さった矢を険しい目で眺めていく。

 

「ねぇ! どうしたらいいの!?」

 

 涙を溢れさせながら、オディールは悲痛な叫びをあげる。

 

「んー、これはマズい……」

 

 レヴィアは眉間にしわを刻みつつ、貫通して胸から飛び出ている矢じりをパキッと取り去ると、聖水をかけながら矢を背中の方から静かに抜いていく。

 

 建物の揺れが地震のごとく激しさを増し、まるで今にも崩れ落ちそうな危うさが漂う中、レヴィアはいつになく慎重な手さばきで矢を引いていった。

 

 わずかに抜くたびに、ピュッピュ! っと噴き出してくる鮮血。

 

 うぅぅぅ……。

 

 ミラーナが苦しそうにうめく。

 

「ミラーナ、頑張って!」

 

 オディールはポロポロとこぼれる涙をぬぐいもせず、ミラーナの手を熱く強く握り締めた。

 

「引き抜くぞ! 頑張るんじゃ!」

 

 レヴィアが矢を取り除くやいなや、鮮血が勢いよく吹きだしてくる。

 

「お主! 押さえとけ!」

 

 レヴィアはハンカチで傷口を覆うと、オディールの手を引いてそこに押し当てた。

 

「ミラーナぁ……」

 

 涙でにじむ視界の向こうでハンカチはあっという間に鮮血に染まっていく。オディールはひたひたと死神の足音が聞こえてくるような恐怖に襲われる。自分の命より大切なミラーナ、その命を支えている鮮血がどんどんと失われていく様に、オディールは蒼白となって今にも壊れてしまいそうな衝動に苛まれた。

 

「しっかりしろ! もういい! 我がやる」

 

 レヴィアはガタガタと震えるオディールを下がらせ、ミラーナに少しずつ聖水を飲ませながら、傷口の周りを観察する。

 

「これは……、毒じゃな……。聖水の効きが悪いし、肌が黒ずんできている」

 

「ど、毒!?」

 

 レヴィアは折り取った矢じりをジッと観察し、指先で矢じりをなぞるとペロッと舐めると、眉間にしわを寄せた。

 

「マズいな……。ズィールヘッグの血じゃ」

 

「えっ!? 何それ?」

 

「伝説の毒蛇の毒じゃ。血清は……ない」

 

「そ、それじゃ……」

 

 レヴィアはキュッと口を結ぶと、沈痛な面持ちで首を振った。

 

「ぐわぁぁぁ! 嫌だ! 嫌だよぉぉぉ!」

 

 オディールは苦悩に満ちた表情で頭を抱え、悲痛な叫びを空に向ける。聖水も効かない毒がミラーナの命を蝕んでいる。それは到底受け入れられない運命だった。

 

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