【お天気】スキルの追放令嬢 ~美少女メイドと始める砂漠のスローライフ?~   作:月城 友麻

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69. 月の科学

 男はペロリと唇をなめると楽しそうに言った。

 

「よし! こうしよう。これからクイズを出すぞ。答えられたら教えてやる。ぐふぐふっ」

 

「クイズ……?」

 

「君がたどり着けるかどうかが分かるクイズさ。どう、このホスピタリティ? くふふふ……」

 

 下品な笑みを浮かべる男。

 

 しかし、どんなに気持ち悪い奴でも、今、オディールに選択肢はなかった。

 

「わ、わかりました……」

 

「それでは行くぞ! 迷える子羊、結城くん特別クイーーズ! 『月夜の晩に雲が出て、誰も月を見てない状態になりました。月はどうなる?』」

 

 つばを飛ばしながら、楽しそうに大声で喚くと、男はニヤニヤしながらオディールの瞳をのぞきこむ。

 

 は……?

 

 オディールは困惑する。月は壮大な衛星だ。見ている人がいるかどうかと月の状態には何の関係もない。『変わらない』がどう考えても正解だ。

 

 しかし……。

 

 オディールは考え込む。そんな分かり切ったことをクイズにするわけがない。であれば、月は違う状態になる……のだろうが、一体どうなるかなんて見当もつかない。

 

 こんなバカげた哲学的な質問に正解などあるのだろうか? 単に自分をからかって楽しんでいるのではないか? オディールはギロリと男をにらんだ。

 

「くっくっく……。だから君には神殿にはたどり着けんのだよ」

 

 男は愉快そうに笑い、オディールはキュッと口を結んだ。

 

 何としてでも女神さまのところへたどり着いて、ミラーナを救わねばならないというのに、この体たらくである。

 

『考えろ……、考えるしかない……』

 

 オディールは目をギュッとつぶって必死に頭を働かせる。

 

 この時、天使に言われたことをふと思い出した。

 

『この世界は情報でできています』

 

 オディールはこの哲学的で不可解な言葉に、クイズと同じ匂いを嗅ぎ取った。

 

 『情報』とは一体何なのだろう? この世界はモノがあって、エネルギーがあって、それらの組み合わせで情報を表していると思っていたが、天使は『それは逆だ』と言いたいのではないだろうか?

 

 情報がモノやエネルギーを表現している……。オディールはどういうことか混乱しかけたが、ヴァーチャルゲームの世界がまさにその状態であることに気が付いた。

 

 3Dがグリグリ動くコンピューターゲーム。最新のものでは実際の景色と見まごうような精緻な世界を構成していて、思わず感嘆のため息をついたことを思い出した。

 

 天使が言いたかったことは、この世界はコンピューターゲームのような仮想世界だということなのかもしれない。それが本当かどうか確かめようもないが、もしそうだとしたらクイズの答えは何になる?

 

「くふふふ……。どうした? 降参か?」

 

 男は嬉しそうに笑う。

 

「ちょっと待って! もうすぐでわかりそうなんだから!」

 

 オディールはいら立ちを隠さずに叫ぶ。

 

 クイズの質問は月には関係なく、『コンピューターゲームを作っていて、見えないところにモノがある時、それは描画しますか?』という問題なのではないだろうか? だとしたら答えは簡単だ。そんなのは描画する意味もないので表示されない、それが答えになる。

 

 つまり、月を見てる人が誰もいなければ月を描く意味もない。月は消えているはずだ。

 

 そんな馬鹿な……。

 

 あまりにも荒唐無稽な結論にオディールは頭を抱える。

 

 とは言え、天使の話を前提とするならこれが答えだろう。他に良さそうな答えも思い浮かばないのだ。これで行くしかない。

 

 オディールは覚悟を決めるとキッと男をにらむ。

 

「答えが分かったわ。月は消えてるんでしょ?」

 

「ほほう……。これは驚いた。どうしてわかった?」

 

 男は目を丸くしてオディールを見る。

 

 どうやら正解だったらしい。しかし、それは逆にこの世界がリアルではないということを意味している。それはそれでオディールの心に不安を呼び起こす。

 

「この世界は情報でできてるんでしょ? で、教えてくれるんですよね?」

 

「うむ、まぁ、約束だからな。この先を道なりに行くだけだよ。だが、それでもまだ君には神殿へは入れない。どうだね、ワシの仲間にならんか? くふふふ……」

 

 男はいやらしく笑う。

 

「は? 結構です。僕は神殿へ向かうのでこれで……」

 

「あの娘を治してやるって言ってもか?」

 

 えっ!?

 

 オディールは驚いて男のドヤ顔を見つめた。

 

「『この世界は情報でできてる』ってことの意味をまだ君は理解しとらんようだな。【ズィールヘッグの血】という化学物質が実際に存在する訳じゃない。ステータスが毒状態になっとるだけだ。これを解除してやるだけでいい。分かるか? ウヒヒヒ……」

 

 オディールはなぜそんなゲームみたいな説明になるのか頭が追い付かず、ポカンと口を開けたまま困惑する。

 

 そんなオディールを見て、男はにやけながら言った。

 

「結城くん、君は高校で物理や化学を習っただろう? 君の【お天気】スキルを科学で説明してみたまえ。ん?」

 

「か、科学!?」

 

 オディールは唐突な科学の話に面食らった。祭詞を唱えるだけで雨が降り、風が吹く、そんなことは科学的にはあり得ないのだ。それを説明しろとは一体どういうつもりなのか? オディールは無理難題に圧倒され、力なく首を振った。

 

 

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