SCP:NIKKE ーアブノーマル・レポートー   作:野生のムジナは語彙力がない

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関連SCP:
→SCP–040–MN『ネロですよろしくおねがいします』
……のアフターストーリー的なお話です。

※なお本作はチャプター14までのネタバレを含んでいるのでご注意を


tale『4月1日のシンデレラ』

 

 

 

 

4月1日 23時50分

前哨基地・コマンドセンター(執務室)

 

 

「つ、疲れた……」

 

まもなく日を跨ごうというその時間、前哨基地の指揮官は執務室のデスクに深く身を落ち着け、心の底から深いため息を吐いていた。ワーカーホリックのユルハほどではないが、その表情は長時間に渡る心労と肉体的な疲労で荒みきっており、軍服の背中部分は汗でべっとり濡れていた。

 

その原因となったのは他でもない、突如として前哨基地で発生したエピデミックにあった。

 

前哨基地にいた全てのニケが自身を『ネロ』であると認識してしまうという謎の異常現象、指揮官自身も全てのニケが『ネロ』に見えてしまうという認識異常を被った。しかも厄介なことに、その異常現象はウィルスのように人から人へと感染する性質を持ち、それによって前哨基地には大量の『ネロ』が溢れかえるという事態になり大混乱へと陥っていた。

 

指揮官はこれ以上の感染拡大を防止すべくエニックや副司令官など中央政府と連携し、異常の発生源である前哨基地の隔離を実行。一刻一秒を争う自体の最中、指揮官の迅速な対応によりアークへの被害を未然に防ぐことに成功した。

だが、指揮官の仕事はそれだけでは終わらなかった。実はエピデミックの裏側で指揮官は前哨基地の隅から隅まで走り回り、今の今までずっとニケたち1人1人に手厚いメンタルケアを行っていたのだ(報告書には記載されていないが、ニケたちの間で思考転換が発生する危険性もあった)。それによって前哨基地のパニックは最小限に抑えられ、特に大きな被害もなく前哨基地の士気を安定させることができた。

 

それだけならまだ良かった。

そう、ピルグリムが出現するまでは……

 

どういうわけか、この日に限ってクセの強いピルグリムのニケたちが前哨基地にこぞって集結。指揮官は感染が地上へと広がらないよう彼女たちを説得して前哨基地に引き止め、時に彼女たちの趣味や習慣に付き合ってあげるなりして、自由気ままな彼女たちに振り回されっぱなしでもあったのだ。

 

なので指揮官にとって、今日という日は本当に長く忙しない1日だった。(逆にこの状況を楽しんでいたニケも何名かいたのだが……)

 

幸いなことに異常現象は長続きせず、夕方頃から回復の報告がチラホラと出てくるようになり、夜も更けた頃になると殆どのニケが異常性からの脱却を果たしていた。

残った最後の1体の回復を見届けると、指揮官は異常性の消失を上へと報告。ややあってアンダーソン副司令から送られてきた「再発がなければ2日以内に隔離措置は終了する」という旨のメッセージを見て、指揮官はほっと胸を撫で下ろしたのだった。

 

「……?」

 

その時、窓の外に色とりどりの光が走った。

前哨基地の夜空に向けて、ベロータやネオンたちが季節外れの花火を打ち上げているのだろう。指揮官は事前に報告があったそのことを思い出して目を瞑り、遠くの方から聞こえてくる爆音に耳を澄ませた。

 

ベロータによると、エピデミックからの復活を記念した花火大会とのことだった。1番の功労者である指揮官も花火大会に誘われてはいたのだが、彼の疲労を心配したラピたちが気を遣って人払いをしてくれていた。

なので現在、コマンドセンターには指揮官1人しかおらず、執務室はシンと静まり返っていた。花火の爆音に混じって、うっすらとニケたちの歓声が聞こえてくる。それらを聞いているとなんだか日常に戻ったような気がして、指揮官はとても穏やかな気持ちに浸れた。

 

一瞬、眠る前にシャワーで軽く汗を流そうと思いかけるも、身体中に満ちた充実感で体が脱力してしまっているのか、それ以上は思考が働かなかった。ほどよく心臓を揺さぶる花火の爆音に心地よさを覚えながら、今まさに指揮官が意識の紐を手放そうとした……その時だった。

 

「…………?」

 

カシャン

意識の奥底で自動扉が開く音を耳にした。

それと同時に執務室の中に何者かの足音が生じる、それは静寂に包まれた執務室の中でひときわ大きな存在感を放っていた。

 

「…………」

 

それは迷うことなく執務室の中を一直線き進み、やがてデスクに眠る指揮官の目の前まで来ると、そこで何を思ったのか少しばかり逡巡するような気配を見せ始めた。

 

誰だろうか?

指揮官はそう思いつつも、眠気のせいで上手く対応することができない。せめて来訪者の姿だけでも確認しようと指揮官はうっすら目を開け……

 

「……っ…………」

 

「……ネロ? いや……?」

 

目の前に立つ人物を見て指揮官は思わずその名前を口にし、そしてすぐさま否定した。言葉こそ何も発していないが、雰囲気や立ち振る舞いがネロのそれとは違っていたからだ。

今日1日を経験して、指揮官は目の前にいるネロが本当は誰なのかをある程度察することができるまでになっていた。雰囲気、声、口調、気配、背丈、見た目がネロになっても変わらないそれらの要素を元に何者かを判別しようとするも、頭がちゃんと回っていないせいかどうも思い当たる節がなかった。服装で誰なのかを判別しようとする試みは、彼女が服の上から見慣れぬ黒い外套を纏っていたため不可能だった。

 

いや、それよりも……

指揮官は重たい頭と体を無理やり言い聞かせて素早く身を起こした。つい先ほど最後の1体の回復を確認し、てっきり前哨基地から異常性は消失したと思い込んでいたはずが、ここに来てまだ姿がネロのままのニケがいたという事実に気づき指揮官は衝撃を受けた。

 

ただ回復が遅れているだけなのか?

まさか異常性が再発してしまったのだろうか?

指揮官は最悪の事態を想定して思わず身構えた。

 

「とにかく、君は……?」

 

「…………」

 

指揮官はオロオロとなりかけている自分の心を落ち着かせ、とりあえず状況を確認しようとデスクから立ち上がり、目の前に佇む『ネロ』へと問いかけた。

しかし『ネロ』は何1つ言葉を発することなく、ただ真っ直ぐに指揮官の顔を見つめるばかりだった。その瞳は涙ぐんでいるのか僅かに潤み、頬は泣きはらしたかのように紅みがかっていた。

 

「えっと、どうし……」

 

「……っ!」

 

その様子を見て、心配になった指揮官が思わず『ネロ』の元へ歩み寄ろうとしたところ、それよりも早く『ネロ』は意を決したように唇を結び、指揮官の胸の中へ飛び込んできた。

 

「何を……?」

 

急に抱きつかれて指揮官は最初こそ戸惑うも、不思議と嫌な気持ちは起こらず、むしろ抱きしめ合っている内に心の奥底から愛しさが湧き上がってくるのを感じた。直に触れ合うことで感じられる『彼女』の温もり、その温かさに指揮官はどこか懐かしいものを感じていた。無意識のうちに彼女の体を引き寄せてしまう。

 

指揮官のことをぎゅっと抱きしめる『彼女』の方も、信頼しているとばかりに胸の中で安らかに目を閉じ、うっとりとした表情で心ゆくまで指揮官の温もりを感じているようだった。

 

しばらく抱きしめ合っていると、やがて部屋の隅に置いてある時計から12時になったことを示すオルゴールの音が鳴り響いた。そこで『彼女』は名残惜しそうな様子で顔を上げ、そして指揮官の耳元に唇を近づけ……

 

 

 

「……指揮官」

 

 

 

たった一言、そんな囁きを送った。

 

「!!」

その瞬間、指揮官の心は激しく揺れ動いた。

 

「その声は、まさか……!」

 

「…………」

 

指揮官がそれを認識するよりも早く、彼女は指揮官の腕からすり抜けるようにして距離を取り、そして身につけていた外套を勢いよく放り投げた。空中で大きく広がった黒い布が、ほんの一瞬だけ指揮官の視界を塞ぐ。外套が地面に落ちた時、指揮官の目の前に『彼女』の姿はなく、指揮官は遠くの方で自動扉が閉まる音を耳にした。

 

「待ってくれ!」

 

指揮官は慌てて『彼女』の後を追った。

執務室を飛び出し必死になって辺りを見回すも、しかしその姿は夢か幻だったかのように、跡形もなく消え失せてしまっていた。

 

その時、ベロータの打ち上げた花火が盛大な爆音と共に前哨基地の夜空を明るく照らした。指揮官は反射的に大きな光を放つそちらの方に目を向け……

 

「……!」

 

打ち上げられた花火を背後に、夜空に浮かび上がった『彼女』の姿を見つけた。白銀の髪の毛、真紅の瞳、穏やかで慈愛に満ちた雰囲気、刺々しい印象を受ける数々の兵装、そして風にたなびく白い包帯。色鮮やかな閃光を背中に纏い、指揮官に向けてにっこりと無邪気な笑顔を送る『彼女』の姿は、指揮官の網膜に深く刻みこまれるのだった。

 

しかし花火の閃光が潰えると同時に『彼女』の姿は深淵の中へと消え失せ……つい先ほどまで『彼女』がいた空間には、また新しい光の華が咲き誇るのだった。

 

 

 




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