ルーミアだけど、どうやらめっちゃ強いらしい   作:ポンデーニュ

12 / 16
文字数減らして更新頻度上げるつもりが毎回一万字を上回ってしまいます。


第12話「ネイティブフェイス」

事の始まりはゆかりんの一言だった。

 

「結局、博麗の神はどこへ行ったのかしら」

 

あれからもう二ヶ月以上が経つ。

一つの場所に留まり続けるのは好きではないけど、今はこうして村の近くでのんびりまったり過ごしているのだ。こういうのもわるかない。

 

ゆかりんも大体一緒だ。

人間に対して事ある事に文句を漏らしつつも、なんだかんだ村に馴染んでいる様子。

 

「え?前も言ったけれど、私が倒したんだって」

 

その日も、例の丘で彼女と一緒にお昼寝をしていたんだ。

鮮やかな蝶々が私の頭に止まって、ちょっとくすぐったいなって感じた頃合いだった。

 

「……」

 

私の方へ首を向けて、ジト目だった。

ゆかりんはこの目が好きらしい。

 

私も真似てやってみせると、今度は普通に睨まれた。

おお、怖い怖い。

 

「嘘じゃないよ、本当に倒したんだってば」

 

「ふ~ん。どうやって倒したのかしらね」

 

「そりゃあ、闇で閉じ込めてやったのさ」

 

「闇で、閉じ込める?……そう、じゃあ今試しにやって見せて」

 

見上げる。

わたあめがゆらゆら流れているのが見えた。

 

「えっと、今ってぽかぽか青空のお昼だよね?」

 

「そうね、ぽかぽか青空ね」

 

「昼だと無理なんだ、力が上手く発揮できなくって」

 

ゆかりんはわざとらしいくらいにため息をついた。

綺麗な仕草だ。

 

彼女は何をしても様になるからずるいのだ。私がやった所で、子供が拗ねてるようにしか見えないだろう。

 

「ダメだよため息なんて。そんなことしたら幸せが逃げちゃうよ」

 

「その理論気に食わないのよ。ため息っていうのは自分の内的な心労を外に押し出してくれるのよ、むしろ溜め込んだ方が不幸せじゃないかしら」

 

「げー理屈っぽいのは嫌いだよー」

 

ゆかりんは永琳と気が合いそうだ。

 

「こっちは真剣なのよ、ルーミア。麓の兵士を私は虐殺してしまったし、子供だって連れ帰ってしまったの」

 

私が押し付けた兵士は、ゆかりんがバラバラにしたらしい。

ああ、一応私も元は人間だからか、いくら他人とはいえなんだかちょっと罪悪感が…。

 

「神が戻ってしまえば報復に来る可能性だってあるのよ?真面目に答えてよ、もう」

 

「ホントだよ!本当に私が神を倒したんだってば!」

 

「貴女ねぇ……」

 

「ああっそうだ、じゃあ今夜見せてあげるよ!私の本当の強さ!」

 

すっかり機会がなかったし、なんだかその必要もないと思って考えていなかったけど、そろそろ彼女に解らせる必要があるみたいだ。

 

ふふん、仕方ない、見せてやりますか。我が真の力ってやつを、さ。

 

「……」

 

そんな私の考えもお構いなしに、なんというか、「貴女といると疲れるわ」な顔だ。

 

もう見飽きてきたくらい、ゆかりんはこんな顔をする。

 

「…はぁ、分かったわ、今夜ね」

 

やがて観念したように息を吐き出した彼女は、立ち上がってどこかへ行くつもりらしい。

 

「ふふふ、見て驚くがいいさ!」

 

こうして私のスーパーパワーお披露目会が決定したのだ。

村に近いと危ないので、開催場所は私とゆかりんが初めて出会った森になった。

 

「それじゃあ、私は夜までちょっと出かけてくるわね」

 

隙間に入って、手だけをこちらに向けて振ると、すぐにどこかへ行ってしまう。

最近ゆかりんは何かを探しているらしい。賢者さんは忙しそうで大変だ。

 

「さぁて、ちょっくら体でも動かそっかな」

 

夜の予行演習の為に、軽くストレッチがてら運動でもしよう。

 

しかし、なんだか強キャラ感あっていいな。

萃香とか勇儀あたりに今のセリフを言って、こてんぱんにしてやるのが私の夢です。

 

え、それが昼間だったらって?

そりゃあもうこてんぱんになるのはこっちですよ。

 

…フラグじゃないですからね。

 

「よっと」

 

宙に浮く。ふわりとした空気が、私を空の旅に連れて行ってくれる。どうやらもう夏らしい。焦がれるような日差しを一身に受けた。

 

少しの間そんな青空飛行を楽しんだ後、村から少し離れた平原の上空に位置する。のどかに草が揺れている。

 

手を掲げて、あの闇弾をイメージした。

こいつが辺り一帯を消滅させる様を見れば、ゆかりんだって納得するはずだ!

 

「うん…うん…」

 

小さなドス黒い稲妻が、線香花火のように私の手の甲ではじけた。

 

そうして力を込めて集中すると、それは解き放たれ、これから何が起こるか知る由もない平原地帯へと衝突した。

 

「うわあっ」

 

どうやら少し力加減を間違えたらしい。

少しのつもりが、弾が当たった地面の付近がかなりの規模で抉れてしまった。楽しそうに揺らいでた草や花の多くも消えて無くなっている。ごめんね。

 

やはりこの弾だけは、昼でも訳のわからん破壊力らしい。

 

「こんなんじゃあ弾幕ごっこに使えやしないや」

 

そういえば、原作のルーミアって昼の間自分の周りを闇で覆って移動していなかっただろうか。

傍から見ると丸くて黒い球体がふわふわ浮いてるように見えるやつ。

 

「……あれ、やってみるか」

 

思い立ったが吉日、いざ試してみよう!

私は考えたことを直ぐに実行してしまう、行動力があるタイプなのだ!

 

「ん~?」

 

自分の周りに闇をイメージする。もやもやした気持ちの良い暗闇さんが、私の体を包んでくれるイメージだ。

こう、なんというか、闇のお布団に包まれるような感覚だろうか。

 

「おお…おお?」

 

するとどうやら、私の体の周りが、暗闇で覆われていくではないか!

 

小さな黒いもやが、やがて集まって大きく形成され、それが体全体を虫が這い寄るように覆って行ったのだ!

 

「わぁ!」

 

私はもしや天才肌タイプなのだろうか?

行動力があって天才肌だなんて、こりゃエジソンも顔負けだ!やったね!

 

「あ、ああ……な、なんか……き、気持ちいいや」

 

まるで、そう、お母さんのお腹の中にいるような、そんな安心感があって、しかも身体に染み渡るように暖かくて……。

 

「……んえ?」

 

そんな心地良さを身に染みて感じていたら、すっかり私の周りは真っ暗になった。

 

何も見えない。

夜とかじゃないのだ、本当に一切何も見えないのだ。光の一切がない、どこを見渡しても黒、黒、黒……これが黒という色なのかすら分からないほど、どこを見ても黒、黒、黒なのだ!

 

「うあっ!」

 

そして同時に、私は平衡感覚を失った。

 

どっちが下でどっちが上か、今自分がどんな風に浮いているのか、全く分からなくなってしまった。

大昔雪山で雪崩にあったことがあったが、あれに近いかもしれない。……いやあれよりも酷い、本当に上下や前後の感覚が完璧完全にないのだ。

 

「ぎゃっ、な、なにこれ!」

 

そして私は、回転しているようだった。

そう、回転。くるくる回ることですよ、いや、ぐるぐるかな?どっちでもいいけどさ。

 

ぐるぐるぐるぐる……訳も分からずに、三半規管もめちゃくちゃになるくらいに。

未だに周りは真っ暗暗闇だけど、それでもそのぐるぐる具合は感じ取れるのだ。

 

極めつけにもう一つ、断言出来ることがあった。

 

「ひぃ!止まって!止まってぇぇ!」

 

私はどうやら、物凄いスピードで移動しているらしい。

あれだ、ジェットコースターで急な坂を一気に降り落ちる時のような、あの後ろに大きく引っ張られるようなあれだ。あれを百倍くらいにしたやつが、今私が感じているものだろう。

それをぐるぐると、身体全体を回転させながら受けているのだ。

X軸、Y軸、Z軸……どこを基軸としてるのかすら分からないが、もうずっとぐるぐるだ。もちろん何も見えない状態でね。

 

「うぎゃあああっ!!」

 

何も見えない。

今の私がどこを向いているのかも分からない。

そしてとてつもない速度。

 

ただ、ぐるぐる。

ぐるぐる。

ぐるぐる……。

 

はっきり言ってめちゃくちゃ怖い!

今自分がどんな風になってるのか全く分からない!

 

ゆかりん助けて!!

 

##########

 

「ぐるぐるぐるぐるぐるっ!!」

 

そう短くない時間、私はぐるぐるしている。

え?冷静そうだねって?

 

「やだ!怖い!もう帰りたい!」

 

これが本心なんだけど、そう思ってしまえばしまうほどもっと不安になるから平然を装ってるんだ。

 

あまりのぐるぐる具合で、「ぐるぐる」と口に出しているらしい。もうパニックなのかなんなのか、訳が分からないのだからしょうがない。

 

「ぐるぐるぐるぐぎゃあっ!!」

 

何か大きな衝撃が加えられて、あのブラック空間も消え失せた。

視界に映るのは、綺麗な青空……が、渦巻きみたいにぐるぐるしている姿。

どうやら仰向けになって空を見ているらしいが、ぐるぐるの後遺症が邪魔をしているらしい。目が回るレベルMAXだ。

 

もう二度とやらないぞ、これ。

 

「んんんえぇ……あぁ……」

 

トイレに流れる水のように、ぐるぐるぐるぐる……。白い雲だろうか?青に混じった白が、絵の具をぶちまけたキャンパスのように、ぐるぐるぐるぐる……。

 

こりゃあ相当目がぐるってるな。

ああ、気持ち悪い、吐いてしまいそうだ。

 

「うっぷ……いたた……」

 

一体どうして止まってくれたんだろう。あのまま、一生をぐるぐるするだけで終えてしまうのではないかとさえ考えたのだ。

 

立ち上がろうにも、身体のバランスが働かない。足に対する力の入れ方が思い出せない。

 

「んぅ?」

 

見ると、私の周りは瓦礫のようになっていた。

木材や石……だろうか?地面を構成する要素は、バラバラに砕け散ったそれらだ。

何かの建物の残骸だろうか?

 

よく分からない。だってぐるぐるしてるんだもん。

今日だけで''ぐるぐる''って単語を一生分考えたような気がする。

 

「貴様、何奴!?」

 

「へ?」

 

顔を上げると、何やら人間が集まっているようだ。

どれもこれも、台風のように渦を描いてぐるぐるしている。

 

「ああっ、本殿がっっ!!」

 

喚き散らす人間達。声から男だとは判断できる。

 

ああ、まずい、本当に出そうだ……。

 

「ううっぷ……」

 

私は膝をついて、両手を地面につき、いつでも出せるようにした。

 

何をって?言わせないでよもう。

 

 

 

「何の騒ぎだい?」

 

逆流しそうになる体の内部構造を意識していると、また声がした。今度は女だ。それも結構幼そうな声だ。

 

「あ、諏訪子様!!こ、こいつが、突然空から降ってきて!」

 

「ッ!……こ、この、少女が?」

 

「奴らからの伝言でしょうか…?」

 

何やら会話を始めているようだが、もうこっちはそれどころでないのだ。

 

「あ、まずい……ほんと、無理……」

 

限界が近づいて、ふと顔を上げると、そこには……。

 

 

 

不思議な帽子をした、美味しそうな食べ物があって、私は吐き気を忘れた。

 

「たべなきゃ」

 

そうして立ち上がって、すぐにでも噛みちぎってやろうと、食べ物へ歩く。

 

「近づくな!変な奴!」

 

食べ物の周りを取り囲んでいた、あの変な奴らの声を聞くと、途端に、私は体を鋭い何かで貫かれた。

 

 

 

「うあっ」

 

「な、なんだこいつ!?ふ、復活した!?」

 

ああ……瞼が、閉じて、いく。

 

疲れた、帰りたい、眠りたい。

 

きっと、あの、ぐるぐるの、せいだ。

 

「こ、こいつめ!」

 

「待って、もういいよ」

 

「し、しかし…」

 

「……牢屋に閉じ込めて。人質に使えるかもしれない」

 

誰かの話し声と共に、ゆっくりと、私は夢の世界へ入っていった。

 

 

「……ん」

 

ルーミアは目を覚ました。

 

天井付近から注がれる西陽で目を覚ました。

 

「いてて……」

 

体の節々が痛む。

固く、ひんやりとした地面の上で、彼女は暫くの間横になっていたようだった。

 

特に、首の後ろが痛む。

 

「……んえ……どこ?」

 

見渡すと、小さな牢屋だった。

鉄のような金属で出来た格子を除くと、壁も床も天井も、無骨で冷たい印象を受ける石造り。

 

格子の向こう側もまた同じ印象だ。

 

その反対側の壁の上部に小ぢんまりと空けられた穴から差し込む太陽光だけが、外を感じられる要素だった。

 

「痛っ!」

 

格子に触れてみると、まるで静電気のような痛みが走った。神力のような何かが纏っているらしい。

 

「へ?牢屋?」

 

西陽がもう夕方である事を告げてくれる以外で、彼女がこの空間から読み取れる要素はそれだけだった。

 

「……私、確か……」

 

気を失う前のことを思い出す。

寸前に見た、不思議な帽子の少女。

 

「あれって……」

 

「目覚めたかい?」

 

「あ」

 

もう一度鉄格子側へ目をやる。

 

少女がいた。

 

薄い金髪の上、大きな二つ、まん丸おめ目、不思議な帽子。

 

服は青紫と白を基調とした、幾分さわやかなもの。ルーミアが先程思い出していた、不思議な少女その人だった。

 

「あ……諏訪子、様?」

 

ルーミアは直ぐにそれが誰なのか分かった。

こんな珍しい格好をしている少女が、諏訪子でないとしたらなんだというのだ。

 

「ご名答」

 

諏訪子の目線に、ルーミアは身震いしそうになった。

威圧感だ。小柄な体のその内側に、とてつもない力が宿っているというのが見て取れた。

 

「さぁて、あいつは私の事、どんな風に言ってるんだい?」

 

「あいつ…?」

 

「あくまでしらを切るつもりかい」

 

彼女は腕を組んで、凛とした表情だった。

依然として鋭い目つきは変わらず、追求か、あるいは糾弾でもしている様子であった。

 

しかしルーミアは、先程からあることが気になって仕方なかった。

 

「お前は人畜無害な様子だ。格好は珍しいけれど、至って普通の少女だ」

 

諏訪子は腕組みを解いた。

そして格子のすぐ前まで来て、顔を寄せた。

 

「しかし何故だろう。お前の姿を見た時に、私の中の深層心理か、本能か、あるいは危機管理能力か、それが大きく叫んで今も止まないんだよ」

 

彼女はその顔に似つかない、憎悪のような顔をルーミアに向けた。まるでかつてからの憎き仇敵が、目の前にいるかのように。

 

「お前を今すぐに殺せってさ。すぐにでも消し去らないと大変なことになるって声が、ずっと聞こえるんだよ」

 

「えっと……」

 

ルーミアは言い淀んだ。

そして諏訪子の全身をもう一度一瞥する。

 

やはりどこか違和感があった。

 

「何だい、何か気になることがあるのかい?」

 

「いや、その……」

 

少しの間、迷う素振りを見て、ルーミアは言った。

 

「蛙の装飾、まだ付けてないんだって思って」

 

諏訪子といえば蛙、蛙といえば諏訪子であった認識のルーミアにとって、彼女の服にその装飾が施されていないのが、ずっと気がかりだったのだ。

 

「ッ!!お前、やはり…!」

 

その時、数人の男達、兵士達が、諏訪子の元へ走ってきた。

 

「諏訪子様、ここにいらっしゃいましたか!!奴ら、攻撃を仕掛けてきました!!」

 

「ちぃっ!読みは外れたか!お前達、こいつを見張っておけ!」

 

兵士達が諏訪子に何かを伝え、彼女は牢屋から出て行った。残されたのは、強面の男兵士達と、何も知らないルーミア。

 

「え、あの、こりゃ一体どういう状況で?」

 

「黙れ!」

 

「ごめんなさい」

 

 

ルーミア、現在収監中です。

今は一人の兵士さん?が私の見張りにいる。

 

兵士の多くは、ちょっと前に騒がしくなるや否やみんな居なくなってしまった。なんだか忙しそうだね。

 

何一つ状況が理解できないけれど、ひとつ言えるのは……。

 

「やった!ケロちゃんに会えたぞ!!」

 

「黙れ!」

 

「ごめんなさい」

 

そう!ついに三人目だ!永琳、紫に続いて、三人目なのだ!

 

というか今がどれくらいの時代なのか分からないけど、諏訪子がいる時代ってことは、あれだろうか?かの有名な諏訪大戦ってやつだろうか?

 

「うわぁ……諏訪子様、カリスマ性あって格好良かったなぁ……」

 

「何度言わせる!黙れ!」

 

「ごめんなさい」

 

彼女、大きくないのになんというか、大物オーラみたいなの凄かったな。カリチュマじゃない、カリスマって感じ。私にも出せるかなあれ。

目玉のついたヘンテコZUN帽を生で見れたのも嬉しい。あれ私も欲しいな、ペアルック的な。

ああ、神様は嫌いだけど、あんな神様だったら許す!

 

そういえば私に対してなんかすっごく怖い顔してたけど、多分あれだろう、例の食欲のせいで私が彼女を襲おうとしたから、それで警戒していたんだろう。

 

ああ、ほんと、原作キャラに出会う度にあれが発動してたら面倒ったらありゃしない。

もし夜なんかに出会ってしまって、そのキャラを食べるなんかしてしまったら大変だ。どうにかして改善しないと幻想郷に住めやしない。

 

「う~ん」

 

そんな事で頭を捻っていたら、西陽はいつの間にか月明かりに変化していた。もう夜らしい。

 

ああ、まずい。ゆかりんとの約束があるんだ。早く帰らないと。

 

「あの~私、いつここから出られる?」

 

「しつこい、黙れ!」

 

「私用事あってさぁ」

 

このままケロちゃんと仲良くなりたいけれど、しかしゆかりんとの約束を破る訳にはいかない。私は人との約束をブッチするような妖怪じゃないのだ。今日の所は一旦帰らせて欲しい。

 

「ごめん、また戻ってくるからさ。ちょっとそろそろ帰るね」

 

「貴様、何を言っている!?」

 

仕方がない。こうなったら強行突破だ。

 

あの弾をイメージする。

夜だから、本当に本当に威力を抑えないと大変なことになる。

 

「う~ん、こんくらいかな?」

 

「おい!今すぐそれをやめろ!何をしている!?」

 

手から繰り出される小さな稲妻を見て、兵士が叫び始めた。

 

「ごめんごめん、これ調整難しくって」

 

「おい!それ以上変なことをすると殺すぞ!」

 

兵士は牢屋の鍵を開け、ずかずかと中に入ってきた。

そうして私に金属の槍を向ける。光沢が凄いな、もしかして鉄?

 

「ちょっと、邪魔しないでよ!」

 

「今すぐそれをやめろ!」

 

「ま、待って、今調節してるから…」

 

ああもう、こっちは繊細な作業してるんだから邪魔しないでよう!

 

「ええい!死ねっ!」

 

兵士はせっかちなようで、私に槍を突き出してきた。

 

「うぎゃっ!」

 

 

 

――ドッガーーーーンッッ!!

 

その瞬間、大きな轟音が響く。

牢屋が大きく崩れさり、消滅していく。

 

「うわあああ、なんだっ!!」

 

「あ」

 

やがて周りの景色が変わる。

開けた景色が映った。そして夜風を直接感じる。

 

私は牢屋から抜け出したようだ。

月明かりを直に受けているのもその証拠だ。

 

「まずい、やっちゃった……」

 

周りは大きなクレーターのようになっている。牢屋だけでなく、周りの建物もなくなってしまったらしい。

どうやら兵士に邪魔をされてしまって、ちょっとばかり強い出力で弾が発せられてしまったらしい。牢屋の格子だけ破壊しようとしたつもりが、辺り一帯消し飛んでしまったのだ。

 

「な、なんて……化け、物……」

 

邪魔をした兵士は、私のすぐそば、近距離にいたからだろうか、なんとか生き延びて尻もちをついている。

 

私に向ける目付きは、さっきまでの敵対心から、恐怖心へと変わっているようだった。

 

「いや、ごめん。君が邪魔するからさ」

 

謝っても仕方がない。彼が無理やり茶々を入れてくるのが悪いのだ。

 

今はゆかりんの元へ急がないと。約束を守らない妖怪は嫌われるのだ。私は約束を守るルーミアなのだ。

 

「じゃ、また来るから」

 

「も、もう来るな!」

 

私は空へ急いだ。星空が近づいてきた所で地面を見渡すと、予想以上に私が消し飛ばした範囲が広いのが分かった。

ああ、これじゃあケロちゃんに怒られちゃう。なんて言ったら許してくれるかな。

 

 

洩矢諏訪子は数多くの祟り神を束ねる神だった。

その強大な力を振るい、彼女はこの島国の西部一帯を統一するほどの、大きな国を築いた。

 

そんな彼女の国は、今、滅亡の危機に瀕していた。

軍神と呼ばれ畏れられている神が、彼女の国に戦争を仕掛けたのだ。序盤こそ、鉄を原料とした最先端の武器を使った諏訪子の国が優勢であった。しかし、軍神の予想のできない戦術、戦法に踊らされ、みるみるうちに領土を奪われていく。

 

諏訪子は戦いが、つまり''戦''が得意でなかった。

ミシャグジ様と呼ばれる祟り神の祟りは、民を束ねるのには有効であった。しかし数と数のぶつかり合いである戦争において、諏訪子はその統率力を以てしても軍神に敵わなかったのだ。

 

国内の村や街が次々と制圧されていく。

諏訪子は国を明け渡すことを考えた。

しかし民がそれを許さなかった。

民は祟りを恐れていた。外界から攻め入る軍神の脅威以上に、かつてから伝わる祟りが怖かったのだ。だから民は、そして兵士は、国を明け渡すことを良しとしなかった。実際のその威力以上に、そしてそれらを束ねる諏訪子という神であり、王である存在以上に、祟りそのものが神聖化していたのだ。もし外の敵に屈することなどあれば、恐ろしい祟りが巻き起こると信じられてやまなかった。土着信仰という概念が、ここではかえって国の存続に牙を剥いていたのだ。

 

諏訪子は苦しんだ。

このまま戦争を続けても、残るのは滅亡のみ。

 

彼女は決断した。民が納得しなくとも、今は国を明け渡すしかない。たとえ民に後ろ指を指されても、ここは負けを認めるしかない。最悪、自分自身を犠牲にすることも考えた。

 

諏訪子は軍神の元へ伝言を送った。

それは国を明け渡すという、つまり敗北を受け入れるという内容だった。

 

しかし、それは受け入れられなかった。

敵国は、侵略を続けた。

 

軍神、八坂神奈子は恐怖していた。

祟りという非物質的な何かに怯え、狂気的なまでに刃向かってくる民達に恐怖をしていた。

 

もしここで停戦を受け入れても、国を手に入れても、あの狂気を取り除かない限り意味はない。神奈子はそう考えた。

その為には、侵略を徹底的に続けなければならない。祟りという恐怖は、侵略という新しい恐怖で対抗しなければ、消し去ることはできないと考えたのだ。それこそ、滅ぼそうとするくらいには。

 

諏訪子は絶望の淵に陥った。

敵は我が国を蹂躙するつもりなのだ。

 

神奈子はなおも侵略を続ける。破竹の勢いで国の中心部へと迫ってくる。

そしてやがて、その軍隊は都にまで辿り着き、円形の都を包囲するまでに至った。

 

もう勝敗は見えていた。

しかし、神として、ミシャグジを束ねる神として、何より民の為に、諏訪子は抗い続けるしかなかった。

 

 

 

そんな時だった。

空から少女が落ち、諏訪子の神社を半壊させたのは。

 

その少女を一目見て、諏訪子は愕然とした。

 

こんなに恐ろしい何かが世にあったのかと、恐怖した。

 

それは外見のことではない。

 

それは突然やってきて本殿を破壊したことではない。

 

形容できない、言葉に表せられない、絶対的な危機感を、少女から感じ取ったのだ。

 

諏訪子は考えた。

この都が包囲されている状況、この少女が神奈子による何かしらの策であることは間違いないと考えた。

 

しかし、当の未知なる少女に何か混乱や狼狽が見えたことから、神奈子の考えるその作戦が失敗したのではないかと類推した。少女は何か攻撃を仕掛ける訳でもなく、ただ地べたで寝っ転がっているのである。予定通りに事が行われなかったように思われたのだ。

事実、この時少女は過度な吐き気で参っていた。その様子が、諏訪子には何か失敗した様子であるように受け止められた。

 

もう藁にもすがる思いだった。

もしこの少女が神奈子の作戦の失敗によってここに墜落したのだとすれば、人質に使えるかもしれない。明確な根拠はないが、一筋の勝利の道に縋るために、諏訪子は鳴り止まない危険信号を無視し、少女、ルーミアを拘束した。

 

 

 

ルーミアが目覚め、諏訪子は尋問をする。

神奈子の都攻めは、もういつ始まってもおかしくない。

しかしこれまでの傾向から、夜に攻撃を仕掛けてくると判断した。

もう日は傾いている。彼女に、時間はない。

 

見れば見るほど、全身の毛が逆立つような、いわば、恐怖の具現化…諏訪子はルーミアをそう考えた。

 

会話をしても、どこか要領を得ない。

神奈子のことを隠そうとするその態度に、諏訪子は苛立ちを増した。

神奈子が関わっていない訳がないのだ。

あの奇策好きな軍神が都を包囲しているこの状況下において、それと何ら関係のない得体の知れない少女が空から舞い降りるだなんて、偶然にも程があるのだ。

 

そしてやがて、少女は言った。

 

「蛙の装飾、まだ付けてないんだって思って」

 

八坂神奈子は、蛇を象徴としている。

そしてその蛇は、蛙を食べる。

 

ルーミアのこの言葉は、諏訪子に対しての勝利宣言だった。

 

諏訪子はこの少女が神奈子側であると確信した。

 

そして丁度この時、神奈子は都への攻撃を開始した。

 

まだ日が落ちきっていない時間、諏訪子はまたしても神奈子に先手を取られたのだと悟った。

 

 

 

そして夜。

諏訪子は終わりの時を肌で感じながら、最期となるはずの戦いを都のすぐ外、仮設された小さな拠点にて指揮した。

 

意外にも諏訪子は優勢だった。この土壇場にして、兵士達は国の存亡をかけ、通常以上の能力を発揮していた。

土着信仰による恐怖、祟りによる恐怖が、彼らの士気を極限にまで高めていた。

 

そしてあの捕らえた少女も、秘策であった。

奴を人質のように扱うことができれば、戦況を変えることができるかもしれない。

勿論、あの少女が神奈子に関係しているというのは確信できても、神奈子にとって大事なものである保証なんて何処にもない。人質として有効的に使える確信がないのだ。

しかしもう、どんな策でも良かった。いくら今は優勢であろうと、やはり諏訪子は、藁にも縋る思いだったのだ。米粒のような小さな勝ち筋を手繰り寄せる為に、彼女はあらゆる手段を講じていた。

 

 

 

その時、都の内部から轟音が鳴り響く。

 

「あ……」

 

それは少女を捕らえていた牢屋の方面からだった。

 

「ああ……」

 

諏訪子は悟った。

 

最初から、仕組まれていたのだと。

 

少女を都内部に送り込み、そして内部からも攻撃を開始する。内側と外側の両方で攻撃を仕掛け、敵の体力を削り取っていく……神奈子が好きそうな作戦だったのだと。

 

「元よりこのつもりか……」

 

金髪の少女を思い出す。

あの危険信号は、きっとこの事を伝えたかったのだろう。

 

恐らく今も都で暴れ回っている奴を放置すれば、民の犠牲が増え続ける。

このまま戦場を長引かせては、もう未来はない。都に兵士を動員する余裕もない。

 

「くっ、奴め……殺しておけば……!」

 

憎い。あの少女が、憎い。

 

恐らく神奈子の秘密兵器であったのだろう。それをまんまと国の内部に侵入させてしまった自分もまた、憎い。

 

「神奈子め……悪魔にでも魂を売ったのか……!?」

 

自分の本能に従えば良かったと、あの恐怖心に従って直ぐに殺してしまえば良かったと、後悔してもしきれない。いくら顔を歪めた所で、どうにかなるものではなかった。

 

少女の顔を思い出せば出すほど、震えが止まらない。同時に、憎悪が止まらない。

アレだけは絶対に、世から抹消しなければならない。

 

滅亡の二文字が過ぎる。

否、もうとっくに過ぎ去っていた。

あまりにも実感すぎて、かえってその二文字が見えなかった、あるいは二文字に近づきすぎて、見えていなかったのだ。

 

「ッ!!」

 

諏訪子は最期の決断をした。

どうにか自分を犠牲に、この命を使うことが出来れば、停戦できないか、民の命だけは見逃して貰えないかと考えた。

 

「……行ってくる」

 

「諏訪子様!?」

 

神奈子の元へ行き、自ら首を差し出す。

これだけが、今考えられることだった。

 

民を救済するのが神の務めである。

民を守り抜くのが神の務めである。

 

それが存在意義なのであれば、命の使い所はここしかないのだと判断した。

 

兵士達は諏訪子を引き止める。

その一人一人の名前を、諏訪子は知っていた。

家族がいることも知っていた。

 

諏訪子は、都に住む全ての民の名前を知っていた。それは神だからではない、諏訪子という祟りに身を委ね、人から恐怖されることを良しとした少女が、少しでも彼ら彼女らに歩み寄れる方法だったからである。

 

そして何より、祟りという大きな存在を強大にせしめた自分が、唯一できる人との接し方だった。

 

「国は滅び、そして祟りも滅びる。祟りはやがて、天に昇り姿を消す。お前達はこれから、そんな青空の下で生きていくんだ」

 

「諏訪子様!?」

 

外へ出て、これまでの日々を振り返る。

兵士達は今も、私を信じて戦い続けている。

それに応えられない自分が、恥ずかしかった。

 

何気ない、草木が揺れる光景や、風の音が、諏訪子の五感には、いつも以上に素晴らしく、儚いもののように感じられた。

 

そして月の眩しさに目を焼いて、一筋の涙を流した。

 

 

 

その時だった。

 

地が割れるほどの、大きな地響きが、先程よりも大きく起こった。

 

「な、なんだ?」

 

兵士達も混乱を隠せないでいる。

状況が理解出来なかった。

 

「今のは何!?」

 

「諏訪子様、わ、分かりません!」

 

戦場に混沌が訪れる。

どうやら敵も同じようだった。

 

理解の出来ない状況に対する困惑が、波のように辺りに伝わっていく。

 

「……!」

 

そして諏訪子は、信じられない光景を目の当たりにした。

 

もう都内部への侵入まで王手がかかっているこの状況で、万にも及ぶ敵兵士達が、一つの生き物のように後退して行ったのだ。

 

「な、何が起こって……?」

 

諏訪子の疑問に答えられる者はいない。

彼女はただ、その様子を幻でも見るかのように、立ち尽くして瞳の中へと伝達するしか出来なかった。

 

 

 

やがて神奈子率いる軍隊は、戦線から離脱して行った。

そして都を内部から破壊するはずの、あの悪魔の姿も、もう確認できなかった。

 

諏訪子は全く状況が理解出来なかった。

 

首の皮が一枚繋がり、滅びるのは今日でないと分かったのは、朝日が空に昇ってからだった。

 

 

「うわ、な、なにこれ」

 

空に上がって気づく。それは異常な光景だった。

 

私が先程までいたこの街の周りで、どうやら戦争が起きているらしいのだ。

 

「え、これが、諏訪大戦?」

 

都が諏訪子陣営の街なのであれば、それとこうやって戦う勢力は……神奈子陣営だろうか?

 

「んーよく分かんないけど、もう決着つきそう」

 

諏訪大戦の様子は気になるけど、今はとりあえず帰ろう。

しかしこれなら少し頷ける。ケロちゃんがちょっとピリピリしてたのは、きっとこの戦争のせいだったんだろう。

 

「また会いに行こっと」

 

ならばこの戦争が終われば、今度は平和なケロちゃんと会えるはずだ。

だって諏訪子が神奈子に国を明け渡して、結局二人が仲良くなるのが史実なのだから。ちょっと時間を置いて、今度は二人に会いに行こうじゃないか。

 

「あーでもそんときは神奈子にもまたアレが出ちゃうかもしれないなぁ……ホント面倒」

 

そもそもアレの発動条件、殆どが原作キャラに対してしか発生しないことから私も大方予想はついている。

恐らくそれは、の…。

 

「うわぁ!危ない!」

 

地面から矢が飛んできた。目と鼻の先だ。

 

避けたのも束の間、すぐに二本目、三本目……物凄い量の矢が私目掛けて飛んでくる。

 

見ると、攻め込んでいる側……恐らく神奈子の兵士だろうか?

そいつらが私に攻撃をしているようだった。

 

「ちょっと、私は無関係だよ!」

 

声は伝わることなく、むしろ攻撃の強さが増している。

 

ああ、もう、じれったいな。

避けるのも面倒だからちょっとびっくりさせてやろう。

 

「私に構うんじゃないよ!」

 

弾をイメージ。

大きく、大きく、巨大なものをイメージ。

 

やがて膨らんだであろうそれを、兵士達のいるよりももっともっと奥、彼方に向けて発射してやろう。

これなら被害は出ないけど、きっと揺れてみんなびっくりするはずだ。

 

「んぬぬぬぬっ行け!」

 

弾は発射され、そして遠くの山々に当たった。

 

大きな音が伝わり、山は消滅してしまったようだ。

山自体には人の気配がなかったから多分大丈夫だろう。

 

「うわ、すんごい威力」

 

とてつもない地響きが鳴り響く。

 

地面の兵士達は動きを止め、混乱しているようだった。ふふん、思い知ったか!

 

「よし、んじゃ、またね~」

 

寄り道が過ぎたな。

さて、はやくゆかりんの元へ帰ろう。

 

 

 

……というか、ここ何処?

 

村って……どっちの方角?

 

 

「む……あ、あれは?」

 

「神奈子様、どうされました?」

 

同時刻、神奈子は戦況を一望できる小高い丘で指揮を執っていた。

 

あるものが目に入る。

それは金髪の少女だった。

都内部から何か大きな音がした後、そいつがふわりと出てきたのだ。

 

「なんだ……あ、あれは……一体?」

 

「か、神奈子様?」

 

側近の兵士は驚きを隠せないでいた。

何故なら、あの最強と言われ、世界を治めるとまで言われた軍神が……震えていたのだ。

 

そしてその恐怖は現実となった。

 

金髪の少女が手をかざす。そこから何か全くもって説明のできない、恐怖そのもののような何かが発射され、そして……。

 

「な、なんだ!?」

 

轟音と地割れだった。

 

見ると、遠く、後ろにそびえ立っていた山々が跡形もなく消滅していた。景色が変わったのだ。絵画を塗り潰すように、簡単に変異したのだ。

 

「な、何が……どうなって……」

 

「か、神奈子様!?どうされますか!?」

 

「ッ!!」

 

敵の滅亡はもう目前だった。

今は押されているが、攻め入るのは時間の問題。

資源や兵力は、まだまだ余裕があったのだ。

 

「……くっ!諏訪子の奴め、あんな秘策を隠し持っていたとは!」

 

神奈子は冷静さを欠いていた。

それほどまでに、少女に対してこれまで味わったことがない程の恐怖を感じていた。

厄災という概念があるのであれば、それはあの少女ではないかと、そうして湧き出た考えは、今はもう確信に変わっている。一瞬、数秒程度見ただけである。しかし神としての本能が、その考えを増長させる。

 

追い詰められた鼠がどれほど危険なのかは分かっていたはずだ。

しかしこれは、規格外だった。ありえないことだった。一瞬にして消え失せた山、それがあった場所を凝視すればする程、理解が追いつかなかった。山は破壊されたのではない、''消えた''のだ。

 

「……はっ!や、奴は!?奴は何処へ行った!?」

 

探す。

しかし、先の少女の姿は見えない。

 

「神奈子様!?」

 

「ま、まずい……くそぅ!」

 

神奈子は憤りを顕にする。

行方が分からなくなった少女は、そのとてつもない力をこちらの兵士達に向けてではなく、その後方に位置する山へと向けた。

 

「そんなっ、有り得ないが……しかしっ!」

 

神奈子は落ち着いて、冷静さを取り戻すように深呼吸をする。

昨日はここら一体は雨だった。その雨で濡れた土の匂いも、神奈子のこの焦りを冷ますことはない。

 

「仕方がない!全軍退却っっ!!」

 

「で、ですが神奈子様!敵にはこれ以上力がないように思えます!今の奇怪な少女も、余力があるならば続いて攻撃をしているはずではないですか!」

 

兵士の意見は尤もだった。

あのとてつもない攻撃力があれば、数発で神奈子の軍は壊滅する。

 

しかしそれをしなかった。それは即ち、あのバカげた攻撃には限度があるということ。

それに諏訪子側にも大きな被害が出ることは明白だろう。

この兵士同士による競り合いの状況、あの威力ならば自軍の兵士はおろか、都にまで被害が出てしまうのは明白だ。

 

しかし、神奈子には大きな不安の種があった。

 

「全軍退却!急いで!」

 

実はこの時、ルーミアが消し飛ばした山の向こうには、小さな村が位置していた。そしてそこは、神奈子の軍隊を維持する兵力や物資を本国から輸送する重要な地点となっていたのだ。

 

神奈子はその場所を秘匿し、間違っても諏訪子らに知られないよう手を打ってきた。そしてそこの防衛として、山には何重もの防衛設備を整えていた。さらにはダミーとなる補給拠点の設置や、輸送路に関しても全く関係の無い場所を何度も経由する等と言った錯乱作戦を実施し、本物がバレないように策を練った。

 

場所が把握されるなんて、こちら側に内通者でも居ない限り有り得ない事だが、しかし現に少女は山を消し去ってみせた。

そして現在、その姿がない……これはすなわち、奴は補給線を断ちに行ったということ……。

 

現状、都内部にはまだまだ資源があり、この籠城においては長期戦になることが容易に考えられる。これは補給線が命であることを示している。

 

「諏訪子めっ!あんな化け物を隠し持っていたなんて……!」

 

場合によっては全滅も有り得る状況。

神奈子は唇を噛み締め、泣く泣く都を後にした。

円形に作られた都が、月のように遠くて近く、感じられた。

 

 

 

この神奈子による諏訪子の統治する国の都攻めは、ニュアンスこそ違えど様々な書物や口伝にて伝えられている。共通するのは、二人の神が発言した内容である。

 

片や、土着の神は言った。

 

「神奈子は遂に、悪魔と手を結んだ」

 

片や、中央の神は言った。

 

「諏訪子は、世を滅ぼす災厄に身を委ねた」

 

 

 

朝日が昇った時、二神はルーミアに対して同じ感情を抱いた。

 

 

 

――奴だけは、必ず殺さなければならない。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。