ルーミアだけど、どうやらめっちゃ強いらしい   作:ポンデーニュ

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お気に入りの東方MMDの作者さんに限って再生数が伸び悩んでいる謎の現象がひたすらに悲しいです。


第4話「永夜大異変 前編」

時間の流れというのは時折速くなったり、かと思えばゆったりと、浅い小川よりもなだらかに遅くなったりする。

 

今は紀元前で表すと何年なのかは知る由もないが、私が初めて永琳と出会ってから数千年以上は時が流れた筈だ。

この時代の人々は寿命が本当に長い。永琳だって千歳はゆうに超えているはずなのに、まだ見た目では十代後半と言ったところだろうか。出会った当時は首元あたりでパツンと切られていた後ろ髪は腰の上まで伸ばされ、私がかつて原作で見知っていたような結ばれた形になっている。髪色も白髪というよりは銀髪だろうか。

 

目を引くのは身体のラインで、その出るとこ引っ込むところを見る度に、なんだか私は無性に地団駄を踏みたくなるのだ。

 

そんな永琳は今や国一番の有力者。

彼女は八意家の長女としての責任を全うしている。私には特に何も言わないが、心労が絶えないはずだ。

 

彼女とは定期的に会っている。くだらない話をしたり、一緒にご飯を食べたり。

彼女は空を飛ぶのが好きだそうで、偶に手を握って一緒に宙を舞うこともある。どんなに大人になっても、その時だけは子供のように無邪気な笑顔をする永琳を見る度に、私は心底安心するのだ。

彼女は飛べたはずだけど、あれは月に行ってから飛べるようになるのだろうか?

そもそもいつ月へと移住するのだろう。

最近、なんだか色々と忙しいみたいだし、もしかして移住の準備だったりして…。

 

彼女と会うのは国の外の場合もあるし、永琳が用意した独自のルートで彼女の家まで足を運ぶこともある。意外に思われるかもしれないが、彼女の部屋は割とかなりきたな……やめておこう。女の子のお部屋事情なんて暴露したら大変だ。''複雑''な部屋とでもしておこう。

 

大事なことを一つ話そう。彼女と定期的に会っているのはなにも単純に会いたいからだけではない。勿論彼女のことは好きだし、きっと永琳も私を家族のように思ってくれているはずだ。しかし、違うのだ。それだけではないのだ。

一度彼女と暫く会わない期間があった。これは何もケンカしたとかではなく、彼女は国の中での仕事が忙しく、私は世界中を旅していたためだ。

 

そうして久しぶりに会った時、思った。

食べたい、食べてしまいたい…と。

 

あの時、初めて会った時に感じた異常な食欲が、私をまた襲ったのだ。

その時はどうにか運良く治まってくれたが、もしかするとあの時私は彼女を食い殺してしまっていたかもしれないのだ。

本当に恐ろしく、今考えるだけでも冷や汗が止まらない。

それからは永琳とも距離を置こうとも考えたが、彼女の方から私を尋ねることもあるし、なにより、やっぱり私は永琳が好きだった。

私は彼女に全てを打ち明けた。

彼女は言った、貴女に食べられるんだったらまあまあな人生だわ、と。

 

結論から言うと、定期的に会うことがあの欲望を防ぐ手段だったのだ。事実、あれ以来私は一度もあの欲望を永琳に抱いていない。

彼女は言った。

 

「貴方に潜むその欲望には、慣れて貰うしかないのよ。私が目の前に存在しているってことに。定期的に食欲を分散させるという風にも取れるわね」

 

他にも難しい言葉を沢山使って、彼女は私と定期的に会うように説得してきたのだ。

本当は私は怖かった。彼女を食べてしまうのが怖かったから、お互いのために距離を置くことを何度も提案したのだが彼女は頑なに譲ろうとしないし、あらゆる論法を使って私のことを論破してくるのだ。

それに定期的に会えば大丈夫、と。彼女は自信満々に、それが完全に正しい真理のように言うものだから、私も折れるしかなかった。

 

最初のうちは本当に怖かった。会う度に、あの得体の知れない這い寄る感覚が、そして欲望が具現化しないかと、毎回震えるように私は彼女と会っていた。そうして会って欲求が現れないのが分かると、恥ずかしい話だが、その度に私は彼女に抱きついた。いつの間にか背丈が逆転してしまった永琳は、あの日私が彼女にしたように、優しく優しく私の頭を撫でてくれるのだ。

 

そしてもう一つ、実はこの食欲を抱くのは永琳だけではなかった。

これは私が永琳と定期的に会うように取り決めてから、さらに何十年も経った後の話だ。

私は彼女の国とは別の大国の中に入って、人と関わろうとしたことがあった。この国は壁なんかはなく、技術もそこまで発展していなかった為あのような防衛システムはなかった。

出入りするには屈強な門番に通行証を渡せば良いため、私は永琳から貰った八意家の紋章の入ったIDのようなものを見せつけた。そうすると急に兵士の態度が畏まり、私は丁重にもてなされて中へと侵入できたのだ。

 

この国への侵入は、人間とのコミュニケーションも悪くないと思い始め行動した結果だ。永琳以外の人間とは滅多に話さないし、かといって彼女の国ではなんだか後ろめたさもある。…変な科学者に電流も流されたくないしね。

そこで彼女に相談すると、この国が良いと言われて色々と手を回してくれたという訳だ。

 

入国してから数日間、私は色々な人と関わって楽しかった。子供たちと遊んだり、賭け事をしてみたり。

人間との関わりも悪くない。それどころか面白いと思った。

ある日、その日もいつものように人通りの多い商店街を歩いているとふとある女性が目に入った。

私は次の瞬間我を忘れ、その人へと飛びかかり今にも歯を首筋へ食い込ませて噛みちぎろうとした。

 

その既の所で私は我に返った。

周りでは何があったのかと野次馬が形成されているが、それよりもなにも、私が飛びかかり押し倒した彼女の、私を見る怯えきった目が、今も忘れられない。

私は直ぐに国を飛び出し、そして二度と戻らなかった。

それ以来、私はやっぱり人との関わり合いを避けた。あの感覚に従って人を食い殺した時、私はどうなってしまうのか。

それを知りたくなかったからだ。

 

きっと最初は心地が良いのかもしれない。あの無限にも広がるような欲望に身を任せて、落下していくように心を委ねる。でもその先に待っているものは、分からないけど、きっと、恐ろしいものに違いないんだ。

 

それに、単純に人間は食べたくないし殺したくもない。私が元々人間であるというのもそうだが、''人殺し''は嫌なのだ。

つくづく、私は人喰い妖怪ルーミア失格だなと感じる。

 

結局、どうして特定の人に対して食欲が湧くのかは、未だに分からないままだ。

 

 

 

さて、変わったのは永琳だけではない。

この頃この世界は随分と騒がしい。

 

妖怪達はやたらと殺気だっているし、人間だって変なのだ。

昔とは比べ物にならないくらい争いや戦争は増えた。それは世界中のどこの国や集落を覗いたってそうだった。

 

争いが争いを生み、それがやがて戦争になる。

幾らかの大国は滅び、また新しい国が生まれては滅んだ。

難しいことは分からないが核以上の大量破壊兵器が使われたらしい。文化的な水準、例えば建築様式などがそこまで発展しない代わりにこの世界では科学技術がみるみる発展していった。永琳の国にも防衛用としてより取りみどりな兵器がある。

 

幸い彼女の国はこうした戦争には巻き込まれなかった。この国はある一族が……確か名前はイヅモ……だかなんだか言ったはず。とにかくその一族から王が選ばれて指揮を執る、非常に珍しい体制なのだ。軍部も権力を持っているが、結局は王次第。王の一言で全てが変わるのである。いや勿論、こういうのを君主制だとかいうのは知っているし、かつて勉強していた世界史なんかでは特に珍しくもない、というよりは現代以前はほとんどがそうだと言えるのだろう。しかし、現在の地球においては、あえて無理やりかつての言葉で当てはめるのならば、共和制に近いものが多いのだ。

 

とにかく、イヅモなんちゃら家が仕切ったこの国は上手い具合に戦争を回避している。これには永琳も恐らく関わっているはずだ。彼女のその天才的な頭脳を使って、そういう揉め事を上手く回避しているのだろう。

 

……難しい話はよく分からないけどね。

ルーミアはお馬鹿なんです。

 

そうそう、国といえば領土も本当に大きくなった。千年かけて広さはあの頃の数十倍は優に超え、世界屈指の大国になったのだ。

これもきっと、永琳の功績が大きいはずだ。

我らが永琳は本当に凄いのだ!

 

 

「移住計画……」

 

寒色の照明が頭上から光を降り注ぐ。そうして暖色な彩りをしたこの部屋へ下っていった。

ふと窓から様子を見ると、今日も今日とて歩兵の玉兎たちが隊列を組んで忙しなくしていた。

この時間はどうも陽の光が眩しくてしょうがない。

 

「八意女史、聡明な貴女ならもうとっくに気づいていたのではないですか?」

 

私が日光に目を細めていると、対面する者は未だ表情を出さずに話を続けた。

 

「きっとこのままでは、精々我々は数百年の命になるでしょう。曇った命になるのです」

 

「''穢れ''ね。確かに的を射た表現だわ」

 

「一昨日の食事会に…貴女は参加されていないようでしたがね、珍味が運ばれたのですよ。

なんでも高い山の上にしか生息していないサソリだそうです。

随分と酒に合いましたが、その時満月が見えたのです。さざなみに揺れる濃藍の海にもそれが映っていましてね、その時でした、こう考えが浮かんだのは」

 

政治は仕事の時だけにして欲しいと思う。

食事の時は唯一私が満たされるように感じる瞬間だ。だから大事にしたい。

そうしたやり取りこそ政治だと考える人も多いだろうが、そんなものはとにかく性にあわないのだ。

美味しい食事も駆け引きと一緒に飲み込めば、毒になるに決まっている。食事会なんて毒そのものだ。

 

「貴女は月が好きと…私にいつの日か語ってくれましたね。あの姿を変え、近くて遠い神秘の象徴が恋しい、と。だから私は、他でもない貴女にこう話しているのです」

 

「そう。ふふ…あまりにも難題が多すぎて、面白いわね」

 

「イヅモの方は私が対処しますし、貴女は面倒なことはなさらなくて良いのです」

 

「なるほどね、空にいる''アレ''を何とかしろと、そういう訳ね」

 

「賢い女性は好きです」

 

外の玉兎の掛け声が部屋にも響く。

私だったらこの部屋は防音にするだろう。

 

「面倒なのは嫌いだけれど、いいでしょう。

私だって、何とかしないといけないとは思いすぎるくらいでしたのよ。それこそ、胃が痛むのはしょっちゅうね」

 

「これは我が国の問題だけではないのです。人類全てが一丸となって取り組まなければならない、言うなれば、地球からの我々人類への挑戦状なのです。

既に連盟には連絡を入れております。この事に関しては、後日詳しくお話ししましょう」

 

「はてさて、一体どれだけが賛同してくれるのかしら。連中の多くはこの星に魂でも売ってるじゃない」

 

「買い戻してみせますよ」

 

部屋の隅にある観賞用の植物が目に入る。

私に草花の趣味はないが、今見ておいた方が良い気がしたのだ。

 

「では失礼するわ、月夜見総司令」

 

「その呼び名は嫌いなのです。せめて、賢者なんていうのはどうですか?」

 

「嫌よ。私の方が賢いもの」

 

背を向け部屋を後にする。ドアノブに手をかけた辺りで、月夜見も何かを始めようと、自分に気合いを入れるように息を吐き出した音が聞こえる。

あいつの表情が簡単に想像できた。

 

##########

 

「月ロケット、無事に一万隻は納品できます!」

 

「だから、月ロケットなんて言うのはやめなさい」

 

「え~でも量子型熱線宇宙飛行なんちゃらなんて言うの面倒ですよ~」

 

「物覚えが悪いわね。量子型熱線じゃなくて、熱線量子型、ね。正式名称は熱線量子型宇宙飛行連絡…「わー!わー!もういいですって!」

 

物覚えの悪い兎から目線を外す。

そしてこの地下施設全体を、黄色の手すりに体を乗り出して見渡す。我ながら良い眺めだった。複雑に入り組んだ構造の宇宙船が、こうも大量に並ぶとは。

 

「八意様、今日もお疲れ様ですな」

 

低くしゃがれた声が聞こえた。

 

「博士、いらしてたのね」

 

「最近はすこぶる足の調子が良いのですよ。今のうちに沢山動かしておかなければなりませんな」

 

この博士は……誰も名前を知らない。だから彼を呼ぶ際、私たちはただ博士と呼ぶしかないのだ。生物学者とはいうものの、あらゆる分野に精通し数々の技術発展に貢献した。

…そして彼は、あの日ルーミアを拷問した博士その人である。私は未だに彼を89%は許していない。この千年で11%しか彼の謝罪は伝わっていないのだ。

 

「しかし、見事な光景ですな。ギルドの老人どもがあれだけの資金を提供したのが甚だ信じられませぬ。

奴らこそ、こんなことには興味がないと思っておりましたから」

 

「ギルドなんて古い呼び方ね。今は境界保全機構、でしょ」

 

彼は低く笑って顎髭をさすった。時折見られる彼の癖だった。

 

「境保も中々思い切りましたなぁ。それはそうと国外の船も合わせれば、全部で何隻になるのですかな?」

 

「二十万以上はあるんじゃないかしらね」

 

「ふぉっふぉっ……それはそれは」

 

「それよりも、あなたが驚きだわ。この星に留まるなんてね」

 

月への移住は、現在世界で大きな議論を呼んでいる。この星で生き、この星で死ぬという保守の連中は、そもそも穢れの事を信じていない人間が多い。

そういう連中に限って、戦争だのを一丁前に正義の戦いと抜かして大量虐殺をしているのだから、これほど皮肉なものはない。

 

まぁ、そうした地球への敬愛と率直さに対してとやかく言うつもりは私にはないし、それを否定する権利もない。

私はただ、月へと行く。それだけなのだ。

 

「私は、もうどうせ長くはないのです。それに最期くらい、見慣れたこの惑星で、妻が亡くなったこの惑星で、全てを終えたいと思うのは、粋なことだとは思いませぬか?」

 

「………さぁ、どうかしら」

 

「相変わらず固い女性ですな。それではいつまで経っても良き伴侶が得られませんぞ」

 

89%と言ったか。今この瞬間94%に増加した。

 

「さて、こんな所で立ち話もなんですし、良ければ食事にでも行きませぬか?少々夕食には早いですが、上に食堂があると聞いたもので」

 

「嫌よ。電流でも流されたら溜まったものじゃないわ」

 

「ふぉっふぉっ……」

 

「私はこれからもう一度点検に行くわ。……まぁ、付いてきたければ勝手に来なさい」

 

博士に背を向け私は歩き出す。

歩くと音のする鉄線の網目でできた地面を歩き出す。

すると後ろからもその音が続いてついてきた。

 

「喜んで行きますとも」

 

 

 

船の中でもとりわけ大きな母船の中へと入る。

中で作業をしていた学者や調査員、他国の連中が私を見ると大きく敬礼をする。それを見た玉兎たちも急いで真似をして敬礼をしていた。所々変な敬礼の兎も混じっているけど。

 

…ああ、まだ軍にいた頃の名残が残っているのか。

 

「いいのよ、点検に来ただけなのだから。

桃源や蓬莱の皆さん方、それにアガルタの方々も、そんな風にしなくて良いですから」

 

そう言うと、彼らは顔を見合せてそれぞれ元の作業に戻って行った。

 

「ふぉっふぉっ…天才軍師はまだ健在ですなぁ…」

 

「次言ったら骨を折るわよ」

 

「おお、これは怖い」

 

コックピットへと辿り着いて、主任の玉兎と今後の日程を確認する。

あとひと月で決めないといけないことが沢山あるのだ。

 

「八意様、一つ良いですかな?」

 

「何よ、忙しいのよ」

 

操作パネルの裏側を確認するため、私は近くの玉兎から六角レンチを受け取る。

 

「一つだけなんです。良いですかな?」

 

この老人は本当に面倒臭い。ここまで長く面倒臭さを保ち続けられるのも珍しい。

 

「はぁ、簡潔にね」

 

レンチで銅板を開け、配線の様子を確認する。

 

「空の上のアレ、どうするんですかな?」

 

ぴたりと動きが止まる。

私は落としてしまったレンチを拾い直して、直ぐに作業を再開した。

 

「………なんとかするわ」

 

――ビーーーッ!

――ビーーーッ!

 

その時、大きな警報が鳴り響く。

突然の出来事に周りの人々もきょろきょろと不安そうに辺りを見渡している。

……この警報は、確か……。

 

「八意様!八意様!そちらにいましたか!」

 

今も尚鳴り響く危険信号を背景に、軍服を着た男が駆け込んでくる。息を切らし、とめどなく汗を流し、足もフラフラだ。それでも彼は言った。喋るのすら苦しいのが見て取れた。

 

「よ、妖怪が…はぁっはぁっ……妖怪が、とんでもない数のぉ、妖怪がぁっ!」

 

##########

 

扉を開ける。

中では大勢の軍人と政治家が丸テーブルを囲んで話をしていた。その話し合いは激化しているようだった。最早話し合いとは呼べないように、叫び声や震えた声がこちらにも聞こえる。

 

「八意様、来られましたか!!」

 

兵士の一人が私に気づき近寄ってくる。

 

「状況を教えて」

 

私の一声で話し合いはピタリとやんだ。彼ら彼女らは、これまでに見た事がないくらいの恐怖と驚き、そして焦燥に満ちていた。

 

「妖怪が、こちらに侵攻しています。第一、第二防衛ラインは既に破られ……現在第三防衛ラインにて交戦が行われております…。

……しかし…この数は…」

 

左側面の大きなモニターに画面が映る。

 

「な……!何よ、この数……」

 

そこには、蠢く何かがびっしりと、いた。

地平線のその先に至るまで、大小様々な妖怪。もうそれそのものが一つの大きな生き物なのではないかと見紛うほどの数の妖怪が、山や川、そして海を埋めつくし…色を染め上げていた。

 

「ど、ういうこと…一体何が…」

 

「し、仕方ないっ!こうなったら条約違反もやむなしだ!やはり''エデン''を使うしかないだろう!」

 

「何を馬鹿なことをっ!ここにまで被害が及ぶだろう!我々も吹き飛ぶぞ!」

 

「な、ならどうすればいいというのだっ!」

 

各々が叫び声を上げ、狂乱に似たような感情が伝播していく。

 

その時、部屋内に一つの音が鳴り響く。これは他国との連絡を行う際に使われる装置の音で、この部屋では主要な国と迅速に連絡を取るべく、入口の正面の壁は数十枚のそれぞれ面積が等しいパネルで区切られており、これらのパネルのそれぞれが対応した別の国へと繋がっているのだ。要はテレビ電話が即座にできるという訳だ。

連絡が来た際、その特定のパネルが光を放ち音を発する。それがこの、ピーという音だ。

 

その音に私たちは皆一度我に返った。そして再び事の異常性を認識した。ぞくぞくと、背中から何かが這い寄るような感覚。これを感じたのは私だけではないはずだ。

 

軍人の一人が例の装置の応答ボタンを押す。

光を放っていたパネルは、鮮明な画像を作り出した。

 

「全く、こんな異常事態に一体なんなのだね!!」

 

一人の政治家が憤りを顕にした。

 

「いや、こちらへの救援かもしれません!情報がもう伝わっている可能性も……」

 

それぞれが汗を浮かべ、この事態をどうにかしようとしていた。全員が全員落ち着きがなく、この私も…この状況への対処を考えるべく無数の解決案を捻りだそうとしている。

…が、ちらりと左から、あの蠢く妖怪の姿がモニター越しから私の視界に入る度に、どんな方法も手段も闇へと消えていった。

 

パネルはすぐに相手の国の会議室を作り出した。映っていたのは国をとりまとめるリーダーの一人だった。

 

『た、大変です!我が国が、今、今現在……無数の妖怪に侵攻を受けていますっ!!!』

 

唖然とする。その場にいた全員が動きを止めた。

 

『数え切れない妖怪の突然の襲撃に、もう持ちこたえられません!お願いしますっ!どうか、どうか!力を貸してくださいっ!!』

 

普段は手の内を見せないあのリーダーが、我々に深々と頭を下げた。

しかし、そんなことをまともに考える者はこの場に誰もいないだろう。我々の頭の中にあったのは、ただ…疑問と困惑と、そして危機感の膨らんだ色の分からない恐怖なのだ。

 

「こ、これは…二国に渡る妖怪の同時侵攻です。奴らにこんな知恵があったなんて信じられませんが…しかし…」

 

どうにか私が声をひねりだす。まずは、まずは状況の確認をしなければ…。

 

『なっ!そちらの国も襲撃に…!』

 

彼の一声と同時に、今度は別のパネルが光を放って音を出した。

全員がそちらにも意識を向ける。

 

私は…応答ボタンを押した。

 

『現在、我が国では大規模な妖怪の襲撃を受けています!貴国の力添えをどうか!』

 

「なっ!」

 

二つ目のパネルが全てを言い終わる前に、今度は別のパネルが音を発した。

 

…ボタンを押す。

 

『妖怪襲撃多数!繰り返します、妖怪襲撃多数!協力を……』

 

またさらに別のパネルが光る。

そしてさらに他のパネルが光る。

今度はまた違うパネルが光る。

その度に音は鳴り響く。

 

あるいはまた、異なるパネルが光る。

光る。

光る。

光る。

 

そしてやがて音は連鎖し、正面にある全てのパネルが光を放った。

 

けたたましい音が鳴り響く。

ピーというその電子音が、この小さな部屋に鳴り響いた。連鎖的に、音が音を呼ぶように、遅延を伴っているように、音はなり続けた。

 

私は、応答ボタンを押す手すら動かなかった。

 

ピーピーピーピー。

音は鳴る。私はもうその音のことしか考えられなくなっていた。目の前が何色なのかももう分からない。

 

「お、終わりだ……。こ、これは…地球の意思だ…」

 

誰かが言った。

 

この音の連鎖の中で、私は久しぶりに絶望という感情に埋もれていた。

 

 

「だ~だらら~~らららのだ~~♪」

 

気持ちの良い夜はやっぱり歌ってしまう。

みすちーと出会ったらデュエットなんかも良いかもしれないな。

 

千年前から姿かたちの変わらない謎の魚の干物をじっくり噛み締める。

こうすると今度は歌は歌えないけど、これはこれで最高の夜らしくて良いじゃないか。

 

空を飛ぶ。う~ん気持ちがいい!

こう、なんて言うんだろう!私は今なんでも出来るって感じ!

何度も何度も夜は経験したけど、やっぱり最高だ!夜さえあればお酒もいらないね!

……実を言うと私はお酒がダメだ。

ちょっと飲むだけできゅ~ばたんなのだ。見た目だけでなくそっちの方面も、私ルーミアは幼女らしかった。

 

「さて…そろそろ永琳にも会いに行こうかな」

 

前にあったのは2週間ほど前だろうか。

定期的に、と言ったが、あの頻度は基本的にはひと月に一度以上だ。

まだ余裕はあるが、なんだか無性に彼女に会いたくなったのだ。しかし、適当に朝から飛び回っていたら随分と遠くまで来てしまった。

 

「ふふふ…干物、沢山持ってかないと」

 

私は身支度を始め、彼女の国へと向かう準備をした。今日はどんな話をしようか、そんな事を考えて。

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