ルーミアだけど、どうやらめっちゃ強いらしい 作:ポンデーニュ
非常に影響を受けた作品なので完結が楽しみです。
第7話「木漏れ日イデオロギー」
陽だまりのカーテンは、きっと心を洗ってくれる。私と向こう側とを繋ぐ境界は、その中に立ってしまうと途端に崩れ去ってしまうはずだけど、そこへ立って空を仰げば、なんだか世の中がもっと良くなる気がするの。
だから私は、葉の合間を抜け出る憎たらしいはぐれ者、そのものなのだ。
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「ルーちゃん、やっぱり今日も可愛いねえ~」
「いやいや、それほどかも~」
今日も今日とて日向ぼっこ。この小さな丘は、田んぼと陽の光が拝める絶好ののんびりスポットなのだ。横になれば柔らかい草花がベッドになってくれるし、時折雲が私を隠して日陰になったりならなかったり…ともかく、そんな些細な現象こそがとても幸せなのだ。
いやいや、さっきまでちゃんと大麦の収穫をしていたんだよ。もうだいぶ錆びてしまった銅の鎌を右手に携えて…あれはずっと握っていると親指と人差し指の間の付け根が痛くなるんだけど…ともかくそれを握って、腰を落として麦の根元を右足で抑えて、麦色携えた麦たちを刈り取るんだ。
結構しんどいんだぜ、これ。
だからやっぱりつまるところ、仕事終わりの日向ぼっこなんだから、これは随分と正当性を担保した日向ぼっこなのだ。決してニートやってる訳じゃないのよ、これ。
そうこうしているとおじさんがやってきたのだ。
彼は今日もその大柄な体を主張していたが、いつもよりももっともっとダイナミックな佇まいだった。動物の皮から作った外套はいつも通り湿り気があったが、今日は大きな鴨っぽい鳥を狩ったらしい。鴨じゃないのカモしれないが、鴨に似た鳥なんて鴨と呼んでしまえば良い。こんな、知識のまかり通っていない大昔の世界、私が鴨と呼べば全部鴨になるんだ。
おじさんは鴨さんの首元をその革手袋で握りしめて、油っこい笑顔を浮かべている。この人を見ていると、周囲の温度が上がるような気がする。
「今日は鳥料理だべ。ルーちゃんも食べていくだろう?」
「う~ん、じゃあ頂こうかなあ~」
そろそろ夕日が夕方色になりそうだ。いや、夕日だから夕方色なのか?
それにしても風に揺れる麦達を眺めるというのは、案外時間を潰す手段としては優秀な部類に入るのかもしれない。麦達の向こうの湖に浮かぶ太陽も合わさると、尚良しだ。
「そろそろ暗くなるべ。この辺も最近は物騒になっちまったんだ、夜は尚更にな。さあ家に帰るべルーちゃん」
「ねぇ、その語尾の''べ''ってやつ、普通に変だからやめた方がいいべ」
おじさんは手を振って返答した。
さてと、足に力を入れて立ち上がって、彼の後に付いていくことにしよう。夕日さんが私の行く末を見守って、役目を果たすその前にさ。
藁の家々が見えてくる。
大小様々ではあるものの、一つ一つはそこまで大きくない。
木製の柵だけが防衛ラインだ。それも簡単によじ登れてしまう。申し訳程度の門番は月替わり制で、村人の成人男子の中からくじで二人ずつ選ばれる。
「お、ルーちゃんおかえり~。今晩は村に泊まってくんだろう?」
門番の一人が気さくに話しかけてくる。
もう一人はなんだか私に目線を合わせようとしなかった。
「うん、泊まってくよ~。おじさんの鳥料理を食べるんだ」
「へえ~そいつはいいじゃないか」
二言ほど話を交えて、私とおじさんは村の中へと入る。ほんと、門って言えるのか分からないレベルだ。こんなの、柵が途切れた部分を出入口…門と呼称して、その前に人を二人立たせただけじゃないか。
「なぁ、お前ルーちゃんに話しかけなかったじゃないかよ~あ~?」
「う、うるさいですよ…」
門番達のヒソヒソ声が聞こえる。
ごめんなさいね、私は耳が良いんだ。全部筒抜け。
「恥ずかしがってさぁ、なんてったって、お前の初恋の人だもんな?」
「ちょ、ちょっと、聞こえますって!」
「もう遠くまで行ってるさ。
全く、ルーちゃん見た目はずっと変わらず幼いけど、まだお前ベタ惚れなんだろ~?
十にも満たない時から一緒に遊んでもらったもんなぁ?」
「い、いや…ち、ちがっ…」
「まぁ確かに可愛いけど、お前いつまでもあんな小さい子に…」
ああ、やめよう。
これ以上は聞かない方が良い。
おじさんの家はちょっと向こうだ。他とは少しだけ離れた位置にある。
土で舗装された道を踏みしめると、途端に私は注目を浴びた。
「あ、ルーちゃん!来てたんだ!」
「ルーちゃん、ほらこれ川魚、採れたてだよ!」
「ルーちゃんルーちゃん、これ受け取りなさいな!真珠、真珠だよ!」
「ほらルーちゃん、これあげる!」
そうそう、私はルーちゃんと呼ばれてるんだ。
見知ったお兄さんや背の高いおじさん、それに腰の曲がったおばあさんらが一斉に私の元へと集まった。
「ありがとうみんな、全部頂くよ」
ちょっとぬめぬめしてる魚や貝かなんかの真珠、山菜や果物まで…私の両手はいっぱいになった。
腕を組むようにしてみんな抱き抱える、あぶないあぶない、落とす所だった。
バランスを崩さないように歩を進める。
ちょっと小高いところまで登らないといけないから要注意。
「ルーちゃん、お疲れ~」
「つかれ~」
こちらはえっと……名前は忘れちゃったけどお姉さんだ。
おじさん家の隣に住んでるお姉さん、長い髪で白い絹のローブが映えている。
「あ、ルーちゃん!ねぇねぇ遊ぼうよ!サイコロ遊び!」
「ああこらっ、ルーちゃんはお仕事してたのよ?遊んじゃ悪いわ」
「えぇ~」
この小さいのは…確か、メグ。
お姉さんの子供だ。まだ五歳かそれくらいで、何故だか私に懐いてしまっている。
サイコロを作ってあげてチンチロを教えたら楽しんでハマってしまった。全く、良くないねぇこんな小さな時から賭け事なんてさ。
実際賭けるのは大体果物とか、その辺で見つけた綺麗な石ころとかだから健全なんだけどね。
「ルーちゃん、次はいつ会える?」
「う~ん、そうだなぁ…。
あと十二回くらい月が昇ったらまた来るさ」
メグはしょんぼりしてるようだけど、お姉さんに頭を撫でられて元気になった。
「約束ね!ルーちゃん!
次は遊ぼうね!」
「う~い」
メグと別れて、おじさんの家の中へ入る。
家というよりは、部屋だ。一つの部屋しかないのだ。
壁紙に天井に床、その全てが藁で構成されているこれは、なんだかテントみたいだ。いつも感じるがちょっとワクワクしてしまう。
「よぉし、今日は贅沢にいくべ。ルーちゃんのおもてなし会だ」
私は村人達からもらった物を家の中に置く。
熟した果物が目に入ったので、私はかぶりつくことにした。
果汁が溢れ、漏れそうになる。必死にそれを飲み込む。
「んっくっ」
みずみずしくて美味しい。天然物に限るね。
残りは全部今日の料理に使ってもらおう。
「うしし、いいねいいね。もてなしてくれたまえ!」
おじさんの…村長の作る料理は美味しいのだ。
ああ、想像するだけでお腹の気分が高揚してくる。
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あれから何年経ったか、厳密には分からないけど、かなりの年月が経ったのは間違いない。
だけど今でも鮮明に覚えている。あまりにも月並みな表現だが、本当に昨日のことのように覚えている。
かけがえのない日々だった。大切な人がいるという時間は、何もせずとも日々が鮮やかに彩られるものなのだ。
私はもうそれはそれは完全に、死んでしまったと思った。
いや、なんというか…死んだという表現は不適切だろう。だって私は何度も何度も死んで、ビクッと復活しているのだから、死ぬこと自体はなんらおかしいことではない。
あれは、死ぬというよりは……消失だろう。世界から消えて無くなるんだ。
人々の溢れる感情の力、そして闇という性質を利用して、なおかつ私という存在を削ってようやく打ち倒したカミ。そしてその後すぐに私はこの世界から消滅した。
…はずだった。
どうやら私は生き残ってしまったらしい。だって風が頬をくすぐる感覚など、生きていないと味わえないだろう。
そうして周りをキョロキョロ見渡して、まず最初に考えた。
「……あ、会わなきゃ……永琳に、会わなきゃ…!」
私はそよ風の中、一気に宙へと浮いて、そして地球の外へと脱出しようとした。いつもは鋭敏に感じる、風が肌を撫でる感覚も、陽が目の中に入り込む感覚も全く気にならなかった。
ぐんぐん私の体は速さを増し、行き交う空気の音は私を置き去りにするようだった。
――はやく、はやく会わないと。
それだけが私の中にあった。
今になって考えてみれば、この時ばかりはあの食欲のことなど考えもしなかった。バッサリと抜け落ちていたのだ。
とにかく永琳に、私の家族に会って、抱きついて、泣いて、笑いたかったのだ。
きっと永琳は怒るだろう。いっぱいいっぱい怒るだろう。
だけど関係ない。どうなろうと構わない。
彼女に会って、なんでもいいから会って、そして、ごめんって言わないといけないと思ったんだ。
周囲の温度が下がる、高度が上がるにつれて下がる。だけど私の体温はしらんぷりだ。もう一度永琳に会えるというだけで、勝手に、自分勝手にサウナ状態になっていく。
高く、高く。
月へ、月へ。
私の体は昇っていく。
しかし…。
私はそこで気を失ってしまった。
ようやく宇宙に到達したくらいだったはずだろう。その黒い空間を目前にして、私の意識は途切れた。
気づくと、地面。
草むらだった。
私はどうやら、ついにビクッとしてしまったのだろうか?
昼では地球外に行くくらいの耐久性すら私にはないのだろうか?以前は別に難なく行けたはず。
…一体、何故?
しかし考えられる理由と言ったら、やはり昼だからだろう。それ以外考えつかなかった、いや考えられないほど私は永琳の事で頭がいっぱいだった。
ああ、また泣かせてしまうんだろうな、だなんてことばかりだったのだ。
とにかく私は激しい憤りを感じた。
早く、一刻も早くなんて言葉すら惜しかった。一刻どころじゃない、一刻なんて大時間だ。大変な時間だ。懲役に値する、万にも及ぶ無数の時間だ。私は直ぐに永琳に会わねばならないのだ。
それからはひたすら、そわそわとあたりをぐるぐる回りながら、時折髪と草を揺らしてはさする風を鬱陶しく思いながら、地面を見ては遠くの山々を見つめては、また今度は空を見た。緩やかに流れる雲すらも、なんだかじれったさでより身を捩りたくなる因子になってしまうのだ。
そしてようやく太陽は出勤を終えて、月と出番を交代してくれた。
待ちに待ったと意気込んで、私は銀世界へと向かう。そして永琳と再会を果たす。
…そのつもりだった。
結果は昼間と変わらなかった。私は意識を失って、いつのまにか地面に横頬をべったりとつけていたのだ。
結局私は、何度繰り返しても地球の外へ出られなかった。
やはり体が地球外へ脱出する時の衝撃すら耐えられなくなったのだろうか、それとも何か別の理由があるのだろうか。
衝撃と言うと、後に少しずつ明らかになったが、私は確かに耐久力が落ちたようだった。前ならビクッと現象に陥るほどでもない些細な怪我でも、なんだかビクッとしてしまう。
考えても結論は出なかったが、しかし、月へと行けないという事実だけが私の体を押し潰した。
なんというか、時折詩人めいたことを考えるのだ。
夜になって、月が出て、その月に、ああ、永琳がいるんだって思うと、私だってセンチメンタルになるさ。
確かにこれは、手が届いて握りしめることだってできるのに、全く届いてくれないだなんて安っぽいポエムを書きたくもなってしまう。私は案外感受性豊かなのかもしれないな。
「ほら、出来たべ」
「ん」
変に胸がざわざわとしていると、おじさんの声と共に香ばしい匂いが立ち込めてきた。そうか、いつの間にか夜になっていたんだ、昼よりひんやりとした空気が家の中を包んでいる。
料理は鍋に鳥を入れて、出汁を入れて野菜なんかを入れた簡単な鍋料理だけれど、結構美味しいんだ。
寒い日に食べると、ああ~染み渡るな~って、思わず勝手に声が出ちまうんだぜ。
いやほんとにさ、熱くて口の中で最初は転がしてやるんだ、皮も付いた鶏肉をさ。先に肉だけ別に焼いてやるから皮はパリパリで、だけど鍋で煮込んでるからちょっとふやけたやつをはふはふと舞わせて、ようやく食べるんだ。塩っけがちょっぴり強くて、魚介の出汁が上手く効いててさ。私のお気に入りだ。
「あ~美味しそう。早く食べちゃおうよ」
「ルーちゃんはせっかちだべ」
「おじさんに''べ''は似合わないべ。とっととやめるべ~」
ああ、そう。ここで本当にマジで最悪最低に悪いニュースがあるんだ。
私の大好きで、愛してやまない干物。
あの原料となる魚さんは、どうやら絶滅してしまったらしい…。
なんだか数が少なくなってきたなと思ってたらこれだ。一体なんでだろう?生存戦略が良くなかったのか、天敵が現れたのか。なんて情けない魚だ。もうちょっと根性くらい見せて欲しいものだよ。
あまりにもショックすぎてこの事実を受け入れた時はもう辺りをゴロゴロ転がって現実逃避したね、私は。そうしてると月が嫌でも目に入って、今度は別のもやもやが私を襲うんだ。
干物、月……月、干物……月、月、ときどき、干物…。
こうぐるぐると嫌なことばかり考えて、憂鬱な考えに襲われるのはなかなかに堪える。
「今盛り付けるべ」
土器のような薄茶色をしてすこし焦げたような箇所がある皿に、おじさんは鍋の主役たちを盛り付けていく。
思えば、この村に足を運ぶようになってからもう十年以上は経つのか。
私が月への想いや干物の味を無理やり諦めようとしてから、またさらに時間が流れたある日のこと。一日中ゴロゴロと空を眺めてうたた寝なんかしてたんだ。いつの間にか夜になるくらい、本当にゴロゴロとね。
あ~お月様綺麗だな~、なんて、本気で思っちゃったりするくらい何も考えてなかったのは覚えてる。
いやね、月が綺麗なのを実感したり考えたりする時なんて、人間本当になんも考えていない時か誰かに告白する時くらいだぜ?わたしゃ人間じゃないけど。
そしたら聞こえてきたんだ。
ギャーとか、きゃああああとか、うわああああとか。
なんだなんだと思ってさ、近くの林へ行ってみたら、妖怪どもに人間が襲われててさ。ああ、そうなんだ。人間は普通に生き延びていたらしくて各地でまた文明のやり直しをしてる。だけどもう寿命も長くないみたいだし、科学技術も思うように発展していないみたい。成長スピードが本当に遅いんだ、かつての百分の一でも良い方なくらいだ。
私はあの頃みたいに人間たちとは全く接触していない。なんだか気分でもないし、やっぱりあの食欲のこともあった。
そんな人間達が叫んでた。狼みたいな妖怪の群れに襲われて叫んでいたんだ。
目の前で死なれるのは嫌だったから助けてやったさ、狼どもを一匹ずつ吹き飛ばしてね。
やっぱり私は元々人間だから、人に味方したいんだろうなって、そんな普段気づかない心の底にある考えに冷笑気味に納得したりしてね。
見ると男女でちょうど十人。
皆腰抜けちゃったみたいで、なんだか縋るように私を見る訳。
「め、女神様!」
極めつけはこれだった。
一人のその声に続いて、皆私を敬愛し始めたのだ。
「い、いや、女神だなんてそんな高尚なもんじゃ…」
「女神様、どうか、どうか村にお越しください!」
「それはちょっと…」
「さぁさぁ、美味しいご馳走を召し上がってください!肉に魚、なんでもありますから!」
「え、ご馳走?」
私は料理が得意な訳じゃない。干物なんて塩をつけて干すだけだ。それ以外はほんと、そのまま食べるか、焼くか………えっと、焼くかだ。この二択なのだ。
永琳と会う時に幾らか食事をご馳走してもらったりはしたが、あれは格別だった。彼女は普段良いものを食べている。
ああ、一応言っておくと彼女も料理はてんで駄目だ。私が頂いたのは専属の料理人かなんかの料理や街で彼女が買ってきたもので、手料理なんか食べたことない。
エネルギー摂取の準備に時間をかけたくないとか言っていた気がする。
だけど私知ってるぜ、単純にクソ下手くそなだけだって。
…いやぁ、あれは本当にまずかったな。どうして肉を焼くだけであんなゲテモノを作り出してしまうんだろう。
月では是非とも、料理教室なんかに通ってもらいたいね。
「ご馳走……美味しいの?」
「ちょうど収穫祭なんです!それに必要な山菜を取りに遅くまで出かけていたら…こんなことに…」
結論から言うと私は行くことにした。
他の人に会わないでもくもくともぐもぐすればなんら問題はないと判断したのだ。
これには長らくあの食欲を感じていないせいで、アレを見くびっていたというか…どうせ感じやしないだろうなんて高を括っていたのもあっただろう。
村へと入ると忽ち歓迎を受けた。小さな村だ。総人口は百人もいないだろう。
お祭り騒ぎで一際目立つ位置に設置された私はとりあえずご馳走を食べるだけ食べるマシーンに徹しようとしたが、村人達は沢山集まってきて話しかけるもんだから、否が応でも接しないといけなかった。
――まずったな、アレが出るかもしれないし飛んで帰ろう。
もちろん思ったが、食事の出来は良かったし、それに何より、こうして久方ぶりに知能を持った生物と会話をするのが想像以上に楽しくて、私は帰り時を見失ってしまった。
聞くに、彼らはこの周囲一帯の神様に庇護されて暮らしてきたが、その神様が最近になってどこか遠くに居なくなってしまったらしい。
神や妖怪についてだが、神は今世界中にいる。
あのカミとの死闘の後、どういう訳か色々な神様が現れたんだ。信仰の行く末が細分化でもされたんだろうか?
土地に縁のある神様、物に縁のある神様、生物に縁のある神様……ともかく色々なのが現れてその神々のもとに人間たちが集まっている。
そして一部の神達は互いに戦争をし、人間がその道具になっている。それこそなんか洪水が起きたり、大地が割れたり...いかにも神っぽい現象が世界中で起こっている。多分今って、神話そのものの時代なんだろうな。
ある時神様の一人に会った。女の神様だから、女神って呼んだ方が良いのかな。
そいつ、私を見るや否や凄い形相で叫んでさ。
「き、消えたまえ!あ、悪魔の化身っ!」
だなんて言って変な攻撃してくるんだよ。
私も黙ってられなくてさ、というか、神って存在が嫌いだったからあの時のように周りの闇で覆ってやったのさ。そしたら暫く叫んで暴れた後に大人しくなったね。
別に殺してるわけじゃないと思うけど、なんだかちょっと気分がせいせいしたよ。
妖怪についてだけど、人型の妖怪が遂に現れた。私のように知性を持って、人間のような姿をした妖怪だ。
だけど数は本当に少ない。神様なんかよりも少ない。私も未だに二人としか会ったことがない。これからちょっとずつ増えていくんだろうか。
その内の一人は私を見るや否や攻撃を仕掛けてきたので返り討ちにして……いや、夜じゃなかったけど本当に弱くてさ。一撃で怯んで逃げてったんだ。後を追いかけるにも怯えちゃってお話どころじゃなかった。
もう一人は人間と共に暮らしているのを見つけた。妖力の有無はすぐに分かるから私には簡単に判別できた。
妖怪であることを隠しているのか、それとも共生関係を築いているのかは分からなかった。会って話なんかをしようと思ったが、思えば食欲の可能性もあるなと考えてやめた。アレが人間だけに発現するとは言いきれなかったし、なにより私の説では、アレは十分妖怪にも発生し得るものなのだ。
話を戻そう。庇護してくれる神は居なくなり、村や周囲を囲んでくれた庇護の結界は弱まっていった。一応まだ妖怪なんかを跳ね返す力は残っているが、その範囲は前よりずっと小さいのだ。
そんな中で思ったより内部に妖怪に侵入されていた所を襲われていたのが、私が出くわした場面だったそうな。
村人達は一人ずつ私を崇めるような事を言って言葉を交わしてくる。
会話やご飯は良かったが、これは嫌だった。やっぱり神様ってやつはどうも好きになれないんだ。そんな神に私がなるなんて、気持ち悪くて仕方ない。
女神でもなんでもない、ただの闇妖怪のルーミアだと、そう全員に触れ回って、村の仕事を手伝ったり、子供達と遊んだり、そうしてようやく私はただのルーミア、ルーちゃんとしてこの村に馴染んだ。この過程で一度も食欲は発生しなかった。
引き際を考えるつもりが、いつの間にかあの怖さを忘れてみんなと仲良くなることを優先してしまったのだ。
もちろん、最初のご馳走の時に大勢と接さざるを得ない状況になって、その時アレは発生しなかったから大半の人間にあの信号がないことは確定した状態での行動だったけど、それにしてもかなり危ないことをしたと少し反省している。
村へはいつもいる訳ではない、ふらっと立ち寄るのだ。
もともと一つの場所に定住するのは好きでなかったから、こういう形が一番楽しいのだ。
「うん、よく味が染みてるよ」
今までの事を振り返って、そいつと一緒に鴨を喉へと流し込んだ。
夜風がこの家を揺らし、その音が聞こえる。
もう少し耳をすませば他の家からの談笑の声が聞こえる。
子供達の騒ぐ声、それを宥める親の声、それぞれの人間達の生活音。私はこれを求めていたのかもしれない。
「自信作だべ」
やがて、美味しい鴨さんと旬の野菜はすんなりと胃へと流れ込んだ。
うん、満腹満腹。今日はよく眠れそうだ。
「おじさんありがとう、今日はもうそろそろ帰るよ」
「もう帰っちゃうのかい?夜は物騒だべ、朝まで待った方がいいんじゃないかい?」
「私を誰だと思ってるのよ?天下無双のルーちゃんだぞぉ?」
「それもそうだべな。
だけどこんな夜には、闇神様が現れるかもしんないべ。怖いべ闇神様は。みんなみんな真っ暗になっちまうんだべ」
「あはは…」
この闇神様ってのは……何を隠そう、私のことなんだ。
どうやらあのカミを倒した後、夜が長い間続いたみたいで、その事がこうして伝承され続けているらしい。
「いくらルーちゃんでも、闇神様が現れたらどうなるか分からないべ。みんなみんな闇に飲み込まれるんだべ」
「怖いねぇ…。じゃ、私帰るから~」
「闇神様に呪われたら、強い光を当てるんだべ~!」
ぶつぶつ言うおじさんを無視して私は家を出た。
「闇神様は、そんなに怖くないけどねぇ…」
ひゅんっと宙を舞う、村全体が見渡せるくらい空高く。
月が綺麗で、空へと身を任せると気分が良い。
やっぱり夜は最高だ。なんでもできるような、超絶完璧に良い気分。
「これはひょっとすると、本当に闇神様がでるかもねぇ」
私は星の明かりだけが輝く空で、優雅に舞った。
♠
森は好きでもないけど、木漏れ日のことを考えると、やはり好きだと首を縦に振るしかない。
あの光の境界は、どこか現世から逸脱しているような心地良さがある。
だけど境を探っても、なんだかあやふやだ。
確かに光はあるけれど、明確じゃないのだ。
木々というフィルターを通して導出された陽光さんは、果たして本当に太陽の光と呼べるのかしら。
それともそれは、また別の何かなのかしら。
この答えが分かった時、ようやく私は世界を明るく出迎えることが出来る気がする。
だけどやっぱり答えは出ない。
明確な答えなんてありやしないのだから。
ああ、なんだか気持ち悪い。
どんなものにも境い目をつけたがるのは、悪い癖よね。
♠
「一つ歩いて空を見る~二つ歩いて空高く~♪」
木々の合間から差し込む陽光は、闇神様の天敵であるはずなのにとても良いものに思えた。
「木漏れ日さんはっ愉快だな~綺麗な瞳が愉快だな~♪」
今日は森の中、ある花を探している。その花は綺麗な桃色が美しく、煎じて飲むと気分が快調になるらしい。
村人の一人がこの花をもう一度見てみたいと言うのだ。以前は村の近くにも生えていたらしいが、ここ何年かでなくなってしまったらしい。
木々の合間を歩く。木漏れ日だけが私の道標だ。漏れ出た光を辿って、特に決まった目的地もなく森の中をぐんぐん進んでいく。私は探検隊だ。
「んぅ?」
大きなキノコを見つける。一際大きな大樹の根元に生えている。いわゆる、THEキノコってやつ。かさが赤くて白い水玉、柄は真っ白。
手に取って食べてみる。
う~ん、こりゃダメだ。不味くて堪らないや。
そうして隊員数一名の探検隊は、しばらく歩いて少し開けた場所に出た。森の中で、そこだけ木がなくちょっとした広場のようになっている。
中央に腰掛けられそうな岩があるのを見つけた。ちょっと苔むした、中々年季もののようだ。
ここは休憩という名のお昼寝でもしよう。
私は岩を目指すことにした。
しかし、なんだろうか。
風によって木がせせらぐ。
いや、こんなの当たり前のことだ。木の葉が風に揺られて音を出す、ここは森だから木は沢山ある、よってその音は連鎖的に広がり、心地よい音色を届けてくれる。
なんら不自然なことではないけど、変な胸騒ぎがした。特段嫌なものではないが、なんだかじっとしていられないような…そんなドキドキする感覚。
岩はもうすぐそこだ。
改めて私は、周りを見渡した。
先程まで私がいた森とは隔絶されたようなこの空間。
ここから木々たちを見ると、木漏れ日がカーテンのように森を彩っていた。
この森さんは、どうやら紅葉とはまた別の手段で色気づく方法を知ったらしい。
「木漏れ日さんが変にぞわぞわしていると思ったけど、確かにこれは変ねぇ」
「え?」
声が聞こえる。すぐ真後ろからだ。
今は件の岩にちょうど背を向けているけれど、さっきまで岩のそばには人なんていなかったはず。訳が分からなかった。
振り返る。
異常な光景だ。岩の真上、その空間から何かが裂け出ているのだ。歪んでいたのだ。そこだけが明らかに私の生息する、三次元でなかったのだ。
びったりと、そこだけが写真のように切り取られる。楕円のように切り裂かれたそれからは、無数の目玉が覗いていた。黒と赤、それだけが絵の具をぶちまけたかのように存在している。
私は初めて、というよりは本当に久方ぶりに危険信号に身体中を支配されたようだった。見てるだけでぞわっとして、生命の危険を感じるような不気味さなのだ。
しかし、なんだか知っている光景だ。
思えばこれは…。
……これはもしかして…。
思考の最中、金髪の少女がぬるりと出てきた。
「気味が悪いわね~貴女の境界が見当たらないのよ~」