転生したと思ったらママになっていた件   作:大神降ろし

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第百一話

 

「そうか…託されたので育てていたのか」

「お前さん、随分変わってるな」

「ゴルド、うっさい。そこは優しいって言いなさいよ」

「モームをこんなにじっくりと見た事無いですねー」

「…ドラコウルフの毛は手触りがいいな」

 

 ギルドのロビーの一角にルゥト達と座っているシリウス達。

 シリウスはルゥト達にカペラ達を育てている経緯を話し、話している間カペラ達はセレム達に撫でられている。テーブルの上にはカペラとハダルとリゲルが乗っておりセレム達に撫でられている。

 

「(プルプル)」

「シュー」

「ワフ?ワン!」

 

 撫でられているカペラとハダルは気持ち良さそうにしているが、リゲルはよく分かっておらずレネイから離れてシリウスの方へやってきた。

 

「リゲル、どうした?」

 

 膝の上にポラリス達がおり手を出せないので顔を近づけるとリゲルはシリウスの匂いを嗅ぎだした。かなり入念に嗅いでおり、シリウスと目が合うとしばらくジッと見つめていた。

 

「ワフ!」

「んおっ。ふふっ、擽ったいぞ」

 

 突如嬉しそうにシリウスの顔をペロペロと舐めだし、シリウスはよく分からないが好きにさせている。

 

「どうしたのかしらね?シリウスちゃんは大丈夫って判断したのかしら?」

「それにしては急な気がするが…もう少し段階を踏むと思うが」

「あー、確かにな」

「シリウスちゃんから何か感じたのかもね」

「ふふっ…感じる?んー…あー、そういえば…あれか?でもあれって何なんだろうな?」

 

 リゲルが急に懐きだした理由に心当たりがあるシリウスだが、未だにあれが何だったのか分からなかった。

 

「何か心当たりが?」

「ええ。リゲルの親の死に際に親の身体から、何だろうなあれ…半透明の親が飛び出してきて私の身体に入ったんですよね」

 

 シリウスが何て事は無いように話すとエルフィナ達は皆固まった。

 

「「「「「………」」」」」

「あの…?」

「「「「「えええぇぇぇ!?!?」」」」」

「!?ふえええぇぇぇ!」

「!?あああぁぁぁ!」

「ひぅ!?」

「(プルプル)!?」

「シャ!?」

「キャン!?」

「ぬおっ!?ああ、よしよし、大丈夫だよ~、ほ~らよしよし」

 

 突然大声を上げたエルフィナ達に驚いたポラリス達が一斉に泣き出して大合唱が始まりシリウスは慌ててあやしだした。

 

「なっ、なっ…!?」

「ま、まさか…!?」

「おっま!?えっ!?ちょっ、おっま!?」

「いやいやいやいやいや!?」

「いやいやまさかそんなことは」

「聞き間違いだ…ああ、そうに違いない…」

 

 想像以上に皆驚いており、言葉が続けられない状態でミラミスとレネイは現実逃避するほどだった。

 

「そんなに凄い事なんですか?」

「凄いなんてもんじゃないよ!とんでもない事だよ!」

「いつか何かやらかすんじゃないかと思っていたが…」

「想像以上にとんでもない事、やりやがったな…」

「それは私も聞いてなかったなー」

「いやー、一体何なのか分からなかったから」

「…取りあえず場所を変えるか」

 

 エルフィナ達の驚いた声でギルドにいる人達がどうしたのかと遠巻きにシリウス達を見ていた。

 

「誰もいない場所…なら、あそこだな」

 

 ゴルドに連れられて皆が向かった先はシーゼルの道場だった。

 

「…それで?内緒話をするために家に来たのかい?」

「おうよ。なあに、迷惑は掛けねえって」

「はぁ…まあいいけどね。壊さなかったら自主練習をしてもいいよ。じゃ、俺は爺さんの世話があるから」

 

 まだ腰を痛めている祖父の世話のためにシーゼルは家の方へ帰っていった。

 

「ブルルル…」

「よしよし」

 

 シリウスは外への扉を開けて連れてきたウェズンを甘やかしている。

 

「その子も育ててるのか?」

「ええ。目の前で親が…見捨てる訳にもいかなかったので」

「なるほど…」

「おめえさん、やっぱり変わってるなー」

 

 場所を移動したのである程度落ち着きを取り戻したエルフィナ達は何も知らないシリウスに説明を始めた。

 

「シリウスちゃんが見たのは、そのドラコウルフの魂よ」

「魂?」

「そう。己の全てを相手、シリウスちゃんに託したの」

「そして託された者はその魂を自由に使役できる。これを“召喚魔法”と言う」

「召喚魔法は力ある魔物から託されない限り絶対使えない魔法なの。仮に無理矢理魂を奪ったとしても自由に操れないよ」

「召喚すれば生前の魔物が姿を現して一緒に戦ってくれると書物で読んだ事があります」

「召喚魔法はここ百年で使えた者はいない」

「へー…じゃあ私はリゲルの親を召喚できるようになったって事ですか?後で呼び出してリゲルに会わせてやらないとな」

「そういう事になるけど…シリウスちゃん、ちゃんと話を聞いてた?今のシリウスちゃん、とっても希少価値があるのよ。精霊の事も併せたら本当に捕まるわよ」

「精霊?精霊とも繋がりがあるのか?」

「シリウスちゃん、感知できて仲が良いの。このままだったら契約するぐらいに」

「それは…マズいな…」

「貴族はそういう希少価値が高いのに目が無いからな。あらゆる手を使って捕まえようとするぜ」

「捕まえてどうするんです?」

「コレクションにして見せびらかすのさ。自分はこんな凄いのを持ってるんだってな」

「人権無視ですか。控えめに言って最低ですね」

 

 ポラリス達がいるので言葉は選んだが冷え切った目と無表情が全てを物語っていた。

 

「今はまだ大丈夫だろう。精々が珍しい魔物を持っている程度のうわさが広がるぐらいだ。だが召喚できる、精霊と契約している、この二つが公になればほぼ間違いなく接触してくるぞ」

「最初はかなり威圧的で、上から目線で、横暴だがまだ比較的マシだな。それを断ったら速攻で強硬策に出てくるぞ」

「それを防ぐには、バレないか、手の届かない場所に逃げるか、手が出せないぐらいの後ろ盾を手に入れるか、それのどれかですね」

「お、おう…よく分かったな…」

「どれだけ隠していてもいづれどこかから漏れるし、逃げるにしても隣国程度なら追いかけてくるだろう。後ろ盾も侯爵以上でなければ効果は薄いだろうな…」

「うーん…バレないようにしつつ逃げるしかないかなぁ…」

「まだそれが現実的だな。取りあえずアールレディアに行ってみたらどうだ?あそこはこの国じゃ一番マシだぞ」

「ああ。確か独自の法があって手出しができない、でしたっけ?」

「ああ。あそこは色んな国から様々な種族が集まる都市だからな。この国の者なら中々手は出せないはずだ」

「ただ、他の国からの要人も来るからその人達に目を付けられないようにしなくちゃいけないけどね」

「それでもこの辺よりは遥かにマシだぜ」

「そうですね。ちょうどアールレディアに行く用事もあるので行く事にします」

「なら色々と準備が必要ね」

「準備?何かあったか?」

「シリウスちゃん。流石にあの背負子は無理があると思うの。スピカちゃんも大きくなるんだから変えた方がいいわ」

「あー、背負子ね。うーん、でもなー…スピカは絶対に背負いたいし…かといって荷物を手に持つ訳にもいかないし…ウェズンに持たせるのも却下だし…」

「なら魔具はどうだ?確かそれなりの大きさの袋でかなりの容量が入る魔具があったはずだ」

「魔具か…売ってそうな所は心当たりがあるけど、値段がなぁ…」

「確かになー。魔具はどれもこれも高えからなー」

 

 シリウスは荷物の中から財布代わりの袋を取り出して所持金を数え始めた。

 

「…結構持ってんだな」

「今の俺より金持ちだな」

「うわあ…金貨がいっぱい…」

「はわー…」

「よくそれだけ稼げたな」

「巡り合いが良かっただけですよ。大体600000リクルか。これならワンチャンいけるか…?」

「それなら何とかいけるかもね。買う所はハウアー商会でいいしね」

「あそこで買うのか!?あそこすげー高えぞ!?」

「ああ、上客の会員証があるんで多分大丈夫ですよ」

「お、おお…いつの間に…」

「そこの会長を助けたお礼でくれたのよ。ちなみに私もあるわ」

「そうなのか…それならいくらか値引きしてくれるかもしれないな」

「魔具はこれでいいとして…後は魔戦技と装備かな…」

「そうだな…アールレディアに行くのならそれなりの実力があった方がいい。あそこは様々な種族がいるから、その分騒動にも巻き込まれる可能性があるからな。俺で良ければ少し相手になるがどうだろう?」

「いいんですか?ならお願いします」

 

 ルゥトの提案にシリウスは乗り、急遽実剣による試合が行われる事になった。

 

「よーし、審判は俺がしてやるぜ。準備はいいか?」

「はい」

「ああ」

「よし。なら…始め!」

 

 開始と同時にシリウスはルゥトへと駆け出して剣を振り下ろした。ルゥトはそれを難なく受け流しがら空きの胴体に剣を振ろうとした。

 

「(虚幻流…虚動!)」

 

 日々の訓練で成功率が七割までになった虚動を使いルゥトの剣を避けた。

 

「(手応えが無い!残像か!)」

 

 残像を斬ったルゥトは斬った勢いのまま回転し後ろに回ったシリウスを迎撃すべく剣を振るった。後ろに回ったシリウスは虚動を使ったまま横薙ぎをスライディングで躱し、再びルゥトの後ろに回って身体を捻ってルゥトの足元を薙ぎ払った。ルゥトは前に跳ぶ事でそれを回避して距離を取った。

 

「ふぅ…(いやぁ、ぜーんぶ見切られてるなー。当然と言えば当然なんだけどね)」

「(ここまで腕を上げていたとは…これは少し本気でやらないとな)」

 

 多少手を抜いていたとはいえ一撃も入れられず動かされるとは思ってもみなかったルゥトの本気に火が付いた。

 

「あーあー…嬢ちゃん、ルゥトの奴の本気に火を付けちまいやがった」

「あちゃあ…ああなったら中々止まらないんだよね…」

「でも、ルゥ君がそこまでなるぐらいシリウスさんは強くなったんですね」

「少し生き急ぎすぎじゃないかあいつ…」

「ポラリスちゃん達がいるから早く強くならないといけなかったのよ。本当ならもっと楽しい事とかできたのにね…」

 

 エルフィナの言葉に暗い表情になるセレムとミラミス、目を伏せるゴルド、表情は変わらないもののシリウスを見つめるレネイ。実際シリウスはポラリス達を守るために強くなる必要があったが、今の暮らしに特に不満は無く楽しく過ごしている。

 勘違いをしているエルフィナ達に見られながらルゥトと対峙しているシリウスだが、明らかに目の色が変わったルゥトを見て試合をした事に若干後悔し始めたが時すでに遅し。ルゥトは前触れも無く前傾姿勢でシリウスに突っ込み下段から剣を振り上げた。

 

「いぃ!?」

 

 シリウスが反応できるギリギリの速度で何とか防いだが、かなりの威力に手が痺れた。たたらを踏みながら後ろに下がるシリウスをルゥトは逃さずに距離を詰めて猛攻を繰り広げている。振り下ろし、袈裟斬り、横薙ぎ、逆袈裟、振り上げと襲い来るルゥトの猛攻をシリウスは何とか凌いでいる。

 

「くぅ…!?(ちょ!?この人ガチ過ぎる!審判!しんぱーん!ちょ止めてー!?)」

「ふっ…!(これすら凌ぐか!この子は凄い逸材だ!)」

 

 審判のゴルドに訴える暇すら無いぐらいの猛攻を必死に捌いているが、捌かれるのを見て益々熱が入るルゥト。とんでもない悪循環に陥っているシリウスは何とかしようと逆転の機会を伺っている。

 

「(勝てないにしても何とか一発入れてやる…!何とか耐え忍べばどこかに隙が…!)」

 

 負けるのは仕方が無いにしても、何もせずに負けるのは嫌なので虎視眈々と隙を伺うシリウスの狙いにルゥトも気づいていた。

 

「(隙を伺っている…一発逆転を狙ってるな…いいだろう。なら、真っ向勝負!)」

 

 ルゥトは敢えて攻撃の手を緩めて隙を作った。シリウスは気づかれたと思ったが後が無いのでそのまま突き進む事にした。互いに上段からの振り下ろしを放ち剣と剣がぶつかり甲高い音がした。

 

「ぬおおおぉぉぉ…!」

「ふっ」

 

 力を込めて熾烈な鍔迫り合いを繰り広げており、シリウスがさらに力を込めようとした時、シリウスの剣からバキッという嫌な音がした。

 

「「あっ」」

 

 中程から折れてしまい、折れた片方はクルクルと回りながらゴルドの方へ飛んでいった。

 

「ぬおおおぉぉぉ!?」

 

 間一髪しゃがんで何とか直撃せずに済んだが、髪の毛が数本犠牲となり折れた剣は壁に刺さった。

 

「大丈夫か!?」

「お、おお…し、死ぬかと思った…」

 

 九死に一生を得たゴルドは地面に座り込んでいる。

 

「あー、すいません」

「い、いや…嬢ちゃんは悪くねえから気にしなくていいぜ。おいルゥト。おめえはやり過ぎだ」

「す、すまん…つい昂ってしまって…」

「あーあー…ポッキリ折れちゃったよ」

「これ、使い物になりませんね」

「どうするんだ?」

「シリウスちゃんが使うサイズの剣って中々高いのよね…」

「んー…まあ、ショートソードがあるので何とかなりますよ」

 

 元々劣化してきたソルジャーアントの牙の剣の代わりになる剣を探していたのでそこまでショックを受けなかった。

 

「おいルゥト。おめえの所為だぞ。ちゃんと弁償しろよ」

「そう、だな。ああ、俺のミスだな。また金欠になるが、仕方が無い」

「いえ、別にそこまでしなくても」

「いや、俺の責任だ。君の代わりの剣の代金は全て俺が払う」

 

 心の中で泣きながらも自分の所為なのでルゥトは払うと宣言した。

 

「ひゅー、言い切ったな。なら良い剣を探さないとな」

「だが、この辺りにある武器屋はこの前見たぞ。中々良い物は無かったが…」

「なら、鍛冶屋に行くか?製作を依頼するか、置いてある物を売ってもらうよう説得するかになるが」

「そっちの方がまだ良さげな物があるかもな」

 

 折れてしまったシリウスの剣を見繕うために一行は鍛冶屋を探す事にした。

 その少し前。

 ドラゴンファングの本拠地でボスのラーミルと部下のルドが話し合っていた。

 

「…本当か?」

「ああ、ボス。クルセイダーズの奴ら、他所から腕の立つ奴らを招きやがった。俺も確認したから間違いねえ」

「どんなだった?」

「どいつもこいつも癖が強そうだったぜ。腕の方も俺と互角か少し上かもしれねえ。それと一人だけ外套を被って顔は見えなかったが、あの体格は人間じゃなかったな」

「面倒くせえな…他には?」

「こっちは部下から聞いたんだが…その他所から来た奴ら、どうも誰かを捜してるみたいだ。部下はガキがどうとか聞いたみたいだが」

「ガキだ?」

「ああ。どうもそいつら、手を貸す代わりにガキを捜すのを手伝わせてるみたいだ」

「…多分、他所から来た連中はどっかの組織だろうな。で、何故かは知らんが逃げたガキを捜してると…あん?そういやこの前の…まさか…いや、なら…」

「ボス?」

「…ルド、お前、あの子連れの嬢ちゃんのとこに行って今の話をしてきてくれ」

「子連れの…?ああ、ボスの姉の顧客の。してもいいのか?」

「ああ。もしかしたらそいつらが捜してるのがその嬢ちゃんが連れてる子供かもしれねえ」

「まさかそんな」

「いや、あの嬢ちゃんが王都に来て少ししてからガキを捜している奴らが来た。全くの無関係というには時期が合いすぎている。俺の考え過ぎかもしれねえが念の為だ」

「…分かった。早速行ってくる」

「すまねえな。使いっ走りみたいな事をさせて」

「気にするな。あいつと面識があるのは俺ぐらいだからな」

 

 ラーミルから指示されたルドはシリウスが泊っている宿屋へと向かった。

 

「…何事もなけりゃいいんだがな」

 

 独り言を漏らすラーミルだが必ず何か起こると確信していた。

 シリウスに悪意が襲い掛かろうとしている。

 

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