シリウスの剣が折れたのでその代わりを探すために道場を出た一行。
するとちょうど宿屋へ向かおうとしていたルドと出くわした。
「お?そこにいたのか。ちょうど良かった」
「あ、確かドラゴンファングの人」
「ルドだ。ルド・スターハン。お前さんに話しておきたい事が合ってな」
「話しておきたい事?」
ルドはラーミルが推測した事を包み隠さずシリウスに話した。
「…なるほど。確かに心当たりはあるけど…」
「あったのか、心当たり。ボスの予想は当たってたのか。そして嬢ちゃんは一体何をしたんだ」
ルドはラーミルの予想が当たっていた事に驚きつつシリウスのやらかしが気になった。
「…まあ、ここまで来たら話すか。皆さんも聞いてくれます?」
「勿論よ。全部受け止めるわ」
「ああ。聞かせてくれ」
「ここまで来て聞かないっていうのはねえな」
「当然だよ!」
「はい、聞かせてください」
「…まあ、聞くだけ聞いてやる」
シリウスはその場にいる皆に経緯を話し出した。最初は皆真剣な表情だったが、シリウスが貴族に喧嘩を売った事を知ると呆れたり、頭を抱えたりと反応は様々だった。
「うーん…ポラリスちゃん達はどこかから拾ってきたとは思ってたけど…それ以上だったわねえ…」
「よりにもよってプトグロア伯爵に喧嘩を売るとは…」
「ガッハッハッハ!とんでもない事をやらかしたな!ガッハッハッハ!」
「しかも他の奴隷達も逃がしたって…!」
「さらに奴隷商人の物資も燃やして盗むなんて…!?」
「そりゃ追われるな」
「おめえ…顔に似合わずとんでもない事をするな…」
「どういう意味だそれは。とにかくそういう事だから、ボスにも言っといてくれ。あ、そうだ。この辺で鍛冶屋ってあるか?」
「鍛冶屋だ?そりゃいくつか知ってるが…何だ?装備でも作るのか?」
「剣が折れちゃってな」
「ああ、なるほどな。案内はできねえが場所は教えてやる」
ルドは鍛冶屋の住所を紙に書いてシリウスに渡した。
「ゴネたりしたら俺の名前を出しな。それなら話ぐらいは聞いてくれるさ」
「そりゃどうも」
事情を知ったルドはラーミルに報告すべく帰っていった。
「さて…教えてくれた鍛冶屋にでも行くとしますか」
「ちょっとシリウスちゃん?この空気どうするの?」
エルフィナに言われてシリウスが振り向くと皆まだ頭を抱えていた。
「そんなに深刻にならなくてもいいんじゃないんですか?当事者は私だけなんだし」
「何故そう取るんだ。こんな話を聞かされて、はいそうですか、になると思ったのか」
「何だ?自分一人で何とかするつもりだったのか?」
「そりゃそうでしょう。やったのは私なんだし。皆さんは、言っちゃ悪いけど関係無いんだし」
「いやいやいや。シリウスちゃん、それは無いよ!」
「そうですよ!こんな話を聞かされて無関係ではいられません!」
「…まあ、そういう事だ。私が何を言ってもこいつらは味方をするからな。チームの奴らが手伝うのだから致し方ない」
「どうせレネイも協力するつもりだったんでしょうが」
「ふんっ、そんな事は無い。お人好しのお前達と一緒にするな」
「またそんな事言って…素直じゃないんですから」
「…まあ、手伝ってくれるのなら助かりますけど…いいんですか?間違いなく裏組織の人達と関わる事になりますよ?場合によっては共闘なんて事もあり得ますよ?」
「確かに裏組織と表立って一緒にはいられない。だが、“偶々”戦う相手が同じで、“偶々”同じ場所で戦うのであれば何も問題は無い」
「それ、すっごい屁理屈ですよ」
「屁理屈じゃない。偶々だ」
偶々を強調してゴリ押すルゥトに呆れた表情を浮かべるシリウスだが、ゴルド達の方を向くとルゥトに同調して頷いていた。
「…はぁ…どうなっても知りませんよ」
協力する気満々なルゥト達に呆れつつも内心ありがたいと思うシリウスはエルフィナとルゥト達と共に教えてもらった鍛冶屋に向かった。一番近くにある鍛冶屋に向かうとそこにあったのは屋根や壁に穴が空いているボロ屋だった。
「ここか…?」
「見た目、相当ヤベェぜ?」
「ここっぽいんですけど…取りあえず入ってみますか」
中に入ると一応鍛冶屋らしく炉や家事道具が置かれているが、長い間使っていないらしく埃が積もっていた。
「誰だ!?勝手に入ってくるんじゃねえ!」
「ここって鍛冶屋ですよね?」
「ああ!?俺は仕事はしねえ!ヒック!さっさと出ていけ!」
鍛冶屋の主人は相当苛立っているらしくシリウスの話を聞かずに追い返した。
「何あれ!?」
「態度凄く悪いです!」
「酒臭かったな。相当酔っ払ってるぞあれ」
「埃も溜まってたな。多分長い間仕事が無くてヤサグレたんだろうな」
「それでやってられなくて酒浸りか?分からなくはねえが、待望の客が来たのに追い返すとはな…」
「次行きましょうか」
「そうね。まだ二つあるし」
二つ目の鍛冶屋に向かうと穴も空いていない普通の家だった。
「見た目は大丈夫そうだな」
「だな。さて、今度はどんな奴かな…おん?」
ゴルドは何か物音が聞こえたので窓に耳を当ててみた。
「…あー…ここは止めとこう」
「どうしただ?」
「中で…その、何だ…お楽しみ中みたいでな」
「お楽しみ中?」
「どういう事?」
「レネイは分かります?」
「私が分かると思うか?」
頭にクエスチョンマークを浮かべるルゥト達だがシリウスとエルフィナは理解してしまった。
「ああ、なるほど…」
「あー、そういう…」
「何で一番隠したい奴が分かるんだよ…」
気遣いが無駄になってしまいガックリと肩を落とすゴルドを連れてその場から離れた。
「どこも碌な所じゃないわね」
「何であんなところ紹介したのよ、あの男は!」
「もしかして、現状を知らなかったのかもしれませんね」
「それにしてもそんなすぐ潰れそうになるか?」
ミラミスの言う通りでルドは最近忙しくて二つの鍛冶屋の現状を知らずに、以前と同じようにやっているだろうと完全に善意で教えていた。一行は教えられた最後の鍛冶屋の前にやってきた。二つ目と同じように見た目は普通の家だった。
「…よしよし、変な物音はしてねえな。ちゃんと働いているみたいだ」
不安げな表情で窓に耳を当てて中の様子を伺っていたゴルドは一安心したように溜め息を吐いた。ドアを開けると金属を打つ鎚の音が聞こえてきた。中に入るとそこには剣や槍など普通の武器の他に様々なロマン溢れる武器が飾っていた。
「何だここは…?」
「ほう…中々分かってるじゃねえか」
「ここって鍛冶屋、よね…?」
「見た事無い物ばっかりですね…」
「どうやって使うんだこれ?」
鋸状の刃の剣、ゴルドより大きい特大剣、柄に鎖に繋がった鉄球が付いている片刃の大斧、柄の両端に刃が付いている両刃剣、ビッシリと棘が付いた大型メイス、巨大な柱にしか見えない棍棒、禍々しい装飾が施された大鎌、金属製のトンファー、大型の魔物の爪をそのまま使ったポールアックス、殺傷能力が高そうな棘が付いた篭手、煌びやかな装飾が施された三節根。ゴルドだけは理解を示したがルゥト達は首を傾げていた。
「ここもとんでもないとこみたいねシリウスちゃん…シリウスちゃん?」
だがここに目を輝かせている者がいた。
「おお…すげえ…!」
ロマン溢れる武器を見てシリウスの奥深くで眠っていた中二病が鎌首を上げて表に出てきた。
「(今までごく普通の武器ばっかりだった…いや、それが悪い訳じゃないんだが、何だか物足りなかった…だが!遂に私が求めていた物が目の前にある!これで興奮しないわけがない!)」
鼻息荒く飾られたロマン武器を見ていると奥から初老の店の店主が出てきた。
「何じゃお主ら?客か?」
「おうよ。ちっと剣を打ってほしくてな」
「それは構わんが…誰のを打つんじゃ?」
「あそこで目を輝かせてる嬢ちゃんだよ」
「ふおおおぉぉぉ…!かっけえ…!」
今まで見た事が無いぐらい目を輝かせているシリウスをエルフィナは目を丸くして見ており、ポラリス達は不思議そうにシリウスを見ている。
「あらー…こんなシリウスちゃんは初めて。こんなのが好きなのね…」
「ま~?」
「ままー?」
「かあ、さま…?ど、うした、の…?」
ポラリス達の声も届かないぐらいロマン武器に熱中しているシリウスに店主は驚いた表情を浮かべていた。
「あの娘か…?」
「ああ。あれでもハンターだぜ?」
「いやそれはいいのだが…まさかわしの武器を理解してくれる者が現れるとは…!」
「!!あなたが店主ですか!?ここの武器はどれも素晴らしいですね!ロマンが溢れてる!」
「おおっ…!分かってくれるか…!」
「ええ!見ているだけでもう心が躍ります!」
「くぅ…!苦節三十年…馬鹿にされ続けていたが…それが今、ようやく報われた…!」
店主は昔からロマンに憧れていて、いつかロマン溢れる武器を作るのだと豪語していた。だが店主の作る武器はどれも一癖も二癖もある物ばかりなので誰からも見向きされず馬鹿にされ続けていた。生活の為に妥協して普通の武器を作っていたが、作る最中も全然心は躍らず灰色の毎日を送っていた。それが今日、シリウスに認められたおかげで今までの苦労が報われて涙を流す店主。
「…よし!今日は目出度い日だ!お前さんに色々見せてやる!ついてこい!」
「はい!」
すっかり上機嫌になった店主はシリウスを倉庫の方へ連れていった。
「おいおい、置いてくなよ」
「シリウスちゃんは置いておいて…男の人ってああいうのが好きなの?」
「どう、なんだろうな…少なくとも俺はそうは思わないが…」
「男ってよく分からないね…」
「ルゥ君は違うよね」
「人間はよく分からん」
ロマンを理解できないルゥト達が首を傾げながら倉庫へ行ったシリウスを追い掛けた。倉庫には表に並べていないロマン武器が所狭しと並べられていた。
「まずはこいつだ!こいつはただひたすら頑丈さを追求した特大剣だ!どんな魔物の攻撃も容易く防げて、どんな硬い物でも叩き潰せるぞ!ただ頑丈さだけを追求し過ぎて鈍らになっちまって、さらに重過ぎてわしでも持てなくなっちまった!次はこれだ!これは見た目は大槍だが石突の部分に魔石を填めれる!そこから魔力を噴射して思いっ切り投げれば超高速で飛ばせるぞ!ただ魔石は投げる度に壊れるから使う度に変えなきゃならないし、飛んでいった槍も回収しないといけねえ!そいでこれは内部に魔石を仕込んだ大鎚だ!叩く度に中の魔石が反応して爆発を起こす!威力は倍!さらに倍!ただ爆発に耐えるために鎚の部分は頑丈にし過ぎて滅茶苦茶重い!中の魔石も二、三回使えば壊れちまう!魔石を変えるのに毎回解体しないといけねえ!まだまだあるぞ!」
店主が紹介した一部のロマン武器はどれもこれもロマンだが、ロマンを追求し過ぎて正直使い物にならなかった。付いてきたルゥト達も呆れ顔になっていたがシリウスとゴルドは違った。
「これぞロマン…!」
「うんうん。ロマンってのはこうでないとな!」
目を輝かせているシリウスと納得するように頷くゴルド。
「あー…凄いのは分かったが、この娘が使えそうなのは無いのか?」
「この娘用か。そうだな…んー、どれがいいかの…」
ルゥトに言われて店主は倉庫に置いてある武器を手に取ってあれでもない、これでもないと吟味している。これでないと判断したのはその辺に放り投げており倉庫はドンドン散らかっていった。
「あーあー、もう…」
「あぶね!?おいおい気を付けてくれよ」
エルフィナとルゥト達が呆れながら待っている間、シリウスは興奮していてポラリス達をおざなりにしてしまったのでご機嫌取りをしている。
「ポラリス~、アトリア~、スピカ~、ごめんね~」
「う~」
「んー!」
「わ、わた、しは、べ、つに…」
すっかりご機嫌斜めになって膨れているポラリス達をギュッと抱き締めたり、頭を撫でたり、キスしたりとあやしていた時、ふと顔を上げると壁に飾られてい一本の剣が目に付いた。その剣は無骨で実用性を重視しているかのように飾りっ気は無かったが、シリウスはその剣が気になって手に取ってみた。
長さが80㎝ほどの刀身にはいくつもの横筋が入っており、柄にはナックルガードが付いているが、手の甲側と柄頭にも物々しいナックルガードが付いていて、どう見ても防御用ではなく攻撃用に見える。シリウスが使っていた剣より重いが振り回せない事は無く、何より数多あるロマン武器の中でもビビッと来た逸品だ。
「多少慣れはいるが、いけるな…店主さん、これはどんな武器ですか?」
「あん?ああ、そいつか。へっへっへ、おめえさん、見る目があるな。そいつはわしが作ってきた中でも自信作の一つだ。そいつに魔力を通してみな」
シリウスが言われた通り剣に魔力を通すと刀身が横筋に沿ってバラバラに地面に落ちた。
「うえっ!?」
「ハッハッハ!驚いたか?そいつは魔力を通すと刀身が鞭みたいになるのさ。繋いでるのは魔力だから千切れる心配も無いのさ。戻す時は元の剣をイメージしながら魔力を引っ込めてみな」
シリウスは鞭状になった剣をマジマジと眺め、魔力を戻すと元の形に戻った。
「いいだろう?そいつを作るのにはかなり苦労したぜ!」
「おいおい…ロマン武器を作るのに魔具の要素も組み込んだのか?」
「当ったり前よ!ロマンを追求するのに妥協は許されねえ!」
自分が納得する物を作るためならどんな苦労も厭わない。鍛冶職をする傍らで魔具の制作するための勉強もこなし、道具や設備を設置して素材を集めた。凄まじい苦労と労力、そして資金が掛かったが、夢にまで見た自分が思い描くロマン武器を作れたので何の後悔もしていなかった。
「もしかしてそいつが気に入ったのか?」
「ええ。重いですけど許容範囲内ですし、頑丈なので防御面でも問題無いですし、近づかれたらナックルガードで殴ればいいし、鞭状にすれば離れた相手にも当てられるし、何よりカッコいい」
「ハッハッハ!べた褒めだな!そこまで褒められたら売らない訳にはいかんな!」
「いいんですか?お気に入りの逸品では?」
「武器ってのは使われてナンボだからな。このまま倉庫で死蔵されるぐらいなら誰かに使ってもらう方がそいつにもいいさ。ロマンを理解してくれた嬢ちゃんになら売れる!」
「…すまないが、あれはいくらぐらいだ?」
「んー、そうだな…希少な素材を結構使ったし、作るのにもかなり苦労したからな…本当なら一億、と言いたいところだが、理解者である嬢ちゃんになら1000万でいいぜ!」
「あー…本当にいいんですか?」
「おうよ!」
シリウスが使う剣はルゥトが払う事になっているのでルゥトの方をチラッと見てみた。九割引きになって破格の値段になっているがそれでもかなりの高額に眉間に皺が寄っていた。
「…ゴルド、今いくら持ってる?」
「あー、50000ぐらいだな」
「何でそんなに無いんだ。この前依頼で貰っただろう?」
「色んなとこでツケが溜まっててな…それを全部返しちまった」
「そうか…むぅ…」
ゴルドに金を借りようとしたが当てが外れてしまい頭を悩ますルゥト。
「仕方が無い。ギルドに話して金貸しの所に行くとしよう」
「だな。まあ、仕方がねえよ」
「金貸しの紹介もしてくれるんですか?」
「ああ。こういう装備は高えからな。一括で払うなんて早々無いからよ。ギルドが身辺調査してOKが出た所を紹介してくれるのさ。上位のハンターでも借金してる奴なんてゴロゴロいるぜ」
「金の話は終わったかい?ならこいつに頼むわ」
店主が差し出した紙にルゥトは何かを書き出した。
「あれですか?いくら払うかっていう証文みたいなものですか?」
「そういうこった。即金で全額払えない奴が書く後日払う証文さ。もし払う素振りが見られなかったら、あれを持ってギルドに訴えればペナルティと共に払うよう通告されてな。それでも払わなかったらハンター資格剥奪の上、有り金全部持っていかれて、足らなかったら身包みを剥がされて、それでも足りなかったら強制労働さ。悪どい奴らが何回かやらかしたおかげでその辺の罰則がかなり厳しくなったのさ」
「へー。まあお金の貸し借りならそれぐらい厳しい方が良さそうですけどね」
「書き終わったぞ」
「…よしよし、問題は無いな。これでそいつは正式に嬢ちゃんの物だ。と言っても結構な時間、倉庫にいたからなぁ。鍛え直すから二、三日待ってくれや」
「分かりました」
ルゥトが借金を抱える事になったが無事シリウスの武器が手に入った。
「これで武器はOKっと。次はハウアー商会だな」
「そうね。行きましょうか」
「ハウアー商会か…初めて行くな」
「俺みたいなんかとは縁が無い所だからな」
「何が置いてあるんだろう。楽しみー♪」
「きっと物凄く高い物とか置いてあるんでしょうねー」
「エルフ用は置いてあるんだろうか?」
鍛冶屋を出発した一行はハウアー商会の店へ向かう事にした。