転生したと思ったらママになっていた件   作:大神降ろし

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第百六話

 

 翌日。

 いつものように朝食を取り終えた後、エルフィナは買い出しと付近の偵察に出掛けていき、シリウスは部屋で待機となった。その間に荷物を整理する事にして、マジックバックに荷物を詰め込み始めた。

 

「おお…どんどん入っていく。なのに袋の方は変化無し。すげー」

 

 八割ほどの荷物を入れる事ができ、残りは肩掛けカバンの方へ入れた。今まで使っていた背負子は少し悩んだが一応持っていく事にした。

 

「後はエルフィナが買い出ししてくれたものを入れれば準備万端だな」

 

 ポラリス達と遊びながらエルフィナが帰ってくるのを待つ事にした。エルフィナは市場で日持ちがする食材を吟味している。

 

「うーん…そうね、これとこれ、あとこれも。お野菜はこれでいいわね。後はハダルちゃんとリゲルちゃんのお肉を買って、いや、お魚も食べるかしら?」

 

 頭を悩ませるエルフィナだが、今の暮らしにとても満足していた。

 

「(ふふふ、楽しいわ…食事でこんなに頭を悩ませたのは何時ぶりかしら?少し前までは食事も適当に済ませてたのに…シリウスちゃんのおかげね…ん?)」

 

 帰ったらまたシリウスに抱き着こうと考えていたら不穏な気配を感じた。肉を吟味しながら気配を探ると黒い外套を被った男達を見つけた。

 

「(例の組織、サヌワットの連中ね。私がシリウスちゃんと一緒にいると踏んで見張ってるのね。でもバレバレよ)」

 

 エルフィナは移動しながら男達の数や居場所を探りつつ買い出しを続けている。

 

「これで全部ね(一、二、三…五人ね。三人は私を囲むように動いて、二人は屋根の上から見張っている。なら…)」

 

 エルフィナは敢えて男達の方へ歩いて行った。男達は通行人を装ってやり過ごし、エルフィナの後を追った。そこにハンターの一団が市場に買い出しにやってきて、エルフィナはその一団に紛れて見えなくなった。男達はすぐに移動してエルフィナを捜したが、エルフィナは魔戦技を使って既にその場を離れていた。

 

「残念だったわね。この時間は依頼に向かうハンター達が買い出しに来るのよ。出直してらっしゃい(とはいえこの地区にいる事は知られてる…早ければ今夜にも来るわね。急がないと)」

 

 消えたエルフィナを探している男達の様子を伺っていたエルフィナは屋根伝いで宿屋へと帰った。

 

「ポラリス~、ハイハイの練習しようね~。ほ~ら、よいしょ、よいしょ」

「あ~、う~」

 

 エルフィナの帰りを宿屋で待っているシリウスはポラリスの脇を持ってハイハイの練習をさせている。ポラリスは手足をバタつかせて動こうとしているが中々上手くいかない。

 

「んー、まだ駄目か。まあ、焦らずゆっくりいこう」

 

 ハイハイができないポラリスにスピカは心配そうに見て、アトリアはお手本を見せるようにハイハイして、カペラは少し離れた所でポラリスが来るのを待っており、ハダルとリゲルは寝ている。まったりと過ごしていたら部屋の窓がノックされた。

 

「ん?ぬおっ!?」

 

 窓を見るとそこには荷物を持ったエルフィナがいた。シリウスが驚いている間にエルフィナは窓から部屋に入ってきた。

 

「どんなとこから入ってくるんだよ。ドアから入ってこいよ」

「例の組織の連中がいたわ」

 

 苦言を申そうとしたシリウスだが、エルフィナの言葉を聞いてすぐに表情を引き締めた。

 

「見つかったのか?」

「ええ。私を見張ればシリウスちゃんに辿り着くと思ったんでしょうね。撒いてきたけど早かったら今夜にも来るわ」

「早いな…どうするか…」

 

 予想以上に相手の対応が早くどう動くか悩むシリウス。

 

「(取りあえずここから離れないとな。宿屋の人達を巻き込む訳にはいかん。まずは武器を取りにいって、そこからはどこに?王都から逃げるにしても絶対に追いつかれそう…どっかでやり合って引かせないと逃げきれなさそうだな)どこかに戦える場所ってない?ドラゴンファングや王国軍がいてもいけるぐらいの」

「うーん…それなりに広くて近い場所…資材置き場は狭いし…広場は見通しが良すぎるし…ギルドの鍛錬場は皆を巻き込むし…そういえばこの辺で建設途中の建物があったわね。それなりに広いから人数もそれなりに入るし、資材もあるから隠れる事もできるはずよ」

「ならまずは武器を取りにいって、それからそこに行こう」

「動くのは夜になってからの方が良さそうね。何時でも動けるように今のうちにウェズンちゃんの所に行きましょう」

 

 シリウスとエルフィナは荷物を纏めて厩舎へ向かい夜になるのを待った。

 日が暮れてきて町の皆が家路についた後、命令を受けた王国軍が巡回を増やして夜の町を警邏している。

 

「命令だから巡回してるが、本当にいるのか?」

「信憑性は高いって隊長は言ってただろ?」

「どうせ見間違いだろ。ウェアウルフなんてどれも変わらんぞ」

「本当にな。あーあー、さっさと帰って寝たいぜ…」

 

 巡回の兵士はやる気が無く愚痴を溢しながら見回りを続けている。それを隠れてやり過ごしたサヌワットの構成員達は静かに移動し始めた。協力者のクルセイダーズによってシリウスの居場所は突き止めており、真っ直ぐに新緑の安らぎ亭へ向かっている。到着すると三人が窓からシリウスが泊っている部屋に侵入し膨らんでいるベッドに近づいた。それぞれ武器を抜いて躊躇する事無くベッドに突き刺したが、手応えが無かったので毛布を捲るとそこには丸めた毛布があっただけだった。

 

「ちっ、感づかれたか」

「まだ遠くには行ってないはずだ。探し出せ」

 

 構成員達は辺りを探し始めたが、シリウス達の姿はどこにも無かった。シリウス達は現在道のど真ん中を静かに堂々と歩いていた。

 

「風の精霊様々だな。ありがとな」

「うに~、がんばりゅの~」

 

 シリウスに付いてきた風の精霊にお願いして姿を見えなくして、音も消してもらっていたのだ。気づかれないように慎重に進んでいたが、向こうもその道のプロなので違和感を覚え始めていた。

 

「おかしい…ここまで痕跡が無いのはあり得ん」

「何かしらの魔法を使った可能性が高いな」

「…モヤが掛かったみたいにはっきりしないが、おかしな気配を感じるぞ」

 

 構成員達は気配を辿りながら少しずつだがシリウス達に迫ってきていた。

 

「流石に気づかれたわね。シリウスちゃん、場所は分かるわね?先に行って。私は足止めしてくるわ」

「…分かった。無理するなよ」

「大丈夫よ」

 

 エルフィナはシリウスと別れて気配を消して構成員達を待ち伏せした。構成員達がエルフィナの傍を通り過ぎた瞬間、エルフィナは背後から構成員の一人の首を絞めてそのままへし折った。

 

「!?待ち伏せか!」

「まだまだ甘いわね」

「ちぃ!やれ!」

 

 武器を抜いてエルフィナに襲い掛かる構成員達をエルフィナは迎え撃った。エルフィナが時間稼ぎをしている間にシリウスは鍛冶屋までやってきた。灯りは消えていたが構わずドアをノックした。

 

「…誰じゃ?こんな夜更けに、ってお主は」

「すいません。緊急なので失礼します」

「あっ、おい!?」

 

 何か言おうとする店主に構わずシリウスはウェズンも一緒に鍛冶屋に入った。

 

「何なんじゃ一体」

「ちょっと命を狙われてましてね。迷惑と思いましたが武器を取りにきました」

「…随分訳アリなんじゃな。はぁ…仕方が無いの。武器の方は仕上がっとる」

 

 文句を言おうとしたが流石に命を狙われていると言われれば飲み込むしかなく、溜め息を吐きながら剣を持ってきた。シリウスが持つと以前持った時よりもしっくりときた。

 

「柄の方も調整しておいたがどうじゃ?」

「はい、大丈夫です。問題ありません」

 

 試しに何回か振ってみたが重さ以外は何ともなかった。鞘に納めて腰のベルトに通してぶら下げたらやや重心が傾いてたたらを踏んだ。

 

「ととっ…腰からぶら下げるのを想定してなかったな」

「おいおい、そんなんで大丈夫か?」

「大丈夫です。どうにかしてみせますので。夜分に失礼しました」

 

 剣を手に入れたシリウスは鍛冶屋を出て、再び風の精霊にお願いして姿と音を決して目的にの建設現場へ向かった。

 その頃エルフィナは屋根の上に移動して構成員達と互角以上に戦っていた。

 

「くそっ!ここまでやるとは…!?」

「もう四人もやられたぞ!?」

「ぐあっ!?」

「ふぅ…これで五人目。昔だったらもうこの倍は片づいてたのに、歳は取りたくないわね…」

 

 一息つくエルフィナは余裕そうにしているが、内心構成員達の実力に舌を巻いている。

 

「(思ってたよりやるわね…組織の中でも上澄みを寄こしてきたのかしら?今のところは何とかなってるけど、いずれは押し切られるかもしれないわね…シリウスちゃんは無事に着いたかしら…)」

「余所見をするとは舐められたものだな!」

 

 シリウスの事が気掛かりなエルフィナが視線を逸らしたのを見て一人の構成員が隙ありと襲い掛かった。だがエルフィナは視線を向ける事無く横に一歩ズレて攻撃を回避し、ガラ空きの胴体に短剣を突き刺した。

 

「誘いという事にも気づかないようじゃ三流以下よ」

「くっ…!?流石〈緑風〉…!そう簡単にはいかんか…!」

 

 六人目を倒したところで流石に構成員達も慎重になりだし距離を取り出した。

 

「(ここからは時間が掛かるわね…シリウスちゃん、無事でいて…)」

 

 シリウスの無事を祈りつつエルフィナは構成員達に向かっていった。シリウスは時折聞こえる剣戟の音に後ろ髪を引かれながらも建設現場へ急いでいる。

 

「大丈夫かな…?いや、今は急ごう。ポラリス、アトリア、スピカ、カペラ、ウェズン、ハダル、リゲル、大丈夫?」

「あ~」

「あーい!」

「う、うん…」

「(プルプル)」

「ブルルル…」

「シュー」

「ワン!」

「うん、大丈夫そうだね。でも今はし~、だよ」

 

 元気に返事をするアトリアとリゲルに軽く注意して、周りを気にしつつシリウスはゆっくり急いでいる。そこから少し歩いて合流地点の建設現場に到着した。大きい建物を作る予定らしく広さは十分あり、骨組みを建てている最中で足場が組まれていて柱が何本か建っている状態だった。周囲には建設に使う板材や丸太などの建材も置かれており隠れられる場所もそれなりにあった。

 

「ここか。エルフィナはまだ来てないな…他の奴らもいない…今のうちに隠れよっか」

 

 シリウスは骨組みと足場で見えづらい場所を選び、周辺にある建材を精霊達と協力して運び隠れ場所を作った。そこに布を敷いてポラリス達を置きウェズンも伏せさせた。

 

「皆~、今から大っきい音とかいっぱいするけど静かにね~。ママとの約束だよ~」

「あ~」

「あーい」

「う、うん…」

「(プルプル)」

「ブルルル」

「シュー」

「ワフ」

「うん、皆良い子だね~。ピーニ、皆を頼むぞ」

「分かったわ。と言っても私にできる事はほとんど無いんだけど」

「一緒にいてくれるだけでいい。精霊ちゃん達もお願いね~」

「わかったにょ~」

「おまかせなにょ~」

「がんばりゅの~」

 

 ピーニと精霊達にポラリス達の事を頼んでいると誰かが近づいてくる音が聞こえてきたのでシリウスは身を隠して様子を伺った。近づいてきたのは兵士達で相当焦りながら何かから逃げていた。

 

「クソッ!まさか本当にいるなんて!」

「応援を呼べ!俺達だけで敵う相手じゃ、ギャアアアァァァ!?」

「も、もう駄目だ!」

「逃げろおおおぉぉぉ!」

「おおぉ?また追いかけっこかぁ?キヒヒヒヒ…」

 

 追い掛けてきた灰色の体毛をした上半身が裸のウェアウルフの男が巡回の兵士を蹂躙していた。持っている大剣を片手で軽々と振り回して兵士を真っ二つに切り裂き、逃げる兵士をたった一歩跳んだだけで追いついた。

 

「ひ、ひぃ!?」

「く、来るな!?」

「えぇー、そんな事言うなよぉ。もっと遊ぼうぜぇ。んー…そういや少し小腹が空いたなぁ…」

 

 ウェアウルフの男は口角を上げて嗤いながら兵士達に近づいた。口の端からは涎が垂れており、何をする気か否が応でも分かってしまった。

 

「や、やめろ…く、来るな…!」

「嫌だ!嫌だあああぁぁぁ!」

 

 ウェアウルフの男は兵士達に襲い掛かり鎧を剥ぎ取って大きな口を開けて噛みついた。シリウスは咄嗟に隠れて視線を外したが、聞こえてくる断末魔と咀嚼音に吐き気が込み上げてきた。

 

「うっぷ…!マジかよ…あいつが〈人食い〉か…!」

 

 しばらくの間聞きたくもない咀嚼音が響き渡った。

 

「ふぃー…おん?何か匂うなぁ…まだいんのかぁ?」

「(ヤベェ…匂いで気づかれたか。離れないと)」

 

 ウェアウルフの男、ガディヌは血塗れの身体のまま鼻をスンスンと鳴らしながら少しずつシリウスのいる方へ歩いている。匂いでシリウスの存在がバレてしまったので、ポラリス達を巻き込まないためにシリウスは音を立てないように移動し始めた。少しでもポラリス達から離れた場所へ向かっていた時、全身に悪寒が走ったので咄嗟にその場に全力で伏せた。次の瞬間、物凄い勢いで大剣がシリウスの頭上を通り過ぎていった。シリウスの場所を匂いで嗅ぎつけたガディヌがその場所目掛けて大剣を振り抜いたのだ。

 

「おぉ?いたいたぁ…あれ?お前は確かぁ…」

「何だよ?あんたとは初対面だぞ(近くで見ると想像以上にデカいな…まともに攻撃を受けたら一発KOだな)」

「んー…あぁ、そうだそうだぁ。商品を盗んだ女だったぁ。覚えてて良かったぜぇ。そいで、商品はどこだぁ?ちゃんと聞けってあいつら煩くてよぉ」

「商品だ?」

「アレだよぉ。ガキを盗んだんだろぉ?それが無いと上が煩いみたいでなぁ。早く教えてくれよぉ。じゃないと我慢ができなくなっちまうぅ」

「はん、盗んだ奴がそんな事素直に喋るとでも思ったのか?誰が教えるか。それにどうせ教えても私を襲う気満々だろうに」

 

 シリウスの言葉にガディヌはキョトンとした顔をした後、三日月のように口角を上げた。

 

「分かってんじゃねえかぁ。そうだなぁ、お前さんを食ってからゆっくり探せばいっかぁ。人間の雌は柔らくて美味いんだよなぁ」

「(来るっ!)」

 

 大剣を肩に担いでニンマリと嗤うガディヌにシリウスも剣を抜いて構えた。

 

 

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