「死ね!」
「当たるかよ!」
「貴様ら大人しくしろ!」
騒ぎを聞きつけてそれぞれが集まり乱戦状態となった建設現場。ドラゴンファングとクルセイダーズが争っている横から兵士達が盾を構えて割り込んでいき両方と交戦している。
「邪魔するんじゃねえ!」
「隙あり!」
「ぎゃあ!?」
「てめえ!」
「ぐわあ!?」
「日頃から邪魔ばかりしやがって!目障りなんだよ!」
「うわあ!?」
「ちぃ!一人で当たるな!複数で当たれ!負傷者は後ろに下がれ!」
「いたぞ!あそこだ!」
「友軍を援護しろ!掛かれぇ!」
「「「「「おおおぉぉぉ!」」」」」
「おい!いやがったぞ!」
「クルセイダーズの奴らを叩きのめせ!」
「「「「「おおおぉぉぉ!」」」」」
「おい!こっちだ!」
「今日こそドラゴンファングの奴らをぶっ殺すぞ!」
「「「「「おおおぉぉぉ!」」」」」
最初はそれぞれの人数は同じぐらいだったが騒ぎを聞きつけたり、伝令からの報告を受けて各地に散らばっていた仲間が続々と応援に駆けつけていた。建設現場だけでなく通りの方でも戦いは起こっており、騒動で起き出した近隣住民は家の中で息を殺して早く終わる事を願っている。
ドラゴンファングとクルセイダーズと兵士達の三つ巴を視界に入れながら、シリウスは一番の脅威であるガディヌとポラリス達を狙っているサヌワットを注視する事にした。
「シリウスちゃんは下がってて!」
「私の後ろにいてください!」
「お前は後ろから近づいてくる奴を警戒していればいい」
前に出ようとしたらセレムとミラミスに防がれて、矢を射っているレネイからも戦力外通告されてしまった。嫌がらせとかではなく善意で言ってくれているので仕方なく周囲を警戒しつつ戦場を見ている事にした。
「ぐわあ!?」
「くそっ!またやられた!」
「さっきまでと動きが違い過ぎる!」
「もう時間稼ぎはしなくてもいいからドンドンいくわよ!」
エルフィナはサヌワットの構成員達と戦っていて次々と倒していっている。先ほどまでは時間稼ぎをするために受けに回っていたが今は攻めに転じており、動きが違い過ぎてサヌワットの構成員達は対応できずにいた。
「そいつらも捕らえよ!何か悪事を企んでいるに違いない!」
「負傷しておりますが如何しましょう?」
「最低限の治療はしてやれ。叩けば色々と出てきそうだからな」
地面に倒れたサヌワットの構成員を兵士達は止血しつつ次々と拘束していっている。
ドラゴンファングとクルセイダーズは兵士達が、サヌワットはエルフィナが対処しており何とかなりそうな雰囲気だが、こちらの方はそう簡単に行きそうになかった。
「ガアアアァァァ!苛つくなぁ!邪魔するなぁ!」
「ぐぅ!?」
「この野郎!」
大剣を振り回すガディヌの攻撃をルゥトは防ぐが物凄い力で後ろに飛ばされ、ゴルドが攻撃するもガディヌに容易く防がれている。
「邪魔だって言ってんだろうがぁ!」
「ぬおっ!?」
力自慢のゴルドですらそれを上回る力であっさりと押し退けられた。下がるゴルドに並ぶルゥトの表情はかなり険しいものだった。
「強いな」
「こりゃあ、割とマジでヤベェかもな…」
「後々の事も考えたかったが、そんな事言ってられないな。ミラミス!強化を!」
「はい!【パワーチャージ】!【クイック】!」
ルゥトの要請を受けてミラミスが魔法を唱えるとルゥトの身体が赤色と緑色に淡く光った。パワーチャージは力が増す強化魔法で、クイックは素早さが上がる強化魔法だ。
「よし!行くぞ!」
ルゥトはガディヌ目掛けて駆け出した。その速度は魔戦技を使ったのではと思うぐらい速かった。
「うおぉ!?キヒヒヒヒ!意外とやるじゃねえかぁ!そこそこ楽しめそうだなぁ!」
力も増しており大剣で受け止めたガディヌも驚いたが、すぐに楽しそうな表情で応戦し始めた。
強化魔法は重ね掛け可能で重ねれば重ねるほど対象者は強化されるが、強化する度に対象者への負担も増していく。慣れていない者なら一つ掛けられただけで身体にかなり負担が掛かるが、ルゥトは何度も掛けられていてそこそこ慣れており、過去には三つの強化を掛けられた事もあるのでまだ余裕がある。だが強化魔法には時間制限がありそれを過ぎると当然強化魔法は解除されてしまう。
強化魔法を二つ掛けられてようやくガディヌと互角であり、時間が無いルゥトは後先考えずに猛攻を繰り広げている。
「うおおおぉぉぉ!(強化魔法が切れる前に倒さねば!)」
「キヒヒヒヒ!そらそらぁ!時間が無いぞぉ!早く倒さないとヤバいぜぇ!」
ガディヌは強化魔法の事を知っており、防御を固めて強化魔法が切れるのを待つ戦法を取っている。
「俺様を忘れるんじゃねえ!」
「ぬおっ!?ちぃ!?邪魔するんじゃねえぇ!」
そこに同じく強化魔法を掛けられたゴルドも参戦し出した。ルゥトと戯れているのを邪魔されて苛立ったガディヌも本気になり始め戦闘は激しさを増していった。本気になったガディヌを二人掛かりで何とか互角に持っていけているが、強化魔法が切れてしまえば一気に崩されるのを分かっているのでルゥトもゴルドも出し惜しみはしなかった。
「魔戦技!【火炎斬】!」
「魔戦技!【滅・剛撃】!」
「あー!鬱陶しいぃ!」
魔戦技を駆使してガディヌに攻撃するが、ガディヌは直感と驚異的な身体能力で全て捌き切っている。
「(これだけしても攻めきれんか!くっ!このままでは…!)」
「クソが!さっさと倒れやがれ!」
「待てゴルド!」
業を煮やしてゴルドが強引に攻めかかったがそれは悪手だった。
「うるせえぇ!てめえが倒れろぉ!」
「ぬぐぅ!?ごはぁ!?」
思い通りにいかずいらだちが頂点に達したガディヌはゴルドの攻撃を真正面から打ち合い、そのまま力尽くで押し勝ち地面に叩きつけて全力で蹴り飛ばした。骨の折れる音を響かせ、血を吐きながらゴルドは建設途中の壁を突き破り民家の壁に叩きつけられ、白目を向いてそのまま動かなくなってしまった。
「ゴルド!?」
「すぐに回復を!」
「この!【ロックダーツ】!」
ミラミスはゴルドの治療のために走り出し、セレムとレネイは支援のためにガディヌに攻撃を仕掛けている。
「どいつもこいつも俺の楽しみを奪いやがってぇ…!鬱陶しいんだよぉ!」
ロックダーツと矢を避けてそのままセレム目掛けて猛然と走り出したガディヌだったが、横から石礫が飛んできたので立ち止まって避けた。また違う奴が邪魔してきたのかと苛立ちながら石礫が飛んできた方を見るとそこにはシリウスが立っていた。
「お前の相手は私だろうが」
「…キヒヒヒヒ!分かってんじゃねえかぁ!」
苛立った表情から一変して満面の笑みを浮かべながらシリウス目掛けて走り出したガディヌ。一瞬ルゥトを見たシリウスは裏路地へと走っていった。ルゥトはすぐに追い掛けようとしたがシリウスの視線の意味を悟りグッと押し留まった。
「くっ…!すぐに行くからそれまで耐えてくれ…!」
ルゥトはガディヌを仕留めるべくすぐに準備に入った。
「(通じたよな?とにかく少しでも離れないと)」
シリウスではガディヌは倒せないのでルゥトに止めを刺してもらうためにその時間稼ぎをすると視線で訴えたが通じたのか不安なシリウスは、追ってくるガディヌから逃げながら時間稼ぎの方法を考えている。
「(囮を買って出たのはいいがどうすっかなぁ…正攻法じゃ一瞬で終わるし…何か大きな隙ができる方法があれば…今覚えてる魔法じゃあっさりと避けられるだけだし…狭い所に誘導してフレイムスロアーをブッパするか…?いや、跳ばれたらそれで終わる。フローティングシールドもワンパンで壊されるし…リキッドグルーでも乱射するか?ちょっとでも身体に付けば不快感とかで動きが鈍る…鈍ればいいなー。その辺の物をくっつけて投げても避けられるか壊されるのがオチだし…やっべえ…マジで手が無いじゃん)」
「キヒヒヒヒ!どこまで逃げる気だぁ!」
「ぬおっ!?」
どこまでも逃げるシリウス目掛けてガディヌは大剣をぶん投げた。真っ直ぐ飛んでくる大剣を横っ飛びで回避したシリウスだが、遂に追いつかれてしまった。そこは先ほどまでいた建設現場より狭い路地裏で木箱などが置かれていて奥は行き止まりだった。
「キヒヒヒヒ!追いかけっこはおしまいだぁ」
「マジかよ…(くっそぉ…万事休すか…いや、最後の最後まで諦めんぞ)」
「腹も空いてきたし、また邪魔されても敵わねえからそろそろいただくぜぇ」
涎を垂らしながらシリウスに近づくガディヌにシリウスは手を翳したがガディヌの方が速かった。
「キヒ!」
シリウスが反応できない速さで地面を蹴って後ろに回り込みシリウスを掴もうとしている。シリウスは後ろに回り込まれた事は気づいたが、身体が付いていかなかった。
「(やっべ…!)」
「『ふん…伏せて前に跳べ』」
突如頭の中で声が聞こえたシリウスは反射的に声の言う通りに伏せながら前に跳んだ。髪を掠めたがギリギリガディヌの手から逃れる事ができたシリウスは距離を取りながらガディヌに向き直った。
「おおん?相変わらず運の良い奴だなぁ。キヒヒヒヒ!まだまだ楽しめそうだなぁ」
「(今の声は?)」
「『ふん…こんな小物相手に何をしている』」
「(…ウィクネシアか!?何で?どうして?)」
「『聞こえんのか?返事ぐらいしろ』」
「『…あー、こんな感じ、か?これって何だ?』」
「『貴様は“念話”も知らんのか?呆れた…』」
念話、正式名称は“マジックメッセージ”と言い、とは特定の相手と頭の中で会話ができる魔法だ。だが念話をするためには相手の魔力の性質を詳しく知っておかなければならず、さらに少しでも抵抗されると繋がらなくなるのでほとんどの人は使っていない。
今回はウィクネシアがスピカの夢の中に招く時にシリウスの魔力の性質を知り、シリウスがガディヌに気を取られていたので抵抗されなかったので通じた。ちなみに大体の人が呼びにくいマジックメッセージとは言わず、呼びやすい念話と言っている。
「『貴様に死なれるとわしが困るのでな。仕方なく、仕方なく!手を貸してやる。ありがたく思え』」
「『おお~、ウィクネシア~、ありがと~。ママは嬉しいぞ~』」
「『認めておらぬわ!全く!さっさと構えんか!』」
「おいおいぃ、ぼーっとするなよぉ!」
ウィクネシアと念話で会話している間動いていないシリウスにガディヌは突進した。再び捕まえようと手を伸ばしてくるがウィクネシアには動きが全て見えていた。ウィクネシアはシリウスと繋がっている念話を利用してシリウスの視界を共有しており、そこから大気中の魔力の流れとガディヌの魔力の動きから次の行動を予測、いや予知している。
「『右手はフェイントだ。左手で掴んでくるぞ。左に避けろ。その後裏拳、そして飛び掛かってくる。避けろ』」
「ぬおっ!?」
ウィクネシアの言う通りガディヌの右手がシリウスの手前で止まり、左手でシリウスの首を掴もうと伸ばしてきたので、掴まれる前にガディヌの右側に前転して回避した。避けられたガディヌは間髪入れず右手を美斬り裏拳を放ったが、シリウスは前転した後すぐに起き上がって前に走っていたので当たらなかった。ガディヌは四つん這いになりシリウスに飛び掛かるが、シリウスは即座に方向を変えたので捕まえられずガディヌは壁に激突した。
「きっつー…」
「…んー、おかしいなぁ…さっきまでならもう捕まえれてるはずなんだがなぁ…」
何かおかしいと思い始めたガディヌだが、流石に念話で指示を受けている事までは考えが及ばなかった。荒い息遣いのシリウスは少し休みたかったがそんな暇は無かった。
「『盾を出せ。その辺の物を投げてくるぞ。その後はそれに紛れながら近づいて体当たりだ。横に避けろ』」
「くっそ!少しは休ませろ!」
「『泣き言を言ってる場合か。さっさとやれ』」
「『ちくしょう!今度の我が子はスパルタだな!』」
「『誰が貴様の子供か!』」
頭の中でワイワイ騒ぎながら時間稼ぎに徹しているシリウス。逆転の芽はまだ見えてこない。