転生したと思ったらママになっていた件   作:大神降ろし

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お待たせいたしました。
続きをどうぞ。


第十一話

 

 ミネアの戦いは始まった。

 まずは今着ているよろしくない服から取りかかった。

 

「とりあえずその服から変えましょうか。サイズはわかったから、確かこの辺りに…あったわ。はい、まずはこれに着替えてちょうだい。微調整は後でするわ」

「え、あ、はい」

 

 シリウスはミネアに渡された服を戸惑いながらも受け取り、案内された試着室で着替える事になった。ポラリスは離れたがらなかったのでそのまま連れていき床に優しく置いた。

 

「ちょっと待っててな。すぐに着替えるから」

 

 シリウスはポラリスの頭を軽く撫でた後、素早く服を着替えた。

 服のデザインはそこまで大きく変わらないが見た目のイメージが村娘から町娘にランクが上がった。胸元のリボンや足首辺りまであるスカートの裾のフリルがワンポイントアクセントとなっている。店にいたら人気の看板娘になるぐらい美少女になったがシリウスは自分の美醜やチヤホヤされるのもさして興味が無い。

 

「着替え終わりました」

「開けるわよ…あら!やっぱり着飾ればイイ女じゃないのよ!ダメよ、もっとちゃんとしなくちゃ」

「えぇ…いや、別にそこまで…」

「ダメ!!こんな逸材が埋もれるなんてあたしは耐えられないのよ!!昨今そういう子が多くてあたしは悲しいわ!」

 

 嘆き悲しんでいるが手は淀みなく動いており袖や裾の長さを微調整している。シリウスが着たままでもあっという間に調整が終わった。

 

「…よし。これでいいわね。う~ん、痺れるような腕前。流石あたし」

「おお…ありがとうございます」

 

 ミネアは自画自賛しているがそうしてもいいぐらい良い腕前である。

 

「今着ているのは普段着用に使うといいわ。町の外に出かける方はとりあえず一つは明日には用意できるわ。後は…ごめんなさい、数日は掛かってしまうわ」

「いえいえ、十分ですよ。というか十分過ぎます」

「そう?後シリウスちゃん、髪の毛とお肌の手入れはちゃんとしないとダメ。女の子にとっては命なんだから」

「えぇ…いや別に」

「ダメよ」

「いやあn」

「ダメよ」

「…はい、わかりました」

「うん、よろしい」

 

 シリウスが頷くまで無限ループが続きシリウスは折れるしかなかった。

 

「最後は靴だけど、そっちは向かいにあるからそっちに頼みましょ。あたしも行ってあげるわ」

「え"。い、いやお店は?」

「いいのよ、ちょっとぐらい。さ、早く行きましょ」

「え、いやあのちょっと…」

 

 ミネアに手を引っ張られあれよあれよという間にシリウスはポラリスを抱いて連れていかれた。

 

「お?終わったのか、って、おいおいどういう状況だこりゃ?」

「ヴァレット、次は靴よ。行くわよ」

「靴?…ああ、そういう…わかったよ」

 

 店の前で剣の手入れをしていたヴァレットはミネアの一言で状況を把握しミネアの後を追った。ミネアの服飾店の前の店は靴屋で戦闘用の靴から普段使い用の靴まで幅広く扱っている。

 

「コニー、いるかしら?」

「いらっしゃい。って、ミネアじゃないの。どうしたの?」

 

 ドアを開けると受付にコニーと呼ばれた老年の女性が座っていた。

 ミネアとはご近所なので世間話をしたり、お茶をしたり、夕飯を御馳走したりと親しくしている

 

「今日はお客さんを連れてきたの。この子よ」

「あらあら、可愛らしいお客様だこと。私はコニー・タンケットっていうの。よろしくね」

「シリウス・ノクティーです。こっちはポラリスです。よろしくお願いします」

 

 礼儀正しく挨拶するシリウスにコニーは優しく見つめている。

 

「この子に普段履く靴と町の外で履く靴の二つ用意してほしいの」

「あら、町の外の分も?…まあ、あなたハンターなの…?」

 

 コニーはシリウスの首に掛かっているペンダントに目を見開いたがすぐに悲しそうな表情を浮かべた。コニーから見ればまだ子供のシリウスが危険な仕事に就かなければならない理由を何となく察したのだ。両親は見当たらないので恐らく死に幼い子供のためにハンターになったのだと推測した。噂はまだ耳に入っていないが、もし入っていたら涙も流していただろう。

 

「コニー、お客さんかい?」

 

 ドアの開く音に気づいて店の奥から眼鏡をかけた老年の男性がでてきた。

 

「は~いマロス。元気してた?」

「おやミネアじゃないか。新しい靴かい?」

「それもいいのだけれど、今回はこっちよ」

「おやおや、可愛らしいお客様だ。僕はマロス・タンケットだ。よろしくね」

「シリウス・ノクティーです。こっちはポラリスです。よろしくお願いします」

 

 先程と同じように礼儀正しく挨拶するシリウスにコニーと同じようにマロスは優しく見つめている。

 

「それでどうしたんだいコニー?そんな悲しそうな顔をして」

「あなた…その子、ハンターなのよ…」

「なにっ…!そんな…どうして…」

「二人は噂を聞いてなかったのか?」

「噂?」

 

 ヴァレットが再び町で広がっている噂を話し始めた。シリウスはもはや諦めの境地で遠い目をしながらポラリスをあやしている。話を聞いていくうちにドンドン涙目になっていくコニーとミネア、マロスはコニーの肩を抱きながら悲しそうな表情を隠さなかった。

 

「そんな…そんなことって…うぅ…」

「神よ…何故このような仕打ちを…」

「うおおおぉぉぉん!!あんまりよおおおぉぉぉ!!」

 

 泣いてしまったコニーを抱き締めるマロスも目に涙が浮かべ神に祈りを捧げている。そんな中で野太い声で号泣するミネアにシリウスはドン引きしていた。

 

「どうするんですか?この状況」

「あぁ~…俺も予想外だわ」

 

 三人の、というよりミネアの号泣が外まで響き、なんだなんだと野次馬が集まり始めている。収拾がつかなくなってきて、さらに三人に釣られてポラリスまで泣きそうになってきた。

 

「ふえ、ふえええぇぇぇ…」

「ああ、よしよし。大丈夫だぞ~」

 

 シリウスはポラリスをあやすのに手を取られているので止む無くヴァレットが事態の収拾に動いた。数分後、野次馬は立ち去り泣いていた三人もようやく泣き終わり、ポラリスもべそをかいているが落ち着き始めた。

 

「つ、疲れた…依頼の方がまだマシだったぞ」

「お疲れ様です」

 

 肩で息をするヴァレットを労うシリウス。

 

「ごめんなさいね…急に泣いちゃって」

「ほったらかしにして悪かったね」

「シ"リ"ウ"ス"ち"ゃん"!あ"た"し"て"よ"か"った"ら"な"ん"て"も"き"ょう"り"ょく"す"る"か"ら"ね"!」

「あ~…はい、ありがとうございます」

 

 マロスとコニーは泣き終わったがミネアは未だに涙目で濁声でシリウスに全面協力する事を誓っている。シリウスは涙と鼻水でメイクが崩れトンデモナイ顔になっているミネアを直視できず目を逸らしながらお礼を言った。

 

「お、おほほほ。ごめんなさいね。ちょ~っと席を外すわね~」

 

 ミネアは持っていたハンカチで涙と鼻水を拭き取ったがその際にメイクが崩れている事に気づき一旦店に戻っていった。早足で店を出たミネアだったが、偶々店の前を通りがかったハンターが崩れたメイクを見て悲鳴を上げた。

 

「ぎゃあああぁぁぁ!?ば、化け物~!?」

「だ~れが、目に入れただけで腐る化け物ですって!?」

「そこまで言ってn、ぎゃあああぁぁぁ!?!?」

「誰か止めろー!」

「あー!?俺のポーションが!?」

「おい!?こっちくんなあああぁぁぁ!?!?」

「衛兵さーん!お助けー!」

「母ちゃ~~~ん!!」

 

 表が阿鼻叫喚な地獄に変わっており見てみたい衝動に駆られたヴァレットとシリウスだったが、巻き込まれかねないと鋼の意志で抑え込んだ。

 

「話を戻そうか」

「そうですね、そうしましょう」

 

 外で大暴れしているミネアの事を放置した二人にマロスとコニーは苦笑いした。

 

「お聞きになったと思いますが、普段履き用と外用の二つが欲しいのですが」

「ええ、わかったわ。サイズを測るからこっちに来てくれる?」

「外用か…戦いも想定されるから、素材は選ばないとな…ちょっとマイロに声を掛けてくるよ」

「ええ、お願いね」

 

 マロスは奥に戻っていき、シリウスは言われた通りコニーの近くの椅子に座った。

 

「失礼するわね…ふんふん、サイズはこのぐらいっと。それならこの辺りのね」

 

 コニーは手慣れた手つきでシリウスの足のサイズを測り、置いてある商品の中からいくつか持ってきた。渡された靴を一つずつ履いていき、一番しっくりきた物をシリウスは貰った。木製の靴で石ころを踏んでも大丈夫で靴の中には中敷きの役目をしている革が敷いてある。靴は革の靴が主流だが木の靴も出始めており一般人にも徐々に浸透していっておりハンターにも履く者はいるが、魔物の革でできた物や金属製の靴を履く者の方が多い。

 

「コニー。サイズはわかったかい?」

「ええ、あなた。これよ」

「ふむふむ、わかったよ、ありがとう。マイロ」

「ん」

 

 マロスの後ろにシリウスと同じか少し上ぐらいの若い男が立っていた。髪の毛で目は隠れ頬にそばかすがある少し太めの20歳前後の若い男性で、猫背気味なのか気が弱いのか背中を丸めてマロスの後ろに隠れるようにしている。口数は少ないらしくマロスからサイズが書かれた紙を受け取ったらさっさと奥へ引っ込んでしまった。

 

「もう、あの子ったら…挨拶ぐらいしないと」

「すまないね。あの子は少し人見知りでね」

「いえ、お気になさらず。お二人の親族の方ですか?」

「ああ、孫でね。息子夫婦が仕事で王都に行ってる間、預かっているんだ。名前はマイロさ。あの子の腕は良くてね、もう一人前さ。ハンター達が履く靴もあの子が半分は作ってるんだからね」

「へぇ~、すごいですね」

 

 いかにも引き篭もりみたいな見た目をしていたが実は職人に認められるほどの腕を持っている事にシリウスは素直に称賛し感心していた。

 

「外用の方は、そうだね…三日ぐらいかな。それぐらいでできるから待ってもらえるかな?」

「わかりました。お願いします」

 

 靴の方も決まって後は支払いだけとなったところでミネアが戻ってきた。

 

「もう終わったかしら?」

 

 メイクをしてバッチリ決まったミネアはその手にメイク道具を持っていた。

 

「ちょうどいいからシリウスちゃんに化粧の手解きをしようと思ってね。コニーも手伝ってくれる?この子、そういうの疎いのよ」

「あらあら、それはいけないわね…わかったわ」

「え"!?いやいや別にしなくても」

「「ダメよ」」

「…はい」

 

 ミネアだけでも断れなかったのにコニーと二人掛かりの圧に即白旗を上げたシリウスだった。二人に促されて奥へ連れていかれ鏡台の前に座らされた。

 

「さてさて、まずは汚れを落として…あら、綺麗なお肌ね」

「そうなのよ~!素材は良いんだけど肝心の本人がお手入れしたがらないのよ~!」

「それはいけないわ。手入れを怠ると肌がガサガサになっちゃうわよ。今のうちに色々としとかないと気づいた時には大変な事になっちゃうのよ」

「それに見てこの髪!」

「まあダメよ、ちゃんと洗わないと。それに櫛もちゃんと入れないと絡まって汚れが落ちなくなっちゃうわよ」

「もうダメダメじゃないのよ!しっかりした子って思ったら自分の事は無頓着なんだから!」

 

 蒸しタオルで顔を拭かれ、濡れタオルで髪の毛を拭かれ、乳液っぽい白濁の液体を顔に塗られ、髪の毛を櫛で梳かれ、花の良い匂いがする香水を髪の毛に付けられた。完全に諦めた目でされるがままだったシリウスだが、鏡の中で綺麗になっていく自分を見て我に返った。

 

「…はっ!?え?これが私?」

「あら戻ってきたのね。そうよ、ちゃ~んとお手入れすればこんなになるのよ」

「やり方は覚えてるかしら?ちゃんと洗ってから塗るのよ」

「は、はあ…わかりました」

 

 シリウスは化粧する前とは全然違う自分に戸惑いつつ綺麗になった自分を眺めている。

 肌は潤ってプルプルしており髪の毛もサラサラになっており前世にいれば間違いなくナンパされるかモデルにスカウトされるほどの美少女がそこにいた。綺麗になったシリウスに膝の上にいるポラリスは目をキラキラさせながら笑顔で手を伸ばしている。

 

「ほへ~(誰だこれ…)」

「んふふ~、会心の出来ね。早速お披露目といきましょうか」

「ふふふ、そうね。行きましょうか」

「えっ!?もう!?」

 

 心の準備など一切できていないシリウスを尻目にミネアとコニーはシリウスの背を押した。シリウスが連れていかれるのを苦笑して見守っていたヴァレットは椅子に座ってマロスと談笑していた。

 

「おっ?戻ってきたな。って、すげえな…」

「おおっ!まるで別人みたいだ」

 

 シリウスは二人から手放しで褒められ、どう反応していいのかわからず曖昧な笑みを浮かべている。

 

「どうよ?私の、いえ、私達のパーフェクトな仕事ぶりは」

「いや~、すごいよ。流石だね二人とも」

「ふふふ。ありがとう、あなた」

「いや、マジで見違えたな…お前さん、ちゃんと手入れした方がいいぞ」

「…やっぱりしなきゃダメですかね?」

「「「「ダメ」」」」

「…はい、ちゃんとします」

 

四人から言われてしまい反論する余地も無かったので渋々手入れする事を約束した。項垂れ溜め息を吐く姿に四人は笑っている。

 

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