転生したと思ったらママになっていた件   作:大神降ろし

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第百十一話

 

 〈人食い〉討伐の報酬を貰ったシリウスとエルフィナはシリウスの昇級試験の事を聞くために応接室を出て受付に向かった。

 

「すみません。シリウス・ノクティーですけど、試験の事を聞きたいんですが」

「ノクティーさんですね。お待ちしてました。それでは昇級試験について説明しますね」

 

 受付の職員は一枚の依頼書を持って説明を始めた。

 

「今回していただく依頼はラキュラスの花の採取です。期限の五日以内にギルドまで持ってきてください。場所は王都とトルプナートの中間にあるエリンゼ森林の奥となります。質問などはありますか?」

「では幾つか。万が一花が無い場合はどうすれば?」

「その場合は根っこごと一株持ってきてください」

「依頼をするのは私一人ですか?」

「いえ、チームメンバーや同行者がいても構いませんよ。ノクティーさんの場合は…」

「私よ」

「エルフィナさんでしたか。過度な手助けは控えてくださいね」

「分かってるわ。大丈夫よ」

「期限は五日以内ですが、それは今からですか?」

「いえ、準備などがあると思いますので明日の正午からとなります。出発もその時にお願いします。他に質問は?」

「…いえ、大丈夫です」

「この依頼を達成しますと四級に昇級となります。頑張ってください」

 

 ラキュラスの花はとある病気の特効薬を作るために必要な材料の一つだ。群生地は非常に限られており、現在分かっている場所はオルティナ王国内でも二ヵ所しかない。また咲いている時期も非常に短く、年に僅か一週間しか咲かない希少な花だ。

 シリウスはラキュラスの花について調べるために資料室へ向かった。

 

「ほう。まず花について調べるとは…」

「凄いですね、あの人」

 

 真っ先に資料室へ向かったシリウスを職員達は感心したように見ていた。ラキュラスの花は非常に脆く、何も考えずに摘むとあっという間に弱り枯れてしまう。採取する場合は丁寧に根っこごと抜き、花を傷つけないように運ぶ必要がある。シリウスのように花の特性を調べようとせず採取に向かうハンターが多く、ギルドに着く頃には枯れてしまうケースが結構多く依頼主からも苦情が多くギルドも対処に追われている。

 

「…なるほどな。物凄く弱いのか。ならそれ用の袋がいるな。その森って何かあるのか?」

「あそこは森の幸が豊富だからそれを食べる動物とかその動物を狙う魔物が多いのよね。シリウスちゃんも前に見たフェイクツリーの他にアングリーベアとかロックバードとかがいるわ。一体なら私が追い払えるけど複数出てくるとキツいわね」

 

 ラキュラスの花の群生地がある森、エリンゼ森林は肥沃な土地にあり森が豊かに育っている。木の実などの森の幸が豊富でそれを食べる動物が多く生息しているが、その動物を食べる魔物も多く生息している。アングリーベアは凶暴な熊型の魔物で体長はシリウスの三倍以上はある。目に付いた動く物なら何でも襲うほど気性が非常に荒く、その巨体から繰り出される攻撃で大きな岩も砕けるほどなのでギルドも危険度をかなり高く設定している。ロックバードはダチョウみたいに飛べない鳥で体長はシリウスの倍以上ある。こちらは縄張りに入らなければ襲われる事は少ないが、一度でも入れば縄張りから出るまで執拗に追い掛け回してくる。馬以上の速度で走れるほどの強靭な足で蹴られたり、硬い土も掘り起こせるぐらい硬い嘴でやられるハンターも少なくなく、用が無ければ縄張りに入らない方がいいとハンター達の中で暗黙の了解があるほどだ。

 

「基本的に隠密が無難か。そんな所だとウェズンは連れてけないな…いや、昨日寂しい思いをさせたばかりだし…んー、でもなぁ…」

「置いていった方が安全だけど、きっと嫌がるわね」

 

 二人の脳裏には置いていかれたくないとシリウスの服を咥えて駄々を捏ねるウェズンの姿があった。

 

「ま、まあ、その森の前までならきっと大丈夫だろ。うん、大丈夫。そうだよ。きっと大丈夫。うん、多分…大丈夫…大丈夫だったらいいなぁ…」

「自信がドンドン無くなっていくわね…うーん…ウェズンちゃんは絶対一緒に行きたがるし…かと言って私が残ればシリウスちゃんが危ないし…森の前…ウェズンちゃんを隠せば何とかなる、かしら…?」

 

 依頼の事よりもウェズンの事で頭を悩ませながらも準備のために資料室を出るとガッソムが他のハンター達と待っていた。

 

「ようシリウス!」

「ん?ああ、ガッソムか。元気か?」

「おう!元気も元気よ!ガッハッハッハ!そういやギルド長と何か話してたが何かあったのか?」

「あー…これ、言ってもいいのかな?」

「いいと思うわよ。駄目ならちゃんと言うし。多分後で何があったのか全部説明するはずだしね」

「そうか。なら言うか。実は…」

 

 シリウスは昨夜あった出来事を話し出した。ガッソムと周りにいたハンター達は興味深そうに聞いていたが、話を聞いていくうちに皆固まって黙ってしまった。

 

「と、いう訳だ。ん?おーい、どうしたー?」

「「「「「…」」」」」

「あーあー、固まっちゃって。シリウスちゃん、ポラリスちゃん達の耳を塞いだ方がいいわよ」

「え?あ、そっか」

 

 この後起こる事を察してシリウスとエルフィナはポラリスとアトリアとスピカの耳を塞いで備えた。

 

「「「「「えええぇぇぇ!?!?」」」」」

 

 塞いだと同時に話を聞いていたハンター達は大声を上げて驚いた。

 

「〈人食い〉を!?え!?え!?」

「おいおいおいおいおい!?」

「いやいやいやいやいや!?」

「マジかよ!?いやマジかよ!?」

「五級が関わっていい案件じゃないだろう!?」

「うーん、急に耳が遠くなったなー。上手く聞こえなかったなー」

「現実逃避してんじゃねえ!」

「テメエだけ逃がすかよ!あの五級の嬢ちゃんは〈人食い〉討伐に貢献したんだよ!」

「嘘だ!俺は信じない!いや何も聞いてない!」

「耳を塞ぐな!聞け!」

「嫌だあああぁぁぁ!」

「ガッハッハッハ!こいつは傑作だ!ガッハッハッハ!」

 

 あっという間にギルド中が阿鼻叫喚の大騒ぎになってしまい、話を聞いていなかったハンターや職員達は何事かとみている。

 

「おいおい、何の騒ぎだよ?」

「さあな。滅茶苦茶驚いてるみたいだが…」

「あれか?噂が本当かどうかじゃねえ?」

「騒がしいですね…」

「喧嘩ですか?」

「いや、そうじゃないみたいですけど…」

「ええい、騒々しいぞ。何があった?」

「あ、ギルド長」

 

 あまりの騒がしさに応接室からギルド長がヴィクオールと共に出てきた。

 

「ぎ、ギルド長!〈人食い〉が倒されたって本当か!?」

「しかもこの嬢ちゃんが関わってるのも本当か!?」

「嘘だよな!?なあ、そう言ってくれ!」

「一体何故…いや、エルフィナか」

 

 まだ発表前だというのに何故知っているのかと驚くギルド長だが、すぐに誰がバラしたのか行き当たった。

 

「どう発表するか考えていたのに何故すぐ話すのだ」

「だって話しちゃ駄目とは言われてないもの」

「はぁ~…昔は物静かで可愛げがあったのに、今ではこんな…はぁ~」

「ちょっと変な事言わないでくれる?」

「そ、そういう反応するって事は…?」

「…まあ、もう言ってしまっていいか。そうだ。〈人食い〉はここにいる〈ヴィクオール〉のリーダー、〈四剣〉のルゥトによって倒された。〈ヴィクオール〉のメンバー、〈緑風〉のエルフィナ、そして五級ハンターのシリウス・ノクティーがその討伐に貢献した」

「本当だった…!」

「マジかよぉ…!」

「ガッハッハッハ!マジですげえ事したな!」

「と言っても私がした事っていえば時間稼ぎをしたぐらいだぞ。そんな大した事じゃない」

「いやぁ…シリウスちゃん、それは無いわよ」

「え?」

「そうだな。あの〈人食い〉相手に時間稼ぎができるものなぞそうはいない。相対するだけでも凄い事なのだぞ」

「えぇ…いや、でもゴルドさん達は普通だったし…」

「〈ヴィクオール〉は二級ハンターだ。五級とは経験も胆力も段違いなのだ。むしろ何故君は何ともないのだ?」

 

 シリウスはただウィクネシアの指示に従って全力で逃げていただけなので他の人でもできるだろうと思っているがもちろん違う。〈人食い〉ガディヌと相対した時点で餌として見られると同義であり、殺気を向けられるよりもよほど恐ろしく平常ではいられなくなり、そうなればいつもと同じように動く事は困難となる。様々な経験を積んだ三級以上のベテランのハンターならばある程度耐える事はできるが、五級の、しかもハンターになってまだ半年も経っていないシリウスが平然としている方がおかしかった。

 

「(四面楚歌再び…そんなにおかしいかな…?)」

「んー!あーう!んー!」

 

 そんな状況を打破したのはアトリアだった。アトリアから見れば知らない人達が寄って集ってママを苛めているように見えた。大好きなママを苛めるなんて許さないとアトリアは頬を膨らませて猛抗議している。

 

「おっとっと…小さなお姫様がご立腹だ」

「まあ、傍から見れば寄って集って苛めてるように見えるか」

「ごめんねー。もうママは苛めないよー」

「…まあ、もう済んだ事をこれ以上とやかく言うのもあれだな。すまなかったな。昇級試験、頑張ってくれ」

 

 集まったハンター達はシリウスに一声掛けてから離れていき、ギルド長も執務室へ戻っていった。

 

「ふぅ…アトリア~、ありがと~。ママは嬉しいよ~」

「あーい♪」

 

 お説教が待っているのかと内心身構えていたがアトリアのおかげで回避でき、お礼にアトリアにこれでもかと頬擦りをしている。

 

「シリウスも昇級試験を受けるんだったな」

「ええ。ラキュラスの花を取ってこいと言われまして」

「ああ、ラキュラスか。確かに四級への昇級試験にはちょうどいいな」

「その花が咲いてる場所の付近は魔物の住処だから気をつけな」

「アングリーベアには気をつけてね。こっちを見たら真っ直ぐ突っ込んでくるから。マッドロードとかで足止めするのが有効だよ」

「フェイクツリーにも気をつけてくださいね。気がついたら後ろから襲われる事が多々ありますから」

「ロックバードは縄張りに入らなければ何もしてこないが、一度入ればしつこく追い回してくるぞ」

「大変だが頑張ってくれ」

「色々ありがとうございます。そちらも昇級試験頑張ってください」

 

 ルゥト達からアドバイスを貰ったシリウス達はギルドを後にして、市場でラキュラスの花の採取用の袋を購入し宿屋に戻った。

 

「あー…ウェズン、ちょっと話があるんだ」

「ブル?」

 

 ウェズンを厩舎に入れてから、依頼の事を話す事にした。どんな反応が返ってくるか想像できるので物凄く気乗りしないが話さない訳にはいかなかった。

 

「ヒィン!ヒヒン!」

「いや、でもね、とっても危ないから…」

「ヒヒン!ヒヒン!」

 

 シリウスが連れていけない旨を説明し出すと案の定物凄く反対している。シリウスがどれだけ危険かを説明するも嫌だの一点張りで、仕舞いにはシリウスの服を咥えてピクリとも動かなくなった。

 

「う、うーん…困ったなぁ…」

「予想通りになったわねぇ…うーん…まあ、森の前までなら大丈夫だから取りあえずそこまで連れていきましょう」

「それしかないか…ウェズン、一緒に行く?」

「ヒィン!」

 

 行く!と力強く返事をするウェズンにシリウスはしょうがないなぁと苦笑しながら撫でている。

 

「食料とかはもう一昨日にエルフィナに買ってもらってるから大丈夫だな。行程はどんな感じ?」

「まず目的地のエリンゼ森林までが一日ね。それで森の一番奥まで行くのに一日。王都に帰ってくるまで四日あればいけるわ」

「…それってウェズンを二日も一人にするって事?」

「…あ」

「ヒィン!?ヒヒン!」

 

 森の前までの事ばかり考えていて森の中の行程を忘れていたエルフィナ。ウェズンは一人は嫌だ!と再びシリウスの服を咥えて連れていくよう猛抗議している。

 

「うーん…魔物はフローティングシールドを複数出せば何とかなるとして…道がどうなってるかだよなぁ…花の場所までの道ってどんな感じ?」

「木の根っこが張り出したり、岩があったりするから歩き難いわね…ウェズンちゃんも連れてくってなると森の奥に行くまでにもう一日掛かるかもしれないから時間ギリギリよ」

「ぬぅ…行きと帰りで頑張ったら少しは時間短縮できるか?」

「んー…まあ、少しは短縮できると思うけど…精々数時間程度よ」

「期限内に帰ってこれればそれでいい。まあ私とエルフィナに負担が掛かるけど」

「私はもっと酷い強行軍した事あるから大丈夫よ。一ヵ月掛かるところを一週間で駆け抜けたわ。あの時はほんっっっっっとうに大変だったわ…」

「うわぁ…」

 

 当時の事を思い出したのか遠い目をしながら話すエルフィナ。

 

「ぁ…かあ、さま…」

「どうしたのスピカ?」

 

 遠い目をするエルフィナにどう話す掛けようかと悩んでいるシリウスに藁の上に座っているスピカが遠慮がちに声を掛けてきた。

 

「ぁ、あの…えっと…う、ウェズン、も、いっしょ…が、いい…」

「スピカ…」

「あぅ…えっと、あの…か、かぞ、く、はい、いっしょ、が、いい…」

 

 たどたどしくもウェズンと一緒に行きたいと、家族は一緒がいいと言ったスピカの言葉が、踏ん切りが付かなかったシリウスの背中を押した。

 

「…うん、そうだね。家族は一緒がいいよね。よし、ウェズン、一緒に行こ」

「ヒィン!ヒヒン!」

 

 ウェズンは嬉しそうに嘶いた後、ありがとうと言うようにスピカに擦り寄っている。

 

「わ、わ、わ…!」

「う~」

「んー!うーえー!」

 

 スピカだけズルいとポラリスとアトリアもウェズンに手を伸ばしており、ウェズンはポラリスとアトリアにも擦り寄っている。

 

「いいのシリウスちゃん?かなり厳しいわよ?」

「何とかする。いや、してみせる」

「…そっか。じゃあ色々と考えないとね」

 

 ウェズンも一緒に行く事が決まったので魔物が彷徨う森の中をどう歩くか考え始めた。

 

「野営する時みたいに魔物除けを持って歩くのは?」

「あれ、相当臭いわよ。服に着いたら三日は臭いが取れないわ」

「駄目か。うーん…じゃあ聖水を振り回すのは?」

「瓶に入っている状態でも多少は効果があるけど…聖水って物凄く高いし、手に入るかも分からないわよ」

「聖水なら一本持ってるぞ」

「…それ、大丈夫?」

「まあ盗品だと思うが、バレなきゃ問題ない」

「いや、そっちも心配だけど、偶に偽物も出回る事があるから、本物かなって」

「あー…どうなんだろ…これなんだが」

 

 シリウスは肩掛けカバンに入れている聖水を取り出してエルフィナに渡した。エルフィナは光に翳したり、近くで見たりした後、カペラとハダルとリゲルに近づいた。

 

「カペラちゃん、ハダルちゃん、リゲルちゃん、これ、嫌な感じする?」

「(プルプル)?」

「シュー?」

「ワフ?キャイン!?」

 

 カペラとハダルは近づけられた聖水に特に反応を示さなかったが、リゲルが鼻先を近づけて匂いを嗅ぐと悲鳴を上げてシリウスの所に逃げた。

 

「一応本物みたいね」

「よしよし、リゲル~。大丈夫だよ~」

「クゥ~ン…」

「あらら、そんなに嫌だったのね。リゲルちゃん、ごめんね」

 

 相当嫌だったのかプルプルと震えてシリウスに抱き上げられているリゲルとシリウスとエルフィナは撫でて慰めている。

 

「栓をしてる状態じゃあ鼻先まで近づけないと効果は無いみたいね。かといって栓を開けたらカペラちゃんもハダルちゃんもリゲルちゃんが嫌がるし。開ける時は本当に危ない時にした方が良さそうね」

「そうだな。カエラ、ハダル、リゲル、もしかしたら危ない時に使うかもしれないからごめんね」

「(プルプル)」

「シャー」

「キューン…」

 

 カペラとハダルは素直に返事をしたが、嫌な思いをしたリゲルはえー…という感じだったがシリウスとエルフィナの撫でで我慢する事にした。

 すっかり機嫌が良くなりシリウスに甘えるウェズンと抱き上げられて撫でられているリゲルを見てズルいとポラリス達も声を上げたので撫でたり、こそばしたり、頬擦りしたり、高い高いしたり、キスしたりとこれでもかと甘やかしまくった。依頼の準備はほぼ整っているので残りの時間はポラリス達のために費やす事にした。ポラリス達が遊び疲れて眠るまで遊び、ご飯をお腹いっぱい食べて身も心も満足したポラリス達と一緒に昨日と同じで厩舎で眠った。

 

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