転生したと思ったらママになっていた件   作:大神降ろし

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第百十二話

 

 翌朝、いつものように目が覚めて朝食を取り終えたシリウスとエルフィナは荷物など諸々の確認を済ませた後、少々早いが西門へ向かった。西門では出入りする者を確認している門番、商人の荷馬車の中の荷物を確認している兵士、荷物を背負って門を出る行商人、これから依頼に向かうハンター達などで賑わっている。正午まで時間があるので西門の近くにあるベンチに座ってポラリス達と戯れながらのんびり待つ事にした。

 

「ま~」

「ままー」

「かあ、さま…」

「(プルプル)」

「ヒィン」

「シャー」

「ワン!」

「よしよし、ママですよ~」

「ふふふ」

「相変わらずねー…」

 

 満面の笑みでポラリス達を撫でるシリウスを微笑ましそうに見るエルフィナと荷物に隠れながらそれを呆れた表情で見るピーニ。そんな母娘の心温まる様子を通行人達は微笑ましく見ていたり、優しい笑顔のシリウスに見惚れたりしている。

 

「綺麗だ…」

「可憐だ…」

「おぉ…美しい…是非お近づきになりたい…」

「あ、あの子って確か噂の子よね?」

「ええ。〈人食い〉討伐に貢献したって子」

「とてもそうは見えないわね…」

「子供は可愛いわねー」

「三人を育てながらハンターしてるんでしょ?凄いわね」

「おっ、蜂蜜の時のリーダーだ」

「本当だ。すっげえ笑顔だな…」

「真剣な顔しか見てなかったから新鮮だな」

「子供三人に魔物三体に馬一頭…どんな取り合わせだよ…」

「全員育ててるんだろ?すげえよな」

「見ろよ。魔物でも子供と同じようにしてるぜ」

「何考えてんだろうな」

「馬にもだ。変な奴だなー」

「魔物なんて連れやがって、何を考えてやがる」

「よせ。詮索は御法度だぞ」

「それに隣見てみろ。〈緑風〉がいるぞ」

「あいつに何かしたら黙っていないだろうな」

「魔物が憎いのは分かるが、死にたくなかったら無闇に手を出すなよ?」

 

 ポラリス達を甘やかしている様子を見て皆好き勝手に話している。いくつかはシリウスの耳にも届いているが気にせずにポラリス達の相手をしている。

 

「色々噂されてるわねー」

「この子達に害が及ばなかったら私は何も気にしない」

 

 一部不穏な会話が為されていたがそれを耳にしたエルフィナが視線を送って牽制しており、視線を向けられたハンター達はすごすごと立ち去っている。

 

「(全く…でも魔物に家族を奪われた人も結構いるから気をつけないとね)」

「さっきの奴ら、私じゃなくてカペラ達を見ていたな。しかも敵意の篭った目で。つまりそういう事か?」

「もう!私が人知れず頑張ろうって決めたところなのに!何で気づいちゃうの!?」

「いや…あんな敵意剥き出しにされたらそら気づくよ…」

 

 エルフィナがシリウスに気づかれないように対処しようと決めた瞬間、シリウスは先ほどの視線の意味に感づいてしまった。自分の覚悟を台無しにされ子供みたいに膨れながらポカポカとシリウスの肩を叩くエルフィナ。子供みたいな行動と表情をするエルフィナに周囲の人達は驚いて思わず二度見している。

 

「あ、あれが〈緑風〉…?」

「ず、随分、その…か、感情が豊か、だな…」

「めっちゃ子供みたいだ…」

「それだけあの嬢ちゃんに心を許してるって事だな」

「あれはあれでいい…」

「確かに…」

 

 ポラリス達とエルフィナと戯れていたらいつの間にか時間が経っていたらしく、見届け人のギルドの職員が見送りにきたルゥト達と共にやってきた。

 

「おう、早いな」

「暖かいから外でのんびりまっていようと思いまして。皆さんはどうして?」

「君達の見送りに来た。エリンゼ森林に行くんだろ?おそらく君達が帰ってくる時には俺達はいないから今のうちに挨拶と思ってな」

「昇級試験ですか?」

「ああ。詳しくは言えないがかなり時間が掛かりそうなんでな」

「そうなんですか。色々とお世話になりました」

「なあに、俺達も楽しかったから気にするな」

「シリウスちゃんもこれから大変かもしれないけど頑張って!」

「シリウスさんなら四級どころかあっという間に三級になれますよ!」

「…まあ、精々頑張れ」

 

 互いの昇級試験でしばらく会えなくなるので挨拶を交わしていたら正午の鐘が鳴った。

 

「正午になりましたので出発してください。お気をつけて」

「気をつけてな」

「頑張れよ!」

「気をつけてねー!」

「怪我しないようにー!」

 

 西門を出て歩き出すシリウスとエルフィナにルゥト達は激励しながら見えなくなるまで手を振り続けた。

 

「行っちゃったね…」

「大丈夫でしょうか…?」

「あいつらなら大丈夫だろ」

「ふー…さて、俺達も準備するか」

「そうだな。俺達も気合いを入れていこう」

 

 シリウス達に恥ずかしい姿を見せられないと気合いを入れ直してルゥト達は町に戻り準備に取り掛かった。シリウスとエルフィナは王都から離れる人達に交じってエリンゼ森林へ向けて歩いている。

 

「んー…平和ねー…」

「ポカポカ陽気だな。こういう日は皆と日向ぼっこしながら寝たい」

 

 のんびりしながら道を歩いていた二人だがしばらくしてハッとした。

 

「…いやいやいや!?駄目じゃんのんびり歩いてちゃ!」

「ハッ!?そうだった!行きと帰りは急がないとだった!」

「シリウスちゃん!小走りで行くわよ!」

「分かった!ウェズン、行くよ!」

「ヒヒン!」

 

 ついいつもと同じようにのんびりしてしまったが、時間制限がある事を思い出して走り始めた。のんびり歩いている他の人達を次々と追い抜き、休憩を数回挟みながら夕暮れまで走り続けた。

 

「ぜぇ、ぜぇ…ま、まだか…?」

「はぁ、はぁ…もう少しのはず…あ、あったわ!」

 

 通常なら朝に王都を出れば夕暮れ前に辿り着くエリンゼ森林の前にある野営地に辿り着いたシリウスとエルフィナ。

 

「ふぅ…何とか着けた…」

「ここで一晩休んで、森の中の中間地点にある野営地で一日でしょ?森の奥まで行ってラキュラスの花を手に入れて中間地点でまた一日。そこからここに戻ってきてここで一日。それで王都に戻る。うん、ギリギリだけど何とか間に合いそうね」

「本当ならもっと時間を掛けてのんびり森を歩きたいんだが、まあそれはまたの機会だな」

 

 マジックバックから天幕や調理器具一式と食料を取り出し、天幕を張るのをエルフィナに任せてシリウスは夕食を作り始めた。

 

「ほいほいっと。シリウスちゃん、中々良い天幕使ってるのね」

「ターエルの先輩ハンター達にこれがオススメって薦められてな。調理器具とかも含めて10000リクルで買えた」

「あらまあ…随分安く買えたのね。他の都市なら倍以上はするわよ」

「…やっぱりターエルって物価が安過ぎだろ…大丈夫かほんとに…」

 

 ターエルの物価の安さに不安を持ちながら夕食のスープを作っていくシリウス。出来上がったスープとパンで夕食を取ったシリウス達は明日に備えて天幕に入り眠った。

 翌朝、支度を整えて天幕を片づけた後エリンゼ森林へ入った。森は鬱蒼としていて日の光も中々届かず薄暗くて、地面は木の根っこと岩が張り出していて歩き辛かった。あちらこちらに大小様々な気配が感じられ、動物や魔物の鳴き声が遠くから聞こえてきており、ポラリスとアトリアとスピカは鳴き声に怯えてシリウスに強く抱き着いている。

 

「よしよし、ママがいるから大丈夫だよ。少し入っただけでこんなに茂ってるのか…」

「肥沃な土地だから木々も育ってるからね。奥に行けばもっと凄い木が生えてるわよ。まだ時間はあるからこけないようにゆっくり行きましょう」

 

 シリウスとエルフィナはウェズンを手伝いながら期の根っこや岩に足を取られないように慎重に歩き続けた。薄暗い森の中を歩き続けて数時間、小休止のためにシリウスは手頃な岩に座ってポラリス達に水を飲ませている。

 

「は~い、ゆっくり飲んでね~」

「シリウスちゃんはここにいて。ちょっと先の方を見てくるわ。何か来たらすぐに隠れてね」

 

 エルフィナは岩から岩に飛び移りながら森の奥へ消えていった。シリウスはウェズンに水を飲ませながら周囲を見回している。豊かな森なのでそこかしこに精霊達がおり、精霊を連れているシリウスを興味深そうに木や枝の陰から見ていた。

 

「ここも精霊がたくさんいるな」

「大体の森には精霊がいるもんよ」

「へー」

 

 シリウスはこちらを見ている精霊達に手を振った後、ウェズンの背中に乗っている精霊達に目を向けた。リゲルを引き取った時からずっと付いてきてすっかり馴染んでおり、今もウェズンの背中でカペラとハダルとリゲルと遊んでいた。

 

「おうましゃん、ぱっかぱっか~」

「はいよ~なにょ~」

「ブル?」

「も~む、むにむに~」

「(プルプル)」

「へびしゃん、よちよち」

「シュー?」

「わんちゃん、なでなでしてあげりゅ」

「ワフゥ」

「もうすっかり馴染んだな…契約か…んー、でもなー…」

「契約しないの?良い事尽くめじゃない」

「それはそうなんだが、幼女に力を貸してもらうのはどうにも…」

「そう見えてるのはアンタだけよ。私には色付きの球体がピカピカしてるように見えるわ」

 

 人や種族によって精霊の見え方が変わり、シリウスには精霊が可愛らしい幼女に見えるので契約して力を貸してもらうというのがどうにも抵抗があった。だがここまで馴染んでおきながらいつまでも名無しというのにも違和感があり、でも名前を付けてしまうと契約してしまうのでどうしようと悩んでいた。

 

「戻ったわ。魔物とかはいなかった…シリウスちゃん、どうしたの?」

「いや、精霊の子達をどうしようかって悩んでた」

「本当に契約するの?」

「メリットしかないから別にしてもいいんだけど、幼女に力を貸してもらうのはちょっと…でもずっと名無しというのも何だかなぁって…」

「ああ…でも一緒にいたいんでしょ?」

「そりゃあ、まあ…」

「なら答えは決まってるじゃない。正直契約するんだろうなぁって思ってたわ。シリウスちゃんは優しいもんね」

「えぇ…ただ普通に接してるだけなんだが」

「その普通ができない人が世の中大勢いるのよ。名前は決まってるの?」

「いやまだ。色々考えてはいるけどしっくりこなくて…」

「ゆっくり考えたらいいわ。そろそろ行きましょうか」

 

 シリウスとエルフィナは立ち上がって森の奥へ歩き出した。エルフィナには精霊達の名前はまだ決めていないと言ったが、名前の候補は浮かんでいた。

 

「(候補は浮かんでいるけど、水金地火木土天海冥なんて言っても分からないしな。でも、うーん…地は除いたとしても三つ残るよなぁ…どうせなら雷と光と闇の精霊も来てくれたらちょうど良かったんだが…いやいや、コレクションとかじゃないんだ。そんな事思っちゃ駄目だ)」

 

 精霊の名前は太陽系から取ろうとしているシリウスだが、この世界の人にそれを言っても理解できないと思ったので言わなかった。頭の片隅に名前の事を置いときながら森の中を歩き続けている。険しい道を歩いていたら前を歩いていたエルフィナが止まった。

 

「止まって」

「どうした?何かいたか?」

「あそこ」

 

 木の陰に隠れてエルフィナの指差す方を見ると一本の木が立っていた。

 

「…何か違和感が…あ、フェイクツリーか?」

「正解。ほら、地面も見て」

 

 木の根元の地面を見てみると僅かに掘った跡が残っており、掘った際に出た土が周辺の草に掛かっていた。

 

「あれぐらいしか判別する方法が無いのか?」

「もう一つあるわ。見てて」

 

 エルフィナは足元に落ちていた小石をフェイクツリー目掛けて投げつけた。小石がフェイクツリーの胴体に当たるとフェイクツリーは目を開けて身体を動かさずに目だけを動かして辺りを見回している。何も無いと分かると再び目を瞑り動かなくなった。

 

「こんな感じで怪しい木に石をぶつけて確かめるの。後は勘ね」

「へー、なるほど」

「フェイクツリーがいるから少し回り道して行きましょう。気づかれて追い掛けられるのも嫌だし」

 

 フェイクツリーに見つからないように回り道をしようとした時、ウェズンが落ちていた枝を踏んでしまい折れる音が辺りに響いた。

 

「あ」

「う~…ふえええぇぇぇ…」

「うー…あああぁぁぁ!」

「ぁ…ぁぅ…」

「おっと、ポラリス、アトリア、スピカ、どうしなの?あー…やっちゃったのね」

「これはちょーっとマズいかもね…」

 

 さらにポラリスとアトリアとスピカが泣き出してしまい泣き声も辺りに響き渡っている。当然近くにいるフェイクツリーも気づいており、目を開けて地面から抜け出して音と泣き声がする方を向いて動き出した。

 

「やるしかないわね。シリウスちゃんはポラリスちゃん達を泣き止ませててね」

「その前に一つ試したい事がある」

「試したい事?」

 

 シリウスは剣を抜いて木の陰から出て右腕を引き絞った。フェイクツリーはシリウスを見つけて吠えながら駆け寄っている。

 

「今!せいっ!」

 

 シリウスは剣に魔力を込めながらその場で思いっ切り突きを放った。すると剣は蛇腹状になりながら勢いよく飛び出し、フェイクツリーの目に突き刺さった。

 

「ギュオオオォォォ!?」

「よし、成功!後は任せた!よ~しよし、大丈夫だよ~。おしめ変えようね~」

「色々考えるわね。任されたわ」

 

 エルフィナは片目を潰されて悶え苦しむフェイクツリーの振り回される手を回避しながら懐に入り込み、フェイクツリーの喉に短剣を突き立てた。フェイクツリーは背中から倒れて大きく痙攣した後動かなくなった。シリウスはフェイクツリーの目を潰し剣を回収した後、フェイクツリーに背を向けてポラリス達のおしめを変えていた。

 

「ほいっと。はい、スッキリ~」

「ま~」

「ままー」

「ぁぅ…ごめ、んな、しゃ、い…」

「気にしなくていいよ~、よしよし」

 

 自分の所為だと俯きながら謝るスピカをシリウスは頭を撫でてあやしている。

 

「シリウスちゃん、ちょっと急ぎましょう。今の戦闘音で他の魔物が来るかもしれないわ」

「そうだな。とっとと離れよう」

 

 シリウスとエルフィナはフェイクツリーの死骸をそのままにしてその場を急いで離れて森の奥へ向かっている。

 

「別にいらないけどフェイクツリーは剥ぎ取らなくてもよかったのか?」

「フェイクツリーの素材は使い道があまり無いのよね。皮とかは日常生活で使えるけど、フェイクツリーの肉って臭うのよ。皮にもその臭いが付いてるから日常生活で使うにはその臭いを取ってからになるんだけど凄く手間なのよね。剥ぎ取ったら引き取ってくれるとは思うけど多分安く買い叩かれるわね。肉は臭みが強すぎるから市場にも出回らないし。たまにそういうのが好きな人はいるけど、まあ売れないわね」

「ならいらないか」

「さっきの戦闘で他の魔物も気づいたと思うけどフェイクツリーの死骸があるからそれで多少は足止めができるわ。でも私達の匂いも嗅ぎつけられるかもしれないから急ぎましょう」

 

 森の奥へ急ぐシリウスとエルフィナ。ラキュラスの花の群生地までまだ遠い。

 

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