転生したと思ったらママになっていた件   作:大神降ろし

113 / 124
第百十三話

 

 四級の昇級試験のためにラキュラスの花を求めてエリンゼ森林へと入ったシリウスとエルフィナ。深く鬱蒼として険しい道をずっと歩いているが、中間地点である野営地にはまだ着かない。

 

「またフェイクツリーか」

「シリウスちゃん、すっかり見極められるようになったわね」

「そらこんなに出くわせば分かるよ」

 

 エリンゼ森林でフェイクツリーに出会うのは今回で十回目だ。始めはそれなりに警戒していたが、今では割と大胆に動いておりそれなりの距離を保ちながら隠れる事無く普通に歩いている。フェイクツリーもシリウス達に気づいていて目を開けているが、距離があるので動かずに視線だけ向けている。

 

「他の魔物はまだ出てこないな」

「そろそろ彼らの縄張りに入ると思うわ。ほら、あそこ」

 

 エルフィナが指差す方を見てみると木に大きな爪痕が残されていた。

 

「この辺りはアングリーベアの縄張りね。かなり気性が荒いから気をつけてね。見た目に反して動きが素早いし、毛皮も見た目以上に硬くて剣で斬りかかっても浅い傷ぐらいしか付かないの。狙うなら顔がいいわ。もしくは槍とかで胸を一突きね。ただ一撃で仕留められなかったら怒りだして手が付けられなくなるから気をつけてね」

 

 エルフィナから対処法を教わりながら森の中を歩き続けている。道中小腹が空いた時用と夕食に使うための木の実と山菜や怪我をした時用に薬草を採りながら数時間ほど歩き続けていると木々の隙間から夕日が見え始めた。

 

「距離的にそろそろ着くはずなんだけど…」

「なあ、何か聞こえないか?」

 

 風に乗って音が聞こえてきたので二人は警戒しながら先に進んで木の陰から覗いてみるとそこには大きな鹿を仕留めて食べているアングリーベアがいた。かなりの巨体でシリウスが喰らえば一溜りも無さそうな牙と爪を持っており、腕もシリウスの胴ぐらい太く非常に恐ろしい顔立ちをしている。

 

「(グリズリーかよ…いや、見た事無いけど)デカいな…」

「本当はもう一回り小さいはずなんだけど…大きいのに当たっちゃったわね…アングリーベアがいる先が野営地だから倒さないと進めないわね。私が倒すからシリウスちゃんはそこにいて」

 

 エルフィナは短剣を引き抜いて音を立てないように慎重に背後からアングリーベアに近づいている。アングリーベアは食べるのに夢中でエルフィナには気づいておらずエルフィナは容易く背後を取る事が出来た。エルフィナは音も無く飛び上がり頭上の木の枝を蹴って勢いを付けてアングリーベアに突撃し首に短剣を突き立てた。

 

「グオッ!?」

「くっ!(浅い!思ってた以上に皮膚が分厚い!)」

 

 エルフィナが思っていた以上にアングリーベアの皮膚が分厚かったらしく血は出ているものの一撃で仕留められなかった。アングリーベアは即座に振り返り自分を傷つけた不届き者であるエルフィナを見つけて怒りの咆哮を上げて突進していった。

 

「グオオオォォォ!」

 

 エルフィナに近づいて二本足で立って叩き潰そうと両腕を振り下ろした。エルフィナはそれを回避するがすぐ後ろにあった岩が粉々に砕かれた。

 

「ええい…!相変わらずの馬鹿力ね…!」

「グオオオォォォ!」

 

 砕けた岩が飛び散るがアングリーベアは意に介する事無くエルフィナに突進している。エルフィナはアングリーベアの攻撃を躱しつつ短剣を振るうが血が多少滲むだけで有効打には程遠かった。

 

「くっ…!(やっぱり急所を狙うしかないわね!噛みついてきたところを狙う!)」

 

 このままでは埒が明かないとエルフィナはカウンターでアングリーベアの首を狙うために立ち止まりアングリーベアを待ち受けた。アングリーベアは構わず突進していったがエルフィナの少し手前の地面が突如泥に代わり、それに足を取られて派手に転倒した。少しでも援護ができればとシリウスが戦況をずっと見ており、大きな隙を作るためにマッドロードの魔法を放ったのだ。

 

「ありがとシリウスちゃん!魔戦技!【溜撃】!」

 

 魔戦技を使い短剣を思いっ切りアングリーベアの首に突き立てた。首から大量の血が噴き出てアングリーベアは痛みで吠えるが、エルフィナは構わず篭手に内蔵している剣を出してアングリーベアの両目に突き刺した。アングリーベアは大きく痙攣してそのまま動かなくなった。

 

「ふぅ…」

「大丈夫か?」

「ええ。ありがとねシリウスちゃん。思ってたより皮膚が分厚かったから一撃で仕留められなかったわ」

「終わり良ければ総て良し。ところでアングリーベアの素材は使えるのか?」

「ええ、毛皮も爪も牙も肉もどこも使えるわよ。毛皮はなめせば良い素材になるし、爪と牙はそのまま加工して短剣や魔具の繋ぎにも使えるし、肉もちょっと硬いけど美味しいわよ。ちゃっちゃと剥ぎ取っちゃいましょ。あ、シリウスちゃんは離れててね。ポラリスちゃん達にはあまり見せられないから」

 

 エルフィナは慣れた手付きでアングリーベアを解体していった。頭を斬り落とし、毛皮を剥いで、爪と牙を回収し、肉を丁寧に切り分けていく。

 

「…よしっと。持てるだけは持っていくとして…持てない分は置いていきましょう。そのうち他の魔物が食べるはずよ」

「野営地の近くだけど大丈夫か?」

「魔物避けを張れば大丈夫よ。それに野営地は大型の魔物は入れないし」

 

 回収したアングリーベアの素材を袋に入れた後、野営地へ向かった。野営地は大きな岩に囲まれた隙間にあり、エルフィナの言った通りアングリーベアやフェイクツリーなどの大型の魔物は入れそうになかった。

 

「ほおー、こんな所があったのか」

「嘘か本当か分からないけど、昔の力自慢のハンターが野営地を作るためにその辺りにあった岩を持ってきて作ったと言われてるわ。まあ、嘘だと思うけどね。さ、早く天幕を張っちゃいましょ」

 

 夕暮れが近づいてきているので急いで天幕を張り焚き火をおこした。今日の夕食は野菜と山菜のスープと香草で味付けしたアングリーベアの串肉だ。

 

「んー…良い匂い…」

「久々の肉だわー!あむっ!んー!美味しいわー!」

「静かに食え、全く…いただきます。ポラリス~、あ~ん」

 

 簡素ながらも美味しい食事で身も心も癒されていた時、ふとエルフィナは何かの気配を感じた。

 

「んん?」

「どうした?」

「静かに」

 

 エルフィナは地面に耳を付けて音を探った。

 

「…何か近づいてくるわね。ゆっくりとだけど…人ね。一人近づいてくる。歩く音が乱れてるから相当疲れてるわね」

「一人…仲間と逸れたか、見捨てられたか、はたまた別の理由か…ピーニ、一応隠れとけ」

「もう、せっかく食べてたのに…」

 

 ピーニは文句を言いつつも肉が乗った皿を引き摺って荷物の陰に隠れた。シリウスはポラリス達を自分の背に隠して剣をすぐ傍に置き、エルフィナは短剣に手を掛けた。少しして岩の陰から黒い外套を纏い荷物が積まれた背負子を持った人が現れた。フードを被っているので顔は見えなかったが相当疲れているらしく息が荒くふらついており、シリウスとエルフィナを見た後その場に顔から倒れ込んだ。

 

「おいおい、大丈夫か?」

「あらまあ…痛そう」

 

 警戒は続けているが流石に心配になり駆け寄る二人だが、近づいた時倒れた人のお腹が盛大に鳴った。

 

「あー…お腹が空いてるのか?」

 

 シリウスが尋ねると倒れたまま頷いた。完全には警戒は解かないものの取りあえず危険は無いと判断し、石の上に座らせてスープの入った椀と匙を渡した。行き倒れていた人は物凄い勢いでスープを飲んでいくので追加でアングリーベアの串肉を焼く事にした。

 

「はぐっ、はぐっ」

「ゆっくり食べないと喉を詰まらせるぞ」

「はぐっ、んぐっ!?」

「ほーら言わんこっちゃない。ほれ、水だ」

 

 何日も食べていないようでスープと串肉とパンをドンドン食べていき、結果スープ四杯と串肉六本とパン三つを平らげた。

 

「けぷっ、お腹いっぱい」

「だろうな」

「よく食べたわね…いや、帰りの分は大丈夫だけど」

 

 普通なら多少は遠慮するが行き倒れていた人はそれもなく、満足するまで食べたのでシリウスとエルフィナは呆れたような目で見ていた。

 

「どんだけ食べてなかったんだよ…」

「ん…三日ぐらい、木の実だけ」

「どれだけ森にいたの?」

「ん………七日、くらい?よく、わかんない」

「よく無事だったな」

「逃げるの、得意」

「胸を張るところじゃない。いや、ピースならいいというわけでもない」

 

 よく分からないところで自慢げに胸を張り、シリウスに突っ込まれるとじゃあと言わんばかりにピースをしてまたシリウスに突っ込まれるが、よく分かっていないらしく不思議そうに首を傾げていた。

 

「(なるほど。これが天然か)」

「??」

「それであなたはどちら様?」

「ん。忘れてた」

 

 行き倒れていた人がフードを外すと褐色肌の銀髪の美少女が現れた。

 

「シェネド・ノラ」

「私はシリウス・ノクティーだ」

「私はエルフィナ・ノーゼルよ。よろしくね。ところでどうしてエリンゼ森林にいるの?仲間は?」

「??ここ、ファリサの森じゃ、ないの?」

「え?いえ、それはもっと西、ここから十日以上は離れてるわ」

「がーん…」

「口でガーンって言う奴初めて見たぞ…」

 

 行き倒れていた人、シェネドはエリンゼ森林をファリサの森だと勘違いして入って遭難していたらしくションボリとした表情で肩を落としている。

 

「ファリサの森で何をしようとしていたの?」

「…セインの葉っぱ、探してた」

「セインって?」

「毒草の一種よ。一応他の薬草と混ぜれば薬にもなるんだけど…セインを探して何をするつもりなの?」

「ん、知らない。取ってこいって言われた。じゃないと、追い出される、から」

「家賃代わりって事か?いや、それならそう言うはず。その毒草を使って良からぬ事を企んでそうだな」

「やっぱりシリウスちゃんもそう思う?悪い事は言わないからその依頼、止めた方がいいわよ?」

「でも、部屋、追い出される…誰も、頼れる人、いない…一人ぼっち…」

「でも犯罪の片棒を担がらされるんだぞ?下手すれば罪を擦り付けられて捕まるぞ?」

「それは、やだ…でも、行くとこ、無い…」

「(悪い人じゃなさそうだな。ただ純粋なだけか…んー…また罵られるが…私は別に構わんが、ポラリス達は…スピカ以外は別に大丈夫そうだな。スピカは私から言って徐々に慣らしていけば大丈夫そうだな。後はエルフィナだが…)」

 

 俯くシェネドを見て何やら悩んでいるシリウスはエルフィナの方をチラッと見た。目が合ったエルフィナは何だろうと首を傾げていたが、何かを察して苦笑しながら頷いた。

 

「…よし。シェネド、だったか?私達はハンターなんだが、一緒に来るか?」

「え?」

「(んなっ!?何言ってるのよまたあんたは!?このお人好し!)」

 

 シリウスが提案すると案の定ピーニが小声で罵ってきた。

 

「シリウスちゃんは優しいからこうなると思ったわ」

「別に誰にでも優しい訳じゃないぞ。それで、どうだ?」

「で、でも、私は、ど、鈍臭いし、…よ、弱いし…そ、それに…それ、に…」

 

 シェネドは自分を卑下して話していくうちに俯いて黙ってしまった。

 シェネドには父親はおらず母親と二人で暮らしていたがその母親を病で亡くし、住んでいた所を追い出されてしまった。途方に暮れていたらとある世捨て人に気まぐれで拾われて数年間、生きる術を教えられ自衛ができるまでに成長したがその世捨て人も亡くなり再び一人になってしまった。生きるためにとある場所で住み込みで働き始めたが、のんびりした性格が仇となり仕事が遅いと怒られる毎日だった。

 

「このグズが!トロトロしやがって!」

「目障りなんだよ!とっとと消えろ!」

「ちっ!チンタラしやがって…」

「ほんと使えねえなこいつ…」

「おい、テメェみてえなグズでもセインの葉なら取ってこれるはずだ。行ってこい」

「あ?何のためにだ?うるせえ!さっさと行ってこい!追い出されてえのか!?」

 

 罵られ続け、時には暴力を受ける毎日。今までこんな優しい言葉を掛けてくれた事が無くどうすればいいか分からなかった。

 

「まあ、今すぐ返事をする必要は無い。この森を出るまでは一緒に来い」

「そうね。流石にそんな様子でここから一人は無茶よ」

「そら、疲れてるだろ。少し狭いがこっちで寝ろ」

 

 俯いて黙ったままのシェネドの手を引き天幕に連れていくシリウスとエルフィナ。シリウスとエルフィナの間にポラリスとアトリアとスピカとカペラとハダルとリゲルが寝転び、シリウスとエルフィナの頭の上にウェズンが寝転び、シェネドはシリウスの隣に寝転んだ。

 

「流石にちょっと狭いわね」

「う…ごめん、なさい…」

「気にしなくていい。ウェズン、その人は大丈夫だからね。蹴っちゃ駄目だよ」

「ブルル…」

「うん、じゃあ皆、おやすみ」

 

 シリウスとエルフィナとポラリス達は眠ったが、シェネドはまだ起きておりシリウスをジッと見つめていた。

 

「(何で、助けて、くれるんだろう…私、鈍臭くて、役立たず、なのに、何で…)」

 

 何故自分を助けてくれるのか理解できずシリウスをただジッと見つめていたが、やがて眠気に襲われて眠った。

 一方シリウスは眠った後、以前連れてこられた感覚を頼りに真っ暗な夢の中でウィクネシアを探していた。

 

「お~い、ウィクネシア~、どこだ~?ママが来たぞ~」

「誰が貴様の子供か!ならんと言っておるだろうが!性懲りも無くまた来よって!」

 

 最初は無視する気がったが、返事をしなかったら勝手に子供と認定されかねないので思わず出てきてしまったウィクネシア。ウィクネシアを見つけてシリウスは満面の笑みで近づいていった。

 

「そんな冷たい事言うなよ~。家族になろうよ~」

「ええい!纏わりつくな鬱陶しい!そんなものになってわしに何の得があるというのだ!?」

「いいじゃん別に。減るもんじゃあるまいし」

「ふざけるとるのか!」

「まあまあ、落ち着けって」

 

 ウィクネシアは怒りで並の人なら気絶するような魔力と威圧を撒き散らしているが、シリウスは我が子が駄々を捏ねるのを見るように平然とニコニコしていた。

 

「私の子供になれば愛の事を身を持って体験できるぞ。私は我が子が増えてハッピー。そっちは愛が知れてハッピー。ウィンウィンじゃないか」

「うぃんうぃんが何か知らんが別に貴様の子供に成らずともよいではないか!」

「まあそれはそうなんだけど、こっちの方が手っ取り早いじゃん。それに個人的に実の親の仕打ちが許せなくて、ウィクネシアの事が放っておけなくてな」

「一体何を」

「なあ、転生したって言ってたよな?ならもうさ、過去の事は全部忘れないか?いつまでもそんなくだらない親の言う事に縛られるのは止めようぜ?過去に背を向けて前見て生きた方が建設的じゃん?」

「…ふん。今までそれしか考えてこなかったのだ。今更何を目標に生きれいけばよいのだ…」

「なら、それを一緒に探しにいこう。なあに、今更一人増えたぐらい大した事じゃない」

 

 シリウスは笑顔でウィクネシアに手を差し出してジッと待った。差し出されたシリウスの手をウィクネシアはジッと見つめ迷っていたが、やがてゆっくりとシリウスの手を取った。ウィクネシアも終わった復讐にいつまでも囚われている事は分かっていたが、それを無くしたらどう生きていけばいいか分からず、止め時を完全に見失っていた。赤の他人の言葉なら耳も傾けなかったが、シリウスとは多少なりとも面識があり、会話をして人となりも知っているので受け入れた。

 

「…ふん。物好きな奴だ」

「こらこら、ママだろ?いや、お母さんでも母様でも可」

「誰がそんな風に呼ぶか。だが、まあ…考えてやらんでも、ない…」

「おぉ…楽しみだ。んっふふふ♪」

「気持ち悪い声を出すな」

 

 ツンツンだったウィクネシアが少しだがデレてくれたので超ご機嫌でニヨニヨしているシリウス。

 

「じゃあ娘になったウィクネシアに最初のプレゼントだ」

「プレゼント?」

「そのウィクネシア・エーウィスは前の名前だろ?これを機に名前を変えて新しく生まれ変わるんだ。実はもう名前も考えてきてるんだ。アルヘナ。アルヘナ・ノクティーだ。どうだ?」

 

 アルヘナはふたご座の恒星の一つだ。

 

「復讐と共に名前を捨てて生まれ変わる、か…アルヘナ…ふん、まあ他に名前も浮かばんからそれで我慢してやる」

「んっふふふ♪アルヘナ~♪」

「ぬあっ!?貴様、抱き着くな!頭を撫でるな!頬擦りするなあああぁぁぁ!」

 

 シリウスは嬉しさのあまりウィクネシア改めアルヘナに抱き着いて頭を撫でながら頬擦りをし、アルヘナはシリウスと引き剥がそうと藻掻いている。誰もいない真っ暗な夢の中で母娘の心温まる触れ合いは続いた。

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。