転生したと思ったらママになっていた件   作:大神降ろし

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第百十四話

 

「ぜぇ、ぜぇ…む、無茶苦茶しおって…」

「はっはっは…ごめんね?」

 

 娘になってくれたウィクネシア・エーウィス改めアルヘナ・ノクティーをこれでもかと撫でて頬擦りしまくったシリウスはようやく満足して解放したがアルヘナは疲れ切っていた。一応謝ったシリウスだが反省も後悔もしていなかった。

 

「さて無事にアルヘナが娘になってくれたから次だな」

「次!?まだ何かあるというのか!?」

「見た目だよ見た目。流石にいつまでもそれはね」

 

 撫でと頬擦り以上の事をされるのではと身構えたアルヘナの姿は黒目黒髪の小さなシリウスとなっている。いくら夢の中とはいえシリウスの娘となったアルヘナにずっと自分を模した姿をさせるのには抵抗があった。

 

「前はまだ娘じゃなかったから変えさせたけど、ずっとそのままってのもね…」

「わしは別に姿形にこだわりは無いからこのままでも構わんが」

「いや元々そういう見た目なら私も何も言わないけどそれは駄目だ。うーむ……スピカはアルヘナの転生体…ん?つまり双子?よし、アルヘナ。スピカと同じ姿に戻ろう」

「おい、何故そうなる」

「え?違うの?スピカが産まれた時からずっと一緒なんでしょ?なら双子じゃん。ほらほら」

 

 シリウスの謎理論が展開され急かされるままにアルヘナは元のスピカの姿に戻った。

 

「…うん。よくよく見たらスピカと全然違うな。これならすぐ見分けが付く」

「そうか?」

 

 今のアルヘナは一卵性双生児のようにスピカと瓜二つだが母親であるシリウスはすぐに違いを見つけた。アルヘナはつり目で自信があるように胸を張っているが、スピカはたれ目で身体を小さくし常にオドオドしている。漂う雰囲気も全然違うので仮にアルヘナがスピカの真似をしても見分けられる自信がシリウスにはあった。

 

「おい、そろそろ朝だぞ」

「え、もうそんな時間?楽しい時間はすぐ経つな…アルヘナはここから出られないのか?」

「出られんな。今のわしは魂だけの存在。霊体として外に出るのはできん事も無いがそれも一時的だ。永続的に外に出ようと思えばわしの魔力に耐えうる器、肉体が必要だ。言っておくがわしの魔力はそんじょそこらの者と比べ物にならんからな」

「うーん、なら無理か…でもいつか必ず探すから待っててな」

「ふん…まあ、期待せずに待ってやる」

「フフフ…じゃあ、また夜にな~」

 

 シリウスは空中に開いた穴に吸い込まれながら見えなくなるまでアルヘナに手を振り続けたが、視界が無くなる直前にアルヘナがそっぽを向きながら小さく手を振ったのを見逃さなかった。目が覚めてからも無茶苦茶上機嫌で傍から見れば気持ち悪い笑顔を浮かべていた。

 

「んっふふふ♪」

「シリウスちゃん、どうしたのかしら…?」

「知らないわよ。大方子供とイチャつく夢でも見たんでしょ」

「スピー…」

 

 起きて早々にニヨニヨした表情をしているシリウスを見て心配そうな顔を浮かべるエルフィナだが、ピーニは軽くスルーしておりシェネドはまだグッスリと眠っていた。シリウスはエルフィナに気にする事無く起きてぐずりだしたポラリス達のおしめを変えている。

 

「んっふふふ♪ポラリス~♪アトリア~♪スピカ~♪カペラ~♪ウェズン~♪ハダル~♪リゲル~♪おはよ~♪」

「ま~?」

「ままー?」

「ぇぅ…?」

「(プルプル)?」

「ブル?」

「シュー?」

「ワフ?」

 

 物凄い上機嫌なシリウスを見て首を傾げるポラリス達だが、シリウスは構わず皆の頭を撫でている。そのままポラリス達を抱き抱えて鼻歌を歌いながら朝食を作り始めた。

 

「ねえシリウスちゃん、とっても機嫌が良いけどどうしたの?」

「ん~?とっても良い夢を見てな」

「ふーん。どんな夢?」

「内緒」

「ぶー!教えてよー!」

 

 教えてくれないシリウスの腕を引っ張るエルフィナだが、シリウスは機嫌が良いのでいつもと違い振り払ったりはせずされるがままだった。朝食のスープができた頃にシェネドも起きて三人で朝食を取った後、天幕を片づけて森の奥へ向けて出発した。

 横に一列に並び左右をシリウスとエルフィナが固めて中央にシェネドが歩いている。

 

「今日中に奥まで行って花を採ってまたさっきの野営地まで戻ってくるんだよな?」

「ええそうよ。本当なら余裕を持って二日ぐらい掛けるんだけど、時間が無いからね。なので安全なルートじゃなくてロックバードの縄張りを突っ切っていくわ」

「それ、大丈夫なのか?」

「一体ぐらいなら大丈夫だけど、たくさん出てこられると厳しいわね。でもそこ以外に道は無いわ。あなたもそれでいい?悪いけど時間が無くて」

「私は別に、構わないけど、私、弱い、よ?」

「ああ、大丈夫。戦いは私とエルフィナがやるから。ところで魔法とかは使えないのか?」

「…使えない、事も、無くは、ない、ような…」

「ん?煮え切らない言葉だな。一応使えるって事でいいか?」

「まあ…うん…」

「んー…使いたくないなら別にそれでもいいぞ。何か出てきたら後ろに下がってな」

「シリウスちゃん、そろそろロックバードの縄張りに入るわ。ほら」

 

 エルフィナが指差す方には土が掘られた跡や大きな足跡がいくつも残されていたり、シリウスの腕ぐらいある鳥の羽根が落ちていた。

 

「大きいな…」

「ロックバードは頭が良くないから私達を見つけても他の魔物がいればそっちを優先するわ。ただ嘴と足には気をつけてね」

 

 エルフィナを先頭にシリウス達はロックバードの縄張りへ入っていった。

 この辺りの木々は野営地までの木々よりさらに巨大で大人十人が手を広げて抱き着けるぐらい幹が太くなっており、そんな木がいたるところに生えている。その木の陰や枝の上に精霊達がそこかしこにおり、通っていくシリウス達を興味深そうに見ていた。時折聞こえてくるロックバードと思しき甲高い声に怖がるポラリス達をあやしつつ同じようにビビッて服の裾を掴んでくるシェネドを好きにさせながら、シリウスは左右や後方を警戒していると前を歩くエルフィナが止まった。

 

「前から来るわ。隠れて」

 

 木の陰に隠れる一行の前にロックバードが姿を現した。体長は3mほどあり、身体の三分の一を占める巨大な足を持ち、緑色の体毛をして頭の後ろの毛は色とりどりの極彩色をしている。

 

「繁殖期…厄介ね。いつもより凶暴だわ。通り過ぎるまで待ちましょう」

 

 オスのロックバードは繫殖期になると頭の後ろの毛が極彩色に変わって雌にアピールするのだ。木の陰に隠れたまま通り過ぎるのを待ったが、よりによってシリウス達が隠れている木の前で止まり羽を毛繕いをしたりとのんびりしている。

 

「(あっち行けよ。何でここでするんだよ)」

「(うーん…一体なら片づけられるけど、鳴き声を出されると他のロックバードが寄ってくるし…さっさと通り過ぎてくれた方が面倒がないんだけど)」

「(大きい、魔物、怖い…あっち、行って…)」

 

 あっち行けと三人で思っていたら今度は別のロックバードが現れた。こちらも頭の後ろの毛が極彩色となっておりお互いを認識した瞬間、どちらも甲高い声を上げ嘴を鳴らし威嚇し合っている。

 

「チャンスね。今のうちに移動しましょう」

「動いてバレないか?」

「今のロックバードはお互いしか目に入っていないわ。仮にあの真ん中に立っても無視されるわ。さ、行きましょう」

 

 エルフィナの言う通り、シリウス達が視界に入っているのにロックバードは見向きもせず、互いに目の前しか見えていなかった。ロックバード同士の争いに巻き込まれないように迂回しながら奥へと進んでいるが、進むにつれて大きな木の根っこや岩が行く手を邪魔しており、ウェズンを後ろから押しながら手綱を引いて岩の上に引っ張り上げたり、木の根っこに足を取られてこけたシェネドに手を貸したり、ロックバードの喧嘩にまた遭遇して迂回したりと進むのも一苦労だ。昼頃になっても未だにロックバードの縄張りから抜け出せず、シェネドが疲労で動けなくなったので一旦休憩する事にした。

 

「はぁ、はぁ…」

「大丈夫か?ほら、水だ」

「繫殖期だからあちこちにロックバードが彷徨ってるわね。無視して進むと危ないし厄介ね」

「森の奥まではまだ掛かるのか?今どのくらいまで来たんだ?」

「そうねえ…まだ三分の一ぐらいかしらね…」

「むぅ…今日中に森の奥まで行って、ラキュラスの花を採って、野営地に戻るのは難しくなってきたな」

「ぅ…ごめん、なさい…」

「別にシェネドが悪い訳じゃないから気にするな」

 

 シリウスは自分が足を引っ張っていると俯きながら謝るシェネドの肩に手を置きながら慰めている。

 

「せめてロックバードが何とかなれば行けると思うんだけど…」

「ロックバードの雌を捕まえて鳴き声を出させたら皆寄っていかない?」

「…まあ、寄るは寄ると思うけど…ロックバードを捕まえるのは大変だし、そもそも雌がどこにいるのか…あ」

 

 シリウスの提案を却下しようとしたエルフィナだがシリウスの後ろを見て思わず声が出た。シリウスが振り返るとそこには呑気に草を啄んでいるロックバードの雌がいた。ロックバードの雌は灰色の体毛をしており雄と比べると地味な見た目をしている。

 

「…いたわね。後は捕まえる方法だけど」

「縄で足を縛れば走れなくなるし、藻掻く時に鳴かないか?」

「…鳴くわね。うん、それでいきましょう」

 

 エルフィナはシリウスが荷物から取り出したロープを受け取って足音を立てずに背後から近寄ろうとしたがロックバードの雌は何かを察知したのか顔を上げて周囲を見回している。エルフィナは岩の後ろに隠れて見つからなかったが、近寄る事ができずにいたのでシリウスは小石を拾ってエルフィナがいる逆の方向に投げた。小石が藪に落ちる音に反応してロックバードの雌がそちらの方を向いた瞬間、エルフィナは岩の陰から飛び出してロープでロックバードの両足を結んで思いっ切り引っ張った。思いがけない方向から引っ張られたのでロックバードの雌は呆気なく転んだ。

 

「クエッ!?クエッ!クエエエェェェ!」

「上手くいったわね!今のうちに行くわよ!」

 

 目論み通りロックバードの雌は鳴き声を上げて助けを求めているのでシリウス達は急いで森の奥へと向かった。途中で何匹かのロックバードの雄と擦れ違ったが、シリウス達には目も暮れず一目散に雌の元に走っていった。ロックバードと出くわさなくなりようやくロックバードの縄張りを抜ける事が出来た。

 縄張りを抜けて一時間ほど歩き木の枝の間から木漏れ日が差し込む開けた場所に出てきた。地面には日光をたっぷりと浴びて瑞々しい様々な薬草がたくさん生えていた。

 

「おぉ…」

「綺麗…」

「ここね。えっとラキュラスの花は…あ、あったわ」

 

 エルフィナの指差す方にはユリの花に似たピンク色の花が咲いていた。

 

「これがラキュラスの花よ。弱いから慎重にね」

「分かってる」

 

 シリウスは丁寧に掘り起こして根っこからラキュラスの花を採り袋に入れた。これで持って帰れば依頼は完了だが、折角ここまで来たので周囲にある他の薬草なども採取する事にした。

 

「これはキュアリーフ。上位のポーションの材料よ。そのまま使っても効果があるわ。こっちはツユソウ。解熱剤を作る時に使うの」

「この茸は?」

「それはトリフェンね。毒は無いわ。高級食材でかなり美味しいわよ。売れば小振りでも一つ5000リクルで売れるわ」

「ならいくつか採っておくか」

「あ、これ、は?」

「あー、それは毒があるから止めたほうがいいわ」

 

 袋に詰めれるだけ薬草や山菜を摘んでいき袋がいっぱいになったところで戻る事にした。

 

「そろそろ戻りましょうか。帰りも帰りで大変だし」

「そうだな。これだけあれば十分だしな。帰りもロックバードの雌を捕まえないと」

「上手い事出くわせばいいんだけどね。出くわさなければどうしましょうか?」

「向かってくるロックバード全てにリキッドグルーをぶつける。動けなくなった隙に逃げる」

「…案外いけそうねそれ」

「リキッドグルー、覚えてる、の?」

「ああ。何かに使えないかと思ってな」

 

 採取した薬草などを荷物にしまい昨日泊まった野営地に向けて出発した。ロックバードの縄張りに再び入るとシリウスは宣言通りに出くわすロックバード雄雌問わずにリキッドグルーを放ち続けた。リキッドグルーはロックバードの足と地面にベッタリと付いて固まり、突然動けなくなったロックバードがプチパニックを起こしている間に悠々と通り過ぎていった。プチパニックを起こしてロックバードは鳴き、その声を聞いて他のロックバードが寄っていくので夕暮れまでに野営地に戻ってくる事ができた。

 

「帰りは行きより楽だったな。こんな事なら行きも使えばよかった」

「無茶は駄目よ。かなり使ってたけど魔力は大丈夫なの?」

「まだまだ余裕。寝れば全快するしな」

「凄い、ね」

「そうか?これぐらい普通じゃないのか?」

「私は、あんなに、連発、できない。精々、三回、ぐらい」

「そりゃあ毎晩寝る前にあんな事続けてたら増えるわよね」

 

 シリウスは毎晩寝る前にティンダーやレビテーションやフローティングシールドなどの周囲に影響が無い魔法を魔力が半分になるまで使い続けているのだ。おかげで今のシリウスの魔力は上級のハンターの魔法使い並みにある。

 

「明日はこの森を抜けて森の前の野営地で一晩休んでから王都に帰るわ」

「出発する前はどうなるかって不安だったが何とかなりそうだな」

「まだ森を抜けるまでは安心できないわよ。森を抜けてからもちょっと急ぎ気味で行かないと夕方には門が閉まっちゃうからそれまでに王都に入らないと。明日に備えて今日はもう休みましょう」

 

 夕食を食べ終えた三人は天幕に入り明日からの強行軍に備えて眠る事にした。エルフィナとシェネドとポラリス達はグッスリと眠っているが、シリウスはこれからアルヘナとのイチャつきタイムが待っている。新しく増えた娘との触れ合いを想像して自然と笑みを浮かべながらシリウスは目を瞑った。

 

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