転生したと思ったらママになっていた件   作:大神降ろし

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第百十七話

 

「落ち着いたか?」

「ぐすっ…うん…」

 

 数分ほど泣き続けたシェネドはべそを掻いているがようやく落ち着きを取り戻した。シェネドが泣いている途中でポラリス達も釣られて泣き出しそうになり、あわや大合唱になるところだったのでシリウスは懸命にあやして疲れ切っていた。

 

「はぁ~…疲れた…」

「依頼の時より疲れてない?」

「もう今日は動きたくない…いや、駄目だ。シェネドの寝床がまだ決まってなかった」

「それならここでいいじゃない。私が受付で言ってくるわ」

 

 疲れ切ったシリウスに変わりエルフィナがシェネドの部屋を取りに行ってくれた。

 

「ごめん、なさい…」

「何の謝罪だ?泣いた事なら私は全然気にしていないし、部屋の事なら仲間なら当然だ。だから何も気にしなくていい」

 

 呪法が使える自分の事を受け入れてくれたのは泣くほど嬉しかったが、今になって泣いたところを見られて恥ずかしくなり俯いている。

 

「(は、はじゅかちいぃ…!な、情けないところしか見せてない…!うぅ…)」

 

 シリウス達と出会ってから足を引っ張る事しかしておらず、泣いたところも見られた事も相成って自分が情けな過ぎて落ち込んでおり違う涙が溢れ出してきた。

 

「おいおい、何で泣くんだよ…あれか?足を引っ張ってるとか思ってるのか?」

「ひぐっ…!?」

「図星か。森の前で戦った時は呪法で援護してくれただろ?十分助かってるよ」

「で、でも、じゅ、呪法、だし…」

「まあ、他の人がいれば使えないか。魔法は全く使えないのか?」

「い、一応、使える、けど、呪法より、才能、無いから、威力とか、低いし。覚えてるのも、少ないし…」

「いやいや、使えるなら問題ないから。これから人前では魔法の方を使えばいいな。呪法の方は…エルフィナとも相談するが、いざって言う時まで取っておくか」

「取ってきたわよー。私に相談ってなあに?」

「シェネドの役割というかそういうの。魔法は使えるみたいだから」

「あー、なら一番後ろかしら。いや、それだと後ろの警戒が…シリウスちゃんの隣が安全かしらね?」

「だな。後ろは私が警戒すればいいし」

「えぅ…ごめん、なさい…」

「だから気にしなくていいって」

 

 自己評価が低いシェネドは自分なんかのために色々と頭を悩ませているシリウスとエルフィナにさっきから謝りっぱなしだった。

 

「呪法の方は人前で使わなければいいから…やっぱり覚えたいなぁ…」

「駄目よ。こればっかりは駄目」

「ぶー…」

「ぶ~」

「ぶー!」

「ぶ、ぶー…」

「ごはぁ!?み、皆でするなんて…くっ、私を萌え殺す気!?」

 

 ノクティー家で膨れるとエルフィナは胸を抑えてベッドに倒れ込み可愛らしさに悶えていた。

 

「あ、あの、えっと…し、師匠から貰った、じゅ、呪法の本なら、ある、けど」

「マジで!?」

「だから駄目ー!」

 

 シェネドがおずおずと荷物から分厚い本を取り出すとシリウスは目を輝かせながら本に釘付けになり、エルフィナはそれを身を挺して必死に止めていた。

 

「お願い!ほんのちょっと!先っちょだけだから!」

「先っちょって何!?ほんのちょっとでも駄目ったら駄目ー!」

 

 本に手を伸ばすシリウスを後ろから羽交い締めにしているエルフィナにどうすればいいか分からず本を持ってオロオロとするシェネド。ドタバタ騒ぎはシリウスとエルフィナが体力を使い果たすまで続いた。

 

「ぜぇ、ぜぇ…」

「はぁ、はぁ…し、シリウスちゃん、ち、力、強過ぎ、よ…」

「だ、大丈夫…?」

「くぅ…いつか、絶対、その本、読んでやるぅ…!」

「ぜ、絶対に、読ませない、からねぇ…!」

 

 ベッドに倒れ込み荒い息遣いをしながら、何が何でも呪法の本を読んでやると決意するシリウスと何が何でもそれを阻止しようと決意するエルフィナだった。その後は放っておかれてご機嫌斜めなポラリス達のご機嫌取りのために夕食までシェネドも巻き込んで楽しく遊んだ。夕食を皆で取った後はシェネドはシリウスとエルフィナの部屋の隣の部屋へ行き、シリウスとエルフィナはポラリス達と仲良くベッドで並んで横になり眠った。

 翌朝、朝食を取り終えて今後どうするかを相談するためにシリウスの部屋に集まった。

 

「シリウスちゃんの剣が戻ってくるまでは王都にいるとして、その後はどうする?」

「私はアールレディアとフェアンダリアに行く用事があるからそっちに行きたいんだが、シェネドはどこか行きたい所とかあるか?」

「私は、特に、無い」

「なら距離的にアールレディアかしらね。ここからフェアンダリアに行くには山を越えないと行けないから道のりが険しいわ。アールレディア経由の方は遠回りになるけど遥かにマシよ」

「なら剣が戻ってきたらアールレディアに行くか。それまでに魔戦技を覚えないと」

「ああ、そっちもあったわね。でも、後四日で覚えきれるの?」

「全部は無理でもある程度覚えれたらいいかなって。全部覚えたかったらまた王都に来ればいいし」

「それもそうね」

「シリウスは、魔戦技も、使えるの?」

「ああ。あれもこれも手を出してどれも中途半端だけどな」

 

 シリウス達は部屋を出て宿屋の隣の道場へ入った。中に入ると誰もいなかったが鍛錬場の方から声が聞こえたのでそちらへ行ってみるとシーゼルと祖父が稽古をしていた。

 

「ん?ああ、ノクティーさんか。今日はしていくかい?」

「はい、お願いします」

「ふんっ、貴様がどこまでできるか見させてもらおうか」

「と、いうことらしいから、取りあえず手合わせからしようか」

 

 シリウスはポラリス達をエルフィナに預けて木剣を手に取りシーゼルと対峙した。

 

「では…始め!」

「(虚幻流…虚閃!)」

 

 シーゼルの祖父の合図でシリウスは横薙ぎの虚閃を放ちながらシーゼルに駆け寄り木剣を振り下ろした。シーゼルは虚閃を弾いた後シリウスの木剣に合わせるように自分の木剣を振るった。

 

「虚閃も前より見えにくくなってるね!」

「そりゃあどうも!(虚幻流…幻撃!)」

「うおっ!?」

 

 鍔迫り合いの最中にシリウスは一気に押し切ろうと幻撃を使った。シーゼルは驚きながら押し切られる前に後ろに跳んで距離を取ったが、シリウスはさらに詰めて再び鍔迫り合いに持ち込んだ。

 

「(何だか前より力が強くなってない!?このままだと押し切られる!)くっ!魔戦技!【幻断】!」

「ぐぬぅ!?(幻断って何だ!?幻撃の上位互換か!?押し切られる前に!)」

 

 幻撃の上位互換である幻断をシーゼルに使われて一気に形勢が逆転し、シリウスは押し切られる前に力を抜いてシーゼルの木剣を後ろに反らしながら横に跳んで距離を取った。

 

「うおっとっとっと!?」

「(虚幻流…虚閃!)」

「あぶね!?」

 

 突然鍔迫り合いを止められてたたらを踏んだところに虚閃が飛んできて慌てながらもシーゼルは避けた。

 

「(こんちくしょうめ…ん?待てよ。虚閃って確か…なら…)こう、か!」

 

 シリウスがその場で木剣を振るうと目に見える斬撃が飛んだ。

 

「うおっと!?え!?ちょ、それって空閃だよね!?何で使えるの!?」

「虚閃は空閃を見えなくした魔戦技でしょう?ならそれを止めれば使えるに決まってるでしょうが!【空閃】!【空閃】!」

「いやそんな簡単には、うひぃ!?ちょ、連続は卑怯うぅ!?」

 

 シリウスは虚閃が使えるなら空閃もすぐに使えて当然と思っているが、必要な魔力も違いその調整が必要なのですぐに使えるという訳ではない。シリウスは木剣を立て続けに振るって空閃を飛ばしまくっており、その合間合間に虚閃も織り交ぜているのでシーゼルは防戦一方となっている。

 

「オラオラオラァ!(魔力は…七割、ぐらいかな?隠さなくていい分、魔力が浮くから撃ち放題だ。そろそろ仕掛けるか)」

「ぬおっ!?うひぃ!?ちょお!?」

 

 空閃と虚閃を防ぐので手一杯なシーゼルにシリウスは遂に仕掛けた。虚閃を撃った後疾走を使いシーゼルに一気に近づいた。

 

「あぶっ!?へ?」

「【強撃】!」

「【無影虚動】!」

 

 虚閃を避けて体勢を崩したのを見計らって強撃を付きで放つが、シーゼルは無影虚動を使い回避した。

 

「(またこれか…取りあえず壁を背にするか)」

 

 背後を取られないように壁を背にして残像を残して移動するシーゼルを注視している。

 

「(うーん、隙が無い…この前尻を叩いたのを警戒してるな…仕方が無い。多少強引に攻めるか)」

 

 シーゼルはシリウスに真っ直ぐ突っ込み斬りかかるフリをしてそのままの体勢で一歩下がった。シリウスは上段からの振り下ろしを受け流そうと構えていたが衝撃が来ないので一瞬固まった。

 

「(フェイクか!)ちぃ!」

「それ!」

 

 固まったのを見逃さずにシーゼルはシリウスに斬りかかり、シリウスはそれを避けるために横に跳んだ。シーゼルはシリウスを追い掛けて体勢を立て直す暇を与えないぐらいの連撃を繰り出し、シリウスはその連撃を受け止めたり受け流してひたすら耐えている。

 

「ちぃ!(時折幻撃も混ざってるな。今は耐えるか)」

「ふんっ!(防御が硬い!しかも幻撃も何となく分かってるみたいでそれだけ受け流されている!どれだけ目と勘が鋭いんだこの子!?魔力も半分切り始めてるし急がないと…!)」

 

 一見シーゼルが優勢に見えるが幻撃を悉く受け流されて決定打を打てずにおり魔力も少なくなってきていて焦っていた。焦りのあまり多少強引でも勝負を決めなくてはと上段からの大振りを放ってしまい、シリウスはそれを冷静に受け流して一歩横にズレた。体勢を崩しがら空きの胴を晒してしまったシーゼルは己の失敗を悟った。

 

「(しまった…!)」

「はあ!」

「ぐふぅ!?」

 

 魔戦技を使わなかったがシリウスの気迫の篭った一撃がシーゼルの脇腹に刺さった。

 

「それまで!シーゼル、何をしておるのじゃ!」

「いてて…いや、どう見ても俺悪くないでしょ。今のはノクティーさんの方が一枚上手ってだけでしょ」

「ええい、やかましい!仮にも師範がそのような情けない事を抜かすでない!」

 

 シーゼルが祖父から叱られている間、シリウスは汗を拭きとってポラリス達を抱き締めて癒されていた。

 

「ま~」

「ままー!」

「かあさま…」

「(プルプル)」

「ヒィン」

「シュー」

「ワフ」

「ん~、は~…幸せ…疲れが取れていく…」

「シリウス、とっても、強い」

「この前戦った時よりも凄かったわ。やっぱり色々経験を積むと違うわね」

 

 存分にポラリス達を抱き締めて補給した後、祖父からの説教が終わったシーゼルと先ほどの手合わせを振り返った。

 

「やっぱり幻断って幻撃の上位互換ですか?」

「そうだよ。込める魔力量以外は使い方は一緒だよ。威力は…多分倍ぐらいかな。そういえば虚動とか無影動は使えるかい?」

「いやー、実はこの頃忙しくて碌に練習できてなくて…魔力はまだ余裕があるんで練習してもいいですか?」

「もちろん構わないよ。爺さんも折角だからアドバイスしてあげなよ」

「ふんっ、まあ、まぐれとはいえシーゼルを倒したのじゃ。少しぐらいは見てやろう」

「素直じゃないなー」

 

 木剣を直して虚動などの移動系の魔戦技の練習を始めたシリウスを見ながらシェネドは悩んでいた。

 

「(シリウスは、魔法も、魔戦技も使える。エルフィナは、とっても強い。それに比べて、私は、呪法しか、取り柄が無い…呪法も、他に人がいれば、使えない…私が、二人の、足を引っ張ってる…どうしよう…)」

「何か悩んでる顔ね?」

 

 呪法以外に取り柄が無く悩んでいるシェネドにシリウスの練習風景を見ながらポラリス達をあやしているエルフィナが声を掛けた。

 

「わ、私は、えっと…あ、あれ、しか使えないから…その…」

「ああ。あれしか使えないから足を引っ張ってるって事?」

「う…そ、そうです…」

「別にそんな事気にしなくていい、ぞ!べふぅ!?」

「あーあー…また壁に…」

「止まる時のイメージをもっと強固に持たんか!」

 

 シェネドの話が聞こえたシリウスが練習しながら声を掛けるが、虚動に失敗し壁に激突しており祖父から厳しく叱られていた。

 

「あらあら…まあ、シリウスちゃんも言ってたけど私もそんなに気にしなくていいと思うわ。まあ、いくら言っても気にしちゃうのも分かるけどね」

「ど、どうしたら…」

「あれ以外で使えるものを探すしかないわね。そうねぇ…弓矢を使うか、魔法を使うかってところかしら?」

「ゆ、弓は、力無いし…ま、魔法も、全然弱いし…でもまだ、魔法の方が、ちょっとマシ、なはず」

「んー…もしかして杖が合ってないかもね。試しに変えてみたら?」

「…それは、あるかも。今持ってるのは、あれ用に、作ってもらったから」

「ぬぐおっ!?べふぅ!?」

「今度は躓いた…」

「ええい!今度は強固にイメージし過ぎじゃ!よいか!こう!もっと滑らかにするのじゃ!」

 

 エルフィナとシェネドが話し合っている間、シリウスは躓いてまた壁に激突していた。シーゼルの祖父がお手本として虚動と無影動を見せており、シーゼルがするよりも音が無く滑るように移動している。

 

「うぐぐ…難しい…あ、シェネド。魔法の杖なら初心者用のを持ってるからそれ使ってくれ」

「え…いいの…?」

「ああ。貰ったはいいが使う機会が無くてな。私は無くても使えるし」

「こりゃ!さっさとやらんか!」

「へーい。荷物の中に魔法の本もあるから見てくれ」

 

 祖父に怒鳴られて練習に戻っていくシリウス。エルフィナはシリウスの荷物の中から初級と下級の魔法の本と初心者用の杖を取り出してシェネドに渡した。

 

「あったわ。はいこれ」

「えっと…いいの、かな…?」

「シリウスちゃんがいいって言ったから大丈夫よ」

「…じ、じゃあ…」

 

 魔法の本と杖を手渡されたシェネドは本を広げて読み始め、エルフィナはポラリス達をあやしながらシリウスの練習風景を再び眺め始めた。

 

「ば~」

「ふぃーばぁば!」

「おば、さま…」

「(プルプル)」

「ブルル…」

「シュー」

「ワフ」

「よしよし、フィナおばちゃんですよー♪最近忙しかったからゆっくりしましょうねー♪ほら、ママが頑張ってるから手を振って応援してあげて」

 

 エルフィナに頭を撫でられながら魔戦技の練習をしているシリウスに手を伸ばしたり、手を振ったり、心配そうな表情で応援するポラリス達。久々にまったりとした時間を過ごしているエルフィナ達。

 

「私以外、な!べふぅ!?」

「ええい!余所見をするでない!」

 

 

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