転生したと思ったらママになっていた件   作:大神降ろし

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第百二十三話

 

 アッデイと名乗る隊長らしき者から賊扱いされて困惑するシリウス達だが、兵士達もシリウス達を賊だと思い込んでいるらしく槍を構えるのを止めていなかった。

 

「あー…なあエルフィナ。あちらで騒いでらっしゃる人はご存知?」

「ええ。〈黒棘〉のアッデイ。このトルプナートを守る四人の隊長の一人よ」

 

 このトルプナートは四人の隊長と総司令である侯爵が守護を任されている。だが隣国との情勢の悪化に伴い侯爵は二人の隊長と共に前線へ赴き、現在トルプナートは残り二人の隊長が守護をしている。その内の一人が今シリウス達の目の前で臨戦態勢となっている〈黒棘〉の異名を持つアッデイ・トロッソだ。

 

「賊って…私達が何をしたって言うんだよ?」

「白を切るつもりか!既に調べはついているのだ!大人しく捕まるならそれでよし!だが抵抗するならただではすまんぞ!」

「聞く耳すら持たないか…」

 

 どこからの情報か分からないがそれを信じ切っておりシリウスの話を聞いてくれなかった。

 このトルプナートではファデル商会がほとんどの流通を牛耳っていて逆らえる者がおらず、町を治める侯爵ですら流通を止められると困るので強くは言えない状態だ。シリウスがボコボコにしたブルヌはファデル商会の会長の息子のお気に入りであり、可愛い弟分が傷つけられて怒り心頭の会長の息子がシリウスを陥れるためにある事無い事を吹聴し、それを聞いたアッデイが信じてしまい義憤に駆られて必ず捕まえると待ち構えていたのだ。

 

「これ、絶対あいつの仕業だよな?」

「間違い無いわね。トルプナートはファデル商会が牛耳ってるから。さあて、どうしましょうか…」

「捕まるのは無しだな。というかエルフィナが一緒にいるのにそれでも私が賊だって信じてるのか?」

「あのアッデイが一度決めたら絶対に曲げない頑固な性格なの。今回も嘘の情報を信じ切ってるから私達が何を言っても聞く耳持たないわよ」

「さあ、答えを聞かせてもらおうか!」

 

 アッデイが催促してきて、その言葉に兵士達もジリッと一歩近づいて圧を掛けてくる。

 

「どうする?」

「…兵士の数は二十人ほど…強さはそこまでじゃない…多分これはアッデイの独断だし、もう一人の隊長は…よし…シリウスちゃん、私が数を減らすからアッデイの相手、お願いできる?」

「分かった。殺しは無しだな?」

「ええ。アッデイは大盾以外にモーニングスターを使うから気をつけてね」

「ああ。シェネド、ポラリス達と一緒に下がっていてくれ」

「だ、大丈夫、なの…?」

「任せろ。皆~、ちょっと待っててね~」

 

 ウェズンの背中にポラリス達を乗せてシェネドと一緒に後ろに下がらせた。

 

「抵抗すると言うのだな!?」

「冤罪なのに黙って捕まる道理は無いんでね」

「後悔せぬ事だ!掛か、!?」

 

 アッデイの号令が掛かる直前、エルフィナがアッデイに突撃した。アッデイは大盾を構えるが、エルフィナはアッデイの手前で方向転換して兵士達に襲い掛かった。

 

「それっ!」

「ぐわあ!?」

「なっ!?」

「こっちに来たぞ!」

「迎え撃て!相手は一人、がはあ!?」

「遅い!」

 

 縦横無尽に駆け回り兵士達を翻弄しつつ蹴散らしていくエルフィナ。

 

「おのれぇ!むっ!?」

「お前の相手は私だ」

 

 兵士達を援護しようとアッデイが余所見をした時、シリウスが剣を鞘に入れたまま構えて殴りかかった。アッデイはそれを大盾で防ぎシリウスに注視した。

 

「小癪な!賊の分際で我らに楯突く気か!」

「ぞくぞくぞくぞくうるさいぞ。それしか言えないのか全く…」

「~っ!この我を馬鹿にしおって!もはや交わす言葉も持たぬ!ここで屍と化せぃ!」

 

 シリウスの物言いに青筋を立てたアッデイはフレイル型のモーニングスターを振り回してシリウスに叩きつけてきた。シリウスは余裕を持って避けるが地面に叩きつけられた衝撃で土煙が上がりアッデイが見えなくなってしまった。シリウスは次に来る攻撃を予測して攻撃範囲から離れると同時にモーニングスターの横薙ぎが放たれて土煙が払われた。

 

「(さあて、どうするか…大体が大振りだから予測するのは容易いし、懐に飛び込めるっちゃあ飛び込めるが、あの大盾が面倒だな…殺しありなら魔法で片づけるんだが…いや、それなら…)」

「どうした!逃げるだけか!」

「なら当てろよ」

「減らず口を!」

 

 殺さずに鎮圧する方法を考えながらアッデイの猛攻を避けるシリウス。アッデイはモーニングスターを縦に横に振り回すが、シリウスには全く当たらなかった。

 

「おのれおのれ!ちょこまかと!」

「【ライトニング】」

「ぬっ!?」

 

 モーニングスターを振るった後の硬直を狙ってライトニングを放ったが、アッデイは盾を差し込んで防いだ。

 

「魔法の耐性があるのか、その盾」

「魔法まで使うとは!それだけの力を持っていながら賊に身を窶すとは嘆かわしい!」

「だから賊じゃないって(正攻法は駄目か。なら搦め手込みで攻めるか)」

 

 アッデイは魔法を警戒して無闇に攻めるのを止めて大盾を構えてジリジリとシリウスに迫っている。

 

「【バブルブロー】【バブルブロー】【バブルブロー】」

「ぬぅ!?くっ!?ええい、何をする!?」

 

 ひたすら水球を飛ばすバブルブローを放ちまくるシリウス。アッデイは大盾で直撃は防ぐが、水飛沫までは防げず鎧が濡れていく。

 

「【バブルブロー】【バブルブロー】【クリエイトウォーター】」

「くぅ!?ぶあっ!?」

 

 バブルブローを放ちながら隙を見てアッデイの顔面にクリエイトウォーターを放った。どれだけ魔力を込めても水鉄砲以下の水量しか放てないクリエイトウォーターだが、バブルブローを防ぐのに手一杯だったアッデイは反応が遅れて顔面に直撃して水浸しになった。

 

「くぅ…!貴様、我を舐めているのか!」

「いんや?別に」

「どこまでも虚仮にしおって!」

 

 全身ずぶ濡れにされ舐められていると思い込み激昂するアッデイだが、シリウスはそんな事は微塵も考えておらず全て作戦だ。

 

「これだけ濡れてれば魔法に耐性があっても通るだろ」

「何?…!!まさか!?」

「もう遅い。【スパークウェブ】」

 

 シリウスは雷の網を打ち出す中級魔法のスパークウェブを放った。スパークウェブがアッデイを絡めとった瞬間、水を伝って全身に電気が走った。

 

「ぐわあああぁぁぁ!?」

 

 スパークウェブは対象を感電させて捕らえるのを主に置いており、殺傷能力はそこまで無いのでアッデイも身体が痺れて動けない程度で済んでいる。

 

「ぐ、ぐおぉ…!お、のれぇ…!」

「やーっと動かなくなったか。エルフィナは…」

「これで、最後!」

「ぐはぁ!?」

 

 シリウスがアッデイを鎮圧したと同時にエルフィナも二十人ほどいた兵士達を全て殴り倒した。

 

「ふぅ…昔と違って時間が掛かったわね…」

「お疲れさん。こっちも終わったぞ」

「賊風情に敗れるとは…!」

「まだまだ元気ねぇ…そろそろ来てもいい頃だけど…」

「誰か来るのか?」

「今のトルプナートにはアッデイともう一人隊長が残ってるの。これだけの騒ぎを起こしたから気づくはずだけど…」

 

 エルフィナが城塞の方を見ると兵士達が駆けてくるのが見えた。先頭を駆けてくるのはアッデイと同じように黒い鎧を着ていて大弓を持った長髪の青年だった。

 

「はぁ、はぁ…アッデイ、一体何してんだよ…」

「ぐぅ…!ぞ、賊を、捕らえようと、したまでよ…!何ら、恥じるような、真似はしておらぬわ…!」

「そんな体勢でよくそこまで言えるな…あー、そこのお二人、いや三人か。話を…って、エルフィナじゃないか~」

「うわぁ…」

 

 青年がエルフィナを見た瞬間、満面の笑みとなり気安く声を掛けて近づいている。それを見てシリウスは青年が軟派な男なのだと理解して、戦闘が終わったのを見計らって近づいてきたシェネドを背に隠した。

 

「近づかないでくれる?私、あなたの事が嫌いなの」

「そんな冷たい事言うなよ~。僕達の仲じゃないか」

「そんな気安い仲になった記憶は無いわ。そんな事よりさっさと誤解を解いてちょうだい」

「つれないなぁ…そこも良いんだけどね。ん?んん?んんん!?」

 

 青年とシリウスの目が合った瞬間、青年は目を見開いた。

 

「何て美しいんだ!お嬢さん是非ともお名前をぉ!?」

「さっさとしなさい!」

 

 即行でシリウスを口説こうと近づいたが、エルフィナに首根っこを掴まれてアッデイの方に放り投げられた。

 

「全く…シリウスちゃん、あいつはあんな感じだから気をつけてね。何なら今みたいに雑に扱ってもいいから」

「分かった。そうする」

「ちぇー…はぁ、仕方が無い。嫌われたくないからお仕事するか。アッデイ、彼女らは賊じゃないって」

「そんな訳あるか…!ちゃんと証言もある…!」

「その証言も怪しいもんだけどな…ここにいるのは元一級ハンターチーム〈グローミナス〉の一人〈緑風〉のエルフィナだぞ?そんな人が賊をする理由なんて無いだろ」

「そこにいる女が話術で騙しておるのだ…!」

「お前さぁ…彼女らが賊だって言うけど、その証拠あんの?」

「ファデル商会の者がそう言っておったのだ…!彼らが嘘を付くはずがない…!」

「つまり証言だけなのね。賊だっていう決定的証拠は無い訳だ」

「貴様ぁ…!」

「なので僕の権限で彼女らがトルプナートに入るのを許可する。これを反対するなら彼女らが賊だという決定的な証拠を僕に見せるんだな。ほら、お前らはやられた連中に手を貸してやんな。

アッデイ、お前もう動けるだろ?自力で帰るんだな」

「くっ…!この事は侯爵様に報告するからな…!」

「お好きにどうぞ~」

 

 痺れが取れたアッデイは自力で立ち上がり青年とシリウスを睨んだ後、兵士達と共にトルプナートへ帰っていった。

 

「やれやれ…同僚が済まなかったな。侯爵様にここの守りを任されて張り切りすぎててな…」

「それだけじゃなさそうだけどな」

「やれやれ、お見通しか…その通り。あいつはファデル商会の会長に恩義があってな。その会長に良い様に丸め込まれてすっかり信用しちまって、何でもほいほい信じるようになっちまったのさ。多分今回もそうだな。おっと、初対面なのに自己紹介もまだだったな。僕はミグラント・アーバーって言うんだ。お名前を教えてもらえるかな、麗しいお嬢さん?」

「…まあ、名前ぐらいいいか。私はシリウス・ノクティーだ」

「シリウス…とても良い名前だ。美しいあなたにピッタリだ。お近づきの印にお食事でも―――」

「はいはい、そこまでよー」

 

 シリウスの手を取ろうとしたミグラントをエルフィナが阻んで手首を捻り上げた。

 

「あいたたたたた!?折れる!?折れるうううぅぅぅ!?」

「シリウスちゃんには指一本触れさせないから。さっさと仕事に戻りなさい」

「うわぁ!?いてて…やれやれ、仕方が無い。またの機会にしよう」

 

 ミグラントはシリウス達に丁寧にお辞儀をしてトルプナートへ戻っていった。

 

「変な奴…」

「あんなのでも弓の名手でね。この前の盗賊討伐の時に共闘したんだけど、まあとにかく馴れ馴れしく寄ってきてね。終わった後食事しようなんて言ってきたから報酬だけ貰ってさっさと出てやったわ。シリウスちゃん達にも早く会いたかったからね」

「それが正解だ。シェネドももし似たような奴に言い寄られたら絶対断って逃げろよ。私が追い返してやるから」

「う、うん…(や、やっぱり、シリウスと私は、相思相愛…うへへ…)」

 

 何を考えてるのか気持ち悪い顔でニヨニヨしているシェネドを、何を考えているのか何となく察したエルフィナがジト目で見ており、それを見てよく分からず首を傾げているシリウスだった。

 一行はトルプナートの門に近づき許可を貰って町に入った。トルプナートは世界屈指の城塞都市で常備兵の数もオルティナ王国でトップを誇っている。長期の籠城にも耐えられるよう都市内にいくつもの溜め池や畑を作っており、少ないながらも家畜も飼っている。町の中は軍関連の建物が多く建っており、そこかしこに兵士が歩き回っている。

 

「兵士の数が王都より多いな。それに何だかピリピリしているような…」

「兵士の数自体は前より減ってるわ。多分前線に行ったんでしょうね。それと確かにピリピリしてるわね。気にはなるけど…先に物資の補充に行きましょう」

 

 エルフィナの案内でシリウス達はトルプナートの市場へと向かったが、王都ほどの活気は無くそこかしこで客と店主が口論している。

 

「おい!何でスクワッシュが一つ1000リクルなんだよ!高すぎるだろうが!」

「ナガニンジンですら一本100リクルって、これじゃあ何も買えないじゃない!」

「何なのよこの肉!腐ってて蟲が集ってるじゃない!こんなのを売ろうっていうの!?」

「パンですら50リクルなんて…そんなお金無いわよ」

「半分以上前線に持っていかれたんだから仕方ねえだろうが!こっちだってこれ以上下げたら生活できねえんだよ!金がねえならさっさと帰りな!」

 

 あちらこちらで似たような口論がされていてシリウス達は眉を潜めている。

 

「いくら戦争数歩手前だからといってこれはおかしくないか?」

「確かに…ここの流通はファデル商会が握ってるから何かしらの利権とか関わっていそうね。全く…住民が干上がってもいいのかしら?」

「貴族とかは、自分の事しか、考えない」

 

 ファデル商会が前線に優先的に物資を送っており、その見返りとして通常より多くの金銭を受け取っているのだ。その代償として商店に物資が届かず、やむなく値段を上げるところが増えておりこういったトラブルが増えてきている。

 

「やれやれ、こんなんじゃ買えないな」

「うーん…一応多めに買ってあるから次の町まで何とか持つと思うけど…どうする?」

「本当に必要なら値段が高くても買うが…取りあえず大丈夫そうだな」

「なら行きましょうか。宿を取らないと…ん?」

 

 エルフィナは違和感を覚えたので辺りの気配を探るとこちらをチラチラとみるチンピラ紛いの男達を見つけた。

 

「…誰かこっちを見てるわね」

「ファデル商会か?」

「多分ね。どうも嫌な予感がするわ」

「こっちの言い分を聞かずにいちゃもんを付けてきそうだな」

「それでさっきの、話を聞かない、隊長を呼ぶ」

「…普通にあり得そうね」

「こりゃあ一泊もせずに出ていった方がいいかもな」

「…その方が安全ね。休めないけど、いい?」

「私は問題無い」

「私も、大丈夫」

 

 シリウス達はトルプナートには泊まらずにそのまま出ていく事にして門へと向かうが、門の周りにもエルフィナが見つけたチンピラ紛いの男達と同じような男達がおり、門番に何かを話しているのが見えた。

 

「あらー…念入りね…」

「あれ、私達の事を話してるよな?」

「間違い無いわね。どうせ私達が悪い事をしたとか言いふらしてるんでしょ」

「どう、するの?」

「どこかに抜け道でも無いかね?」

「あるとは思うけど…っと、その前に身を隠しましょう。警邏がこっちに来るわ」

 

 既にシリウス達の事が伝わっていると仮定して動く事にして人気の無い路地裏に身を隠した。路地裏にいた素行の良くない連中はシリウスとエルフィナが懇切丁寧にお話しして退いてもらい、路地裏に置いてあった木箱などの陰に隠れた。人気が少なくなる夜を待つ事にしたが、夜になるまでの間ポラリス達が退屈しないかと不安に思ったシリウスたっだが、ポラリス達はぬいぐるみで楽しく遊んでいたのでその心配は無かった。途中でエルフィナが水の補給と周辺の確認をしに動いた以外はその場から動かずにいた。

 その頃町中ではファデル商会の下っ端達が必死に走り回っていた。

 

「おい!いたか!?」

「いや、こっちはいなかった!」

「クソッ!どこに行った!?」

「まさかもう外に…」

「いや、それは無いはずだ。門番にはちゃんと言い含めたし、向こうさんも必ず捕まえるって張り切っていたからな」

「なら町の中で隠れてるって事か…」

「俺達の事がバレてるとしか思えねえな…しゃあねえ。お前らはこのまま探せ。俺は手の空いてる奴らにも声を掛けてくる」

「早く見つけねえと、また殴られる…!」

「俺はお仕置きは嫌だぞ!?」

「俺だって嫌に決まってる!さっさと動け!」

 

 少しでもミスをしたりするとお仕置きと称してブルヌから殴られるので下っ端達は青褪めながら再びトルプナートの町中を駆け出していった。そして兵士達も似たように町中を走り回っていた。

 

「そっちはどうだ?」

「いや、こっちにはいない」

「こっちもだ。一体どこに隠れたのだ?」

「早く見つけないとまたアッデイ隊長に怒鳴られてしまう…」

「ところで何で隊長はその者達を捕まえたいんだろうか?」

「賊だとは言っていたが…それなら門番が知らせるはずだが…」

「聞いた話ではミグラント隊長が賊ではないと言って通したらしいぞ」

「探しているのは女三人組なんだろ?それで入るのを見逃したんじゃないのか?」

「ミグラント隊長は女好きで有名だからな…」

「それが違うらしいぞ。その三人組の中に〈緑風〉殿もいたらしくてな」

「あの〈緑風〉殿か!それなら入れても問題無いはずだな」

「なら何でアッデイ隊長は捕まえろと言ったのだろうか…?」

「結局そこに戻るな…疑問は残るが探せとの命令だ。捕まえるかは置いておいて探し出すぞ」

「「「「「ハッ!」」」」」

 

 兵士達は再び散開して町中の捜索に戻っていった。

 だが結局どちらも夜まで見つける事ができず、それぞれの上司にこっ酷く叱られてしまった。

 

「…そろそろ行きましょうか」

「そうだな。ありがとね」

「むふ~」

 

 何故シリウス達が見つからなかったのか。

 その理由はシリウスが風の精霊にお願いして姿を隠していたからだ。風の精霊は可愛らしく胸を張っていたのでシリウスは優しく頭を撫でた。

 エルフィナを先頭に静かに移動するシリウス達。だが門はすでに閉まっており、通用口の方にも見張りの兵士が立っていた。

 

「うーん…一人だけだから気絶させるのは簡単だけど…壁上にも見張りがいるからそのまま出ればバレるわね…」

「どうする?またお願いして見えなくしてもらうか?」

「…それが一番確実、かしらね…」

「…お、いたいた。やっと見つけたよ」

 

 通用口近くの路地裏に隠れていたら後ろから誰かに声を掛けられた。エルフィナは即座に跳んで壁を蹴って声を掛けてきた者の後ろに回り込み短剣を突き付けた。

 

「誰?」

「あ、あはは…ひ、昼間ぶり、だね…」

 

 月明かりに照らされて出てきたのは、エルフィナに短剣を首に突き付けられて両手を上げながら冷汗をかいているミグラントであった。

 

「こんな所で何をしているのかしら?私達を探していたみたいだけど、アッデイかファデル商会にでも引き渡す気?」

「そんなつもりは無いんだけど…取りあえずそれ、仕舞ってくれない?」

 

 敵意などは無さそうなのでエルフィナは警戒は怠らないものの短剣を仕舞った。

 

「ふぅ…久しぶりに生きた心地がしなかったよ…」

「御託はいいからさっさと言いなさい」

「分かった分かった。君達を探していたのは町から出すためさ。そこの通用口も中と外から見張られてたよ」

「…随分親切ね。何を企んでいるのかしら?」

「企むだなんて人聞きの悪い…まあ、そう思う気持ちも分かるけど。だけど今回は流石に俺もおかしいと思ってね。それに日頃から大きな顔をしてるファデル商会が悔しがる姿を見てみたくてね。だから協力するのさ」

「…まあいいわ。一応信じてあげる。それで?」

「こっちに隊長クラスしか知らない緊急用の出口がある。そこからなら見つからずに出れる」

 

 ミグラントの案内でシリウス達は入り組んだ路地裏に入り行き止まりまでやってきた。ミグラントは排水用のマンホールを持ち上げて下水道に入った。下水道はシリウスが思っていたほど汚くは無かったが、臭いが籠っていたのでポラリス達の顔を布で覆ってから中に入った。シリウス達は無事に通れたがポニーであるウェズンは一人では入ることができず、皆で協力して何とか下水道へ降ろした。

 

「うぎぎ…!お、もい…!」

「ポニーを、持つなんて、思ってなかったな…!」

「はーい、そのままー、ゆっくりねー」

「ウェズン~、いい子だね~。もうちょっとだけ我慢してね~」

「ヒィン」

 

 全員降りることができてミグラントを先頭に下水道を歩き出した。

 

「どこまで行く気?」

「この先に外に出れる箇所がある。下水道の管理人も知らない秘密の抜け道さ」

「思ってたより汚くは無いな」

「定期的に依頼を出して掃除とかしてもらってるからね。こんな所で魔物に住みつかれたら溜まったものじゃないし。おっと、ここだ」

 

 ミグラントがある壁の前で立ち止まったがそこは何の変哲もない壁だった。だがミグラント壁の一部を押すと仕掛けが作動して壁が動き通路が現れた。

 

「この先は都市から離れた所に出る。一応秘密だから誰にも言わないでくれよ」

「今回だけは素直にお礼を言っておくわ」

「何、気にしないでくれ。今度来た時にデートしてくれればいいさ」

「機会があれば考えておきますよ。じゃ」

「…え?うそ?ほんと?よし、今から計画しなきゃ。まず昼食は屋台で取って、それから露店や店で買い物して、夕食はとびっきりのレストランで豪華なディナーだ。そして夜はホテルで…ムフフフ」

「ちょっとシリウスちゃん?それ社交辞令よね?ねえ、シリウスちゃん?」

「ま、待って、シリウス。で、デートなら、その…あぅ…」

 

 シリウスの発言に色めき立つ三人。

 今からデートプランを練りニヨニヨするミグラントに対して明らかに動揺してシリウスに詰め寄るエルフィナとデートするなら自分とを言おうとして恥ずかしくて言えずにいるシェネドだが、シリウスは自分の問題発言をよく分かっていなかった。

 ニコニコ笑顔で手を振るミグラントに見送られながらシリウス達は抜け道を通っていきトルプナートを脱出した。

 

 

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