転生したと思ったらママになっていた件   作:大神降ろし

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第百二十五話

 

 エレザントへ向かう道がファデル商会が雇った盗賊によって塞がれてしまったのでエルヴェの森に入ったシリウス達。

 エルヴェの森は今まで入ってきた森よりも鬱蒼としており、木々や背の高い草に阻まれて視界が利かず、さらに木の葉っぱが折り重なって日光が入らず薄暗くなっており、重苦しい雰囲気も漂っていてポラリス達は怯えてシリウスにギュッと抱き着いている。ウェズンにも身体をピッタリとくっつけられて、さらに後ろから震えているシェネドが服を摘まんでおり、微妙に動き辛くなりながらも周囲を警戒しながら歩いている。

 

「ここにはどんな魔物が出るんだ?」

「アングリーベアとかジャイアントスパイダーとか出てくるけど、私が一番厄介だと思うのはランドラプターよ」

 

 ランドラプターは恐竜のヴェロキラプトルに似た二足歩行するトカゲの魔物だ。

 世界中に分布していて二本足で馬並みの速度で走り、自分の倍ほどの大きさの岩も登れるほどの跳躍力を持っているが、何より厄介なのは高い知能だ。仲間と協力して獲物を包囲して追い込んだり、あえて止めを刺さずに放置して助けにきた仲間諸共襲ったりと作戦を練って罠に掛けてくるのだ。罠に陥って混乱する獲物を鋭い牙と爪で引き裂いて仕留める狡猾な魔物だ。ギルドもその危険性を認めており、戦う際には細心の注意を払うようハンター達に忠告しているほどだ。

 

「もう少し奥に行くとランドラプターの縄張りに入るから、そこからは物音一つも注意してね」

 

 エルフィナの何時にない真剣な表情にシリウスとシェネドは黙って頷き、音を立てないように慎重に歩き出した。

 無言で歩き続ける事数十分後、先頭を歩くエルフィナが止まってしゃがんだ。シリウスとシェネドもエルフィナの傍でしゃがみ込むとエルフィナは黙って前を指し示した。エルフィナが指し示した場所にはアングリーベアの死体があり、既に色んな魔物や動物に食われて見るも無残な姿となっていた。だが残っている身体のいたるところに鋭利な刃物で切り裂いたような傷跡がいくつも残されており、死体の周りの地面には多くの足跡に交じって特徴的な足跡がいくつも残されていた。

 

「この足跡がランドラプターの足跡よ。私も注意するけど、もし見掛けたら気をつけてね。それとランドラプターは甲高い声で鳴くからもし聞こえたらすぐに隠れてね」

「たくさんあるな…群れで行動してるのか?」

「ええ。だから一体だけでいる時はほとんど罠だと思って構わないわ」

 

 再び移動を始めるもあちこちから魔物の鳴き声が聞こえてくるので、その度に警戒し中々思うように動く事ができず、平原などを移動する時の半分以下しか進むことができなかった。移動は諦めて夜を過ごせそうな場所を探していると大きな木の洞を見つけた。三人とウェズンが入れるほどの広さがあったのでそこで過ごす事にした。木の洞の前で焚き火をおこし夕食を作り始めた。

 

「本当はこういうのしない方がいいんだろうな」

「匂いでバレるからね。でも流石に火は怖がるから距離を取ってこちらを伺うぐらいしかしてこないわ。ほら、あそこ」

 

 エルフィナが指し示した方の茂みの中に魔物の目だけが光って見えた。ジッとシリウス達を見ているがそれ以上こちらに近づいてくる気配は無かった。

 

「空腹で無い限り、焚き火を消さない限りは滅多に近づいてこないわ」

「絶対、じゃなくて滅多、なんだな」

「まあね。稀にそういうのもあるわ。幸い枝はあるから一晩ぐらい余裕で持つわ」

「うぅ…こわい…」

 

 魔物達の視線に晒されながら夕食を取ってが、こちらを品定めするような目で見られ続けた所為で味わう暇が無かった。

 

「こんなのが後七日もあるのか…」

「だからあまりきっちには来たくなかったんだけど、あっちはあっちで面倒だったと思うわよ」

「後ろ指刺されるか、魔物に見られるかの違いか」

 

 夕食を取り終えると木の洞に入るが、魔物の視線は依然として消えなかった。

 

「…まだ見てるな」

「夜通しは見ないと思うけど…気にし過ぎても仕方が無いわ。最初は私が火の番をするから二人は先に休んでて」

 

 交代で火の番をする事にしてシリウスとシェネドは仮眠についた。眠りについたシリウスはそのまま夢の中へ赴きアルヘナに会いにきた。

 

「アルヘナ~、来たぞ~」

「…また来たか。毎日毎日飽きぬな貴様…」

 

 シリウスは毎晩寝る度にアルヘナに会いにきており、朝が来て目を覚ますまで他愛のない話をしている。話す内容は今日の子供達の様子や今日あった出来事など本当に他愛のない事ばかりだ。そして目を覚ます少し前に必ずママと呼べーとウザ絡みしており、アルヘナは毎回それにキレながら現実へと叩き出している。

 呆れながらもシリウスを迎えるアルヘナだが今回の話は少し違った。

 

「一応言っておいてやる。この森、誰かが結界を張っておる」

「結界?」

「そうだ。まだ距離があるからどのような効果かは分らぬがな。それと一つ一つは大した魔力ではないが妙な魔力がそこらをうろついておる。精々気をつける事だ」

「アルヘナ…!ママを心配して…!」

「違うわたわけ!貴様が死ねばわしが困るから言っておるのだ!」

 

 結界とは空間を隔離する高位の魔法だ。侵入防止と認識阻害の効果があるが、熟練した魔法使いでなければ扱えないほどの習得難易度なので大半が結界の魔具で代用されている。

 

「そんな凄い魔法がこの森にあるのか…」

「森の奥で引きこもって結界などという地味な魔法を取る者だ。相当偏屈で人間嫌いな魔法使いであろうよ」

「そうか…教えてくれてありがとうな。その結界に近づいたらまた教えてくれ」

「ふん、考えといてやる。さっさと行け」

 

 話し込んでいたらいつの間にか起きる時間になったらしくシリウスは夢から覚めた。

 シェネドと火の番を交代し、膝の上でポラリス達を寝かしつけながら焚き火に枝をくべている。辺りを見渡すと寝る前にいた魔物はいなくなっていたが、大小様々な気配がシリウスの方を伺っていた。それ以上近づいてくる事は無さそうだが、一部からは低い唸り声と共に弱い殺気も感じており、シリウスは剣をいつでも抜けるようにして警戒を怠らずにしながら火を絶やさずに朝を待った。朝日が昇ると周囲にいた夜行性の魔物達は名残惜しむものもいたが去っていった。

 起きたエルフィナとシェネドと朝食を取って天幕を片づけて出発したが、昨日同様魔物を警戒しながらの移動なので中々思うように進めなかった。エルヴェの森に入って三日目、幸運な事に今まで魔物と遭遇する事は無かったが、遂にエルフィナが危惧していた魔物と出くわした。

 

「…!伏せて」

 

 先頭を行くエルフィナの指示で茂みに身を隠しながら伏せると前からランドラプターが姿を現した。体長は2mほどで話に聞いていた通り剣のように鋭い牙と爪を持っていた。獲物を探しているらしく、匂いを嗅ぎながら辺りを見回して歩いている。

 

「(あれか…マジで恐竜だな…)」

「(怖い…あっち行って…)」

「(一体、だけなはずは無い。どこかに潜んでいるか、偶々別行動してるだけと見るべきね。どこかに行くまで動かない方がいいわね)」

 

 ランドラプターが遠くから聞こえた仲間の甲高い声に鳴いて返事をしてどこかに行くまでシリウス達はその場を動かなかった。

 

「…行ったみたいね。急ぎましょう」

 

 足早にその場を離れるシリウス達だが、縄張りに入ったためか、行く先々でランドラプターに出くわす回数が増えていっている。

 

「マズいわね…少しずつ数が増えてる…このままじゃあ…」

 

 エルフィナが危機感を持ち始めた時、茂みから出てきたランドラプターとバッタリと出くわし目が合った。

 

「ちぃ!」

「キュガ!?」

 

 エルフィナは即座に短剣を抜いてランドラプターの喉と頭に突き立て、ランドラプターは鳴く暇すらなく血を噴き出して倒れた。

 

「急ぎましょう!すぐに血の匂いを嗅ぎつけてやってくるわ!」

 

 シリウス達は走り出してその場から離れるが、程なくして後ろからかなりの数が迫ってくる気配を感じた。

 

「凄い数が来るぞ!」

「お、追いつかれるぅー!」

「くぅ!(マズいマズい!このままじゃあ本当に…!いいえ、いいえ!絶対に諦めないわ!)」

 

 エルフィナは目に力を入れて走りながら周囲を素早く見回してこの状況を打開できるものを探した。その時視界の端に何かが動くのを確認し、それが何なのか分かった瞬間エルフィナは動いた。投げナイフを取り出してそれ目掛けて投げつけた。

 

「グオッ!?」

 

 投げナイフが当たったものは魔物の尻尾だったらしく、痛みで声を上げていた。即座に辺りを見回して自分に攻撃してきた下手人を探し始めるとそこにランドラプターが十数体ほどやってきた。ランドラプター達がシリウス達を探して辺りを見回していると茂みから突如魔物がランドラプター達に襲い掛かった。

 

「グオオオォォォ!」

「キュオ!?」

「キュア!キュア!」

「キュルオオオォォォ!」

 

 突如乱入してきた魔物の名前はアースドラゴン。翼を持たない地竜でブレスは吐かないものの鋭い牙と長い尻尾を持ち、全身を硬い鱗で覆われている。体長は尻尾も含めると10mを超え体高は5mほどもあり、その巨体から繰り出される尻尾や前脚の一撃は巨岩を砕くほど強力だ。

 アースドラゴンは自分に攻撃したのはランドラプターだと思い込み襲い掛かったようだ。ランドラプター達は突然の強襲に二、三体が犠牲となったが、すぐに立て直して徒党を組んでアースドラゴンに襲い掛かった。

 

「よし、今のうちに離れるわよ!」

「ああ!シェネド!一応これ持っとけ!」

「わわっ!?た、盾…?」

「あんなに素早かったら魔法は当たらん!それで何とか防げ!」

 

 ウェズンの背中に乗せていたフルメタルスパイダーの盾をシェネドに渡しシリウス達は駆け出したが、ランドラプターの何体かが逃げるシリウス達に気づいて追い掛けてきた。

 

「くっそ!駄目だ、追いつかれる!」

「くっ!仕方が無い!迎え撃つわよ!」

 

 逃げられないと判断して少し開けた場所で迎え撃つ事にした。エルフィナは前に出てシリウスはシェネドとウェズンを守るように剣を抜いて待ち構えた。

 

「キュルオオオォォォ!」

「キュアキュア!」

「キューキューうるさい!」

 

 シリウスはこちらを見て威嚇するランドラプター目掛けて蛇腹剣を飛ばすと、流石に剣が鞭のようになる事は想定していなかったのか一体に当たり鮮血が飛んだ。

 

「キュガ!?」

「キュル!?」

「せいっ!」

「キュオ!?」

 

 驚いている間にエルフィナが一体を斬りつけて積極的に前に出て撹乱しているが、戦闘音を聞きつけてランドラプターが後ろからドンドン集まってきた。

 さらにそこに第三者まで乱入してきた。

 ランドラプター達の反対側からカタカタと音が聞こえてきたのでシリウスが振り向いたら、そこには人型っぽい何かが立っていた。人間サイズの木製の人形のような見た目なのだが、手入れがされていないらしく色々な箇所が欠けており、手に持っている剣も刃毀れしている。一体だけでなく何体も次々と集まってきて、シリウス達だけでなくランドラプター達にも襲い掛かってきた。

 

「うおっ!?何だこいつら!?」

「うひぃ!?」

「ヒィン!?」

「ウェズン!後ろに!シェネドも下がれ!はあっ!」

「何あれ!?まさか正体不明の魔物ってあれの事!?」

「キュア!?」

「キュガアアアァァァ!」

「キュオキュオ!」

 

 人形達は無差別に襲い掛かっており、シリウスはウェズンとシェネドを守るために人形と応戦した。幸い人形は動きが遅く太刀筋も大振りで仲間と連携する事は無かったので攻撃を避けたり、受け流して反撃で胴体を真っ二つにしたり、腕を斬り飛ばしたりするのは容易かった。だが上半身と下半身に別れても這いずって足を掴もうとしたり、片腕だけになっても残った腕で殴り掛かってきた。

 

「マジかよ!バラバラにしたり、消し飛ばさなきゃ倒せないって事かよ!」

「キュオ!?」

「キュガアアアァァァ!」

「せめてもの救いは狙ってるのが私達だけじゃないって事か。だがこのままだと…!」

「『おい、聞こえるな』」

「『アルヘナ!?どうした!?今忙しいから手短にな!』」

「『ちょうど貴様の背後に話した結界がある。その背中の依代の娘に触らせろ』」

「『私じゃ駄目なのか!?』」

「『貴様が触っても意味が無い。依代の娘が触らなければわしが干渉できん。死にたくなければ早くせい』」

「ちぃ!他に選択肢は無いか!」

「し、シリウス…?」

「エルフィナ!シェネド!悪いが少しだけ時間を稼いでくれ!」

「長く見積もっても二十秒ぐらいよ!」

「構わん!シェネドも頼むぞ!」

 

 エルフィナは後先考えず魔戦技も使ってランドラプター達を釘付けにし、シェネドも盾を滅茶苦茶に振り回して人形達を近づけないようにしている間にシリウスはアルヘナが話していた結界に急いで駆け寄った。

 

「『そこだ。依代の娘に触らせろ』」

「分かってる!んんっ、スピカちょっとお願いがあるんだ」

「か、かあ、さま…?な、なあに…?」

「手を横に伸ばしてくれる?」

「ぇぅ?う、うん…」

 

 シリウスのよく分からない頼みに首を傾げながらもスピカは言われた通りに手を横に伸ばして結界に触れた。

 

「『ふむ…なるほど…こういう結界か…ふんっ、これなら干渉は容易い』」

 

 スピカの中からアルヘナが結界に干渉すると、突然目の前の景色がボヤケ出して結界が見えるようになり人一人分の穴が空いた。

 

「『早う入れ。無理矢理干渉したからすぐに閉じるぞ』」

「分かった!エルフィナ!シェネド!こっちだ!急げ!【マジックボルト】!」

 

 ウェズンを結界の中に入れながら援護するためにランドラプター達と人形達にマジックボルトを放ち続けた。エルフィナとシェネドは即座にシリウスの方へ走り結界内に滑り込んだ。ランドラプターと人形も追い掛けて結界内に入ろうとしたのでシリウスは結界が閉じるまでフレイムスロアーを放ち続けて牽制した。結界が閉じるとランドラプターと人形の姿は見えなくなり、ランドラプターの甲高い声も聞こえなくなった。

 

「ぶはぁ!何とかなったな…」

「ひぃ、ひぃ…」

「ふぅ…本当ね…それにしてもシリウスちゃん、結界があったなんてよく分かったわね」

「(やべぇ…どう言い訳しよう…)あー…まあ、何か、違和感が合って…前に魔法の本でそういうの合ったなーって思い出して」

「ふーん…まあいいわ」

 

 シリウスの苦しい言い訳をエルフィナは特に追求する事無く軽く流したが、スッとシリウスに近づいて耳元で囁いてきた。

 

「そのうち教えてね(ボソッ)」

「(バレテーラ…)」

 

 何か理由があって話したくないと察したので今は聞かなかっただけだった。アルヘナの事をどう説明しようかと頭を悩ませつつ怖い思いをして半泣きでシリウスに強く抱き着いたり、引っ付いたりしているポラリス達をあやした。

 

「さて…取りあえずの危機は脱したけど、まだ何かありそうね」

「え?」

「ま、まだ、なにか、ある、の…?」

 

 エルフィナの言葉に顔を上げたシリウスとシェネドが見たもの、それは立派な古城だった。手入れがされていれば立派な城だったであろう古城は、全く手入れがされておらず所々崩れており、見える庭も荒れ放題だった。

 

「こんな所に古城があるなんて聞いた事無いわね」

「結界があるって事はここに誰kが住んでるって事だよな…」

「多分さっきの人形を操ってる張本人だろうけど…話が通じればいいんだけどね…」

 

 連戦を覚悟しながらも他に選択肢は無いのでシリウス達は警戒しながら古城へ向かった。

 

「…誰か、結界に入ってきたな…ほう?結界に干渉とは…それなりの使い手か、あるいは魔具か…迷い人か、はたまた簒奪者か…くっ、どちらにしても久方ぶりの訪問者よ。歓迎してやらねばな。手勢を連れてここへ連れてくるのだ」

 

 当然シリウス達が結界内に入ってきた事は古城の主には筒抜けだった。古城のとある一室から部下に指示を出し、手を組んでシリウス達が来るのを心待ちにしている。

 

「…待て。どこに行く。そっちは反対側だ。向こうだ。いや、だから違う、逆だ、逆…違うと言っておろうが。ええい貴様、年々酷くなっていまいか」

 

 

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