転生したと思ったらママになっていた件   作:大神降ろし

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読み辛い箇所がありますのでご了承ください。


第百二十六話

 

 ランドラプターや人形から逃げて結界内に入り込んだシリウス達。

 目の前の古城に人形を操っている主がいるであろうと予測し、連戦を覚悟で古城の入り口までやってきた。入り口は重厚な両開きの大扉でシリウス達が力を合わしても開きそうに無さそうだ。

 

「…ここだよな」

「そうね。裏口とかはあるんだろうけど、流石にそれは失礼だし」

「これ、開けられる?」

「んー…取りあえずノックしてみるか。すみませーん」

 

 自分達が結界内に入っている事は既に気づかれているであろうと思い、大声を出しながら大扉をノックした。

 

「はァーい。どチラ様?」

 

 開けてくれないだろうなと思っていたらあっさりと大扉が開けられて中から女性が出てきた。言葉のイントネーションが若干おかしい女性はメイド服を着ていたが人間ではなかった。口から顎にかけて口の開閉ができるラインが走り、手の指や手首が球体関節になっており、女性自身の動きもカクカクとしていた。その姿を見てエルフィナとシェネドは固まってしまい、人形を見てからこういう人がいてもおかしくは無いと思っていて比較的ショックが少ないシリウスが前に出た。

 

「あー…えー…実は、森で魔物に追われてここに迷い込んでしまって…少しの間休ませてもらいたいのですが…」

「えエ、イイですヨ。ドウぞ」

 

 古城の主に許可を取りにいく事も無くあっさりと古城に入れてくれたメイドにシリウスは呆気に取られたが、固まったシリウス達を見てメイドは不思議そうに首を傾げた。

 

「…あっ、いや、ええ、ありがとうございます。二人共行くぞ…あっ、えっと、馬は流石に入っちゃ駄目ですよね」

「?何デですカ?」

「え?」

「エ?」

 

 どうにも意思の疎通が微妙に取れず話が噛み合っていないが、見知らぬ所でウェズンを一人にする訳にはいかないので失礼とは思いつつもウェズンを連れて古城の中に入った。古城の中は外と同様で手入れが行き届かず荒れ果てており、壁の一部が崩れていたり、カビが生えて黒くなっていたりしていた。

 

「あー…取りあえずここの主人に挨拶したいんですけど…」

「はイ、こちラでス」

 

 メイドは頭と身体を横に揺らしながら歩きシリウス達を古城の主の元へ連れていった。ボロボロの階段を上がってとある部屋にノックもせずに入った。

 

「連れテきまシた」

「…せめてノックぐらいせんか。何度言ったと思っている…」

「ハテ?そうデしたカ?」

 

 部屋の中で本を読んでいた黒いフード付きの外套を身に纏った古城の主が苦言を呈すもメイドは意に介していなかった。思った以上にフリーダムなメイドにシリウスは唖然とし、古城の主は頭を抱えている。

 

「はぁ…まあ、よい。貴様のそれは今に始まった事ではない。それで?貴様らは迷い人か?それとも簒奪者か?」

「迷い人ですね。ランドラプターと人形に追われてここまで来ました」

 

 シリウスの言葉に嘘は無いかジッとシリウスを見て真偽を確かめている古城の主。〈人食い〉の時以来の圧を感じ、エルフィナはいつでも動けるように身体に力を込め、シェネドは腰を抜かして地面に座り込んでシリウスの足に縋りついている。シリウスは目に力を入れて逸らす事無く古城の主と見つめ合った。

 

「…どうやら嘘では無さそうだな。良かろう。暫し休んでいくがよい」

 

 信じてくれたようで圧が消えてホッと溜め息を吐いた。

 

「ふぅ…ありがとうございます。ああ、自己紹介を忘れてた。私はシリウス・ノクティーです」

「エルフィナ・ノーゼルよ」

「シェネド・ノラ、です…」

「ふむ…名乗られたのではこちらも返礼せねばな…まあ、別によいか。我が名はルジャナフスク・キイラ・エルヴェドーンである。そやつはメイドのレネだ」

「レネ・フォンテデす。ヨロしくおネガいシマすね」

「エルヴェ、ドーン…?え?え?ま、まさか…?」

「シェネド?どうした?」

「ほう…我が家名を知っておる者がいるとはな」

「没落シてかラ長イのにヨく知ってイマしたネ」

 

 エルヴェドーンは数百年ほど前にあった伯爵家だ。

 オルティナ王国の中でもかなりの力を持っており、広くて豊かな領地を保有して領内の経営も安定し順風満帆であったが、当主の伯爵と伯爵夫人が流行り病で病死し、次期当主の息子が行方不明になったのを境に急速に領内の治安が悪化し伯爵家は没落してしまった。当時の伯爵家の名残はほとんど残っておらず、伯爵家の屋敷があったこの森の名前に僅かに残るのみとなった。

 

「―――って、暇つぶしに見た、本に書いてあった」

「へー」

「偽物…な訳ないわね。あれだけの威圧を出せるんだから。もしかして子孫とか?」

「我は正真正銘、行方不明となった次期当主だ。そちらの者は大して驚いておらなさそうだが」

「ん?いや、外にいた人形とかメイドさんを見れば何となく想像がついたので…」

「人形?…え?まさか…?」

「初見で見破るとは、中々良い目を持っておるようだな。くっくっく…久方ぶりに愉快にさせてくれた礼だ」

 

 ルジャナフスクは立ち上がり外套を脱ぎ捨てて袖を捲って右腕を見せた。ルジャナフスクの右腕はシリウスの予想通り外にいた人形とメイドと同じ人形の腕だった。だがそれらとは比べ物にならないぐらい精巧に作られており、パッと見ただけでは人形だとは分からないほどだ。

 

「どうだ?実際見ても何も感じぬか?」

「まあ、別に…それより思っていたよりもだいぶ若い見た目の方に驚いてますけど…」

「ぬ?そうか?この身体になった時の風貌を再現しておるだけなのだが」

 

 今のルジャナフスクは40代から50代ぐらいのワイルドなイケオジ風の見た目をしており、シリウスが想像していた白髪で髭を蓄えたお爺さんとは全然違った。

 

「とんでもない人がいたものね…どうしてここにいるの?」

「エルフィナ、相手は貴族だぞ。敬語の方が…」

「構わん。貴族と言ってもとうの昔に没落しておる。家名も何となく名乗っているにすぎん。いつも通りの言葉遣いで構わん。ここにおる理由なぞ簡単だ。外の煩わしい連中と関わり合いたくない。それだけよ」

「あー…それじゃあ私達もあまり長くここにいない方が…」

「構わん。お前達は外の連中とは違う事は既に分かっておる。暫し滞在する事は許可しよう。空いている部屋を好きに使うといい。殆どは手つかず故荒れておるがな。レネよ。マシな部屋を見繕ってやれ」

「はイ。こちラでス」

 

 レネに連れられてシリウス達は部屋を出て二階の奥の部屋に案内された。部屋の中は荒れてはいるがロビーや階段などの荒れ具合と比べると比較的マシだった。

 

「こコをお使イくだサい。何カ御用ガあれバソコの鈴ヲ鳴らしテくだサイ。多分行キマす」

「多分なんですね…まあ、分かりました。ありがとうございます」

 

 一礼して部屋を出ていくどこまでもマイペースなレネに苦笑しながらシリウスは部屋の中を見回した。

 テラス付きの部屋で建てられた当時はさぞ綺麗で豪華であっただろうと思える部屋だが、今では天井は塗装が剥げ落ち、壁は罅が入ったり一部は崩れており、床も天井から落ちてきた破片や

崩れた壁の一部や朽ちた家具が一面に転がっている。テラスからは荒れ放題の庭園が見えるが、シェネドが足を踏み入れるとミシミシと嫌な音が聞こえてきたのでシェネドは慌てて中に戻ってきた。ベッドは無事そうだが埃塗れでとてもではないが眠れそうになかった。

 

「取りあえず掃除からだな」

「そうね。まあ、雨風と魔物の心配をしなくてもいいって前向きに考えましょう」

「お腹、空いた…」

「厨房とか借りれるかな?聞いてみるか。いや、その前にちゃんと来てくれるんだろうか…?」

 

 多分行くと言ったレネに若干不安になりながらシリウスは棚の上に置かれた鈴を鳴らした。だが五分ぐらい経っても一向に来る気配は無かったので部屋の片づけをエルフィナとシェネドに頼んでシリウスは部屋を出て探しに向かった。一階に降りて辺りを散策しているとかつて食堂だった場所を見つけ中を覗くと、奥の厨房から何やら音が聞こえてきた。シリウスが厨房を覗くと奥の貯蔵庫の扉が開いていてその中にレネが何やら作業をしていた。

 

「あのー…」

「おヤ、どうシましタ?」

「ちょっと食事を作りたいんで厨房を借りたいんですが…」

「ナら、コック長を呼ビますネ。コック長ー」

 

 レネがコック長を呼ぶ声が厨房に響くが誰も応答しなかった。

 

「…ア、ここニは、私ト坊ちゃマしかイマせんデした」

「えぇ…」

 

 他に誰かいるのかと思っていたシリウスだったが、レネの発言で力が抜けた。

 

「本当に誰もいないんですか?」

「はイ。私ト坊ちゃマ以外は皆人形サンですネ」

「いやあなた達も人形でしょ…」

「…ハッ、そうイえバ」

「おいおい…」

 

 ルジャナフスクも呆れるほどのフリーダムでマイペースなレネにシリウスもルジャナフスクの気持ちが少し分かったような気がしたが、それと同時に不安が湧いてきた。

 

「(この人、どこか悪いんじゃないか?いくらマイペースといってもこれは流石に…気づいているかもしれないけど一応言っておくか)」

 

 今も虚空を眺めて首を傾げており、木の箱を持ち上げたと思ったらまた置いて虚空を眺めて首を傾げている。

 

「全く…何をしているかと思えば…そこで何をしておるのだ…」

「坊ちゃマ?ドウかされタのデすか?」

「貴様がまた何かしでかすのではと不安に思って見にきたのだ。それで貴様はここで何をしておるのだ?」

「ンー…?あア、そうイえバお客サマに何カお出シシヨ、シヨ、ヨ、ヨ、ヨヨヨヨヨ…」

「え?ちょっ、大丈夫ですか?」

「…やはりガタがきていたか。そろそろ替え時だな」

 

 バグったようにカタカタと震えながら同じ言葉しか喋らなくなったレネの頭にルジャナフスクは手を置いて何かを呟くとレネは糸が切れた操り人形のように力を失って崩れ落ちたが、地面に当たる前にルジャナフスクが抱きかかえた。

 

「レネさんに一体何が…」

「中と外の齟齬が大きくなった所為であろう。元々急拵えの身体であったしな。むしろよく持った方だ」

「齟齬?」

「そうだ。この人形の身体の中にレネの魂が入っておる。人形と魂の親和性が高ければ齟齬は発生せぬが、今のレネの身体は先ほど言ったように急拵えなのでな。親和性が低いため身体が上手く動かなかったり、言動に問題が生じたりする」

「治るんですか?」

「問題無い。確認したが魂の方が何の問題も無いのでな。親和性の高い身体を用意してやればすぐに目覚める。身体は既に準備してある故今より儀式を始める。ここにある物は好きに使え」

 

 ルジャナフスクはレネを抱えて厨房を後にした。残されたシリウスはレネを心配しながらも夕食を作る事にした。貯蔵庫に保存してある野菜と肉を少々拝借し厨房の鍋で料理を作り始めた。

 

「ま~、う~…」

「ままー、きゅー…」

「ぁぅ…」

「は~い、今作ってるからもうちょっとだけ待ってね~」

 

 お腹の虫が鳴りだしたポラリス達がお腹が空いたと訴えてきたので急いでスープを作っている。

 

「シリウスちゃーん、どこー?」

「ここだぞー」

「あ、いたいた。部屋の掃除は、まあ、取りあえず寝れるようにはしといたわ。あれ?メイドさんは?」

「体調が優れないらしくてルジャナフスクさんが連れていったよ」

「お腹、空いた…」

「もうすぐできるから座って待ってな」

 

 いつもと変わらないスープとパンの夕食を取った後は、まだ夕方だったがランドラプターに追われて走り続けていつもより疲れたのでもう休む事にした。宛がわれた部屋に戻りマシになったベッドに皆で寝転ぶと疲労から皆すぐに眠った。

 

「『おい起きろ』」

「Zzz…」

「『起きろと言っているのが聞こえんのか』」

「Zzz…ん…んー?」

 

 アルヘナに起こされて起きたシリウスだが寝惚け眼で誰に起こされたのかまだ分かっていなかった。

 

「『さっさと起きろ』」

「アルヘナ?『どうした?って、まだ夜じゃないか。何かあったのか?』」

「『強い魔力を感じる。何かしらの儀式が行われている。面白そうだから身に行け』」

「『えー…勝手に見たら怒られるじゃないか…駄目だって』」

「『早う行け。どのような儀式なのか興味がある。こちとら娘達との触れ合いとやらばかり見せられておるのだ。暇で暇で仕方が無いのだぞ』」

「『いいじゃんか別に。アルヘナも一緒に混ざろうよ~』」

「『やかましい!誰が混ざるか!さっさと行け!』」

「『やれやれ、ワガママなんだから…』よいっしょ、っと…」

「う~…ま~…」

「ままー…ムニャムニャ…」

「すぅ、すぅ…んぅ…」

 

 ワガママを言うアルヘナに付き合うためにシリウスに抱き着いて眠っていたポラリス達を起こさないように優しく剥がして、身代わりのぬいぐるみを宛がって音を立てないようにベッドから降りた。

 

「…んー…?しりうすちゃん…?どこいくのー…?」

「エルフィナか。トイレだよ。ほら、寝てな」

「んー…」

 

 降りた拍子にベッドが僅かに揺れたのでエルフィナが反応したが、疑われない理由を話してそのまま寝かせた。エルフィナは寝惚けながらもシリウスがいない間にポラリス達が寂しくならないように手を伸ばしてポラリス達を抱き締めながら寝た。皆が寝たのを確認してからシリウスは音を立てないように部屋を出て古城内の散策を開始した。

 古城内には灯りが無く、月も雲に隠れて出ていないので光源はシリウスが持つランタンの灯りのみだった。夜の荒れ果てた古城はかなり不気味で何か出てくるのではないかとシリウスは内心ビビりながらもシリウス的には娘であるアルヘナがいるのでビビってるのを隠しながら歩いている。

 

「『それでどこに行けばいいんだ?』」

「『魔力は地下より感じる。そこに行け』」

「『近くまで行くのは構わんが、流石に覗くのはな…アルヘナだけが覗くってのはできないのか?』」

「『依代の娘がおらんから無理だ。わしはあの娘から半径10m以上離れらん。関係の深い貴様を中継地点にすれば15mに伸びるがな』」

「『案外狭いんだな…さっきの部屋から結構離れたけどそろそろヤバいんじゃないか?』」

「『…ちぃ、もうギリギリか…いや、ここからなら…おい、魔力を貸せ』」

「『いいけど、何するんだ?』」

「『無論魔法で覗き見る』」

「『ちょい待ち。取りあえずトイレに入ってっと…いいぞ』」

「『【サーチアイ】』」

 

 アルヘナがシリウスの魔力で魔法を唱えるとシリウスの視界に別の場所が映し出された。

 

「『うおっ、何だこれ?』」

「『サーチアイは別の場所を映す魔法だ。半径30mなら障害物を超えて見る事ができる。本来ならもっと上位のものを使うのだが、お前の魔力が少ないからな。さて、どのような儀式だ?』」

 

 アルヘナが視界の位置を操作してルジャナフスクが儀式をしている場所を映し出した。

 そこは古城の地下で様々な器具や装置が置かれており、近未来的なポッドがいくつも置かれ何本ものパイプで繋がれていた。そして中央にある淡く光る水が入っているポッドの中に女性の人形が入っていて、ルジャナフスクはその前に立って何かの作業をしていた。

 

「『ほう…人形に魂を入れる儀式か。そのような廃れた儀式をまだしている者がいるとはな』」

「『あ、やっぱそういうのしてるんだ』」

 

 ルジャナフスクが今行っている儀式はアルヘナやルジャナフスクが生前の時には既に廃れたものだが、ルジャナフスクは文献を掻き集めて研究し見事復活させる事に成功した。

 人や魔物から魂を抽出し、魂を入れる容器である専用の魔石に注入する。そして人形の身体の中にその魔石を設置し、全身を魔力で満たし続けて魔力が人形に定着すれば完了となる。

 

「『何で魔力を満たさないといけないんだ?』」

「『人形の身体を魂だけで動かせん。生きておらんからな。故に魔力で代用して身体を動かす。魔力が人形に定着さえすれば元の身体と遜色無く動かせる。が、そのような精巧に動かせる人形を作れる者がいなくなってからあっという間に廃れた』」

「『へー…』」

 

 アルヘナの説明を聞きながらルジャナフスクの作業を見ていたら、ふとルジャナフスクが何かに気づいたように周囲を見回した。

 

「『ほう、こちらに感づいたか。奴も中々の実力を持っていそうだな』」

「『このままじゃあ見つかるんじゃね?』」

「『流石に見つかると面倒だな。致し方ない…』」

 

 アルヘナが魔法を解除すると元の視界に戻った。シリウスはトイレから出て部屋に戻り、ランタンの火を消してポラリス達を抱き締めて眠った。

 

「ふむ…誰かに見られた感じがしたのだが…【サーチアイ】の類か。あの客人か?いや、魔法使いではなるがそこまでの技量は無かった。もっと高位の魔法使いがいるようだな…結界を強めておくか」

 

 視線を感じたルジャナフスクは警戒を強めつつ夜通し儀式を続けた。

 

 

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