森の中の結界で覆われた古城で一夜を明かしたシリウス達。久しぶりのベッドなのでいつも起きる時間になってもまだ眠っていた。
「「「Zzz…」」」
「すぅ、すぅ…」
「んにゅぅ…」
「んぅ…」
ベッドの真ん中で寝ているシリウスに皆が抱き着いたり、上に乗って寝ており、シリウスは若干苦しそうにしながら寝ていた。
「どーん。おはよーございまーす。朝ですよー」
「ふぁ!?」
「何!?敵襲!?」
「わひゃあ!?」
「!?ふえええぇぇぇ!」
「!?びえええぇぇぇ!」
「ひぅ!?ぁ、ぁ…!?」
「(プルプル)!?」
「ヒィン!?」
「シャ!?」
「キャイン!?」
そこにフリーダムなメイドのレネがノックもせずに扉を勢いよく開けて入ってきた。全員驚いて飛び起き、ポラリスとアトリアは泣き叫び、スピカはガタガタ震えながらシリウスに抱き着き、カペラ達も驚いて飛び起きている。
「よーしよしよし、大丈夫だよー。ほーら、よしよしよし」
大合唱を鎮めようと無くポラリス達をあやし、ビックリして抱き着いて震えるカペラ達もあやしている。
「はぁ~…朝から脅かさないでよ…」
「中々起きてこなかったから、サプライズでっす」
「心臓に、悪い…」
「そんなサプライズいらないわ。というかね、子供がいるんだからこんな事しないでちょうだい。ほら、皆大泣きよ」
「あいやー、ミスった…レネちゃん失敗。マジめんご」
昨日より明らかにテンションが高いレネは頭を掻きながら軽く謝罪した。言葉はともかく謝罪はしたのでエルフィナもそれ以上は言わなかった。
数分後、何とか泣き止んだポラリス達のおしめと着替えを済ませて改めてレネの方を向いた。レネは昨日の身体と違いより人間に見える身体となっており、身体の動きや言葉も昨日よりスムーズだった。
「治ったんですね。良かった」
「レネちゃん、ふっかーつ。いぇーい、ぴーすぴーす」
「あはは…」
無表情だが無駄にテンションが高く、シリウスに向かってダブルピースをするレネに苦笑するしかなかった。
「それで?何か用でもあったんですか?」
「おうよ。朝食兼レネちゃん大復活記念パーチーをするのでそのお誘いである。さあさあ、こちらへ。さあさあさあ」
「あーれー」
テンションが高いままのレネに押されて昨日夕食を取った食堂までやってきた。食堂は昨日より綺麗に掃除されており、上座には既にルジャナフスクが座っていた。
「来たか」
「あ、おはようございます」
「おはよう」
「おはよう、ございます…」
「うむ」
「もー、坊ちゃまもちゃんとおはようって言わないと駄目なんですよー」
「貴様は少し落ち着かんか。それと坊ちゃまはよさんか。そのように呼ばれる歳ではない」
「まあまあ、よいではないかー」
「はぁ…」
夜明けに儀式が終わって動けるようになってからテンションが高くはしゃぎまくっているレネに振り回されて疲れ切っているルジャナフスクは深い溜め息を吐いている。
「へいへーい。そんな溜め息付いていると幸せが逃げちゃうんだぜー」
「誰の所為だと思っている、全く…好きな席に着くといい。ああ、それとそのカバンの中の者も出るといい」
「ありゃ、バレてた…ピーニ、お許しが出たぞー」
「あらそう?なら遠慮なく」
ルジャナフスクにはカバンの中のピーニに気づかれていたのでピーニはあっさり出てきた。
「おー、ちっこい人間だー。レネちゃん初めて見た」
「人間ではなく妖精だ。昔はそこら中にいたが、今はフェアンダリア近辺でしか見なくなったがな」
「へー」
ルジャナフスクに言われたので各々席に着くシリウス達。レネは鼻息荒く張り切って食事を運んできたが、朝食にしてはかなり多くそして重かった。
「待て待て。何だこれは?」
「何って…朝食兼レネちゃん大復活記念パーチーの料理ですよ?」
「朝食はともかくパーティーは聞いとらんぞ」
分厚いステーキに野菜と肉がゴロゴロ入ったシチューに熱々のミートパイに飾り切りされた野菜サラダに果物まであり、相当気合いの入った料理が食卓に人数分置かれている。
「お、多いわね…」
「朝から、重い…」
「久々のご馳走よー!」
「よくこれだけ作りましたね」
「頑張った」
「自慢げにするでないわ」
シリウスにサムズアップするレネにルジャナフスクは頭を抱えながらツッコむが、文句を言っても仕方が無いので朝食を取る事にした。
「全く…こんなに作っても食べ切れんだろうが」
「問題無し。レネちゃんの胃袋はブラックホールだ」
「何がブラックホールだ…待て。ブラックホールとは何だ?」
「レネちゃんも知らん」
「お前は、本当に…はぁ…」
「ポラリス~、あ~ん」
「あ~。あ~♪」
「美味しいわねー。ただ多いわね…」
「アトリア~、あ~ん」
「あー。あーい♪」
「朝から、ステーキ、重すぎる…シチューだけで、いい…」
「スピカ~、あ~ん」
「あ、あー…」
「うっま!うっま!」
「カペラ~、あ~ん」
「(プルプル)♪」
「ええい、貴様。もっと落ち着いて食わんか。どれだけ食い意地張っておるのだ」
「うまっ、うまっ。流石レネちゃん。パーフェクトメイドの名は伊達じゃない」
「何がパーフェクトメイドだ。このポンコツが」
「ウェズン~、あ~ん」
「ブル。ヒィン♪」
「何とかシチューとサラダは食べれたけど…ステーキとミートパイは…」
「ハダル~、あ~ん」
「シャー。シャー♪」
「もう、無理…ガクッ」
「リゲル~、あ~ん」
「ワン。ワフゥ♪」
「げふぅ…もう食べられない…」
「カチーン。ポンコツとは何だポンコツとは」
「ポンコツをポンコツと言って何が悪い」
「キィー、レネちゃんがいなかったら一人で寝れないビビリの癖にー」
「一体いつの話をしているんだ貴様は」
ルジャナフスクとレネが漫才じみた事をしている間にシリウス達は朝食を食べている。エルフィナとシェネドとピーニは満腹となり、シリウスはひたすらポラリス達に食べさせていて何も口にしていなかった。
「むぅ…どうして食べないのだ。せっかくのレネちゃん特製料理が冷めてしまう」
「いや、私は母親なので子供達が最優先」
「ならレネちゃんが食べさせてやる。さあ口を開けろ。さあさあさあ」
「ちょっ、それデカす、むぐぅ」
かなり大きめに切られたステーキを口に捩り込まれたが、肉はとても柔らかくてあっという間に呑み込めた。だが口の中が無くなったとみるやレネはすぐにミートパイを大きなスプーンで取り、再びシリウスの口に捩り込んだ。
「待たんか。そんな風に無理矢理食べさせるんじゃない。喉に詰まらせたらどうする」
「うわー、離せー」
次々とシリウスの口に捩り込むレネを見かねてルジャナフスクはレネを羽交い絞めにして止めた。ハムスターみたいに口の中がいっぱいになったシリウスは何とか呑み込もうと懸命に噛んでいる。
「シリウスちゃん、大丈夫?」
「モゴモゴ…(だいじょばない…)」
「ま~」
「モゴ?モゴモゴ~(ポラリス~、今喋れないんだ~、ごめんね~。はい、あ~ん)」
口の中がパンパンでまともに返事ができないが、ポラリスがご飯を催促してきたのでシリウスはそのままの状態でポラリスに食べさせている。
「ままー!キャッキャッ!」
「モゴモゴ~、モゴモゴ(アトリア~、ママの真似しちゃ駄目だよ~。あ~ん)」
「か、かあ、さま…だ、だい、じょぶ…?」
「ムグムグ…ゴクン。んんっ、もう大丈夫だよ。ありがとねスピカ」
「ぁぅ…」
「この馬鹿者が。子供が真似をしたらどうする」
「むぅ…確かにそれはいかん。レネちゃん反省」
レネも流石に子供の事を引き合いに出されると素直に反省している。その後はエルフィナとレネに交互に食べさせられながらポラリス達に食べさせていった。食事が終わりレネは空いた食器を厨房へ下げ、ルジャナフスクとシリウス達は食後のお茶を飲みながらまったりしていた。
「レネが済まなかったな。思うように動けなくて相当鬱憤が溜まっていたようでな」
「いえ、お気遣いなく」
「さて、一息ついたところで貴様らに聞きたい事がある」
「あら、何かしら?」
「昨夜、我は儀式をしていたのだが高位の魔法使いと思われる何者かにその様子を見られた。心当たりは?」
「私は無いわね。シリウスちゃんとシェネドは?」
「私も、無い」
「(バレテーラ。やっべ、どうする?つうかここで黙ってたら知ってるって言ってるようなもんじゃん。何か言わないと)」
「…何か知っておるようだな」
「(はーい、時間切れー…マジでヤバいよ。誤魔化しは…あ、無理そうですね。目つきヤバいですもん。アルヘナの事は説明が難しいし…うーん…正直に言うか)…あー…まあ、見た人物は知ってるといえば知ってますけど…」
「ほう?」
「ただ、その…かなり説明が難しくて…ああ、儀式を覗いたのは本当にすみません。ただ悪用する気は全く無くて、どんな儀式をしてるのかって気になっただけで、はい。ともかくすみませんでした」
アルヘナの事を話すとスピカの事も話さなくてはいけないので事情が合って話せない体にして、アルヘナと一緒に覗いた事をルジャナフスクに謝罪した。ポラリス達を一旦エルフィナとシェネドに預けて椅子から立ち上がりルジャナフスクに最敬礼で頭を下げるシリウス。シリウスとしては娘がやらかした事を親が謝罪するのは当たり前だと思っているが、それを知らないエルフィナとシェネドとルジャナフスクは違った。
「(シリウスちゃん、その人のためにそこまで…一体誰なのかしら?私も知らない人?…何だかモヤモヤする…)」
「(シリウス、頭下げてる…何で?どうして?その人の事、そんなに大事?うぅ…何か、やだ…)」
「(その者の代わりに頭を下げるか。一切の迷いも躊躇も無く。余程その者が大切らしいな。ふむ…悪意ではなく純粋な興味…)…見ただけなら問題無い。不問とする」
「え?でも…」
「別に構わん。秘術の類でもないしな。やろうと思えば誰でもできるものでしかない」
「いや、魂を引っこ抜いたり、人間そっくりな人形を作ったりは誰でもできる事じゃないんですけど…」
エルフィナとシェネドもシリウスの言葉に頷いている。
仮に儀式の事を知っていても魂を保管する特殊な魔石を用意したり、精巧な人形を作ったり、大量の魔力を用意したり、儀式をする器具や装置を用意したりするのは並大抵の事ではない。普通の人なら準備する段階で諦めるがそれを諦めず成し遂げたルジャナフスクが凄いだけだ。
「それよりシリウスちゃん。その人誰?私も知らない人?」
「エルフィナ?(顔怖っ。え?どしたん?)」
「うー…」
「シェネド?(こっちは駄々っ子みたいになってる…)」
「あらあら、大変ねー」
顔は笑顔だが目が笑っていないエルフィナとシリウスの服を掴んで引っ張るシェネドに絡まれて困惑するシリウス。特にエルフィナはシリウスの肩を掴む力も強く身体中からオーラみたいな威圧感が出ているほどだ。
その様子をテーブルの上で大の字で寝転がっているピーニが呑気に呟いている。
「(え?え?何でそこまで怒るん?隠し事してるのがそんなに嫌?…あー、でもエルフィナなら…でもここにはシェネドとルジャナフスクさんもいるし…ルジャナフスクさんは何となく大丈夫そうだけど、シェネドは…うーん…)あー…えー…その、まあ、うん…色々、合って…」
何とか穏便に済ませようと目を泳がせながら必死に打開策を考えるシリウスは、エルフィナとシェネドから戻ってきて膝の上にいるスピカを見た後すぐに目を逸らしスピカの頭を撫でている。
「かあ、さま…?」
何故か撫でられているスピカは不思議そうにシリウスを見るが、シリウスはただ笑いながらスピカを撫でている。ポラリスとアトリアも撫でてと催促してきてシリウスが撫でている様子を見ながらエルフィナは思案している。
「(私に問い詰められている時にスピカちゃんを見て撫でてた…スピカちゃん関連?スピカちゃんの秘密が何か関係してる?黒目黒髪だけじゃなくて他にも何かある?一体何が…)」
シリウスの行動から何か自分が知らない事情があると踏んで口元に手を当てて熟考している。ああでもないこうでもないと考えを巡らせていた時、ふと引っ掛かるものが合った。
「(待って。そもそも何故黒目黒髪の子が極稀に産まれるの?他所の国から入ってきたとしても黒髪の人なんて今まで見た事が無いし…どうやって産まれてるの?それに今のところ黒目黒髪の子がいたっていう話は聞いてないし…まさか魔女の呪いな、わけ…)」
その時、エルフィナの脳裏に電流が走った。
「(まさか…魔女は何かしらの方法で蘇ってる…?しかも何か不手際が合ったから子供に蘇るしかなかった…?そして殺される前に別の子供に…?自分で言っといて信じられないけど…でもそれなら辻褄が合うわ。そして今魔女はスピカちゃんの中にいる。そして外の様子も分かってシリウスちゃんとも話せる…)」
一つの閃きからあっという間にアルヘナの存在を確信し、大体の事情にまで至ったエルフィナはシリウスを見た。目が合ったシリウスはエルフィナの真剣な表情と目を見て、大体の事情を察したと悟り苦笑しながら頷いた。
「(そういう事だったのね…恐らく気づいているのは私だけ…確かに他の人には軽々と話せないわね。もしバレたらスピカちゃんごと魔女を始末しろって言うに違いない。多分ポラリスちゃんとアトリアちゃんも似たような事情があるはず…そんな事させないわ。この子達は絶対に守ってみせる)」
スピカの厄介過ぎる事情を全て理解したエルフィナだが気持ちは何も変わらず、むしろ一層子供達を守る事を心に誓った。エルフィナの決意に満ちた目を見てシリウスは完全に味方になってくれたと分かり安堵と喜びを感じ、いずれアルヘナの事をちゃんと説明しようと決めた。シリウスとエルフィナの意味深なアイコンタクトを見て蚊帳の外に置かれているシェネドは泣きそうになっていた。
「(二人共、見つめ合ってる。それだけで、何かは分からないけど、分かり合ってる。私は、見てくれない…私だけ、仲間外れ…)やだ…やだ、やだ、やだ。やだよぉ…グスッ、ひとりはやだぁ…!」
「ふぁ!?お、おいおい、どうした?」
シリウスとエルフィナに捨てられてまた一人になる。
そんなあり得ない未来を想像してしまい、目から涙が溢れ出してきた。突如泣き出して抱き着いてくるシェネドにびっくりしながらシリウスはシェネドの頭を撫でて泣き止ませようとしている。
「うぇーん…!ひとりはやだぁ…!」
「いやいや、一人にしないから。シェネドを置いてどこかに行かないから」
「う~?…ふえええぇぇぇ…」
「うにゅぅ?ぽりゃあ、なーうー」
「ぅ…?ぇ、えっと…」
泣き出したシェネドに釣られてポラリスが泣き出してしまったが、アトリアがポラリスの頭を撫でて、スピカも戸惑いながらもポラリスの頭を撫でてあやしている。その様子を眺めていたルジャナフスクは何か深い事情があると分かり空気を読んで静かにしていた。
「うぇーい。デザートタイムだー」
「お前は…空気を読まぬか…」
「おん?」
そこに人数分のお茶菓子を持ってきたレネが空気を読まずにテンション高く入ってきた。
「ほら、お菓子が来たぞ。泣き止め」
「グスッ…うん…」
「ポラリスは、うん、泣き止んだね。アトリア、スピカ、ありがとね~」
「あーい!」
「ぅ、うん…」
レネが来てくれたおかげで切っ掛けができてシェネドを落ち着かせる事ができ、ポラリスもアトリアとスピカのおかげで泣き止んだ。
「って、おおぅ…これまた山盛りのお菓子…」
「よくこんなに、まあ…」
食卓にはレネが用意した大量のお菓子が並べられている。ケーキにドーナツにクッキーにゼリーにアイスクリームなどなど、食後のデザートとしては多すぎた。
「ええい、貴様。先ほどどれだけ食べたと思っておる」
「レネちゃんは食べれるぞ」
「貴様基準で考えるでないわ」
再びルジャナフスクとレネの漫才じみたやり取りが起き、先ほどの空気は完全に払拭された。