転生したと思ったらママになっていた件   作:大神降ろし

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第百二十八話

 

 ルジャナフスクとレネの漫才も終わり、多過ぎるお菓子の大半はおやつに頂くとして厨房に下げられ、アイスクリームだけ貰う事にした。

 

「冷たくて美味しいわー」

「冷たい、でも美味しい」

「ポラリス~、あ~ん」

「あ~。あ~♪」

「うっま!何これうっま!」

「全く…食材を使い込みおって…後で確認せねばな」

「問題無し。そろそろ使わないとヤバそうなのばっかだから」

「…ならよい」

 

 食後のデザートを堪能してようやく朝食が終わった。

 

「さて、今日何しようか?」

「疲れは概ね取れたし、武器の手入れでもしようかしら」

「ああ、それもそうだな。その後私は勉強でもするか」

「む?魔法の勉強か?本であれば貸しても構わぬが」

「え?いいんですか?」

「構わん。既に読み終えた本だ。それと口調もいつもと同じで構わん」

「あー、そう?それなら…じゃあ借りる」

 

 ルジャナフスクに連れられて蔵書室へ行くとそこには壁一面に本棚が置かれ、隙間なく分厚い本が並べられていた。それらは全てルジャナフスクが長い年月を掛けて集めた魔法に関する本ばかりであり、中には既に絶版となっている貴重な本もある。

 

「おぉ…」

「ここにある本は好きに読むといい」

「凄い量ね…」

「本、いっぱい…」

「どれも人間サイズの物ばかりね。妖精サイズの本は無いのかしらね?」

 

 その量に圧倒されているエルフィナとシェネドと部屋中を飛び回りながら妖精サイズの本を探すピーニを横目に見ながらシリウスは手近な本棚に近寄り背表紙のタイトルを読み上げた。

 

「〈結界魔法の全て・前章〉〈古代の儀式魔法について〉〈人形師への道・上巻〉〈アレクサンドロ・フィッチャーの偉大なる冒険譚・第四の巻〉〈呪法大全〉…〈呪法大全〉!?」

「!?駄目ー!」

 

 一冊だけ魔法とは無関係な本が紛れていたが、その疑問を吹き飛ばす本を見つけてシリウスは手に取ろうとするが、その直前にエルフィナがシリウスを羽交い絞めにして阻止した。

 

「それだけは駄目ー!」

「ちょっとだけ!ちょっとだけだから!」

「ちょっとも駄目ー!」

「何をやっとるのだ?」

「えっと、シリウスは、呪法を覚えたくて、エルフィナは、呪法を覚えさせたくない、みたい…」

「何故だ?」

「何故って…その、呪法は、あまり、良くない、って言われてるから…」

「今はそのように言われておるのか?ただの魔法の一種ではないか。何を思ってそうしたのか…」

 

 ルジャナフスクは呪法が悪く思われるようになった事件を知らず、ただの魔法の一種としか思っていなかった。溜め息を吐きながら指先から魔力の糸を出して混じっていた冒険譚を本棚から回収した。突如横から魔力の糸が飛び出してきてビックリして止まったシリウスとエルフィナは本の行方を追ってルジャナフスクの方を見た。

 

「呪法はただの魔法の一種でしかない。使用に抵抗があるのなら覚えるだけに留めておけばいい」

「いや、それもそうなんだけどそれより今の方が気になる」

「今の…【魔力糸】の事か?人形師にとっては初歩中の初歩で会得するものだ。人形を操るのはもちろん、今のように物を取る事も可能だ」

「私でも覚えれる?」

「魔法使いなのであればそう難しい事でもない。ただそこまで万能なものではないからな。それでも良いのなら教えるが」

「是非」

 

 本から気を逸らせてホッとしているエルフィナの後ろから気づかれないようにゆっくりと歩き〈呪法大全〉を手に取って読むシェネド。二人をよそにシリウスはルジャナフスクから魔力糸の使い方を教えてもらっている。

 

「と言ってもそこまで難しい事でもない。魔力を指先に集め、糸の形になるようイメージするだけでよい」

「それだけ?」

「それだけ」

 

 思っていた以上に簡単だったので若干拍子抜けしたシリウスだが、気を取り直して指先に魔力を集めてイメージした。するとシリウスの指先から淡く光る半透明のものが出てきたが、それは糸ではなくシリウスの指を同じ大きさのロープだった。

 

「糸じゃねえなこれ」

「初めてならこんなものだ。ここから細くしていけばよい」

「細くなれー、細くなれー…これ、細くなったら強度とか持ち上げる強さとか変わるの?」

「太かろうが細かろうが変わらん」

「へー。じゃあ先っぽを針みたいにして突き刺すとかは?」

「む?魔力糸は人形に付けるだけで効果がある。刺す必要は無い」

「いや、人を操ったり、痛みで怯ませたりって思ってさ」

「…怯ませるのは可能だろう。操るのは理論上は可能だ。だがその場合は相手の抵抗を上回らなければならぬ」

「抵抗?」

「魔力糸は簡単に弾かれる。実践の方が分かりやすいか」

 

 ルジャナフスクはシェネドの方を見ると、何故かエルフィナにチョークスリーパーを掛けられていて必死に腕をタップしていた。

 

「…何がどうしてそうなった?」

「呪法は駄目って言ってるのに勝手にこの本を読んでたから」

「…っ!…っ!」

「あー…もう勘弁してやったら?」

「んー…それもそうね」

 

 エルフィナにようやく解放され荒い息遣いのシェネドにさらに苦難が待っていた。ルジャナフスクの右手の四本の指から魔力糸が出てシェネドに付けられ抵抗する間もなくルジャナフスクに好き勝手に身体を動かされている。

 

「わっ!?ちょっ!?な、何これぇ!?」

「このように無防備であれば短時間は操る事ができる」

「仮に付けられた時の対処法は?」

「魔力糸を付けられた箇所に魔力を集中させればよい。ほれ、両肩と両肘に魔力を集中させぬか」

 

 ルジャナフスクによって変な踊りを披露させられているシェネドは必死に魔力を両肩と両肘に集中させようとしている。するとシェネドの魔力に弾かれて魔力糸は簡単にシェネドから離れた。

 

「付けただけではこのように簡単に弾かれる。だが刺した場合は…ふむ…考察する必要があるな。ククッ、礼を言うぞ。別の視点というのも役に立つというものだ」

 

 ルジャナフスクは笑いながら部屋を出ていった。

 シリウスは呪法はエルフィナから駄目と言われたので仕方が無く別の本を手に取って読み始めた。エルフィナは呪法の本をシリウスとシェネドが読まないように確保して別の本を読み始め、シェネドはエルフィナが持っている呪法の本を読みたそうにしていたがまたチョークスリーパーを掛けられては堪らないので仕方なく別の本を読み始め、ピーニは妖精サイズの本が無かったのでシリウスの頭の上に着地してシリウスが読んでいる本を一緒に読み始めた。時折シリウスがポラリス達をあやす以外は三人共静かに読書を進めていた。

 

「コンコン、入るぞー、入ったぞー」

「それ、ノックの意味無いじゃない…」

 

 ノックされたと思ったら、シリウス達が返事をする前にドアが開けられてお茶とお茶菓子を持ったレネが入ってきた。

 

「私は気にしない(キリッ)」

「そこまでいくと逆に清々しいわね…」

「レネちゃんがお茶を持ってきたぞー。一息付くとよい」

 

 お茶が乗ったトレイが空いているテーブルの上に置かれたのでシリウス達は本を閉じてお茶を飲んでいる。

 

「ふぅ…結構時間経ってたな」

「んー!ジッとしてたから身体が固まっちゃったわ」

「これ飲んだら少し身体を動かしましょうか」

「えー…」

「駄目よ。読書の時間は一旦お終い。ポラリスちゃん達もお外で遊びましょうねー」

「あ~」

「あーい!」

「う、うん…」

「(プルプル)」

「ブル」

「シュー」

「ワフ」

 

 お茶を飲みお菓子を食べ終わった後、シリウス達は嫌がるシェネドを引き摺って庭に出た。庭は荒れてはいるが比較的マシな所でウェズンの背中に乗せたポラリス達を散歩させている。ウェズンの少し先を背中にハダルを乗せたリゲルが草木が生い茂っている庭を掻き分けて走り回っている。

 

「シャー!?」

「ワン!ワン!」

「(プルプル)」

「ブルブル…」

「あ~♪う~♪」

「うーえー♪ぱーか、ぱーか♪」

「おー…」

 

 ハダルが草木にぶつかって振り落とされるがそれに気づかずリゲルは楽しそうに走り回り、カペラはやれやれと言わんばかりに身体を横に振り、ウェズンは目を回しているハダルを痛くないように咥え、ポラリスとアトリアとスピカはウェズンの背中で楽しそうにしている。その様子をシリウスとエルフィナは微笑ましそうに眺めていて、シェネドはちょっぴり不満そうにしながらシリウスの服を摘まんで歩き、ピーニはウェズンの頭の上の辺りを飛んでいる。

 庭を散策していたシリウス達だったが、少し先で何かが動く物音が聞こえた。エルフィナは物音が聞こえた方へやや警戒しながら歩いていき、シリウスは念の為リゲルを呼び戻してウェズンの前に立った。エルフィナが草木を掻き分けるとそこには庭を巡回している人形が歩いていた。結界の外で見たようなボロボロの人形ではなく、鎧と兜を身に着けた人形兵と言えるような見た目をしており、エルフィナの方を一瞥したが既にルジャナフスクから指令があったらしく特に何もする事無くそのまま歩き去っていった。他にも同じような装備の人形兵が何体か古城の外周を巡回しているのが見えた。

 

「へー、あんなのもいるのか」

「結界の外で見たのは失敗作かしら?」

「それか経年劣化したものかもな」

「ま~」

「ままー!」

「はいはい、散歩の続きをしましょうね~」

「まだ、歩くの…?」

「シェネドは歩きなさ過ぎよ。この先付いていけなくなるわよ?」

「それは、やだ」

 

 エルフィナの言葉に渋々歩くシェネドを見て苦笑するシリウスは手を伸ばしてくるポラリスとアトリアを優しく撫でている。

 小一時間ほど庭を散策した後再び蔵書室へ戻ろうとしたが、ポラリス達が遊び疲れて眠たそうにしていたのでシリウスは部屋に戻り、エルフィナとシェネドとピーニは蔵書室で読書の続きをする事にした。ベッドで仲良く眠るポラリス達を慈愛の表情で見つめるシリウス。少しの間眺めていたシリウスだったが、やがて自分もベッドに寝転びポラリス達を抱き締めて眠った。

 

「ままー…」

「…ん?アトリア?」

 

 一時間ほど眠っていたシリウスはアトリアの声に目を覚ました。声のした方を見るとアトリアが目を擦りながら座っていたので抱き上げるとアトリアは何も言わずにシリウスに抱き着いた。

 

「怖い夢でも見た?大丈夫。ママはここにいるよ」

 

 アトリアを抱き締め背中をポンポンと優しく叩きながらあやしている。しばらくそうしているとアトリアの機嫌も良くなり笑顔になった。

 

「ままー」

「ふふふ、よしよし」

 

 ベッドから少し離れた所にある椅子に座りアトリアを撫でているとウェズンが頭を上げて起きてきた。

 

「ブルル…」

「ウェズン~、おはよ~。おいで~」

 

 ウェズンは寝ているポラリス達を起こさないようにゆっくりとベッドから離れてシリウスの所へ近寄り、シリウスはウェズンを優しく撫でている。

 

「あーうー。うー、うー」

「アトリア?どうしたの?」

 

 ウェズンを撫でていたらアトリアが手足をジタバタと動かして下りたそうにしだした。首を傾げながらもシリウスはアトリアを床に下ろして様子を伺う事にした。アトリアはハイハイしてウェズンの足元へ向かいウェズンの足をペタペタと触ったり、掴んだりしており、ウェズンは何で触られているのか分からず首を傾げながらジッとしてアトリアを見ている。

 

「うー、うー」

「!?」

 

 しばらくそうしているとアトリアはウェズンの足にしがみついて藻掻きながら立とうとしていた。シリウスは目を見開いて口を手で覆いながら固唾を飲んで見守っている。中々上手くいかなくて立てずに床に座り込んでしまったが、アトリアは諦めず何度も立とうと藻掻いている。そして何度目かの挑戦で遂にアトリアはつかまり立ちに成功し、シリウスは感動のあまり涙が溢れ出していた。

 

「うー…ま、まー」

 

 さらにつかまり立ちだけでなくウェズンの足から手を離しシリウスの方へ歩いたのだ。一歩歩いただけですぐにバランスを崩してこけたが、それでも確かにアトリアは歩いた。その様子を確かに見たシリウスは声を出さずに大粒の涙を溢しながらアトリアを抱き上げた。

 

「ま、まー」

「うん、うん…アトリア、頑張ったね…」

「ブルル…」

 

 シリウスは感無量で只々アトリアを強く抱き締める事しかできなかった。息絶え絶えのアトリアもシリウスに抱き着き、ウェズンも頑張ったアトリアを労うように頬擦りしている。

 

「うにゅぅ…」

「んぅ…ぅ…?かあ、さま…?ど、した、の…?」

「(プルプル)?」

「シュー?シャー」

「ワフゥ…」

 

 お昼寝から起きてきたスピカとカペラとハダルがベッドから下りて泣いているシリウスを心配そうに見上げている。

 

「何でも、ない…何でもないんだよ…」

 

 声を出さずに泣き続けるシリウスは傍に来たスピカとカペラとハダルも抱き締め泣き続けている。スピカとカペラとハダルは困惑しながらもジッとして抱き締められ続けた。

 

「ただいまー。あら、シリウスちゃん?」

「えっ…泣いてる…」

「何で泣いてるのよ…どうせしょうもない事でしょうけど」

 

 そこに蔵書室からエルフィナとシェネドとピーニが戻ってきたが、泣くシリウスを見て戸惑っていた。ピーニは何となく子供関連だと察して若干呆れている。

 

「えっと、シリウスちゃん?どうしたの?」

「アトリアが…アトリアが、立って、歩いた…」

「!!」

「??」

 

 シリウスの言葉にエルフィナは雷に打たれたような衝撃を受け、シェネドはそれがどうしたと言わんばかりに首を傾げている。

 

「アトリアちゃーん!頑張ったわねぇ!」

「え、えぇ…」

 

 エルフィナも涙を流しながらアトリアを撫でまくっており、シェネドはあまりの変わりようにやや引いていた。

 

「な、何で二人共、そんなに泣いてるの?」

「さあね。二人が母親だからじゃない?知らないけど」

 

 母親とそうじゃない者とで綺麗に別れて、凄まじい温度差がそこにはあった。

 やがて放置されていたポラリスとリゲルが自分もと声を上げたのでシリウスとエルフィナはポラリス達をギュッと抱き締めて甘やかしだした。ピーニは割と冷めた目でその光景を見ており、その空気に入れず蚊帳の外になっているシェネドはちょっと寂しそうにしながら何気なく窓の外を見た。

 すると庭を多数の人形兵が歩いており、縄で縛られて生け捕りにされた複数のランドラプターを引き摺っていた。シリウス達も藻掻いて鳴くランドラプターに気づいて窓の外を見た。

 

「何だあれ」

「捕まえたのを連れてきた感じだけど…」

「あ、あのメイドさん」

 

 そこにレネが現れて人形兵からランドラプターを受け取りそのまま片手で引き摺っていき、人形兵は再び結界の外へと戻っていった。

 

「えぇ…片手で?」

「人形になるとあんなに怪力になるの?」

「すごい、力」

「はえー、たまげたわねー」

 

 少し気になったのでシリウス達は部屋を出てレネを探す事にした。床に何かを引き摺った跡が残されていたので追跡は容易くそれを辿ると地下へと続いていた。

 

「ワン!ワン!」

「あ、リゲル!待ちなさい!」

「あーあー、これじゃあもうバレたわね」

「どう、するの?」

「仕方が無いから堂々と行きましょう。話せば多分分かってくれるわ」

「一体何をしてるのかしらねー?」

 

 始めは音を立てないように慎重に行くつもりだったが、好奇心に駆られたリゲルが勢いよく階段を下りてしまったので予定を変更し堂々と行く事にした。地下は暗いと思いきや、要所要所に灯りが設置されていて歩く分には何の問題も無かった。

 

「よーし、捕まえたぞ~」

「ワン!ワフ!」

「一体何の騒ぎだ?」

 

 走り回るリゲルを捕まえるとちょうど目の前の部屋から物音に気づいたルジャナフスクが出てきた。

 

「さっきレネさんがランドラプターを引き摺るのを見掛けたから気になってここまで来た」

「随分堂々としておるな」

「開き直ったと言ってほしい」

「どちらも変わらんわ…まあよい。見たければ好きにすればよいが、かなり刺激が強い故そこの子供らには見せるなよ」

 

 釘を刺されながらも見る許可を貰ったシリウスはウェズンの背中にポラリス達を乗せてジッとしているように言いピーニにポラリス達を見てもらっている間に部屋の中を覗いた。

 部屋の中には先ほどのランドラプターらが檻の中に閉じ込められているが、既に何匹化は地面に横たわってピクリとも動いていなかった。ルジャナフスクは怯えて鳴いているランドラプターに近寄り首を掴むと魔力を高めて術式を起動させた。ルジャナフスクの腕が青白く光りだし、ランドラプターから何かを勢いよく引き剥がした。それは青白く光る球体でそれを引き剥がされたランドラプターは目から光が消えて地面に倒れた。ルジャナフスクは倒れたランドラプターを一瞥する事無く、手の中の球体を色付きの石に押し付けると球体は石の中に吸い込まれるように消え、石は淡く光り出した。

 

「おぉー、人形師っぽい…もしかしてそれって…」

「ほう、察しが良いな。左様、魂だ」

「それ、引っこ抜いてどうするの?」

「こいつは高密度の魔力の塊でな。実験に使用したり、魔力補充にも使える。さらに手を加えれば人形である我らが取り込めば魔力の最大値を増やす事も可能だ」

「へー」

 

 魂が引き剥がされる場面を見ても平然としているシリウスだが、エルフィナとシェネドは違った。エルフィナは目を見開いてルジャナフスクを睨みつけ、シェネドは青褪めて口を手で覆っている。

 

「シリウスちゃん、下がって」

「え?エルフィナ、どしたん?」

「いいから」

「フッ…そんなに悍ましく見えるか?」

「当たり前でしょうがっ…!魔物といえど魂を無理矢理引き剥がすだなんてっ…!」

「んー…私は別に何とも思わないけどな…」

「ほう…何故だ?」

「何故って…剣で殺すのも魂を引き剥がすのも同じじゃん」

 

 シリウスからすれば剣で殺すのと魂を引き剥がすのも命を奪うという意味では同じなので何故そこまで忌避感を抱くのかが分からなかった。シリウスの言葉にエルフィナは信じられないような目でシリウスを見つめ、ルジャナフスクはシリウスを興味深そうに見ていた。

 

「あー…これ、少数派みたいだな」

「だろうな。だが、ククッ…貴様の意見は的を得ている。どちらも殺す事に変わらん。どう感じるかなど人それぞれだ。それを否定する事は誰もできん」

 

 ルジャナフスクの言葉は正論でエルフィナは何も言えず口を噤んだ。

 

「もうよいだろう。こんな悍ましい光景を見ずに上に戻るといい」

 

 ルジャナフスクに促されてシリウス達は部屋を出た。廊下に出るとポラリス達が手を伸ばしてきたので抱き上げて上に戻ったが、部屋に着くまでの間エルフィナはずっと俯いて黙ったままでシェネドはまだ気持ち悪そうにしていた。

 

「ちょっと、一体何があったのよ?」

「あー…まあ、ちょっと価値観の違いがあってな(シェネドは大丈夫か?…まあ、ゆっくりすればそのうち治まるか。問題はエルフィナだが…失望させちゃったかな?裏切られたような気分にさせちゃったかも…うーん…これまでと同じ関係はもうおしまいかもな…それは、嫌だなぁ…)」

 

 エルフィナの様子からシリウスの考えには反対らしいのでこれまでと同じようには接する事ができなくなるかもと考えているが、思った以上にそうなる事に抵抗があった。だがシリウスも考えを改める気はあまり無くどうするかなぁと悩みながら部屋に着いた。

 

「う~…ふえええぇぇぇ…」

「おっと。ポラリス、どうしたの?」

「うー!んー!」

「アトリア?そんなに膨れてどうしたのかな?」

「ぁ…ぅ…ぅぅ、かあ、さま…」

「スピカ?どうしたの?」

「ぁ…ぉ、おば、さまと、えっと、け、けん、か?し、した、の…?」

「(ああ、そういう事か。私とエルフィナの顔が暗いから喧嘩したって思ったのか。それでポラリスはこの空気が嫌で泣いてアトリアは喧嘩は駄目って言ってるんだな)大丈夫だよ。ママとフィナおばちゃんは喧嘩してないよ」

「ほ、ほん、と…?」

「…ふぅ…駄目ね、私。顔に出しちゃうなんて…すぅー、ふぅー…よし。スピカちゃーん、ホントよー。ママとフィナおばちゃんはとっても仲良しよー」

 

 スピカの言葉に子供達に気を遣わせてしまっていると自分を恥じたエルフィナは深呼吸をして切り替えていつも通りに戻った。いつもと同じエルフィナに戻ったのを見てポラリスは泣き止み、アトリアも機嫌が良くなり、スピカもホッとしたような表情をした。

 

「よしよしー…シリウスちゃん、後でちゃんと話し合いましょう」

「分かった。でも今は」

「ええ。この子達のご機嫌取りね」

「シェネドもこっち来て少し休みな。まだ顔が青いぞ」

「何で、何とも、無い、の…」

「フッ、潜ってきた修羅場が違うのさ」

「んぐっ(その顔で、不意打ちは、卑怯…)」

「あんたは何言ってんのよ…」

 

 無駄にキメ顔をしてクサい台詞を言うとシェネドにクリティカルヒットしたらしく、顔は青色から赤色に変わり胸を抑えて蹲っていた。シェネドの犠牲のおかげで先ほどの暗い雰囲気は一掃され、ポラリス達も笑顔でシリウスとエルフィナに甘えている。

 

「ポラリスちゃーん、アトリアちゃーん、スピカちゃーん、カペラちゃーん、ウェズンちゃーん、ハダルちゃーん、リゲルちゃーん、よーしよしよし♪」

 

 ポラリス達に気を遣わせてしまったお詫びとしてエルフィナはいつも以上にポラリス達を甘やかしており、ポラリス達は元のエルフィナに戻ってくれて嬉しくて楽しそうに笑っている。

 レネが夕食ができた事を知らせに来るまで部屋から楽し気な声が途切れる事は無かった。

 

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