転生したと思ったらママになっていた件   作:大神降ろし

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続きをどうぞ。


第十三話

 

「ふえええぇぇぇ、ふえええぇぇぇ」

「んがっ、ん?どうしたポラリス…って、こりゃまた派手にやったな」

 

 ポラリスの泣く声で目が覚めたシリウスだったが目の前の惨状に笑いしか出なかった。粗相をしてしまいシーツや毛布も汚れており、シリウスの服も少々汚れていて正直何から手を付けるべきか迷うほどだった。

 

「あー、んー、とりあえず着替えるか」

 

 まず自分の服を脱ぎ部屋に置いてあった竹籠に入れさっさと着替えた。次にポラリスの服を脱がし汚れを丁寧に拭き取りおしめも替えて新しい服に着替えさせて、最後に汚れたシーツや毛布を竹籠に入れた。ポラリスをおんぶ紐で巻いてその紐をポラリスが落ちないように気を付けながら自分の身体に括り付けた。

 

「よいしょっと。こりゃ時間が掛かるな、やれやれ。まっ、しゃあないか」

 

 シーツに毛布、シリウスとポラリスの服におしめもあり全部洗うのは結構重労働である。下の水汲み場へ行き、二つの桶に水をたっぷり入れて、一つにはシーツと毛布を入れて、一つにはおしめを入れて洗い始めた。

 人によっては顔を顰めるような汚れだがシリウスは顔色一つ変えずに、なんなら鼻唄を歌いながら洗っている。赤ちゃんの仕事は泣いて、笑って、遊んで、泣いて、食べて、出して、泣いて、寝る事だと思っており、そしてそれを世話するのが親の仕事、いや責務だと思っている。今の自分はポラリスの親代わりなのでその責務を全うするのは当然だと思っている。その様子を見た宿の従業員はもう完全に母親だろうと思いながら見ていた。

 

「おや、おはよう!はっはっは!こりゃ派手にやったね!」

「おはようございます。ええ、大量ですよ」

 

 水を汲みにきた女将はポラリスがやらかした物を見て笑っていた。シーツや毛布は宿屋の物なのでここまで汚せば眉の一つぐらい動かすものだが、女将もシリウスと同じく赤ちゃんがいればよくある事だと思っている。

 

「シーツと毛布は洗い終わったらあそこに掛けておいとくれ!後で新しいシーツと毛布を持っていてあげるよ!」

「いいんですか?」

「なに、これぐらい構いやしないよ!」

「ありがとうございます」

 

 朝から元気な女将は水を汲んで戻っていき、シリウスは洗濯を再開した。おしめを洗い、二人の服を洗い、シーツと毛布を洗い、水が落ちなくなるまで絞り、シーツと毛布を女将が指定した物干し竿に掛けた。

 

「ふい~、やっと終わった。洗濯機の偉大さを知ったよ」

 

 洗濯物を持って部屋に戻り部屋の物干し竿を使って洗濯物を干した。

 

「さて、じゃあご飯食べようか。その後はお湯を貰って身体を拭くかな」

 

 財布代わりの袋をポケットに入れてポラリスと一緒に朝食を取りに下へ降りていった。昨日より遅くなったのでシリウス達と女将以外は誰もおらず閑散としていた。

 

「おや来たね!今日の朝食は野菜のスープだよ!それでいいかい?」

「はい、お願いします。それとこの子の身体を洗いたいのでお湯を貰ってもいいですか?」

「あいよ!食べ終わるぐらいに持ってきてあげるよ!」

 

 女将は厨房に下がっていったが他に客もおらず仕事が無いのですぐに朝食を持って戻ってきた。

 

「はいよ!ゆっくり食べな!」

「ありがとうございます。さて、いただきます」

 

 シリウスの要望のお湯を沸かしに厨房へ戻っていった女将を見送った後朝食を取り始めた。何も言わなくてもポラリスの分も用意してくれている事に感謝しつつポラリスに食べさせている。

 

「(今日の予定は身体を拭いて、それからギルドに行って仕事があるか確認して、労働系だっけか?それがあったらそのまま受けようかな。流石に一日中労働はさせないでしょ…させないよね?で、仕事終わりに服を取りに行って、それぐらいか?時間があれば市場をもう一回覗いてもいいかな?)」

 

 シリウスは朝食を取りつつ今日の予定を考えていた。予定を考えていても手は止まらずポラリスに食べさせており口の周りを拭いたりもしている。朝食を終えた辺りで女将が湯気が出ている桶を持って現れた。

 

「食べ終わったかい?じゃあ部屋に行こうかい!」

「え?いや、自分で持っていきますよ」

「いいんだよこれぐらい!他の用事もあるしついでさね!」

「…すいません、ではお願いします」

 

 女将はシリウスと一緒に部屋まで行き桶を部屋に置いて出ていった。

 シリウスが湯加減を確かめるとシリウスにとっては少々温いが、ポラリスにはちょうど良い湯加減だった。シリウスは布を何枚か持ってきてからポラリスの服を脱がしてお湯に入れた。

 

「ポラリス~、湯加減はどう~?」

「あ~♪あ~♪」

「うん、大丈夫そうだ。は~い、頭にも掛けるよ~」

 

 手で優しくポラリスの身体を洗っていくシリウスと気持ち良さそうにしているポラリス。ポラリスの身体を洗い終わり布で身体を拭き服も着せた後、シリウスも服を脱ぎお湯に布を入れて水気を絞り身体を拭き始めた。

 

「うーん…熱々の風呂に入りたいなぁ…肩まで浸かって、足を伸ばせるぐらい広い風呂ってどっかにないかなぁ…」

 

 濡れタオルで身体を拭きながら熱々の風呂に想いを馳せている。あっという間に拭き終わり身体に付いた水気を拭き取って服を着てそのまま出かける準備をしていたが、ふと昨日言われた事を思い出した。

 

「あー、そういえば綺麗にした後にやれって言われてたっけか…面倒な…でもなー今日また会うしなー、はぁ…しゃあない、やるか…」

 

 やる気が微塵も無さそうにしながらも昨日ミネアとコニーに言われた通りに乳液と香水を使う事にした。実はミネアとコニーがこっそりとシリウスのカバンにその二つを入れていた。溜め息を吐きながらも乳液を手に取り顔に塗り込み、香水を手や髪に付けた。昨日ほどではないが綺麗に仕上がったのでもうこれでいいかとメイクを終了した。

 出掛ける準備を終えポラリスを抱き上げて部屋を出て、下に降りて宿を出ようとしたがふと足が止まった。

 

「あっ…金払ってない。やべえやべえ、危ないところだった」

 

 ギリギリで思い出して無銭飲食にならずに済み酒場の方へ向かった。厨房を覗くと女将が洗い物をしている最中だったがシリウスに気づき手を止めてやってきた。

 

「おや、どうしたんだい?」

「すいません、朝食とお湯の代金、払うの忘れてました」

「おっと、そういえば貰うのをすっかり忘れてたよ!朝食が50リクルでお湯が10リクルだよ!」

「ひぃ、ふぅ、みぃ…60リクルです」

「はいよ!じゃ、元気に行ってきな!」

「はい、行ってきます」

 

 女将に見送られて宿屋を出てギルドへと向かった。昨日と同じく通りは人々が行き交っており平和そのものである。心地良い陽気に包まれながらギルドへの道をのんびりと歩いている。十数分後、ギルドに着き昨日よりは気軽にドアを開けた。

 日が昇ってからそれなりに時間が経っているからかハンターは疎らにしかおらず皆依頼を受けて出かけている。残っている者は張ってある依頼書を見ていたり椅子に座って世間話をしていたりしている。シリウスは受付周りを掃除している職員に話しかけた。

 

「すいません」

「うん?ああ、これは気づかず申し訳ない」

「いえ、こちらこそ掃除中にすいません」

 

 物腰柔らかなそこそこの年齢の男性職員が応対してくれた。

 

「では改めて…ようこそギルドへ。何か御用でしょうか?」

「(そのセリフ言う必要があるのか?)労働系の仕事はどういうのがあるのか聞きたいのですけど」

「かしこまりました。今ある依頼はこちらになります」

 

 男性職員は労働系の依頼の中でシリウスでもできるような依頼書を三つカウンターの上に出した。男性職員はこの道20年以上のベテランのギルド職員であり、ハンターを見ただけでどんな依頼が向いているか見極めれる能力を持っている。その男性職員が出した依頼は《商品の仕分け》《店番の手伝い》《露店の売り子》の三つである。

 

「どれも市場にあるお店からの依頼です。依頼の期間は本日の正午より数時間ほどとなります」

「うーん…(これならポラリスがいてもできるけど、どれにするか…)じゃあ、これでお願いします」

 

 シリウスが手に取ったのは《店番の手伝い》の依頼書だ。

 

「かしこまりました。ではこちらの半紙を持って依頼主の所までお願いします。依頼が完了しましたらこちらの半紙に依頼主からサインを貰ってください。その半紙をギルドまでお持ちいただきましたら依頼完了となります。半紙の持ち込みは後日でも構いませんが早めにご提出ください」

「わかりました」

 

 男性職員から半紙と依頼の場所が書かれた地図を貰いシリウスはギルドを出た。依頼の場所は昨日行った市場で今から行けば一時間以上早く着く事になる。

 

「どっかで時間潰すかな…」

 

 シリウスはとりあえず広場にあるベンチに座り、のんびり日向ぼっこしながらポラリスをあやしている。広場には優しそうな老夫婦が仲良く花の手入れをしていたり、元気いっぱいの子供達が仲良く遊んでいたり、近所に住む奥様達が子供達の様子を見ながら世間話をしたりと平和そのものである。穏やかな日差しは眠気を誘うがここで眠ってしまえば依頼には遅刻してしまうかもしれないのでシリウスは誘惑を振り切って立ち上がった。

 

「やっぱ散歩しかないか。よーし行くぞー」

「あ~」

 

 シリウスは広場を抜けて大通りへ向かった。本日の散歩コースは大通りをグルっと回るコースである。ハンターが行き交う通りを抜けるとその先には居住区があり閑静な住宅街が広がっている。住宅街では女性達が家の前を掃除したり、窓に掛けた物干し竿に洗濯物を干したり、井戸で水を汲んだり、道の脇で井戸端会議をしたりと穏やかな時間が流れている。子供達は道を駆け回ったり、地面に丸や四角を書いてけんけんぱをしたり、布のマントや木の箱の兜を被って騎士ごっこをしたりと元気に遊んでいる。住宅街をのんびりと歩きそのまま市場の方まで向かった。

 

「時間にはまだちょっとあるけど…まあいいか。遅いよりはいいだろうし」

 

 少し早いがシリウスはそのまま依頼主の所まで向かう事にした。シリウスが向かった店は昨日日用品を買った店だった。シリウスが中に入ると人の良さそうな中年男性の店主が店番をしていた。

 

「いらっしゃい。おや、君は昨日の…」

「どうも。ハンターの依頼で来ました」

「依頼を受けてくれたのがまさか君だったとは…世間は狭いな」

 

 苦笑しながらシリウスを受付の中に招き入れた。

 

「じゃあ早速仕事について説明しよう。ここに座ってお客さんの相手をして欲しい。値段はここに全部書いてある。お金はここだ。初めの方は僕も後ろにいるからわからなかったら聞いてくれ」

 

 店主から値段が書かれた紙を貰い椅子に座って仕事が始まった。ポラリスを膝の上に乗せて左手であやしつつ値段表を見てどれがいくらかを覚えていると客が入ってきた。最初の客は優しそうなおばあさんだった。

 

「いらっしゃいませ」

「あら、いつもの店主じゃないのね?」

「ええまあ、仕事で来てまして」

「あらハンターだったのね、ごめんなさいね」

「いえいえ」

「じゃあこれをくださいな」

「はい…50リクルです」

「はいこれね」

「…はい、ちょうどいただきます」

「ふふっ、お仕事頑張ってね」

「ありがとうございました」

 

 止まったり戸惑う事なく難なく客を捌いた。

 

「いや、君凄いな。本当に初めてかい?」

「ええ、そうですよ(多分前世でやった事があるっぽいけどな)」

「これなら僕がいなくても大丈夫そうだ。僕は奥で荷物整理をしてるから何かあったら声を掛けてくれ」

 

 店番をシリウスに全て任せ店主は奥へ引っ込んでしまった。

 

「…できるとは言え新人に全て任せてその場を離れるかね普通。いやまあ、ハンターだからっていうのもあるんだろうけどさ…」

 

 止める間もなく奥へ行ってしまった店主に釈然としない気持ちを抱きつつ店番を続けた。その後も時折訪れるお客さんを淀みなく捌いていき日も傾き始めた頃に仕事は終わった。

 

「いやー助かったよ。奥で溜まっていた仕事も全部片づくし言う事なしだよ。はい、これね」

「ありがとうございます」

 

 店主に半紙にサインを貰い依頼も後は報告するだけとなった。

 

「では私はこれで」

「本当にありがとう。またよろしく頼むよ」

 

 手を振って見送ってくれた店主に会釈して店を後にした。

 日が傾き始めているので小走りになりながらミネアの服飾店へ急いだ。昼間はハンターが行き交っていた通りも今ではほとんどおらず露店の方も店じまいをしている。幸いミネアの所はまだ開いていたのでシリウスは急いで中に入った。

 

「いらっしゃ~い。ってあら!シリウスちゃんじゃない!も~、遅いわよ」

「すいません。依頼で忙しくて」

「あら、今日が初仕事だったのね。なら仕方が無いわね、許してあげるわ」

「ありがとうございます」

 

 朝からずっとシリウスが来るのを待っていたミネアは開口一番文句を言ったが、仕事だとわかると矛を下げた。ミネアも仕事が重なると約束に遅れる事もたまにあるのでそこまで強く言えなかった。

 

「外に着ていくシリウスちゃんの服、と~っておきの物ができたわ。我ながら会心の出来よ」

 

 自らハードルを上げていくミネアだが取り出された服を見てシリウスは誇張ではなく純然たる事実だと知った。

 上は白のブラウス、下は黒色のズボンのシンプルな物で二本の茶色のベルトが交差するように腰に通されており武器などの装備をぶら下げれるようになっている。見た目は突飛するような代物ではないものの服には詳しくないシリウスでもすごいとわかるほど細部まで拘って作られた逸品だと一目見てわかった。

 

「すご…」

「ふふん♪でしょ♪自分の才能が怖いわ」

 

 シリウスの称賛に鼻高々なミネアであった。

 

「詳しく説明するわね。魔物の血とか泥とか浴びても撥水加工してるから水で洗えば落ちるから安心して使ってね。それに触ると柔らかいけど刃を通さない素材を使ってるからその辺の魔物の爪とか牙なんかじゃ穴も開かないわ。ただ殴られたりっていうのには強くないからこの上から胸当てとか着てちょうだい。そうそう、マロスとコニーには服のデザインを言ってあるから、ちゃんとこの服に合うように作ってるわ、安心してね」

 

 シリウスが思っていた以上の代物となっていてシリウスは言葉も出なかった。

 とてもじゃないが駆け出しのハンターが着るような服ではなく、中堅クラスのハンターのレベルの物だった。

 

「値段の方だけど…ちょ~っと上のランクの素材を使ってるから、高くなっちゃって…30000リクルほどなんだけど…」

「おっふ…」

 

 出された値段に白目剥くほどの衝撃を受けたシリウスだが、それぐらいしてもおかしくはないとも思っている。ただその額を支払えるかと言われたらさすがに二の句が継げなかった。。現在のシリウスの所持金は50000リクル程度で支払えない事は無いが生活に支障が出かねないのでそう簡単に買えない。この分では頼んでいる靴の方もとんでもない事になっていそうだと考えているシリウスだった。

 

「そのね…あれもこれもって考えてたら色々と詰め込み過ぎちゃって…あ、ああ!だ、大丈夫よ!分割支払いで構わないから!」

 

 シリウスの表情を見てミネアはすかさず一括支払いから分割支払いに変更した。それならといった感じでシリウスは表情を戻しミネアはほっと胸を撫で下ろした。それなりの費用を掛けた商品を買ってもらえないとなると懐にも響くしなにより心にクるのだ。

 協議の末、3000リクルの十回払いで成立した。支払うタイミングはシリウスに一任され、仮に町を出ていく時は残りを一括で支払う事となった。

 

「ではまず一回目、3000リクルです」

「数えさせてもらうわね。えーっと、一、二、三…うん、3000リクルちょうどあるわね。ごめんなさいね、こんな事になっちゃって」

「いえ、いいですよ。折角ですから着てもいいですか?」

「もちろんよ」

 

 ミネアの許可を得て試着室を借りてシリウスは普段着からハンター用の服に着替えた。サイズはピッタリで新品特有の硬さも無く動きやすかった。

 

「終わった?開けるわよ。んまあ~!いい!いいわ!綺麗で可愛くてカッコイイなんて!世界は不平等だわ!」

「いや、言い過ぎですよ…」

 

 ミネアの大袈裟な言葉に苦笑しているシリウスだが恐らく百人見れば百人がミネアと同じ事を言うほど似合っている。

 

「動きやすいですし気に入りました」

「ふふっ!ありがと!そうだわ、ちょっと待っててね!」

 

 ミネアは何かを思いついたのかいそいそと店の奥へ向かった。奥では何かを探す音がしておりしばらくすればミネアが戻ってきたが、その手には暖かそうな黒い外套が持たれている。

 

「はいこれ。これもあげるわ。この外套も汚れには強いし外で野宿する時なんかは毛布代わりになるぐらい暖かいから便利よ」

「いやいや、こんなの受け取れませんよ」

「いいのよ、気にしなくて。お詫びも兼ねてるし受け取ってちょうだい」

「うーん…はぁ、わかりました。ありがとうございます」

 

 譲る気が全く見られなかったのでシリウスは折れて外套を貰った。試しに羽織ると見た目ほど重くなく、ミネアが言った通り暖かいので寒い時には重宝しそうだ。見た目だけだが立派なハンターになった。

 

「うーん…羽織っただけなのにさらにカッコ良くなるなんて…シリウスちゃん、恐ろしい子っ!」

「いやもういいですよそれ…」

 

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